2016
11.30

うにゅほとの生活1826

2016年11月30日(水)

今日は、愛犬の命日だった。
「──よっ、と」
手のひらで雪を掘り返すと、質素な墓石が顔を出す。
「◯◯、てーつめたくない?」
「すこし」
うにゅほが俺の手を取る。
「つめたい」
「大したことないよ」
こうして暖めてくれる人がいるのだから。
ポケットからビーフジャーキーの袋を取り出し、ひとかけら供える。
「いぬようのじゃなくて、だいじょぶかな」
「喜んでバクバク食べると思うぞ」
「えんぶんとか……」
「それ、毎年言ってるな」
「そだっけ」
「死んだあとくらい、健康に気を遣わずに好きなもの食べたいよなー」
墓石を撫でながら、そう告げる。
「でも、コロ、のどかわくかも」
「雪があるから大丈夫だろ」
「あ、そか」
「……はは」
ビーフジャーキーの塩辛さに負けて、雪をはぐはぐ食べる愛犬の姿を想像してしまった。
可愛らしい。
だが、ひどくおぼろげだ。
当然だろう。
四年だ。
あれから四年が経った。
思い出す回数も減った。
命日すら、うにゅほに言われて気がついたくらいだ。
「──…………」
人は、悲しみ続けられるようにはできていない。
それが、悲しい。
それが、切ない。
だから──
「……大切なものは、逃がさないようにしないとな」
今度は、俺が、うにゅほの手を取る。
「?」
うにゅほが小首をかしげる。
「わたし、にげないよ?」
「知ってる」
「どこにもいかないよ」
「知ってる」
この手を離すまい。
俺は、そう思った。

スポンサーサイト
Comment:0  Trackback:0
2016
11.29

うにゅほとの生活1825

2016年11月29日(火)

「──…………」
尿意を感じ、もそもそとベッドから這い出る。
「あ、おきた」
「おはよう……」
「おはようございます」
トイレにて小用を済ませ、再び暖かな布団のなかへ戻っていく。
「ねるの?」
「おやすみ……」
「おやすみなさい」
日照時間が短いせいか、眠くて仕方がなかった。
「……あー」
しばしして再び起床し、半纏を羽織る。
「こんどこそ、おきた?」
「今度こそ起きた」
「おはようございます」
「おはようございます」
「ぐあいわるい?」
「ただただ眠い……」
「◯◯、ふゆ、いつもねむいもんね」
「冬眠かな」
「とうみんかなあ」
「春まで寝たい」
「ずっと?」
「うん」
「たまにおきてほしいな……」
「──…………」
半纏で包み込むようにして、うにゅほを抱き締める。
「わ」
「一緒に冬眠しようぜー」
「する!」
「洞窟がいいかな」
「さむそう」
「ストーブ持っていこう」
「まんが、もってっていい?」
「本棚ごと運び込むぞ」
「うへー……」
「もちろんPCとネット環境も完備で──」
理想を語るごとに、徐々に自分の部屋へと近づいていく。
「……つまり、俺たちは、既に冬眠していたのか」
「あんましそとでないもんね」
「寒いからなあ」
「うん」
できることなら部屋から出ずに冬をやり過ごしたい俺だった。
でも、うにゅほは、雪かきとかしたがるんだろうなあ。

Comment:0  Trackback:0
2016
11.28

うにゅほとの生活1824

2016年11月28日(月)

「◯◯、むししよみたい」
「ほいよ」
チェアから立ち上がり、本棚の高い段にある蟲師全巻に手を伸ばす。
「いつもすみませんねえ……」
「いえいえ」
無理にひとりで取ろうとして怪我でもされては事である。
十巻ぶんの単行本を両手で受け取ったうにゅほが、ぽつりと呟いた。
「わたし、せーおっきかったらよかったのになあ」
「どのくらい?」
「◯◯くらい」
「でか」
俺の身長は175cmである。
女性だとしたら、かなりの長身だ。
「俺は、いまの××くらいがいいと思うけどな」
「そかなあ」
「ちょいと膝にお乗りなさいな」
「はい」
チェアに腰を下ろし、うにゅほを膝の上に招く。
うにゅほの肩に顎を乗せると、頬と頬とがくっついた。
「いまの身長差だと、頭の位置がだいたい同じになりますね」
「うん」
「同じ身長だと、どうなる?」
「うーと、◯◯、まえみえなくなる……?」
「たぶんな」
「うん……」
「おまけに、体重も増えるはずだから、長時間乗せていられなくなる」
「やだな……」
「だろ」
そもそも、スタート地点からして間違っているのだ。
好きな子に頼られて嫌な気がする男など、そうはおるまい。
「あ、そだ!」
なにを思いついたのか、うにゅほが瞳を輝かせる。
「わたしがせーおっきくなって、◯◯がちいさくなればいいんだ!」
「ええ……」
ろくなことを考えつかない。
「そしたら、わたしが、◯◯ひざにのせる」
「──…………」
「ね」
ちょっとだけ試してみたいと思ってしまったのだった。

Comment:0  Trackback:0
2016
11.27

うにゅほとの生活1823

2016年11月27日(日)

「うー……」
デスクに突っ伏しながら、うめき声を漏らす。
暇だった。
実に暇だった。
「××」
「はい」
「××ー」
「はーい」
「××さん」
「はい」
「かまって」
「ひまなの?」
「暇なの」
あればあったで憂鬱なくせに、なければないで暇なのだから、仕事というのは始末に負えない。
「ひまかー」
「暇」
「なにする?」
「××、したいことない?」
「ある」
「それをしよう」
「いいの?」
「いいよ」
この停滞を打開できるのであれば、なんだっていい。
「うへー……」
うにゅほがこちらへにじり寄る。
「ね、あぐらかいて」
「はいはい」
言われるがまま、チェアの上であぐらをかく。
すると、
「ぐるぐるー!」
うにゅほが背もたれの後ろに回り込み、チェアを回転させ始めた。
「おー」
「──えい!」
そして、タイミングよく俺の上に飛び乗る。
「あぶ!」
チェアの上でバランスを保ちながら、うにゅほの矮躯を抱きしめた。
「随分とダイナミックなことをしたかったんだなあ……」
「うへへ……」
わずか数秒のコーヒーカップ。
減衰していく速度を保つため、右足を下ろして床を蹴る。
「まだまだ行くぞー!」
「わ!」
一分ほど回転を続けたところで気持ち悪くなったのはご愛嬌である。

Comment:0  Trackback:0
2016
11.26

うにゅほとの生活1822

2016年11月26日(土)

「──…………」
少々の肌寒さを覚え、半纏を羽織る。
「××、いま何度?」
「うーと、にじゅうにーてん、ぜろど」
壁掛け時計を見上げ、時刻を確認する。
「十時半、か」
「じゅうじはんだ」
チェアから腰を上げ、うにゅほに握手を求める。
「××助手、実験は成功だ」
「?」
握手に応じたうにゅほが、小首をかしげた。
「ストーブを切ってから二時間以上ものあいだ、この部屋は暖気を保ったのだ!」
「あ、そか」
「忘れてたろ」
「わすれてません、さー!」
「博士と呼びたまえ」
「はかせ!」
ファンヒーターの熱風を扇風機によって拡散し、部屋全体を暖める。
室温を快適な範囲に保つための工夫が、見事に功を奏したのだった。
「扇風機、片付け忘れててよかったな」
「はい!」
「××助手、ストーブをつけたまえ」
「はい、はかせ!」
ぴ。
「××助手、扇風機もつけたまえ」
「はい、はかせ!」
かち。
「××助手、肩が凝ったので揉んでくれたまえ」
「はい、はかせ!」
もみもみ。
「××助手、膝枕」
「はい、はかせ!」
ごろん。
「──…………」
楽しい。
博士と助手ごっこに飽きたころ、再び部屋が暖まった。
今年の冬は例年より快適に過ごせそうである。

Comment:0  Trackback:0
2016
11.25

うにゅほとの生活1821

2016年11月25日(金)

「──あっつ!」
「あついねえ……」
「ストーブ消そう」
「うん」
今日も今日とて無限ループである。
「──…………」
腕を組み、顎を撫で、しばし思案に暮れる。
「……××」
「はい」
「ストーブを消すとすぐさま寒くなるのは、どうしてだと思う?」
「さむいから……」
「まあ、そうなんだけど」
「?」
「要は、部屋の一部──俺たちの周囲の空気しか暖まってないからじゃないかな」
「あー」
うにゅほが、うんうんと頷く。
「つまり、部屋全体が暖かければ、ストーブを消してもしばらく保つ……」
「なるほど」
「そのために必要なものが、実はここにある」
「なに?」
チェアを反転させ、冷蔵庫の隣を指差す。
「あ、せんぷうき!」
「そう」
夏場に仕舞い忘れていた扇風機である。
「これを利用して、暖かい空気を部屋全体に循環させる」
「◯◯、あたまいい」
うにゅほが俺の頭を撫でる。
「ふふふ」
「うへー」
「というわけで、さっそく試してみよう」
「うん!」
ストーブの送風口へ向けて扇風機を設置し、スイッチを入れる。
「あ、くびふりにしたほういい?」
「ナイスアイディア」
より熱気が拡散するはずだ。
準備は整った。
思いついたのがついさっきなので、結果は明日報告いたします。

Comment:0  Trackback:0
2016
11.24

うにゅほとの生活1820

2016年11月24日(木)

「今日も寒いなあ」
「さむいねえ……」
「ストーブつけるか」
「うん」
一時間後、
「……暑いなあ」
「あつい……」
「ストーブ消すか」
「うん……」
一時間後、
「寒い」
「さむい……」
無限ループである。
「××、最後の手段だ」
半纏を着込み、ぽんぽんと膝を叩く。
「ににんばおりしたい」
「いいぞ」
うにゅほが、俺の膝に、対面で座る。
「──…………」
「うへー」
「こっち向いて座ったら、二人羽織できないと思うけど」
「できるよ」
「……まあ、やるだけやってみるか」
「うん」
うにゅほが俺に抱きつき、半纏の袖に腕を通す。
「できた」
「できたけど……」
マウスを手に取ろうと、右腕を上げる。
「ぐ」
左腕を後ろに回されたうにゅほが、苦しげな声を上げた。
「この体勢、致命的な欠陥があるのでは……」
「あったかい」
「あったかいけども」
いろいろと試行錯誤した結果、左を向けばいいことに気がついた。
「……これはこれで、いいな」
「うん」
いつもの二人羽織より、密着感がある。
「動画でも見るか」
「みるー」
ふたりはなかよし。

Comment:0  Trackback:0
2016
11.23

うにゅほとの生活1819

2016年11月23日(水)

「──…………」
枕元の眼鏡を半分寝ながら探り当て、もそもそと起床する。
ベッドから下り、数歩。
たった数歩で踵を返し、布団のなかへと逃げ帰った。
「さッぶ!」
死ぬほど寒い。
手の届くところにあったiPhoneで、札幌市近郊の気温を確認する。
「-6℃……」
寒いはずだ。
しばらく布団から出られずにいると、階下からうにゅほが戻ってきた。
「あ、◯◯おきた」
「おはよう……」
「おはよ」
「××、ストーブつけてくれ……」
「はーい」
ぴ。
ファンヒーターが暖機運転を開始する。
「今日めっちゃ寒くない?」
「さむい」
「××は平気そうだけど」
「タイツはいてる」
ぺろん。
「見せなくても──いえ、なんでもないです」
「?」
小首をかしげる。
「あとね、いま、そうじしてたから」
「そっか」
体を動かしていたなら、納得である。
「俺ちょっと寒くてここから動けない……」
「いま、まだくじだよ」
「うん」
「ねててもいいよ」
「……うん」
祝日だし、起きてもすることないしな。
「じゃあ、もうすこし横になってる」
「そか」
「おやすみ……」
「おやすみ」
布団にもぐり、目を閉じる。
睡魔はすぐに訪れた。
あまりの暑さに飛び起きるのは、それから一時間後のことであった。

Comment:0  Trackback:0
2016
11.22

うにゅほとの生活1818

2016年11月22日(火)

「んー……」
キーボードに指を掛けながら、唸る。
「どしたの?」
デスクの下で読書をしていたうにゅほが、足のあいだから顔を出した。
「いや、日記に書くことないなって」
「そかな」
「そうなの」
「びょういんいった……」
「月に一度の定期受診だから、取り立てて何もなかったし」
薬を出してもらっただけである。
「かえりに、ぎゅうにゅうかったよ」
「買ったな」
「うん」
買っただけである。
「◯◯、しごと、がんばってた」
「頑張りました」
「えらい」
うにゅほが膝を撫でてくれた。
くすぐったい。
「あ、あした、きんろうかんしゃのひだよ」
「勤労感謝の日なのか」
祝日なのは知っていたが、何の日かまでは意識していなかった。
「いつも、おしごと、ありがとうございます」
ぺこり。
「いえいえ、こちらこそありがとうございます」
ぺこり。
「わたし、しごとしてない……」
「家事してるだろ」
「おかね、かせいでない」
「……それ、苦労してる専業主婦のひとに言ったら、怒られそうだな」
「?」
「家事も立派な仕事です」
「そかな」
「そうです」
「そか……」
うにゅほが、照れ笑いを浮かべる。
「××さん、いつもありがとうございます」
ぺこり。
「いえいえ、◯◯さんこそ、ありがとうございます」
ぺこり。
「──って、勤労感謝の日は今日じゃないよ」
「あ」
フライング気味に感謝をし合うふたりなのだった。

Comment:0  Trackback:0
2016
11.21

うにゅほとの生活1817

2016年11月21日(月)

「◯◯、◯◯!」
「んー」
自室で適当に仕事をこなしていると、階下からうにゅほが戻ってきた。
「おかあさんに、おさがりもらった」
「ん?」
「みてー」
ば!
うにゅほが自分のスカートを躊躇なくまくり上げた。
「ちょ!」
一瞬どきりとしたが、本当に一瞬だけだった。
何故なら、
「……それ、タイツ?」
「うん」
視界に入ってきたものが、デニール数を求めるのも馬鹿らしいくらいモコモコの黒タイツだったからだ。
当然、透けていたりはしない。
「随分あったかそうだなあ」
「あったかい」
うへーと笑う。
「おかあさんがね、くつしたいやなら、これはきなさいって」
「あー……」
これならたしかに靴下を履く必要はないわな。
いつの時代の代物なのやら。
「──…………」
ふと、思いついたことがあった。
「××」
「?」
「スカートめくりしていい?」
「めくるの?」
ぺろん。
「いや、俺がめくる」
「いいよ」
やったぜ。
「では、さっそく──」
遠慮がちに、ちらりとめくってみる。
「──…………」
「──……」
無言で見つめ合う。
「もうすこし、こう、反応が……」
「……?」
うにゅほが小首をかしげる。
「いえ、いいです。ありがとうございます」
「いいの?」
「うん」
理解する。
スカートめくりとは、中身それ自体ではなく、相手の恥ずかしがる顔を楽しむものなのだ。
なるほど、深い。

Comment:0  Trackback:0
back-to-top