2017
10.15

うにゅほとの生活2143

2017年10月15日(日)

「──…………」
目を覚ます。
晴れ。
張り詰めた秋の朝の空気に、思わず身を震わせる。
「あ、おはよー」
半纏を羽織ったうにゅほが、とてとてとベッドへ歩み寄る。
朝の挨拶より先に、言いたいことがあった。
「誕生日おめでとう、××」
「!」
「あと、おはよう」
「──うん!」
この極上の笑みを見ることができただけで、早起きをした甲斐があったというものだ。
「誕生日プレゼントがあります」
「はい」
ベッドの下から、綺麗に包装された小箱を取り出す。
「なにかなあ……」
「開けてみて」
「あけていいの?」
「開けなきゃ使えないよ」
「あけるね」
「どうぞ」
包装紙すらプレゼントの一部とばかりに、うにゅほが恐る恐る包みを開けていく。
「しろいはこだ」
「白い箱だな」
「だぶりゅー、あい、しー、しー、えー」
「ウィッカ」
「あけていい?」
「いいってば」
「──…………」
かぱ。
「あ!」
うにゅほが目をまるくする。
「とけいだ!」
「はい、腕時計です」
「でも、わたし、とけいもってるよ?」
「三年くらい前にプレゼントしたやつな」
「うん」
「みっつも年を重ねれば、着けるべき時計も変わります。あれはすこし子供っぽい気がして」
「そかな」
「こっちは大人っぽいだろ」
「うん、かっこいい」
「しかも、ソーラー電波時計で、電池交換も時刻合わせも不要」
「おー!」
「服装によって、前の時計と使い分けてください」
「まえのとけい、まだ、つけていいの?」
「××は俺の着せ替え人形じゃない。好きなときに好きなほうを使えばいいよ」
「……うん」
うにゅほが小箱ごと腕時計を抱き締める。
「◯◯、ありがと」
「どういたしまして。あとでサイズ調整するから」
「はーい」
午後にふたりでケーキを買いに行って、夜は家族みんなで手巻き寿司を食べた。
両親からのプレゼントは相変わらずの図書カード、弟からは合わせやすそうなシンプルなマフラーだった。
年を取るのは、良いことばかりではない。
けれど、祝わない理由にはならない。
特別な日を特別な相手と過ごすことに、喜びが伴わないはずがない。
来年は、何を送ろうかな。
今から悩むのは、さすがに気が早いけれど。

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2017
10.14

うにゅほとの生活2142

2017年10月14日(土)

「あし、さむいー……」
座椅子に腰掛けたうにゅほが、伸ばした足を擦り合わせる。
「俺も、足冷たい」
「ね」
「部屋はわりかしあったかいんだけどなあ」
「うん」
「何度ある?」
うにゅほが、本棚の最下段に設置してある温湿度計を覗き込む。
「うーとね、にじゅうよんてんごど」
「そこそこだな」
「そこそこ」
「でも、足冷たい」
「つめたい」
「何故だろう」
「くつしたはいてないから……」
「正解!」
「うへー」
「なーんか履く気にならんよな、靴下」
「うん」
靴下嫌いなふたりである。
夏場は良いのだが、冬場はつらい。
それでも履きたくないのだから、筋金入りだ。
まあ、本格的に冬が到来してしまえば、そうも言っていられなくなるのだけど。
「××、足こっち」
チェアを回して、下半身をひねる。
そして、うにゅほに向けて両足を突き出した。
「!」
即座に意図を理解したうにゅほが、俺の足に自分の足を重ねる。
「◯◯のあし、つめたいねえ」
「××の足も冷たいぞ」
「◯◯のあし、おおきいねえ」
「××の足は小さいな」
しばしくっつけたままでいると、
「あ、あったかくなってきた」
「なってきたな」
「くつしたいらないね」
「いや、いるだろ」
「いるかー」
まだ履かないけど。
束縛感のない靴下はないものか。

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2017
10.13

うにゅほとの生活2141

2017年10月13日(金)

「いてて」
「だいじょぶ……?」
「皮一枚だし、大丈夫だよ。血もほとんど出なかったし」
風呂場でヒゲを剃る際、T字カミソリで手のひらを切ってしまったのだった。
「おろないんぬるね」
「お願いします」
「はい」
うにゅほに右手を差し出す。
「──それにしても、不思議なんだよなあ」
「ふしぎ?」
ぬりぬり。
「誰がどんな剃り方したって、右の手のひらなんて切れるはずないんだよ」
「◯◯、ひげそるの、へたっぴいだから……」
「へたっぴいだとしても!」
「そなの?」
「そうなのです」
「うーん……」
納得が行かないようだ。
「第一に、俺は右利きだ」
「うん」
「××が右手で包丁持ったとき、右手に怪我するか?」
「しない……」
「これだけでも、ちょっと不思議だろ」
こくこく。
うにゅほが頷く。
「第二に、最近のT字カミソリは横滑りに強い」
「よこすべり」
「刃物を横にスッと動かすと、切れるだろ」
「あぶない」
「それを防止するガードが付いてる」
「へえー」
「第三に、手のひらは平らである」
「たいら……」
「ヒゲ剃りで難しいのは、口まわりのデコボコした部分だ」
「◯◯、よく、ちーだしてる」
「逆に、滑らかな曲面であるほっぺたは切らない」
「うん、あんましちーでてない」
俺、そんなにヒゲ剃るの下手だと思われてるのか。
「考えられるとしたら、刃の部分をぎゅっと握るくらいだけど──」
「したの?」
「したらアホだと思う」
「──…………」
うにゅほが苦笑する。
ノーコメントらしい。
でも、無意識ながらそれをした可能性があるんだよなあ。
俺、アホなのかもしれない。

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2017
10.12

うにゅほとの生活2140

2017年10月12日(木)

「──あ、ガム切れた」
推定200粒は入っているボトルガムだが、噛んでいればいつかはなくなるものだ。
「からっぽ?」
「うん」
「あんなにからいのに……」
「最初の辛さを乗り切れば、あとはけっこう甘かったりするんだよ」
「……ほんと?」
「本当は本当だけど、試さないほうがいいんじゃないかな……」
すぐに吐き出してしまうのがオチである。
「なんかのついでに、また買ってこないと」
「あ」
うにゅほがぴょんと立ち上がる。
「ものおきにね、あたらしいのあったよ」
「マジか」
「もってくる!」
小走りで自室を後にしたうにゅほが、ほんの一分少々で戻ってくる。
「あった!」
右手には、クロレッツのビッグボトルが掲げられていた。
「はい」
「ありがとな」
うにゅほの頭をぽんぽんと撫でて、ボトルを受け取る。
「うへー」
買わずに済んで、嬉しい。
取ってきてくれて、ありがたい。
だが、女の子にガムをもらうと、口くせーんだよおめーという含意が脳裏をよぎるのだ。
もちろん、うにゅほはそんな子ではない。
俺自身も、女性に限らず、人からガムをもらった経験すらあまりない。
では、この被害妄想はどこから来たのだろう。
「……ネットかなあ」
「?」
うにゅほが小首をかしげる。
「いや、なんでもない」
情報と共に偏見まで取り入れてしまうのは、インターネットの功罪である。
とは言え、こうして不特定多数の方々に日記を閲覧してもらえるのも、ネットがあるからに他ならない。
「──…………」
うにゅほがネットに興味を持ったら、止めるべきか、止めざるべきか。
いまから悩んでも仕方がないけれど。

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2017
10.11

うにゅほとの生活2139

2017年10月11日(水)

「──…………」
PCで作業中、ふと喉が渇いた。
冷蔵庫に近いのはうにゅほだが、読書の邪魔をする気にはなれない。
いつものようにチェアのキャスターを滑らせ、

──ぶつん!

イヤホンから垂れ流していた作業用BGMが、唐突に途切れた。
「あー……」
またやってしまった。
今日だけで、既に三回目である。
「くび、だいじょぶ?」
「首は大丈夫だけど……」
心配なのは、イヤホンジャックのほうだ。
「このイヤホン、修理に出したのよりコード短いんだよなあ」
修理に出したイヤホンのコードの長さが染み付いてしまっているため、たびたびプラグを引っこ抜いてしまうのである。
「◯◯、あれないの?」
「あれ?」
「うーとね、せん、ながくするやつ」
「延長コードか」
「それ」
「あるよ」
全部繋げば部屋のどこへでも行くことができるくらい、ある。
「つかわないの?」
「さすがに使ったほうがいいかもなあ」
「なんか、だめなことあるの?」
「延長コードって、最低でも1mはあるんだ」
「うん」
「今度は長すぎて、キャスターに絡まる」
「あー……」
「まあ、注意して使えばいいんだけどさ」
だが、そんなことを言い出してしまえば、コードが短くても注意して使えばいい、となる。
それができていないから現状があるわけで、恐らく延長コードには、キャスターに絡まる未来が待っているのだろう。
「しゅうり、はやくおわったらいいね」
「まったくだ」
音質だけでなく、コードの長さまでベストだったとは。
失って初めて気づくことは、やはりあるのだなあ。

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