2016
07.31

うにゅほとの生活1704

2016年7月31日(日)

「──…………」
「♪」
家の前の公園で、今年も夏祭りが執り行われていた。
熱気。
喧騒。
祭囃子。
そういったものが自室にいても感じられるのは、公園の傍にある我が家の特権だ。
「ラムネおいしい」
「ひとくち」
「はい」
扇風機の前でふたり寄り添いながら、舌で祭りを楽しむ。
「焼き鳥少なかったかな」
「やきとりのぶた、もすこしたべたい」
「あとでまた買いに行くか」
「うん」
「……涼しくなったらな」
「うん……」
暑い。
あまりに暑い。
雨の予報は外れたものの、湿度の上昇までは避けられなかったようだ。
「××、ほら」
「?」
「あまりの湿気に書類がたわんでいる……」
「ほんとだ……」
「でも、まあ──」
焼きそばを割り箸でほぐしながら、言う。
「暑いほうが、祭りっぽいけどな」
「そだね」
「ラムネ、もう二、三本欲しいなあ」
「のみすぎ」
うにゅほがくつくつと笑う。
「いやだってこれ、200mlくらいしか入ってないんじゃないか?」
「そうかも……」
「ペットボトルで持って来い、ペットボトルで」
「ぺっとぼとるだと、おいしくないよ」
「まあなー」
ぬるいラムネも、生焼けの焼き鳥も、祭りだから美味しいのである。

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2016
07.30

うにゅほとの生活1703

2016年7月30日(土)

「あぢー……」
甚平の共襟をパタパタと動かしながら、あまりの湿度に喘ぐ。
「はちーねえ……」
「服の下とか、汗でべたべただよ……」
「わたしも……」
「……動きたくねえー」
「うん……」
無数のダンボール箱をひとつひとつ開封して本を整理しなければならないのだが、とてもじゃないけどやる気が起きない。
「××、扇風機つけよう。幸せになろう」
「なる……」
ダンボール箱でできた山の向こうから扇風機を掘り出し、コンセントを繋ぐ。
「──…………」
「はー……」
「涼しい……」
「すずしいねえ……」
「さっきとは別の意味で動きたくない……」
「うごきたくないねえ……」
柔らかな風が頬を撫で、気化熱が体温を奪っていく。
「……寒くなってきた」
「そう?」
湿度が異様に高いだけであって、気温自体はさほどでもない。
当然の帰結と言えた。
「弱にしよう」
「うん」
弱にした。
「暑い……」
「あついねえ……」
「中にしよう」
「うん」
中にした。
「寒い……」
「あいだ、ないよ?」
「うーん……」
しばし思案し、
「××、強にして」
「うん」
強にした。
「ちょっとさむいかも……」
「そこでだ」
「わ」
うにゅほを抱き上げ、膝に乗せる。
「これで、ちょうどいいはず」
「なるほど」
うんうんと頷く。
「──…………」
「──……」
「まえがさむくて、せなかあつい」
「……そりゃそうか」
脳が働いていないらしい。
数時間ばかり扇風機の前でうだうだしていると、いつしか日が暮れていた。
有意義な一日ですね。

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2016
07.29

うにゅほとの生活1702

2016年7月29日(金)

「──…………」
ぼす。
仮置きしたマットレスに思いきり倒れ込む。
「うあー……」
ぽす。
「ぐえ」
マットレスに倒れ込んだ俺の上に、うにゅほが優しく倒れ込んだ。
「づーかーれーたー……」
「つかれたねえ……」
我が家のリフォームがようやく完了し、アパートから復路の引っ越しと相成った。
そして、ガレージに取り置いてあったダンボール箱すべてを運び入れたところで燃え尽きたのだった。
「ほん、かたづけないとねえ……」
「……今日?」
「うと、きょうは──」
「──…………」
「──……」
「きょうは、もう、おわり?」
「うん、明日やろう。明日からやろう。ゆっくりやろう」
「そだね」
うにゅほが苦笑するのが気配でわかった。
「ほんだな、すごいねえ……」
「すごいだろ」
「としょかんみたい」
「図書館に住むのが夢だったんだよ」
壁一面と言わず、壁二面が、上から下までまるっと本棚である。
2,500冊程度の蔵書など、造作なく収まるだろう。
まあ、収まるほうに造作はなくとも、収めるほうにはふんだんにあるのだが。
「……××、ちょっとだけ寝ていい?」
「あ、どけるね」
「いや、布団代わりに乗ってて」
「いいの?」
「××も、一緒に休もう。朝早かったし」
「うん」
「じゃ、おやすみ」
「おやすみー」
親亀子亀で昼寝をしたら、妙な悪夢を見てしまった。
いくらうにゅほが軽いとは言っても、人一人を背負ったまま眠るのは無理があったらしい。

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2016
07.28

うにゅほとの生活1701

2016年7月28日(木)

「はい」
「ほい」
Tシャツを受け取り、ダンボール箱に入れる。
「はい」
「ほい」
ワンピースを受け取り、ダンボール箱に入れる。
「はい」
「ほい」
靴下の束を受け取り、ダンボール箱に入れる。
「はい」
「──…………」
うにゅほのパンツを受け取る。
「……いや、まあ、いいんだけどさ」
「?」
同じ箪笥にごちゃ混ぜで衣類を仕舞っている時点でお察しである。
箪笥の中身を詰め終わったあと、うにゅほがそっと口を開いた。
「ぞうさんのたんす、さよならだねえ……」
プリントされた象の絵柄を愛おしげに撫でる。
引っ越しにあたり、箪笥を買い替えることにしたのだった。
「いい加減、カビ臭くなってたからな」
「うん……」
「まあ、いままで頑張ったよ」
うにゅほに倣い、箪笥の天板を撫でる。
「……そうか。このぞうさんも、見納めか」
子供の頃から見慣れた絵柄。
箪笥自体には、良い思い出も、悪い思い出もない。
だが、記憶の各所をたしかに彩っている。
「◯◯」
「んー」
「ぞうさんのしゃしん、とる?」
「……なるほど」
箪笥そのものはなくなってしまっても、ぞうさんの絵柄だけはデータに残る。
「ナイスアイディア」
「うへー……」
便利な世の中になったものだ。
写真とは、記憶のしおりである。
差し挟むことで、思い出すことができる。
「××の写真も撮っていい?」
「だめー」
なんか嫌がられるのだった。

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2016
07.27

うにゅほとの生活1700

2016年7月27日(水)

「××、ほら」
「?」
うにゅほにiPhoneの画面を見せる。
「ポケモンGO」
「ぽけもんごー」
「知らない?」
「なまえはしってる」
「××、ポケモン興味ないもんなあ」
「ぴかちゅうはしってる……」
「まあ、俺も大して興味ないんだけどさ」
「そなんだ」
「なんか、外を歩くとポケモンが見つかるらしい」
「そと……」
ふたりで窓の外を見やる。
「……あめふってる」
「降ってるな」
「いく?」
「行かない」
「うん」
「あと、ポケストップってところに行くと、アイテムを入手できる」
「ぽけすとっぷ」
「公園とかが多いな」
「いえのまえのこうえん、ぽけすとっぷ?」
「その通り」
「へえー」
「だから、家から出なくても、いくらでもアイテムが手に入るのだ!」
「すごいの?」
「わからない」
「わからないの」
「だって、あんまりやる気ないし」
「ないの」
「××、やってみたい?」
「んー……」
しばし小首をかしげたあと、
「◯◯がやるきないなら、わたしもやるきない」
「まあ、大して知らんモンスター集めるために長距離歩くのもな」
「うん」
そんなわけで、俺たちのポケモンGOは、密やかに幕を下ろしたのだった。
そもそも幕が上がらなかったとも言う。

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2016
07.26

うにゅほとの生活1699

2016年7月26日(火)

「──終わっ、たー……!」
ぐてー。
仕事用のテーブルに突っ伏し、目をつぶる。
「おつかれさま」
「はちー……」
「せんぷうき、つけるね」
かち。
小気味良い音と共に、柔らかな風が髪をそよがせていく。
「涼しいー……」
「きょう、あついもんねえ」
甚平の共襟をパタパタさせながら、うにゅほがひとつ溜め息をついた。
「扇風機、使っててもよかったのに」
「しょるいとぶからって」
「俺のほうに向けなければいいわけだし」
「えー……」
うにゅほが口を尖らせる。
「わたしだけすずしいの、いや」
「嫌ですか」
「や」
「普通は逆だと思うんだけど」
うにゅほらしいと言えば、うにゅほらしい。
「◯◯、しごとしてるのに、あついのに、わたしほんよんでるのに、わたしだけすずしい……」
「うん、言いたいことはわかる」
「そか」
「でも、そういう××だからこそ、涼んでてほしいって気持ちもある」
「──…………」
あ、なんとも言えない顔してる。
「なんつーか、こう、××は、守りたい度が高い」
「まもりたいど」
「守りたい度が高い子は、守りたくなる」
「◯◯も、まもりたいど、たかいよ」
「……高いのか」
「たかい」
微妙に複雑である。
「……まあ、うん、守り守られで行きましょう」
「そうしましょう」
扇風機の前にふたり並んで涼む俺たちなのだった。

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2016
07.25

うにゅほとの生活1698

2016年7月25日(月)

カレンダーを見ながら、ぼんやりと呟く。
「そろそろ荷造りしないとなあ……」
「ひっこし、にじゅうくにち?」
「そう」
「あとよっか……」
「荷造りしないとなあ」
「しないとねえ」
「引っ越しは29日だけど、荷造りは28日までに終わらせないと駄目だぞ」
「あとみっか?」
「あと三日」
「──…………」
「──……」
「にづくりしないと」
「しないとなあ」
「うん」
口ではそう言いながら、動く気はさらさらない。
「──…………」
「──……」
「にづくり、しないの?」
「しないとなあ……」
「うん……」
「しないけど」
「しないの」
腰を浮かしかけていたうにゅほが、再び俺の膝の上に座り込んだ。
「考えてもみなさい」
「かんがえてもみる……」
「いまから全部ダンボール箱に詰めたら、引っ越しするまで何もできないぞ」
「うん……」
「仕事もあるし、着替えもあるし、読むものだってなくなるし」
「それいがいは?」
「それ以外って、そもそも持ってきてないだろ」
「──…………」
しばし思案し、
「あ、そか」
「最低限の荷物しか持ってきてないんだから、荷造りだって最低限」
「うん」
「むしろ、家に戻ってからが本番だぞ」
「ほん、あるからね」
「2,500冊な」
「ほん、あるね……」
「本棚増やしたから、まだまだ入るぞー」
「うへー……」
うにゅほが苦笑する。
結局のところ、俺は、本に囲まれていないと落ち着かないのである。

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2016
07.24

うにゅほとの生活1697

2016年7月24日(日)

「──すん!」
「どした」
「ぶー……」
うにゅほが上体を軽く反らし、
「ぷし!」
と、ちいさくくしゃみをした。
「ティッシュいる?」
「いるー……」
「はい」
ずびー。
「さっきの、くしゃみする前のやつって、不発?」
「……?」
「すん、ってやつ」
「あれは、しっぱい」
「くしゃみって、失敗するのか」
「しない?」
「我慢を失敗することはあるけど……」
「……あれー?」
うにゅほが小首をかしげる。
「不発だったから、くしゃみし直すことならある」
「たぶん、それ」
「ムズムズするよな」
「うん、はなむずむずする」
ずびー。
「……ぶー」
「風邪でも引いたかな」
「わかんないけど、ちがうとおもう」
「わからなくても、気をつけておかないと」
「うん……」
「窓は閉めて、扇風機も止めておこう」
「あついとおもう」
「あと、膝の上においでなさい」
「はい」
「暑いと思うけど」
「しかたない、しかたない」
「都合いいなあ」
「つごういいの」
風邪を引くより、ずっといい。

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2016
07.23

うにゅほとの生活1696

2016年7月23日(土)

「──…………」
すんすん。
膝の上でくつろいでいるうにゅほの髪の毛を鼻先で掻き分ける。
「塩素の匂いがする」
「えんそ?」
「プール行ったからなあ」
「プールのにおい」
「そう」
「くさい?」
「臭くはないよ。夏の匂いだ」
「なつのにおい……」
まあ、市民プールは年中開いているのだけど。
「かとりせんこうのやつも、なつのにおい?」
「そうだな」
「はなびのにおいとか」
「ラムネの匂いとか」
「ラムネ、のみたいねえ」
「祭りで買おうな」
「おまつりのにおいも、なつのにおい」
「祭りの匂いか」
「なつのにおいじゃない?」
「夏の匂いだよ。ただ、いろいろ混じってるからな」
火薬の匂い。
焼き鳥の匂い。
人混みの匂い──
「たいこのおと」
「それは、音だろ」
「おとだけど、においするきーする」
「あー……」
共感覚というほどではないにしろ、言いたいことはわからないでもない。
音も、匂いも、明かりも、味も、すべてが混じり合って、祭りの空気を形作っている。
ガサガサのスピーカーから流れる盆踊りの歌。
腹を揺さぶる太鼓の響き。
赤橙の提灯に彩られた世界。
「……祭り、行きたくなってきた」
「うん」
「もうじきリフォームも終わるし、夏祭りに間に合いそうだな」
「うん!」
家の前の公園では、今年も夏祭りが執り行われるだろう。
今から楽しみである。

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2016
07.22

うにゅほとの生活1695

2016年7月21日(木)
2016年7月22日(金)

「──……んが」
頬の熱さに目を覚ます。
液晶タブレットの画面に突っ伏しながら眠っていたらしい。
「……?」
こめかみの微かな痛みを気にしながら、状況の把握に努める。
まず、ここは自室である。
明かりは既に落とされており、すぐそばの布団では、うにゅほが寝息を立てている。
時刻は、
「──一時半?」
普段であれば、まだ眠るような時間ではない。
ぱさ。
肩に掛けられていた半纏が、座椅子の上に落ちた。
「……んぃ……」
うにゅほの目蓋がゆっくりと開いていく。
「◯◯、おきた……?」
「ごめん、起こした」
「──…………」
もそもそとこちらへ這い寄ってきたうにゅほが、
「えい」
ぺし!
「いて」
俺の脳天にチョップをかました。
「おさけ、のみすぎ」
「酒──」
思い出した。
濃い目のコーラハイで晩酌をしていたところ、そのまま寝落ちしてしまったのだ。
「やばい、日記書いてない!」
「えい」
ぺし!
「いて」
再びチョップ。
「にっきじゃなくて、ちゃんとねないとだめ」
「でも」
「さいきん、あんましねてなかったでしょ」
「忙しくて……」
「そんななのにおさけのむから、へんなねかたするの」
「はい……」
「ほら」
うにゅほが俺の手を引く。
「ふとんはいって」
「はい」
「あさまでおきたらだめだよ」
「はい」
「てーつないでねるからね」
「はい……」
「おやすみなさい」
「おやすみなさい」
目が覚めたのは、午前十時を過ぎたころだった。
久方ぶりにたっぷりと睡眠をとったためか、油を差したかのように調子がよかった。
人間、やはり寝ないと駄目なようだ。

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