2017
07.31

うにゅほとの生活2068

2017年7月31日(月)

しと、しと。
朝から降り続ける雨が、窓の外を静かに煙らせている。
「──あーめ、あーめ、ふーれ、ふーれ、かーあさーんがー」
囁くようなうにゅほの歌声が、雨音と混じって心地よい。
「ふーふふーで、おーむかーえ、うーれしーいなー」
「ふふふ?」
「わすれちゃった……」
「思い出してみよう」
「ひんと」
「和傘のことです」
「わがさ……」
「時代劇に出てくるような傘のことだよ」
「あかいかさ?」
「色はその時々だと思うけど……」
まあ、でも、赤い和傘が多い印象はある。
「わーがさーで、おーむかーえ、うーれしーいな?」
「ヒントだってば」
「うー」
「わからない?」
「わかんない」
「では、一生その疑問を抱えて生きていくがよい」
「えー」
「冗談」
「こたえ……」
「蛇の目」
「じゃのめ?」
「ヘビの目と書いて、蛇の目。蛇の目模様の傘のこと」
「じゃーのめーで、おーむかーえ、うーれしーいな」
「そうそう」
「ぴーち、ぴーち、じゃーぶ、じゃーぶ、ふん、ふん、ふん♪」
相変わらず、微妙に違う。
「××、ドレミの歌とか歌える?」
「うん」
「歌ってみて」
「どーは、どーなつーのーどー」
「うん」
「れーは、れもんのれー」
「──…………」
「みーは、みーんなーのーみー。ふぁーはふぁいとのふぁー」
頷きながら、続きを促す。
「そーは、あおいそらー。らーはらっこのらー」
「あ」
「?」
うにゅほが小首をかしげる。
「……いや、なんでもない」
ちょっとだけ間違えて覚えているのが、うにゅほらしくて可愛いので、無粋な指摘はしないでおこう。

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2017
07.30

うにゅほとの生活2067

2017年7月30日(日)

両親の寝室から、眼下の公園を眺める。
夏祭り。
町内会が開催する、本当に小さな規模のお祭りだ。
「──てーびょおし、そーろえて、ちゃちゃんがちゃん♪」
母親のベッドに腰掛けたうにゅほが、足をぱたぱた動かしながら、機嫌よく盆踊りの歌を口ずさむ。
「今度カラオケ行ったとき、これ歌おうか」
「はいってるの?」
「わからん」
「わからんの」
「そもそも、タイトルがわからん」
「ぼんおどりのうた」
「間違いではないけど、正確でもなさそうだなあ」
「そかー」
あまり興味はなさそうだ。
「焼き鳥は、食べた」
「うん」
「豚串も、食べた」
「たべた」
「焼きそばも食べた」
「おいしかった」
「おでんも食べた」
「うん」
「ラムネも飲んだ」
「うん」
「××は、浴衣も着てるし」
「うん」
「可愛いぞ」
「うへー……」
「あと、やり残したことって、何かあるかな」
「んー」
うにゅほがしばし思案する。
「ないかなあ……」
「盆踊りは、いいのか?」
「うん」
「そっか」
「おまつりのおと、きいてるの、いちばんすき」
「同じく」
たぶん、俺に感化されたのだろうけど。
「……やり残したことはないけど、名残惜しいな」
「──…………」
「夏が半分、終わったみたいでさ」
「うん」
うにゅほの隣に腰を掛け、そのまま寝転がる。
「ねむい?」
「ちょっとな」
「ひざまくら、する?」
「お願いします」
浴衣での膝枕は、ちょっと特別な感じがした。
今年の夏は、一度きりだ。
覚えていたい夏にしよう。

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2017
07.29

うにゅほとの生活2066

2017年7月29日(土)

「──…………」
「××、緊張してる?」
「──……」
うにゅほが、うんうんと無言で頷く。
「大きな声を出してもいい場所なんですが……」
「だって」
「うん」
「カラオケ、ひさしぶりだから……」
「何年ぶりだっけ」
「わかんない」
ふるふると首を横に振る。
あとで調べたところ、実に四年半ぶりのカラオケであるらしい。
なんとしても楽しませてあげなければ。
「××、そっち向いて」
「……?」
画面の方へ体を向けたうにゅほの肩をそっと揉む。
「ほー……」
「はい、リラックスリラックス」
「──…………」
「俺しか聞いてないんだから、恥ずかしくないだろ」
「……はずかしい」
恥ずかしいらしい。
「ともあれ、最初は俺な」
「なにうたうの?」
「まずは、喉慣らしから」
「のどならし」
「最初にこれを歌わないと、声が出ないんだ」
端末を操作し、平原綾香の「Jupiter」を予約する。
「しらないきょく」
「たぶん、聞いたことはあるぞ」
左手を腹部に添えながら、そう自慢でもない喉を披露する。
曲が終わったことを確認したあと、うにゅほがぱちぱちと両手を打ち鳴らした。
「すごいねえ! うまいねえ!」
そうでもない。
褒め過ぎである。
「次は、××──」
「──…………」
あ、固まった。
「……一緒に歌う?」
「うん!」
ひとりで歌うのは恥ずかしくても、ふたりで歌うなら問題ないらしい。
気持ちはわかる。
「じゃあ、君をのせてとか、どうかな」
「きみをのせて?」
「ラピュタのエンディングテーマ」
「あ、しってる!」
「入れるぞー」
「おねがいします」
うにゅほの歌声は、とても細い。
音痴でこそないものの、調子外れな部分もあって、決して上手とは言い難い。
でも、一緒に歌っていて、とても楽しかった。
「また来ようか」
帰途の車中でうにゅほに尋ねると、
「うん」
と、満足そうに頷いた。
楽しかったのは、うにゅほも同じようだ。
よかったよかった。

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2017
07.28

うにゅほとの生活2065

2017年7月28日(金)

「──…………」
眠い。
だが、この案件を早く仕上げてしまいたい。
その一心でディスプレイを睨みつけ、キーボードを叩き続ける。
やがて、
「──ん、ぅ……」
ごそごそ。
寝室から届いた物音で、ようやく現在の時刻に気がついた。
午前六時。
うにゅほが起きる時間である。
「◯◯ー……?」
「おはようございます」
ぺこり。
「おあようございまう……」
ぺこり。
「……ずっとおきてたの?」
「はい」
「ねないとだめだよ」
「はい……」
「きょう、おばあちゃんの、のうこついくんだよ」
「うん」
「おきれる?」
「まあ、ほら、運転は父さんだから」
そう言って、再びPCへと向き直る。
「ねないとだめだよ……」
「もうすこしだけ」
「うー」
うにゅほには申し訳ないが、切りの良いところまで本当にあとすこしなのだ。
「……◯◯、めーどうしたの?」
「目?」
「ひだりめ、つむってるから……」
「眠いと、左目がかすんでくるんだよな」
「──…………」
うにゅほが俺の腕を取る。
「ねよ」
「いや、もうすこしで──」
「だめ」
あ、これ本気のやつだ。
「……はい、わかりました」
手を引かれるままに、ベッドへと向かう。
「ねるまで、てーつないでますからね」
「いや、そこまで──」
「おやすみなさい」
「……はい」
俺がうにゅほに勝てなくなったのは、いつからだろう。
そんなことを考えていたら、いつの間にか眠りに落ちていた。
納骨は、始終眠かった。

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2017
07.27

うにゅほとの生活2064

2017年7月27日(木)

「──……◯◯、◯◯」
「んが」
遠慮がちに左腕を揺さぶられ、目を覚ます。
「……どしたー?」
「おこしてごめんね……」
「何時?」
「まだしちじ……」
うにゅほの言葉に、よくないものを嗅ぎ取る。
この子が、俺を、こんな時間に、用もないのに起こすはずがない。
上体を起こし、改めて尋ねた。
「……何かあった?」
「──…………」
言葉を探してか、しばしの沈黙のあと、うにゅほが問い返す。
「◯◯、けがしてない……?」
「怪我?」
「あのね……」
「うん」
「せんめんじょとか、だいどことか、ちーがぱたぱたおちてたの……」
「──…………」
血。
ふと、記憶が蘇る。
「もしかして──」
布団代わりの丹前の下から、右足を出す。
小指に絆創膏。
「……昨夜、寝る前に、柱のカドに小指ぶつけてさ」
「だいじょぶ……?」
うにゅほが、恐る恐る、俺の右足の甲を撫でる。
「当たり方が良かったのか悪かったのか、骨に異常はないよ」
「でも、ちー……」
「……その代わり、爪の上のあたりの皮膚が、ぺろんとめくれてな」
「ひ」
「血は拭ったと思ったけど、残ってたか」
「うん……」
「びっくりさせて、ごめんな」
「……◯◯、いたくない?」
「今は痛くない。オロナインを塗ってから絆創膏貼ったし、大丈夫だよ。ちょっと驚いたけどな」
「そか……」
うにゅほが、ほっと胸を撫で下ろす。
処理が甘かったせいで、要らぬ心配を掛けてしまった。
怪我も含めて、気をつけよう。

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2017
07.26

うにゅほとの生活2063

2017年7月26日(水)

「──来たな」
キーボードの上に指を置きながら、そう呟く。
「?」
俺の膝に腰掛けたうにゅほが、小さく首をかしげてみせた。
「なにきたの?」
「数ヶ月に一度訪れる、伝説の──」
「でんせつの」
「日記に書くことが、特にない日」
「でんせつなの?」
「適当言った」
「かくことないの?」
「ない」
「ちいちゃいあり、いなくなったよ」
「それは昨日書いた」
「じゃあ、かくことないねえ……」
「ないんだよ」
うにゅほを抱き締めるような姿勢で、キーボードを叩き続ける。
「いまはなしたの、かいてるの?」
「そう」
「……にっき?」
「その日に起こったことを記してるんだから、日記だろ」
「そか」
「××、なんか言って」
「なんか……」
「面白いこと」
「えー」
「5」
「ご?」
「4、3、2、1、0!」
「むり!」
うにゅほの脇腹に手を這わせ、
「こちょこちょこちょこちょ!」
「うし、うひひひ!」
「面白いこと言えー!」
「ま、ふい、うひ、ししし、ひー!」
ひとしきりくすぐったあと、再びキーボードに向かう。
「──こうして、××は、日記の犠牲になったのだった」
「もー……」
「ごめんごめん」
不満げなうにゅほの頭を撫でて、本日の日記は終わりです。

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2017
07.25

うにゅほとの生活2062

2017年7月25日(火)

「◯◯ー」
自室の扉を押し開けながら、うにゅほが俺の名を呼んだ。
「うん?」
「きてきて」
手を引かれるまま、花壇へと赴く。
「ちいちゃいあり、すごいへった!」
「……ほんとだ」
完全にいなくなったわけではない。
だが、明らかに数を減じている。
「ありめつ、すごいねえ!」
「理想的殺蟻剤を謳うだけはあるな……」
成分を見るに、ホウ酸と糖蜜の水溶液に過ぎないのだが、その効果は絶大だ。
シンプルイズベストということなのだろう。
「あ゙ー! ん、ん゙!」
「?」
咳払いして、声を作る。
「──長きに渡る人間とアリとの戦争は、対アリ用殲滅兵器アリメツの投入によって終わりを告げた」
「えいがみたい」
「だが、アリはまだ諦めていなかった!」
「!」
「地下に潜ることを余儀なくされたアリたちは、ついに対ヒト用決戦兵器ヒトメツを完成させたのだ」
「──…………」
「ヒトとアリとの運命を分かつ最終戦争が、いま始まろうとしていた」
「おー……」
「Coming Soon...」
「かみんぐすーん?」
「近日公開という意味です」
「そなんだ」
どこで何を公開するのかは知らないが。
「ひと、かってほしいな……」
「俺もそう思う」
わりと本気で。
ともあれ、アリメツの効果は証明された。
この一手でアリを封じ続けることができれば良いのだが。

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2017
07.24

うにゅほとの生活2061

2017年7月24日(月)

「──◯◯、◯◯!」
のんびりブラウジングなどしていると、うにゅほが自室に駆け込んできた。
「どした」
「ちいちゃいあり、いた!」
「──!」
思わず腰を浮かす。
「どこに出た」
「かだん!」
「家の中では?」
「みてない」
「よし」
最悪のケースは免れた。
「ダスキンのひとに、ぶしゅーって、ころしてもらったのにねえ……」
「アリを全滅させても、巣には卵がある。卵が孵れば、またコロニーを作る」
「そなんだ……」
「だが、そうなることは予測済みだ!」
デスクの引き出しから、あるものを取り出す。
「理想的殺蟻剤、アリメツ!」
「おー」
うにゅほが小さく拍手する。
「◯◯、ドラえもんみたい」
「そう?」
声真似でもしておけばよかったか。
「ともあれ、これは、市販されている中では最強と謳われる対アリ用撲滅兵器でな。こんなこともあろうかと、通販で買っておいたんだ」
「ありのすころりより、すごい?」
「レビューを信じるならば」
そもそもアリの巣コロリが効いた試しはなかったような気がするけれど。
「これを原液のまま添付の小皿に入れて、巣の近くか通り道に置くだけでいいらしい」
「へえー」
「やってみよう」
「うん!」
花壇まで足を運び、アリメツを入れた小皿をアリの通り道に置く。
すると、あっという間にアリが群がってきた。
「すごい」
「何入ってるんだ、これ」
成分を確認すると、糖蜜が含まれていた。
そりゃ群がるはずである。
「あり、しぬかなあ……」
「これで全滅してくれればいいんだけど」
「うん……」
新しいコロニーは、まだ家屋内へと通じる道を学習していない。
その前に、何としても潰さねば。

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2017
07.24

うにゅほとの生活2060

2017年7月23日(日)

「ただいまー」
資格試験を終え、解放感に背筋を伸ばしながら帰宅した。
「おかえり!」
うにゅほの頭をぽんぽんと撫でて、自室へ向かう。
「ね」
「んー」
「どうだった?」
「うん……」
芳しくない俺の反応に、うにゅほの表情が曇る。
「……だめだった?」
「正直、わからん」
「わからんの」
「半々くらい」
「はんはん……」
「一次と違って自己採点できないから、結果発表を待つしかない」
「けっかはっぴょう、いつ?」
「えーと──」
カバンから受験票を取り出し、確認する。
「書いてないなあ」
「あさってくらいかな」
うにゅほの言葉に、苦笑する。
「明後日にわかれば、ハラハラしなくていいんだけどな」
「だめかー」
「国家資格だし、受験者も多いから、一ヶ月はかかるんじゃないか」
「ながいねえ……」
「そんなもんだよ」
カバンを床に下ろし、ベッドに倒れ込む。
「──ともあれ、終わった!」
ごろんごろん。
「もー勉強しなくて済むぞー!」
「おつかれさま」
「うむ」
「ひざまくら、していい?」
「天国かな」
「うへー……」
ベッドの端に腰掛けたうにゅほのふとももに頭を預ける。
「がんばった、がんばった」
なでなで。
「……三十分くらい仮眠していい?」
「うん」
眼鏡を外し、うにゅほに渡す。
そして、そのまま目を閉じた。
疲れていたのか、夢は見なかった。

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2017
07.22

うにゅほとの生活2059

2017年7月22日(土)

「うあー……」
だるーん。
ベッドから半ば落ちかけながら、読書に勤しむ。
「◯◯」
「んー」
「あした、しけん?」
「そうだよ」
「べんきょうしないの?」
「するけど、あとで」
「いいのかな」
「一夜漬けでもない限り、前日に足掻いたところであんまり意味はないよ」
「そなの?」
「覚えるべき部分は、すべて頭に入れてある。だから、寝る前に復習するだけでいい」
「へえー」
「……問題があるとすれば、覚えるだけではどうしようもない部分かな」
「どうするの?」
「明日、頑張るしかない」
「そか……」
うにゅほが、俺の右足を持ち上げ、ベッドの上に戻す。
「う、しょ!」
「──…………」
「おちちゃうよー」
「試験に?」
「おちるとか、すべるとか、だめなんだって」
それは、受験生のメンタルの問題では。
「あ、落ちるー」
だらーん。
ベッドから、両腕と首を垂らす。
「××、助けてくれー」
「もー」
うにゅほが、俺の頭を抱えて押し戻す。
「これでよし」
ごろんと仰向けになり、左足を下ろす。
「××ー」
「はーい」
だんだん楽しくなってきた。
しばしふたりで遊んだあと、参考書を開く。
「がんばってね」
「了解」
やるべきことは、やった。
あとは、得意な分野が出題されることを祈るのみである。

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