2018
06.14

うにゅほとの生活2383

2018年6月14日(木)

明日から五日間、母親が旅行に出掛ける。
そのあいだ、我が家の食卓は、うにゅほの双肩に掛かっていると言っても過言ではない。
「五日分の食材は買ってあるから、お願いね」
「うん」
「◯◯のこと、好きなだけこき使っていいから」
「だいじょぶ」
うにゅほが気楽に頷く。
母親が旅行へ行くのは、当然ながらこれが初めてではない。
うにゅほひとりでも台所を回せるのは、既に証明済みの事実である。
「言ってくれれば、材料切るくらいは手伝うぞ」
「んー」
しばし小首をかしげたのち、うにゅほが答える。
「ゆっくりしてていいよ」
「そっか」
頼もしい。
「◯◯、あした、なにたべたい?」
「……うーん?」
急に言われてもなあ。
おもむろに冷蔵庫を開きながら、母親に尋ねる。
「食材って、なに買ってあんの?」
「とりあえず、カレーかシチューは作れるように、豚肉と野菜。玉ねぎとじゃがいもは野菜庫にあるから」
「うん」
「卵も買ったし、牛乳もあるし、足りなかったら渡したお金で買ってね」
「わかった」
「◯◯、車出してあげなさいね」
「わかってるって」
「残ったぶんはお小遣いにするから、無駄遣いはしないように」
「はーい」
「俺には?」
「なんであんたにお小遣いあげなきゃならないの」
ごもっともである。
「困ったことがあったら、電話しなさいね」
「うん」
「了解」
今回の旅行が、母親にとって良い慰安になりますように。

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2018
06.13

うにゅほとの生活2382

2018年6月13日(水)

「んが……」
上顎が痛い。
その上、なんだか体がだるい。
そのことをうにゅほに伝えると、
「──……んー」
ぎゅ。
すんすん。
正面から俺に抱き着き、胸元で鼻を鳴らし始めた。
「かぜのにおい、すこしする」
「するか……」
うにゅほは、俺の体調を、匂いで判別することができる。
原理こそわからないものの、的中率は非常に高い。
「寒かったり暑かったり、暑かったり寒かったり、そら風邪も引くよなあ……」
「そだねえ」
「××は大丈夫?」
「うん、わたしはだいじょぶ」
「伝染さないように、マスクをしておきましょう」
「おねがいします」
サージカルマスクを装着し、ベッドに横たわる。
「仕事来たら、教えて……」
「わかった」
夏用の布団にくるまり、膝を抱える。
すこし寒い。
羽毛布団を仕舞うべきではなかったかもしれない。
でも、このあいだまで、最高気温が30℃もあったしなあ。
そんなことをぼんやり考えていると、いつの間にか意識を手放していた。

「──…………」
むくり。
壁掛け時計を確認すると、午後二時過ぎだった。
三時間ほど眠っていたらしい。
「あ、おはよー」
「……おはよう。すこし腹減ったかも」
「ごはんたべる?」
「なんか、つまむ程度でいいや」
「もなかあるけど……」
「──…………」
無意識に嫌な顔をしていたらしく、うにゅほが苦笑混じりに続けた。
「ちがうのさがすね」
「お願いします……」
最中は、しばらく見たくない。

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2018
06.12

うにゅほとの生活2381

2018年6月12日(火)

「◯◯、◯◯」
「んー」
台所で牛乳パックを切っていると、うにゅほが両手を差し出した。
「もなかあった」
「お、食べる食べる」
「ぎゅうにゅう、のむ?」
「飲む飲む」
牛乳パックをサクサク切り終え、遅めのおやつと洒落込むことにした。
「──…………」
むぐむぐ。
最中の皮と甘みの強い餡が、口の中の水分を奪い去っていく。
そこに牛乳を流し込むと、なんとも言えずちょうどよい。
だが、
「なーんか物足りないよな、最中って」
「そかな」
「せめて、餅とか栗とか入っててほしい……」
「あ、それはわかる」
何かないかと周囲を見渡すと、あるものが視界に入ってきた。
電子レンジ。
「温めてみるか」
「え」
「あんまんみたいになるかも」
「そかなあ……」
「ま、物は試しだ。いってみよう、やってみよう」
最中を小皿に乗せ、電子レンジで20秒ほど温める。
すると、
「──あつ!」
最中の餡が、手で持てないくらいに熱されてしまった。
「にじゅうびょう、やりすぎかも……」
「しゃーない」
菜箸を取り出し、最中を掴む。
「そんなにあついの、たべれる?」
「熱かったら牛乳で流し込むから、大丈夫」
「そか」
熱を帯びてしっとりとした最中を、口に運ぶ。
むぐむぐ。
「は……──!」
熱い!
熱い!
熱い!
慌てて牛乳を飲み下す。
その行為が無意味だと悟ったのは、グラスの中身を飲み干したあとだった。
何故なら、過剰に熱された餡は、俺の上顎にぴたりと貼り付いていたのだから。
「◯◯、みず! みず!」
「!」
うにゅほが汲んでくれた水で口内を満たし、ようやく地獄から解放された。
「──…………」
舌で、上顎をつついてみる。
「……皮、剥がれそう……」
「わああ」
悪い意味で、あんまんみたいなことになってしまった。
餡は、不用意に熱するべきではない。
つまり、そういうことさ。

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2018
06.11

うにゅほとの生活2380

2018年6月11日(月)

「うぐぐ……」
自分の左肩に手を置き、乱暴に揉みしだく。
肩凝りなのか、なんなのか、肩がすこぶる痛かった。
「◯◯……」
うにゅほが心配そうに口を開く。
「そんなにつよくしたら、もっといたくしちゃう」
「そうなんだけど……」
だが、じっとしていられないのだ。
「わたし、かたもむね」
「……頼んだ」
うにゅほの小さな手のひらが、俺の肩にそっと添えられる。
もみ、もみ。
「かた!」
「肩だけに……」
「?」
「なんでもない」
もみ、もみ。
「こってますねえ……」
「たまにあるんだよな。普段は平気なのに、急に肩が痛み出すの……」
「こころあたり、ないの?」
「ない」
ない、はずだ。
「あれかな。悉無律がどうとか、閾値がこうとか」
「しつむりつ?」
「……えーと」
どう喩えれば、わかりやすいだろう。
「自動販売機があるとする」
「うん」
「130円入れればジュースが買える」
「かえる」
「でも、120円では買えないよな」
「かえないねえ」
「自動販売機に十円玉を一枚一枚入れていくように、俺の肩にも疲労が徐々に蓄積されていたんだと思う」
「あー……」
「それが、今日、ちょうど130円ぶん溜まったんじゃないかなって」
「ジュースでたんだ……」
「そういうこと」
モーラステープを貼ってしばらくすると、痛みは徐々に治まってきた。
疲労が溜まると、ろくなことがない。
定期的なストレッチを心がけようと思った。

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2018
06.10

うにゅほとの生活2379

2018年6月10日(日)

今日は、母方の祖母の一周忌法要だった。
少々腹回りのきつくなった喪服に袖を通し、小一時間ほどかけて霊園へ向かうと、親戚連中が既に揃っていた。
仲の良い従弟と談笑していたところ、
「──……◯◯、◯◯」
「?」
意外と喪服の似合ううにゅほが、小さく俺の袖を引いた。
「どした」
「こっちきて……」
「あ、うん」
不思議そうな従弟に軽く頭を下げ、そのままうにゅほに連れられていく。
車の陰に隠れたころ、うにゅほが口を開いた。
「チャックあいてる……」
「──…………」
無言で股間に手を伸ばす。
全開だった。
「……××、ありがとう」
「うん」
人前で指摘しないあたり、できた子である。
法要を終え、会食を済まし、午後三時ごろ帰宅の途についた。
車内で、笑いながら母親が言った。
「お父さん、さっき、チャック全開でねー」
「そんなもん、わざわざ言わんでもいいべや……」
「──…………」
「──……」
思わず、うにゅほと顔を見合わせる。
「……親子だな」
「おやこだね……」
妙なところばかり似る。
「なに、もしかして、◯◯もチャック開いてたの?」
「開いてました……」
「親子だねえ」
「ほんとだね」
今度から、喪服を着るときは気をつけようと思った。

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