2018
06.19

うにゅほとの生活2388

2018年6月19日(火)

「あづー……」
パソコンチェアの上で、でろりと溶ける。
「──…………」
うにゅほに至っては言葉すらない。
「……いま、何度?」
フローリングの床と蜜月の時を過ごしていたうにゅほが、本棚最下段の温湿度計を覗き込む。
「にじゅう、きゅうど……」
「マジで」
「まじ……」
「いま、午後五時なんだけど……」
「うん……」
「窓全開なんだけど……」
「うん……」
「──…………」
網戸を開き、右腕を外に出してみる。
「……あれ、外は涼しい」
「ほんと?」
「なんか変だな……」
そう言えば、昼間はさして暑くなかったような。
チェアに戻り、本日の最高気温を調べる。
「──午後一時に、24.4℃。それから少しずつ下がってる」
「?」
うにゅほが小首をかしげる。
「へや、なんであついのかな……」
「わからん」
輻射熱だろうか。
「窓際はすこし涼しいから、耐えきれなくなったら窓際で凌ごう」
「──…………」
うにゅほがむくりと起き上がり、よろよろと窓際へ向かう。
「あ、ふぶふぃー……」
風と呼ぶのも烏滸がましい程度の空気の流れが、うにゅほの髪をかすかにそよがせる。
「六月でこれなら、真夏になったらどうなってしまうんだろう……」
「うん……」
「意外と冷夏になったりして」
「あるかも」
29℃でへろへろな身ではあるけれど、夏は暑くあってほしいものだ。

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2018
06.18

うにゅほとの生活2387

2018年6月18日(月)

「ふー、食った食った……」
「くったー、くったー」
ほどよく膨らんだ腹を撫でながら、自室へ戻る。
「まさか、お好み焼きで来るとは思わなかったなあ」
「おいしかった?」
「美味しかった」
「うへー」
うにゅほがてれりと笑う。
「おこのみやき、たのしいよね」
「わかる」
家族でわいわい言いながら、自分で自分のぶんを焼くのが楽しい。
自分の裁量ですべてを決められるため、食べ過ぎてしまうのが玉に瑕ではあるが。
「あした、なにたべたい?」
「うーん……」
チェアに腰を下ろし、思案する。
「いま、満腹満足状態だからなあ。あんまり食べたいもの思い浮かばない」
「そか……」
「強いて言うなら、アイスが食べたい」
「アイスあるよ」
「おー」
「スーパーカップと、ジャイアントコーンある」
「極楽じゃないか……」
「どっちがいい?」
「今日はチョコな気分」
「じゃあ、わたし、スーパーカップにする」
「ひとくちくれ」
「◯◯も、ひとくちちょうだいね」
「交換だな」
「うん、こうかん」
お好み焼きをたらふく食べて、デザートのアイスに舌鼓を打って、今日はもう何もしたくない。
「あー、こら太るな……」
「えあろばいく、しないの?」
「──…………」
「──……」
「明日、明日乗る……」
「そか」
明日から頑張る。
古来より伝わる先延ばしの言葉に身を委ねる俺なのだった。

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2018
06.17

うにゅほとの生活2386

2018年6月17日(日)

父の日である。
今年は、うにゅほと弟と三人で、父親に似合いそうな服を一着ずつプレゼントした。
還暦を過ぎた男性のファッションショーの様子は、割愛する。
「いやー、ありがとうな。大事に着るわ」
父親が笑顔でそう告げる。
「喜んでもらえたなら、よかったよ」
「うん、うん」
去年はネット通販でトレーナーを購入したんだっけ。
このぶんなら、来年以降の父の日も、服を贈れば間違いはなさそうだ。
「よし、ペヤング食うか」
「ペヤング?」
「ぺやんぐ……」
うにゅほと顔を見合わせる。
何故ペヤング。
「名古屋から送ってもらってな」
「ペヤングを?」
「ペヤング、食べたことないべや」
「まあ、うん」
北海道のカップ焼きそば市場において、ペヤングの占めるシェアはゼロに近い。
北海道には、やきそば弁当があるからだ。
「それにしても、わざわざ送ってもらったのか……」
物好きな。
「ぺやんぐ、おいしいかな」
「どうだろ」
「ひとくちたべてみたいかも」
「俺はひとりでひとつ食うから、お前らはふたりで食え」
「何個送ってもらったのさ」
「ダンボール一箱で、十八個あったな」
「そんなに……」
日持ちするものでよかった。
「ふたつ作るから、お前ら待ってろ」
「はーい」
「わかった」
弟は弟で、あとで自分で作るだろう。
初めて食べたペヤングは、思ったよりあっさりめの味付けだった。
悪くはない、悪くはないが、やはり食べ慣れたやきそば弁当のほうが舌に合う。
うにゅほも同じ感想のようだった。

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2018
06.16

うにゅほとの生活2385

2018年6月16日(土)

「◯◯、ばんごはん、なにがいい?」
「あー……」
思案する。
この場合、「なんでもいい」は御法度だ。
「……肉かなあ」
「にく」
「たしか、豚肉あったろ」
「うん、ある」
うにゅほがひとりだけで作れる料理のレパートリーは、実を言うとよくわからない。
たいていの場合、母親と肩を並べて台所に立っているからだ。
「××、豚肉だったら何が得意?」
「うーと、しょうがやきかなあ」
「生姜焼き……」
そう言えば、何度か作ってもらった記憶がある。
「しょうがやき、きらい?」
「好き」
「しょうがやきでいい?」
「お願いします」
「はい、わかりました」
父親も、弟も、生姜焼きは好物の範疇だ。
勝手に決めたが、文句は言うまい。
「生姜焼きの生姜って、チューブでいいんだっけ」
「うん」
「切らしてないかな」
「びちくあるから、だいじょぶとおもう」
「なんか手伝おうか?」
「んー……」
「キャベツの千切りとか」
しばし小首をかしげたのち、うにゅほが答える。
「てつだわなくていいけど、ちかくにいてほしい……」
なるほど。
ひとりでできるけど、ひとりは寂しいらしい。
「じゃあ、食卓でテレビ見てるな」
「うん」
うにゅほ謹製の生姜焼きは、文句なく美味しかった。
明日は何が食べられるかな。

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2018
06.15

うにゅほとの生活2384

2018年6月15日(金)

リビングのソファに寝転がり、夕方のニュースを眺めていたときのことだ。
「◯◯! ◯◯!」
ソファ裏手の食卓テーブルで弟と談笑していたうにゅほが、唐突に俺の名を呼んだ。
上体を起こし、そちらを見やる。
「どした」
「(弟)、すごい!」
「?」
弟に視線を送る。
「いや、大してすごくないから」
「すごいよ」
「気になるんですけど……」
弟が居住まいを正し、自分の目を指差す。
「見てて」
「見てる」
「右目で視野を固定して、左目の力を抜くと──」
「!」
右の瞳はまっすぐ前を見つめているのに、左の瞳は顔の端へと逸れていく。
つまるところ、寄り目の逆だ。
「……うわっ」
「そのリアクション傷つくんですけど」
「いや、すごい。すごいけど、写真撮って見せてやろうか?」
「やめとく……」
「お前、斜視だっけ?」
「違うよ。なんか、やってみたらできただけ」
「両目は離せないのか」
「さすがにね」
弟とそんな会話をしていると、うにゅほが口を開いた。
「わたしもできるかなあ……」
「──…………」
「──……」
弟と顔を見合わせる。
「よし、この話はやめよう」
「うん、やめよう」
「?」
小首をかしげるうにゅほの肩を掴む。
「挑戦しないでくれ、頼むから」
「わかった……」
うにゅほのそんな顔は、できれば見たくない。
その点で意見の一致をみた俺たち兄弟なのだった。

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2018
06.14

うにゅほとの生活2383

2018年6月14日(木)

明日から五日間、母親が旅行に出掛ける。
そのあいだ、我が家の食卓は、うにゅほの双肩に掛かっていると言っても過言ではない。
「五日分の食材は買ってあるから、お願いね」
「うん」
「◯◯のこと、好きなだけこき使っていいから」
「だいじょぶ」
うにゅほが気楽に頷く。
母親が旅行へ行くのは、当然ながらこれが初めてではない。
うにゅほひとりでも台所を回せるのは、既に証明済みの事実である。
「言ってくれれば、材料切るくらいは手伝うぞ」
「んー」
しばし小首をかしげたのち、うにゅほが答える。
「ゆっくりしてていいよ」
「そっか」
頼もしい。
「◯◯、あした、なにたべたい?」
「……うーん?」
急に言われてもなあ。
おもむろに冷蔵庫を開きながら、母親に尋ねる。
「食材って、なに買ってあんの?」
「とりあえず、カレーかシチューは作れるように、豚肉と野菜。玉ねぎとじゃがいもは野菜庫にあるから」
「うん」
「卵も買ったし、牛乳もあるし、足りなかったら渡したお金で買ってね」
「わかった」
「◯◯、車出してあげなさいね」
「わかってるって」
「残ったぶんはお小遣いにするから、無駄遣いはしないように」
「はーい」
「俺には?」
「なんであんたにお小遣いあげなきゃならないの」
ごもっともである。
「困ったことがあったら、電話しなさいね」
「うん」
「了解」
今回の旅行が、母親にとって良い慰安になりますように。

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2018
06.13

うにゅほとの生活2382

2018年6月13日(水)

「んが……」
上顎が痛い。
その上、なんだか体がだるい。
そのことをうにゅほに伝えると、
「──……んー」
ぎゅ。
すんすん。
正面から俺に抱き着き、胸元で鼻を鳴らし始めた。
「かぜのにおい、すこしする」
「するか……」
うにゅほは、俺の体調を、匂いで判別することができる。
原理こそわからないものの、的中率は非常に高い。
「寒かったり暑かったり、暑かったり寒かったり、そら風邪も引くよなあ……」
「そだねえ」
「××は大丈夫?」
「うん、わたしはだいじょぶ」
「伝染さないように、マスクをしておきましょう」
「おねがいします」
サージカルマスクを装着し、ベッドに横たわる。
「仕事来たら、教えて……」
「わかった」
夏用の布団にくるまり、膝を抱える。
すこし寒い。
羽毛布団を仕舞うべきではなかったかもしれない。
でも、このあいだまで、最高気温が30℃もあったしなあ。
そんなことをぼんやり考えていると、いつの間にか意識を手放していた。

「──…………」
むくり。
壁掛け時計を確認すると、午後二時過ぎだった。
三時間ほど眠っていたらしい。
「あ、おはよー」
「……おはよう。すこし腹減ったかも」
「ごはんたべる?」
「なんか、つまむ程度でいいや」
「もなかあるけど……」
「──…………」
無意識に嫌な顔をしていたらしく、うにゅほが苦笑混じりに続けた。
「ちがうのさがすね」
「お願いします……」
最中は、しばらく見たくない。

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2018
06.12

うにゅほとの生活2381

2018年6月12日(火)

「◯◯、◯◯」
「んー」
台所で牛乳パックを切っていると、うにゅほが両手を差し出した。
「もなかあった」
「お、食べる食べる」
「ぎゅうにゅう、のむ?」
「飲む飲む」
牛乳パックをサクサク切り終え、遅めのおやつと洒落込むことにした。
「──…………」
むぐむぐ。
最中の皮と甘みの強い餡が、口の中の水分を奪い去っていく。
そこに牛乳を流し込むと、なんとも言えずちょうどよい。
だが、
「なーんか物足りないよな、最中って」
「そかな」
「せめて、餅とか栗とか入っててほしい……」
「あ、それはわかる」
何かないかと周囲を見渡すと、あるものが視界に入ってきた。
電子レンジ。
「温めてみるか」
「え」
「あんまんみたいになるかも」
「そかなあ……」
「ま、物は試しだ。いってみよう、やってみよう」
最中を小皿に乗せ、電子レンジで20秒ほど温める。
すると、
「──あつ!」
最中の餡が、手で持てないくらいに熱されてしまった。
「にじゅうびょう、やりすぎかも……」
「しゃーない」
菜箸を取り出し、最中を掴む。
「そんなにあついの、たべれる?」
「熱かったら牛乳で流し込むから、大丈夫」
「そか」
熱を帯びてしっとりとした最中を、口に運ぶ。
むぐむぐ。
「は……──!」
熱い!
熱い!
熱い!
慌てて牛乳を飲み下す。
その行為が無意味だと悟ったのは、グラスの中身を飲み干したあとだった。
何故なら、過剰に熱された餡は、俺の上顎にぴたりと貼り付いていたのだから。
「◯◯、みず! みず!」
「!」
うにゅほが汲んでくれた水で口内を満たし、ようやく地獄から解放された。
「──…………」
舌で、上顎をつついてみる。
「……皮、剥がれそう……」
「わああ」
悪い意味で、あんまんみたいなことになってしまった。
餡は、不用意に熱するべきではない。
つまり、そういうことさ。

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2018
06.11

うにゅほとの生活2380

2018年6月11日(月)

「うぐぐ……」
自分の左肩に手を置き、乱暴に揉みしだく。
肩凝りなのか、なんなのか、肩がすこぶる痛かった。
「◯◯……」
うにゅほが心配そうに口を開く。
「そんなにつよくしたら、もっといたくしちゃう」
「そうなんだけど……」
だが、じっとしていられないのだ。
「わたし、かたもむね」
「……頼んだ」
うにゅほの小さな手のひらが、俺の肩にそっと添えられる。
もみ、もみ。
「かた!」
「肩だけに……」
「?」
「なんでもない」
もみ、もみ。
「こってますねえ……」
「たまにあるんだよな。普段は平気なのに、急に肩が痛み出すの……」
「こころあたり、ないの?」
「ない」
ない、はずだ。
「あれかな。悉無律がどうとか、閾値がこうとか」
「しつむりつ?」
「……えーと」
どう喩えれば、わかりやすいだろう。
「自動販売機があるとする」
「うん」
「130円入れればジュースが買える」
「かえる」
「でも、120円では買えないよな」
「かえないねえ」
「自動販売機に十円玉を一枚一枚入れていくように、俺の肩にも疲労が徐々に蓄積されていたんだと思う」
「あー……」
「それが、今日、ちょうど130円ぶん溜まったんじゃないかなって」
「ジュースでたんだ……」
「そういうこと」
モーラステープを貼ってしばらくすると、痛みは徐々に治まってきた。
疲労が溜まると、ろくなことがない。
定期的なストレッチを心がけようと思った。

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2018
06.10

うにゅほとの生活2379

2018年6月10日(日)

今日は、母方の祖母の一周忌法要だった。
少々腹回りのきつくなった喪服に袖を通し、小一時間ほどかけて霊園へ向かうと、親戚連中が既に揃っていた。
仲の良い従弟と談笑していたところ、
「──……◯◯、◯◯」
「?」
意外と喪服の似合ううにゅほが、小さく俺の袖を引いた。
「どした」
「こっちきて……」
「あ、うん」
不思議そうな従弟に軽く頭を下げ、そのままうにゅほに連れられていく。
車の陰に隠れたころ、うにゅほが口を開いた。
「チャックあいてる……」
「──…………」
無言で股間に手を伸ばす。
全開だった。
「……××、ありがとう」
「うん」
人前で指摘しないあたり、できた子である。
法要を終え、会食を済まし、午後三時ごろ帰宅の途についた。
車内で、笑いながら母親が言った。
「お父さん、さっき、チャック全開でねー」
「そんなもん、わざわざ言わんでもいいべや……」
「──…………」
「──……」
思わず、うにゅほと顔を見合わせる。
「……親子だな」
「おやこだね……」
妙なところばかり似る。
「なに、もしかして、◯◯もチャック開いてたの?」
「開いてました……」
「親子だねえ」
「ほんとだね」
今度から、喪服を着るときは気をつけようと思った。

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