2017
03.30

うにゅほとの生活1946

2017年3月30日(木)

「──…………」
雨のそぼ降る窓の外を、少女が憂い顔で眺めている。
実に絵になる光景だ。
せっかくだから写真に収めておこうかとiPhoneのカメラアプリを起動したとき、うにゅほがこちらに気がついた。
「あ!」
「やべ」
「いま、しゃしんとろうとした?」
「シテナイヨ」
「やべっていった」
「ごめんごめん」
「もー……」
うにゅほは、写真を撮られるのがあまり好きではない。
もっと思い出を残しておきたいんだけどなあ。
「ところで、何を見てたんだ?」
うにゅほの隣に並び、窓の外を見やる。
春の雨。
凍えるほど冷たい雨粒が、薄汚れた雪を水に還していく。
梅も、桜も、まだ先だろうか。
「うーとね」
うにゅほが、窓のある一点を指差した。
「にじゅうまどのなかにね、はえがいるの」
「……ハエ?」
「うん」
「ハエを見てたの?」
「うん」
「そうなんだ……」
現実とはそんなものである。
「はえ、どっからはいったんだろうねえ」
「さあー……」
「はるつげむし?」
「……あんまりハエに告げられたくないなあ」
「そだねえ」
春が、手の届くところまで来ている。
四月の雪は見たくない。

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2017
03.29

うにゅほとの生活1945

2017年3月29日(水)

Amazonから新しいイヤホンが届いた。
Philips SHE9720
うにゅほが踏んで壊してしまったSHE9712の後継機種である。
さっそく包装を解いていると、
「あっ……」
それに気づいたうにゅほが、さっと顔を曇らせた。
「◯◯、あの──」
「××」
「はい……」
「怒ってないんだから、もう謝らない」
「うん、ごめん……」
「こら」
「──あ、ちがくて! いまのごめん、いやほんのごめんじゃなくて」
「はいはい、落ち着きましょうね」
「うー……」
苦笑し、開封に戻る。
「……◯◯、あかいのすき?」
「そうだな。赤があるときは、だいたい赤を──」
赤い塗装の施されたイヤホンを取り出そうとして、軽く絶句する。
「……コードまで真っ赤じゃないか」
「はで……」
「派手だな……」
SHE9712は、本体は赤でもコードは黒かったのに。
「まあ、気にしないし使うけど、コードはもうすこし大人しい色がよかったなあ」
「あかいふくきたら、めだたない、かも」
「白い服着たら、超目立つな」
「ちーでてるみたい」
「耳血が……」
「うん」
「鼻に入れたら、鼻血に見えるかな」
「いれたらだめだよ」
「はーい」
DACアンプに接続し、試聴したところ、音質に問題はなかった。
大切に使いましょう。

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2017
03.28

うにゅほとの生活1944

2017年3月28日(火)

ふと思い立ち、うにゅほを褒め殺してみることにした。
「××」
「?」
うにゅほが顔を上げる。
「××は可愛いなあ」
「!」
「よ、美少女!」
「うと、どしたの?」
ぱちくり。
「思ったことを素直に言ってるだけだよ」
「そなんだ……」
「××は、本当に可愛いなあ」
「!」
「肌が白くて、目がくりっとしてて、まつげも長いし、小顔だし」
「……その、ほんと?」
「こんなことで嘘なんかつかないよ」
「うへー……」
てれてれ。
「身内贔屓かもしれないけどさ。そこらへんのアイドルなんかより、ずっと可愛いと思う」
「──…………」
「すっぴんでこれなんだから、本当に素材がいいんだな」
「──…………」
「まかり間違ってテレビになんて出た日には、ネットで話題騒然かも」
「も、も、やめてえ……」
耳まで真っ赤に染めたうにゅほが、両手で顔を隠してしまった。
照れちゃって、まあ。
「そういうところも可愛いぞ」
「うひい……」
うにゅほが、笑い声と悲鳴が混ざったような声を上げる。
そろそろ勘弁してあげよう。
「♪」
今日一日、うにゅほはずっと上機嫌だった。
ほとぼりが冷めたころ、また褒め殺してあげようと思う。

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2017
03.27

うにゅほとの生活1943

2017年3月27日(月)

「──はァ、ひい、ふー……」
エアロバイクを降り、ふらふらとベッドに倒れ込む。
「……自己ベスト更新」
たしかな満足感に、思わず頬が緩む。
頑張った。
本当に頑張った。
「◯◯、だいじょぶ……?」
「大丈夫、大丈夫」
「おしり、いたくない?」
「すこし痛いけど……」
そんなことより、自慢したくてたまらない。
「××」
「?」
「さて、本日は何キロくらい漕いだでしょー、か!」
「ひゃっきろ」
うにゅほが即答する。
「──正解。すごいな、××」
「わかるよ……」
呆れたように苦笑しながら、言葉を継ぐ。
「さんじゅっぷんでじゅっきろで、ごじかんこいでたから」
「……改めて言葉にすると、とんでもないな」
「あらためてことばにしなくても、とんでもないとおもう……」
「頑張りました」
「がんばりすぎです」
「ストレッチしたら、休もう……」
「うん」
軽く筋肉をほぐしたあと、再びベッドに倒れ込む。
「あし、まっさーじするね」
「ありがとう」
うにゅほの小さな手のひらが、太腿のあたりを這い回る。
「◯◯、あし、ふとくなったねえ」
「あー……」
これだけ酷使していれば、当然だろうなあ。
「じーんず、きつくない?」
「ちょっと」
「むりしたら、もっときつくなるからね」
「はーい」
頑張り過ぎて体を壊していては、本末転倒だ。
今後は、一日一時間程度に留めておこう。

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2017
03.26

うにゅほとの生活1942

2017年3月26日(日)

昼食後、眠気にまかせて仮眠をとっていたときのことだ。
「──……ぃ……」
「……?」
ふと名前を呼ばれた気がして、アイマスクを上げる。
すると、
「◯◯ぃ……」
いまにも泣き出しそうな顔をしたうにゅほが、ベッドの真横に立っていた。
差し出された両手に、なにかコードのようなものが乗せられている。
「……イヤホン?」
「いやほん、おとして、ふんじゃった……」
「──…………」
両目を細め、カナル型イヤホンを検める。
右耳側が継ぎ目からひび割れ、導線が露出していた。
「……完全に壊れてますね」
「ごめんなさい……」
「新しいの買わないと」
「ごめ……」
「あー、気にしない気にしない」
上体を起こし、うにゅほの頭を撫でる。
「イヤホンなんて、そもそもが消耗品なんだから」
「──…………」
「それに、こんなこともあろうかと──」
ベッドサイドの飾り棚から、コード類をまとめた紙袋を取り出す。
「予備のイヤホンが、ちゃんとある」
「!」
「ほら、コードもU字型」
「ほんとだ……」
「いつだったか、携帯を買い換えたときにおまけでついてきたやつでさ」
「そなんだ」
枕元のiPhoneに繋ぎ、音楽を再生してみる。
「──…………」
「きこえる?」
「……なにも聞こえない」
「こわれた……?」
「壊れてる、かも。そもそも十年くらい前のやつだから……」
一度も使っていないのになあ。
「……ごめんなさい」
「ごめんなさいは一回でいいよ」
「はい……」
「買えばいいんだ、買えば。Amazonで同じのポチりましょう」
「すみません……」
「そういう意味じゃないって」
そのあとも、うにゅほはしばらく落ち込んでいた。
本当に気にしなくていいんだけど。

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2017
03.25

うにゅほとの生活1941

2017年3月25日(土)

友人が、愛知のおみやげにういろうをくれた。
「××、これなーんだ」
包装を剥き、うにゅほの眼前に差し出す。
「……?」
つん。
「ぷにぷにしてる」
「うん」
「なにかのー、そざい、です」
「なんだ、わかってたのか」
「うへー」
いまのはラーメンズのネタである。
「××、ういろう食べたことあったっけ」
「うん」
「いつだっけ……」
「うーとね、ずっとまえ」
「俺も、何年か前に買って食べた記憶あるから、そのときだな」
「──…………」
つん。
ぷに。
つん。
ぷに。
「ね、◯◯」
「ん?」
「ういろうって、なに?」
「……言われてみれば、なんだろう」
「そざい?」
「それはいいから」
スマホを取り出し、Wikipediaを開く。
「──えーと、蒸し菓子の一種だって」
「むしがし」
「米粉と砂糖と水を練り合わせて、型に注いで蒸して作るって書いてある」
「おもちじゃないんだ」
「米粉はもち米で作るから、餅の一種と言えば言える」
「そうなんだ」
うにゅほが俺の手からういろうを奪う。
「◯◯、あーん」
「あー」
差し出されるまま、ひとくちサイズのういろうを頬張る。
「おいしい?」
「まあ、普通かな……」
「ふつうなんだ」
「××も食べてみ」
「うん」
決して不味くはないが、すごく美味しいわけでもない。
ういろうって、そんな味だ。

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2017
03.24

うにゅほとの生活1940

2017年3月24日(金)

仮音源を聴きながら、中指で軽くデスクを叩く。
鼻歌も出ていたかもしれない。
気がつくと、
「──…………」
うにゅほが俺の顔を間近で覗き込んでいた。
「のわ!」
「あ、ごめんなさい……」
ばつが悪そうに、ぺこりと頭を下げる。
「◯◯、のりのりだなって」
「ノリノリとはすこし違うんだけど……」
「?」
「音数を数えてたんだよ」
「おんすう」
「簡単に言うと、音符の数だな」
楽譜を画像ファイルで開く。
「基本的には、一音一文字。大きくずれると歌えなくなる」
「へえー」
「自分で作詞作曲するシンガーソングライターなら融通もきくんだろうけど……」
「あ、さくし」
「うん?」
「◯◯、さくししてたんだね」
気づいてなかったのか。
「なにしてると思ってたんだ?」
「おんがくきいて、のりのりしてるのかなって」
「──…………」
そう思われていたことが、なんだかちょっとだけ恥ずかしい。
「さくし、ひさしぶりだね」
「そうか?」
「いちねんくらいぶり」
「えーと……」
wavファイルの更新日時を確認する。
「今年に入って既に三曲作詞してるな」
「え!」
「基本、××が寝たあとに作業してるからなあ」
深夜のほうが集中できるし。
「そうなんだ……」
「そうなのだ」
「カラオケなるの?」
「知らんけど」
なんでもかんでもカラオケに入るわけではない。
「かし、みていい?」
「駄目」
「えー……」
「歌詞単独で読まれると恥ずかしいので、曲として仕上がってからでいいですか?」
「はーい」
うにゅほプレイスに戻っていくうにゅほを横目に、作業を再開するのだった。

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2017
03.23

うにゅほとの生活1939

2017年3月23日(木)

「はー……」
ペダルを踏む足を止め、前髪を掻き上げる。
生え際が汗に濡れていた。
「はい、タオル」
「さんきゅー」
「なんきろくらいこいだの?」
「今日は、33kmかな」
「さんじゅうさんきろだと、どこまでいける?」
「いつもの映画館くらい」
「おー」
「四月に入って空いてきたら、ドラえもん観に行こうな」
「うん!」
「じゃあ、シャツ取り替えてくる」
「はーい」
エアロバイクを降り、隣室で着替えを済ませて戻ってくると、
「──…………」
すんすん。
「……××さん?」
「!」
うにゅほが、サドルと尻のあいだに噛ませていた座布団のにおいを嗅いでいた。
「それは勘弁していただけませんか……」
さすがに恥ずかしい。
「ちがくて!」
うにゅほがあわあわと首を振る。
「くさかったら、ふぁぶりーずしようとおもったの……」
「あー」
なるほど。
「ちょっと引くところだった」
「ひかないでー……」
「それで、臭かった?」
「あせくさかった」
「じゃあ、ファブリーズしとくか」
「うん」
座布団の両面にファブリーズを噴霧して、陽光の射し込む場所に立て掛けた。
どうかにおいが取れますように。

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2017
03.22

うにゅほとの生活1938

2017年3月22日(水)

「さむ」
ファンヒーターの運転ボタンを爪先で押すと、給油表示が点灯した。
「灯油切れてたか……」
そう呟いた瞬間、
「!」
漫画を読みふけっていたうにゅほが、勢いよく顔を上げた。
「とうゆ、いれるの?」
「寒いからな」
「うへー……」
うにゅほは、俺の手についた灯油の匂いが大好きなのだ。
「じゃ、ちょっと行ってくるな」
「はーい」
ファンヒーターからタンクを取り出し、自室を後にする。
玄関先に並べて置いてあるポリタンクから給油を行っていると、階段を下りる足音が聞こえてきた。
「……××さん」
「はい」
「我慢できなかったの?」
「はい……」
どんだけ好きなんだ。
「これでさいごかなっておもって……」
「あー」
春はもう程近い。
灯油を入れる機会は、次の冬までないだろう。
タンクの蓋を閉じ、うにゅほの鼻先に右手を差し出す。
「はい」
「♪」
ふんすふんす、
ふー。
ふんすふんす、
はー。
「満足した?」
「もすこし」
「続きは、部屋に戻ってからにしようか」
「うん」
この冬最後の灯油の香りを余すところなく満喫するうにゅほなのだった。

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2017
03.21

うにゅほとの生活1937

2017年3月21日(火)

「──…………」
ぐてー。
チェアの背もたれを170度リクライニングし、だらしなく側臥する。
「……◯◯、だいじょぶ?」
「だいじょばない……」
「かぜ?」
「すこし風邪っぽいかな」
「そか……」
頭痛もするし、喉もいがらっぽい。
だが、問題はそこにない。
「そんなことより、全身の筋肉がめっちゃ痛い……」
「きんにくつう?」
「わからんけど、ビッキビキ」
「つん」
「うッ」
うにゅほが俺のふとももをつつく。
「いたい?」
「くすぐったい」
「きのう、えあろばいく、なんきろのったの?」
「30kmくらい」
「のりすぎとおもう」
「そうかなあ……」
「そだよ」
感覚が麻痺してきている。
「きょうは、えあろばいくきんしね」
「えー……」
「だめ」
「昨日の焼肉ぶんを落とさないと」
「だめ」
「どうしても?」
「だめです」
「××が寝たあとも?」
「──…………」
「あ、はい」
無言の圧力に屈してしまった。
「むりしたらだめ」
「はい」
「やすむとき、やすむ」
「はい……」
「あしたがんばろ」
うにゅほが俺の頭を撫でる。
「──…………」
なんだか子供の頃に戻った気分だった。

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