2017
03.21

うにゅほとの生活1937

2017年3月21日(火)

「──…………」
ぐてー。
チェアの背もたれを170度リクライニングし、だらしなく側臥する。
「……◯◯、だいじょぶ?」
「だいじょばない……」
「かぜ?」
「すこし風邪っぽいかな」
「そか……」
頭痛もするし、喉もいがらっぽい。
だが、問題はそこにない。
「そんなことより、全身の筋肉がめっちゃ痛い……」
「きんにくつう?」
「わからんけど、ビッキビキ」
「つん」
「うッ」
うにゅほが俺のふとももをつつく。
「いたい?」
「くすぐったい」
「きのう、えあろばいく、なんきろのったの?」
「30kmくらい」
「のりすぎとおもう」
「そうかなあ……」
「そだよ」
感覚が麻痺してきている。
「きょうは、えあろばいくきんしね」
「えー……」
「だめ」
「昨日の焼肉ぶんを落とさないと」
「だめ」
「どうしても?」
「だめです」
「××が寝たあとも?」
「──…………」
「あ、はい」
無言の圧力に屈してしまった。
「むりしたらだめ」
「はい」
「やすむとき、やすむ」
「はい……」
「あしたがんばろ」
うにゅほが俺の頭を撫でる。
「──…………」
なんだか子供の頃に戻った気分だった。

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2017
03.20

うにゅほとの生活1936

2017年3月20日(月)

今日は父親の誕生日だった。
「ふー、食った食った……」
背中からベッドに倒れ込み、自分の腹をぽんぽんと叩く。
「くったくったー」
俺の真似をして、うにゅほが隣に倒れ込んだ。
ベッドが軽く軋む。
「◯◯、すごいたべたねえ」
「久々の焼肉だから、張り切ってしまった」
「おなかぽんぽん?」
「ぽんぽん」
「さわっていい?」
「いいよ」
うにゅほの小さな手のひらが、俺の腹部を優しく撫でる。
すこしくすぐったい。
「あんましぽんぽんじゃないねえ」
「そうか?」
「へこんでる」
「腹筋に力入れてるからな」
「えー」
うにゅほが不満げに唸る。
「なんか恥ずかしいじゃん……」
「そかな」
「××のおなか、触っていいか?」
「うん」
細っこいおなかに手を乗せる。
「なでてー」
「はいはい」
なでなで。
呼吸によって上下するおなかが、なんとなく愛しい。
「ぶす」
「う」
「へそはここかー!」
「ちがうよ」
「こっちか!」
「やめへー!」
笑い合いながら、へそ当てゲームに興じるふたりだった。

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2017
03.19

うにゅほとの生活1935

2017年3月19日(日)

「しりとりの、しーからね」
「了解」
パン、と軽く両頬を叩く。
「──小石!」
「なまこ」
「バナナ」
「すなば」
「アクエリアス」
「ドア」
「アーモンド」
「あー、あー、ふぉーくろあ!」
「よくそんな言葉知ってたな」
「うへー……」
うにゅほの語彙が、たまによくわからない。
「揚げ豆腐」
「また、あー……?」
「ふふふ」
あたまとり。
それは、しりとりの反対のことをする遊びである。
「××、やたら強いからな。作戦を考えたんだ」
「さくせん?」
「しりとりなら、〈る〉攻めや〈ぬ〉攻めが有効だな」
「うん」
「あたまとりでは、〈あ〉攻めがわりと有効だと気づいたんだ」
「そなの?」
「実際、ちょっと困るだろ?」
「うん……」
「さ、どうぞ」
「あかしあ」
来たな、カウンターパンチ。
だが、対策はいくつも考えてある。
「アンパイア!」
「あー、あー、あくあ……」
「アイディア」
「あうとどあ」
「──…………」
〈あ〉で始まって〈あ〉で終わる言葉、けっこうあるなあ。
「……そうか」
「?」
「〈あ〉で終わる言葉、日本語以外ならある」
「あー」
盲点だった。
「アジア」
「うーと、あんもにあ」
「アームチェア」
ルールが変わっているような。
しばらく競っていたが、やはり〈あ〉攻めは強かった。
読者諸兄も、あたまとりをする際には、〈あ〉攻めの導入をおすすめする。

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2017
03.18

うにゅほとの生活1934

2017年3月18日(土)

「暑い」
「あついねえ……」
「いよいよ春めいてきたな」
「うん」
窓の外に降り注ぐ陽光が、残雪を優しく焦がしている。
「ゆき、とけるかなあ」
「今日だけで、だいぶ解けると思う」
「あったかいもんね」
「暑いくらいだもんな」
「うん」
「まあ、暑いのは陽射しのせいだけじゃないけど……」
「?」
俺の膝の上に鎮座ましましているうにゅほが、ちいさく小首をかしげた。
「……暑くない?」
「あつい」
「ちょっと汗ばんできた」
「わたしもー」
うへーと笑う。
「──…………」
「──……」
下りる気はないらしい。
俺の戸惑いを察したのか、うにゅほが遠慮がちに尋ねる。
「いや?」
「嫌ではないけど」
夏場だって、くっつくときはくっついているのだし。
「あ、そだ」
「?」
「わたしね、かんがえたの」
うにゅほが、スカートのポケットから紙切れを取り出す。
「はい」
それは、ホワイトデーに渡した「なんでも言うこと聞く券」だった。
「いま使うの?」
「うん」
「なんでも言うこと聞くぞ」
「じゃあ、あついけど、ぎゅーってして」
「──…………」
無言でうにゅほを抱き締める。
「……うへえ」
「こんなことでいいのか」
「うん」
安上がりだなあ。
暑いけれど、ほんのり幸せな、土曜日の午後だった。

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2017
03.17

うにゅほとの生活1933

2017年3月17日(金)

「ただいま!」
母親と美容室へ行っていたうにゅほが、元気いっぱいに帰宅した。
「にあう?」
「似合う似合う。さっぱりしたな」
「うへー……」
ロングだったうにゅほの髪が、セミロングほどになっている。
分け目も変わっていて、すこしお嬢様っぽい。
「いけてる?」
「イケ──って、まあイケてると思うけど、それ死語だぞ」
「しご?」
「使われなくなった言葉ってこと」
「そなんだ」
「おじさんが言ってたんだろ」
「うん」
うにゅほが通う美容室は、父親の従兄弟が経営しているところである。
その言語センスでいろいろ大丈夫なのだろうか。
「あ、きのとやでプリンかってきたよ」
「お」
「はい、これ」
うにゅほが手に提げていたケーキ箱を受け取る。
「?」
なんだか、やたらと重い。
「あけてみて」
「うん」
ケーキ箱を開くと、陶器製のデザートカップが五つ並んでいた。
「極上牛乳プリン……」
と、書いてある。
「自ら極上と名乗るからには、よほど自信があると見える」
「おいしいかな」
「食べてみよう」
「うん!」
自室に戻り、牛乳プリンに舌鼓を打つ。
「──美味い!」
「うん、おいしいねえ」
牛乳プリンにしては固めの生地が、舌の上で滑らかにほぐれていく。
「極上を名乗るだけはあるなあ」
「うん、うん」
「なにより嬉しいのは、牛乳プリンだからカラメルが──」
スプーンで底をつついた瞬間、茶色い液体が噴き出し、純白の生地を穢した。
「……入ってた」
「え!」
うにゅほがプリンを掘り返す。
「ほんとだ……」
「どうして、どうして牛乳プリンにカラメルを入れるんだ……」
プリンと言えば、カラメルソース。
そんなの絶対おかしいよ。

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