2018
07.22

うにゅほとの生活2421

2018年7月22日(日)

「◯◯、◯◯」
「んー?」
涼しい自室でくつろいでいると、乾いた洗濯物を手にうにゅほが戻ってきた。
「ここ、じんべのおしりんとこ、やぶけてる……」
「あー」
本当だ。
尻のあたりの縫い目がほつれ、見事にぱっくり開いていた。
「めんどくさいけど、繕っとくか……」
最寄りのコンビニ程度なら甚平のまま行くのだし、これではさすがにみっともない。
デスクの引き出しから、ソーイングセットを取り出す。
「ね」
うにゅほが、自分を指差して言った。
「わたし、やっていい?」
「やってくれるなら嬉しいなあ」
めんどいし。
「やります!」
「では、お願いします」
「はい」
うにゅほにソーイングセットを手渡す。
「やり方、わかる?」
「たぶん……」
ボタン付けはできたはずだが、繕い物はどうだったろう。
「××、針に糸通しといて。俺は、ほつれた糸を切っとくから」
「うん」
繕い物の邪魔になる糸束を糸切りバサミでザクザク切り落としていると、
「あれ、いととおしない……」
「あっ」
思い出した。
iPhone用のケースにストラップの紐を通そうとして、壊してしまったままだった。※1
「……糸通しなしで、針に糸通せる?」
「やってみる」
俺、苦手なんだよなあ。
「できた!」
「はや」
うにゅほは、基本的に小器用である。
「じゃあ、言うとおりに縫っていってな」
「はい」
「まず、縫い目を合わせて、待ち針で──」

しばしして、
「──できたー!」
うにゅほが、甚平の下衣を頭上に掲げた。
少々不格好ではあるものの、破れ目はしっかりと縫い合わされている。
「うん、綺麗にできたな。ありがとう」
うにゅほの頭を撫でてやる。
「うへえー……」
満足げだ。
「今度破れたら、また頼もうかな」
「おまかせください」
「お任せします」
「うん!」
うにゅほの家事スキルが、どんどん育っていく。
末恐ろしい。

※1 2017年4月10日(月)参照

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2018
07.21

うにゅほとの生活2420

2018年7月21日(土)

「ふー……」
扇風機の風に当たりながら、口を開く。
「日が暮れて、涼しくなってきたな。これならエアコンなしでも大丈夫そうだ」
「うん、すずしい」
「昼間は暑かったけどなー」
「ねー」
本州では40℃近い猛暑と聞くから、それに比べれば随分ましなのだろうけど。
「今日はまだ、風があるから──」
そう言って、窓へと視線を投げたときのことだ。

──ザッ!

窓の外の光景が、一瞬で、雨滴に塗り潰される。
風が入るということは──
「××! 窓閉めるぞ!」
「はい!」
自室の窓を閉めたあと、廊下、トイレ、階段の窓を順にチェックしていく。
「……よし、なんとか濡れずに済んだな」
「あぶなかった……」
自室に戻り、再び扇風機の風を浴びる。
「──…………」
「──……」
隣のうにゅほと視線を交わす。
暑い。
扇風機ではどうにもならないくらい、暑い。
「今年、ほんと蒸すなあ……」
「むしむしする」
「さっぱり晴れないし」
「うん……」
「たぶん、本州の高気圧に押し出されて、雨雲がこっち来てるんだろうな」
「よんじゅうどもやだけど、むしむしするのもやだねえ……」
「ほんとな」
北海道にとっても厳しい夏となりそうだ。

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2018
07.20

うにゅほとの生活2419

2018年7月20日(金)

「あぢー……」
ぐでえ。
なかばとろけながら、パソコンチェアの肘掛けにもたれかかる。
「むしむしするう……」
「扇風機先輩だけじゃ、ちょっと力不足かな……」
「──…………」
うにゅほが、エアコンの設置してある壁を物欲しげに見つめる。
「……つけますか」
「はい」
こんな蒸し風呂状態じゃ、夏の暑さを楽しむどころではない。
枕元のリモコンを手に、うにゅほがこちらを振り返る。
「じょしつ、する?」
「除湿もしたいけど、そもそも室温が30℃あるからな……」
「そだねえ」
「冷房にしましょう」
「せっていおんど、なんど?」
「27℃かな」
「わかった」
ぴ。
リモコンの電子音と共に、室内機が駆動を始める。
「──さてと」
扇風機を持ち上げ、数メートルほど移動させる。
「どしたの?」
「サーキュレーター代わりに使えないかと思って」
「さーきゅれーたー」
「まっすぐ風が出る扇風機みたいなやつ」
「……?」
うにゅほが小首をかしげる。
「それ、せんぷうき……」
「用途が違う」
「ようとが」
「扇風機は人に当てて涼を取るけど、サーキュレーターは部屋の空気を循環させるのに使う」
「あ、エアコンのかぜ」
「そうそう。冷たい空気を拡散して、冷却効率を上げるわけだ」
「へえー」
「扇風機の風じゃ弱い気もするけど、まあ、やらないよりましかなって」
「やってみましょう」
「そうしましょう」
やってみた。
「涼しい……」
「ふぶふぃー……」
快適空間と化した部屋で、ふたりだらだらと時を過ごす。
冷却効率とかはよくわからなかったです。

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2018
07.19

うにゅほとの生活2418

2018年7月19日(木)

「あ、桃だ」
昼食後、ふと覗いた仏壇に、桃がふたつ供えられていた。
「もも、かわむく?」
「いや……」
俺は、フルーツのたぐいがあまり好きではない。
そのことを熟知しているうにゅほが、やっぱりという顔をする。
「なんかさ」
「?」
「桃を見たとき、何かを思い出しかけた気がする……」
「なんだろ」
「うーん」
しばしのあいだ、首をひねる。
「××、桃に関して思い当たることとかある?」
「わたし?」
「たいてい一緒にいるんだから、××も経験した何かかもしれない」
「もも、もも……」
うにゅほが大きく首をかしげ、
「◯◯、わたしのこと、ももっぽいっていってたきーする」
「あー」
言った気がする。
「果物に喩えると、桃だな。××は」
「なんでだろ」
「たまに桃みたいな匂いするから、とか」
「におい……」
うにゅほが、自分の手首を鼻先に当てる。
「しないとおもう」
「全身から絶えず桃の匂いがしてたら、天人か何かだろ」
「てんにん?」
うにゅほが小首をかしげる。
「まあ、今回はその件とは──」
そう言いかけたとき、ふと脳裏に形作られた映像があった。
「……焼き桃だ」
「やきもも」
「今朝見た夢で、焼いた桃が出てきた。それだ」
「やきももって、あるの?」
「さあ……」
調理法として存在はしていそうだが、美味いのか不味いのかまったく想像がつかない。
「もも、やいてみる?」
「いや……」
うにゅほが、やっぱりという顔をする。
「大したことじゃないと思ってたけど、思った以上に大したことなかったな」
「どんなゆめだったの?」
「たしか、桃がロウソクの火で炙られて──」
今日も平和な一日だった。

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2018
07.18

うにゅほとの生活2417

2018年7月18日(水)

「……んー?」
マウスを握りながら、首をひねる。
「どしたの?」
「なんか、PCの挙動が重い」
「おもいの」
「重いの」
タスクマネージャーを開くと、RAMの使用率が普段より高めだった。
「再起動するかな」
「さいきどうするの」
「するの」
そう言えば、ここしばらくPCの再起動をした覚えがない。
常駐ソフトで起動日時を調べてみると、
「──……うわ」
思わず引き攣った声が漏れた。
「どしたの?」
「いや、なんでもない」
「なんでもないの」
「なんでもないの」
「うそだー」
「の、はいいのか?」
「いいの」
続けてるじゃん。
「……本当に大したことないんだよ」
「どんなこと?」
「PCを起動したのが先月の21日で、一ヶ月弱もつけっぱなしだったんだなーって」
「そなんだ」
「──…………」
「──……」
「ほら」
PC関連の話は、うにゅほに言っても通じないからなあ。
「でも、うわっていわれたら、きになる」
「まあ、そうか」
「そうなの」
「続けるの?」
「つづけるの」
「意味は?」
「ないの」
だろうなあ。
しばしのあいだ、うにゅほと言葉遊びに興じるのだった。

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2018
07.17

うにゅほとの生活2416

2018年7月17日(火)

うにゅほを膝に乗せてホロウナイトをプレイしていると、全身が徐々に汗ばんできた。
「……暑くない?」
「あつい……」
チェアを滑らせ、温湿度計を覗き込む。
「──あれ、26℃しかない」
意外だ。
30℃までは行かなくとも、29℃は確実にあると踏んでいたのだが。
「◯◯、ゲームすると、あつくなる」
「そんなに熱くなるほうじゃないと思うけど……」
対戦ゲームじゃあるまいし。
「?」
うにゅほが小首をかしげる。
「◯◯、いま、あつくなってる」
「いま?」
「うん」
ぺた。
うにゅほが俺の腕に触れる。
「あつい」
「……熱いって、物理的に?」
「うん」
なるほど、そういう意味か。
「そんなに熱いですか」
「せなかとおしり、あせかいてきた」
「それは単にくっついているからでは……」
「それもある」
「夏場だから仕方ないよな」
「うん、しかたない」
くっつかないという選択肢は、うにゅほの中にはないらしい。
べつにいいけど。
「たいおんけいもってくる?」
「いや、そこまでは……」
「ななどはあるとおもう」
「それ、風邪じゃない?」
「かぜのにおいしないから、かぜじゃないよ」
「そっか」
うにゅほが言うなら、そうなのだろう。
こと俺の体調に関して、うにゅほの判断が外れたことはない。
「いったん休憩するか」
「うん」
エアコンをつける室温ではないので、数日前に出したばかりの扇風機でしばし涼を取った。
扇風機も悪くないものだ。

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2018
07.16

うにゅほとの生活2415

2018年7月16日(月)

「◯◯ー」
「お」
湯上がりで髪を乾かしたばかりのうにゅほが、俺の座っているパソコンチェアをくるりと反転させる。
そして、
「うへー……」
いそいそと俺の膝に腰掛け、チェアの向きを元に戻した。
シャンプーの芳しい香りが、ふわりと鼻腔をくすぐる。
「ね、あのゲームやらないの?」
「ホロウナイト?」
「うん」
「好きだなあ」
「かわいい」
「まあ、可愛いけど……」
ホロウナイトは、最近俺がハマっている2Dアクションゲームである。
デフォルメされたムシたちの住む広大な地下迷宮を冒険するという内容なのだが、難易度はなかなか骨太だ。
「じゃあ、すこしやるか」
「やた」
「コントローラー取って」
「はーい」
うにゅほを抱き締めるようにしてコントローラーを握り、Steamからホロウナイトを起動する。
「昨日、どこまで行ったっけ」
「なんか、でんしゃみたいののった」
「トラムか」
「とらむ」
しばし"古代の穴"を探索し、貯まったお金を消費するために街へ戻る。
「あ、そうだ」
「?」
「××も、ちょっとだけ操作してみるか?」
「いいよー……」
「敵のいないとこだから」
「……うと、ちょっとだけ」
うにゅほがコントローラーを受け取る。
最初こそ遠慮していたものの、実際に操作してみると、けっこう夢中になっているようだった。
「よし、敵のいるとこ行ってみるか」
「やだ……」
それは嫌らしい。
難易度が低くて可愛らしいゲームでも見繕っておこうかなあ。

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2018
07.15

うにゅほとの生活2414

2018年7月15日(日)

「──……◯◯、◯◯」
肩をぽんぽんと叩かれ、意識を取り戻す。
「あれ……」
すこしばかり痛む首を気にしながら、チェアの上で居住まいを正す。
「……俺、寝てた?」
「ねてた」
マウスを握りながら意識を手放していたらしい。
「いま何時?」
口でうにゅほに尋ねながら、壁掛け時計に視線を投げる。
「さんじはん」
三時半である。
いつから寝落ちしていたのか、まったく思い出せない。
「休日は無限に眠い……」
「ベッドでねたほういいよ」
「そうなんだけどさ」
「◯◯、くび、すごいまがってた」
「あー」
だから痛むのか。
「ほら」
うにゅほが俺の手を取り、引く。
「ベッドでねよ」
「あー、うん……」
導かれるままベッドで横になり、眼鏡を外す。
「はい、あいますく」
「……このアイマスクも、ゴムがびろんびろんになってきたなあ」
「てんぴゅーる」
「そう、テンピュール」
愛用しているテンピュールのアイマスクは、同じ商品の二代目である。
おおよそ一年半ほどでゴムが伸び切ってしまうのは、素材としての宿命なのだろう。
「ゴム部分を張り替えれば、まだ使えるんだけどな」
「はりかえる?」
「めんどい」
「めんどいかー」
「三千円もしないし、それなら新しく買っちゃうよ」
「そだねえ……」
「じゃ、寝る。三十分くらいで起こして」
「はーい」
三十分ほど仮眠すると、驚くほど眠気が取れた。
うたた寝では、睡眠としてカウントされないのかもしれない。

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2018
07.14

うにゅほとの生活2413

2018年7月14日(土)

「──……あつ」
エアコンの効いた自室を出た瞬間、蒸れた空気が全身にまとわりついた。
「あっついねー……」
「暑いのは嫌いじゃないけど、蒸し暑いのはちょっとな」
「わかる」
「ほんと、エアコン様々ですね」
「ですねえ」
「サッと行って、パッと帰ってきちゃおう」
「うん」
最寄りのコンビニへ赴き、月曜祝日のため早売りのジャンプと、アイスを幾つか購入する。
ふたり揃ってクーリッシュを咥えながら帰宅すると、弟がリビングでテレビを見ていた。
「なに見てんの?」
「録画してたやつ。万引きGメン」
「……お前、そういうの好きだよなあ」
「けいさつにじゅうよじとか、いつもみてるもんね」
「わりと好き」
「人気あるから定期的に放送してるんだろうけど、何がいいのかよくわからん」
「そう?」
弟が、不思議そうな表情を浮かべる。
「馬鹿な奴らが馬鹿なことやって自業自得で報い受けてるんだから、面白いじゃん」
「ああ、そういう……」
「なんだよ」
「いえ、文句ありません。ハイ」
「わたし、ちょっとにがてだな……」
「××はそうかもね」
うにゅほは、威圧的な態度を取る人間が苦手である。
得意な人はあまりいないと思うけど。
「でも、兄ちゃんは小説書くんだから、人の汚い部分とか見といたほうがいいんじゃないの」
「サイコパスとかシリアルキラーの出る映画はよく見るけどなあ」
「それはまたジャンルが違わない?」
「違うかもしれない」
「(弟)、アイスたべる?」
「食べる」
しばしのあいだ弟と一緒にその番組を見てみたが、やはり面白さがよくわからなかった。
感性の共有は難しい。

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2018
07.13

うにゅほとの生活2412

2018年7月13日(金)

「──…………」
ふと気がつけば、L字デスクの上が、また雑然とし始めていた。
「……片付けるかー」
「かたづけるの?」
「そうしようかと」
「てつだうね」
そう言って、うにゅほが立ち上がる。
俺が言い出すのを待っていたのかもしれない。
「これ、なんだろ」
うにゅほが、デスクの端にまとめてあった数通の封筒を手に取る。
「よどばし」
「クレジットカードの明細書だな」
「いる?」
「うーん……」
要不要で言えば不要なのだろうが、捨てるのも憚られる。
「小箪笥の上の引き出し、入れといて」
「はーい」
うにゅほに指示し、デスクに向き直る。
デスクの上でいちばん幅を利かせているのは、なんと言っても読み終えた本の山である。
「……二十冊くらいかな」
「よんだら、すぐ、かたづけないと」
「はい……」
わかってはいるのだが、つい積んでしまう。
手分けして本を片付けると、その麓から、幾つもの「いますぐは必要ではないもの」が現れる。
唇が荒れたときに塗る、リップバーム。
プラスチック製のスプーン。
風邪を引いたときに出されたよく知らない薬。
オロナイン軟膏。
全体的に、薬が多い印象だ。
「──…………」
「──……」
「つかったら、すぐ、かたづけないと」
「はい……」
読んだら、すぐ、片付ける。
使ったら、すぐ、片付ける。
結局のところ、それに尽きるのだ。
前向きに善処しようと思った。

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