2016
05.31

うにゅほとの生活1644

2016年5月31日(火)

「──…………」
うと、うと。
「◯◯?」
「……は!」
「ねてた」
「寝てない、寝てない……」
「ほんと?」
「……いや、ちょっと寝てた」
うたた寝を指摘されると反射的に否定してしまうのは何故なのだろう。
「えいが、おもしくないの?」
「どうだろう……」
Media Playerのシークバーを操作し、数分ほど巻き戻す。
「字幕だからなあ」
「ふきかえなかったやつだっけ」
「そう」
「こわいやつ」
「怖くはないと思うんだけど」
「そなの?」
「たぶん……」
「ひと、しなない?」
「人は死んでる」
「こわいやつ」
「殺人シーンがあっても、怖くないやつは怖くないと思うけどなあ」
「うーん」
「コナンとか」
「コナン、アニメだもん」
「まあ、あんな気軽に殺人事件が多発しまくる世界観はむしろ怖いと思うが……」
あふ、とあくびをひとつ。
「……疲れ、取れてないな」
「ひるねしたほう、いいとおもう」
「でもこれ明日返却なんだよ」
「でぃーぶいでぃーって、ひゃくえん?」
「そう」
「またかりたらいいとおもう」
「……たしかに」
無理をしてまで観るものではないよな。
Media Playerを閉じ、いそいそと寝床へ這い戻る。
「三十分くらい寝る……」
「ひざまくらしたい」
「お願いします」
「はい」
いくら寝ても疲れが抜け切らず、幾度も居眠りをした一日だった。

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2016
05.30

うにゅほとの生活1643

2016年5月30日(月)

「──…………」
「──……」
ぱたぱたり。
敷いたばかりの布団に、ふたり並んで倒れ込む。
「引っ越しなんて二度としない……」
「でも、りふぉーむおわったら」
「……三度はしない」
「うん……」
俺とうにゅほに与えられたのは、クローゼット付きの六畳間である。
パソコンデスク代わりの座卓を置いて、ふたりぶんの布団を敷いたら、それでもういっぱいになってしまう。
「それにしても──」
同じく布団に横になっているうにゅほと視線を交わす。
「……いや、なんでもない」
「?」
同衾ではないにしろ、完全に夫婦の距離だよなあ。
「布団、すこし離したほうがいいかな」
「なんで?」
「……なんとなく?」
「せまいとおもう」
「──…………」
しばし黙考するが、すぐにどうでもよくなった。
「ま、いいや……」
「うん」
本人が気にしていないものを過度に配慮しても仕方がない。
「前の部屋みたいに死角がないから、着替えるときは気をつけないとな」
「そだねえ」
「えーと、あとは……」
「うん」
「──…………」
「あとは?」
「……ちょっと寝てから考える」
「おやすみなさい」
「おやすみ……」
一時間ほど仮眠をとったあと、仕事をこなして今に至る。
疲れた。
今日はもう、さっさと寝よう。

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2016
05.29

うにゅほとの生活1642

2016年5月29日(日)

「──…………」
「はー……」
三十三個のダンボール箱で築かれた小山に寄り掛かりながら、疲弊のこもった吐息を漏らす。
総数2,500冊。
五時間かけて、詰め切った。
「……あとは、業者のひとに頼めば、ガレージに持ってってくれるから……」
「うん……」
「──…………」
「──……」
言葉もない。
「……なんか、ホコリっぽくなったな」
「うん……」
「今日、シャワー?」
「……さいごだから、おふろ、いれるって」
「そっか」
「うん……」
「引っ越し、明日だもんな」
「うん」
「××、下見に行ったんだっけ」
「いった」
「どうだった?」
「いいへやだった」
「そっか、なら安心だな」
「うん」
「──……?」
手の甲で目元をこする。
違和感。
空気中を舞うホコリの粒子が目に入ったらしい。
「××、目薬ってどこやったっけ」
「めぐすり?」
「うん」
「うーと、もってくようのダンボールにいれたとおもう」
「持ってく用のダンボールって、どれ?」
「──…………」
「──……」
三十三個のダンボール箱で築かれた小山を見上げる。
「……目薬くらい、買えばいいか」
「そだね……」
あきらめた。
必要最低限のものは取り分けてあるので、もうそれだけでいいです。

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2016
05.28

うにゅほとの生活1641

2016年5月28日(土)

「ありだ!」
ぷち。
うにゅほが人差し指をコルクボードに押しつける。
「ほい、ティッシュ」
「ありがと」
「アリだけに」
「ありだけに」
「結局、どこから入り込んでるのか、わからずじまいだったなあ」
「そだね」
「まあ、二、三日に一匹くらいだから、実害はなかったけどさ」
「ぱそこんなか、はいんなくて、よかったねえ」
「入ってないとは限らないけどな」
「え」
「一匹くらい焼け死んでる可能性もあるから、引っ越したらパソコンのなか掃除してみないと」
「あり、はいって、だいじょぶなの?」
「大丈夫ではないけど……」
「?」
「つまり、場所による」
「ばしょ」
「転んで膝を打っても打ち身で済むけど、頭を打ったら命に関わるだろ」
「あー」
うんうんと頷く。
納得していただけたようだ。
「あ」
ぷち。
「またあり」
「今日は多いなあ」
「しらないだけで、たくさんいるのかも」
「──…………」
「ほんだなどかしたら、びっしり」
「あー、あー、聞きたくない聞きたくない」
「りふぉーむしたら、いなくなるかな」
「そう願いたい……」
引っ越しは明後日だ。
それまでPCが無事であることを祈ろう。

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2016
05.27

うにゅほとの生活1640

2016年5月27日(金)

「……?」
うにゅほが俺の手元を覗き込む。
「◯◯、なにのんでるの?」
「ワイン」
「ふつうのコップ……」
「ワイングラス、片付けちゃったから」
「あー」
うんうんと頷く。
「ワイン、ふつうのコップでのんでいいの?」
「駄目ってことないと思うけど」
「そなんだ」
「セイコーマートの500円ワインだし」
「たかいワイン、だめなの?」
「気分的に、ものすごくもったいないことしてる気はするよな」
「うん」
「高いからって必ずしも美味しいわけではないけどさ」
「そなの?」
「これは、持論になるんだが──」
残り僅かなワインを飲み下し、言葉を続ける。
「値段が高くなればなるほど、満足度の上がり幅が少なくなる」
「?」
うにゅほが小首をかしげる。
「千円のワインしか飲んだことない人が一万円のワインを口にしたら、たぶん美味しいって思うよな」
「たぶん……」
「一万円のワインしか飲んだことない人が十万円のワインを口にしたら、どうだ?」
「おいしいって、おもうとおもう」
「十万円のワインしか飲んだことない人が、百万円のワインを飲んだら?」
「おいしい……」
「このあたりから怪しくなってくると思うんだよな」
「……?」
「美味しいって感覚には限界値があると仮定しようか」
「はい」
「マズいと美味しいの差は明確だけど、〈すごく美味しい〉と〈ものすごく美味しい〉って、もはや好みの問題だと思うんだよ」
「ふんふん」
「だから──」
ふと我に返る。
「……なにを言いたかったんだっけ」
着地点を決めずにだらだらと言いたいことを垂れ流してしまった気がする。
「まあ、あれだ」
「うん」
「俺は、安いワインでいいや」
「そか」
高いワインに手を出して、舌が肥えてしまっては困る。
節制、節制。

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2016
05.26

うにゅほとの生活1639

2016年5月26日(木)

「ぐへー……」
ぼふ。
マットレスに沈みながら、苦悶に喘ぐ。
「◯◯、だいじょぶ?」
「だめ」
「たべすぎ」
「返す言葉もございません……」
今日は母親の誕生日である。
普段の労をねぎらい、夕食に回転寿司を食べに行ったのだった。
「……最後の炙りサーモン四皿はいらなかったな」
「たのみすぎだよ」
「来る順番がメチャクチャなんだもん」
「こんでたもんね」
「でも、大トロは美味かったな……」
「おいしかったねえ」
「とろけたな」
「とろけた……」
「530円もするだけはあるよなあ」
「……そんなにするの?」
「する」
「みんなたべた……」
「食べたな」
「……にせん、ろっぴゃく、ごじゅうえん?」
「──…………」
「──……」
「……そう考えると、すごいな」
「うん……」
「まあ、行ったらまた頼むんだけど」
「うん」
「美味かったもんなあ……」
「とろけた」
「トロだけにな」
「とろって、そのとろなの?」
「たしかそうだよ」
「へえー」
母親への誕生日プレゼントは、ブラウンの電動歯ブラシにした。
家族みんなで虫歯ゼロを目指すのだ。

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2016
05.25

うにゅほとの生活1638

2016年5月25日(水)

「よい……ッ、しょお!」
30kgの米袋を、一息に持ち上げる。
「……重ッ!」
「◯◯、てつだう?」
「大丈夫、大丈夫」
米袋をガレージへと運び入れ、ぐるぐると腕を回す。
腕力が落ちている気がする。
「おこめ、おもかった?」
「それなりかな」
「なんきろ?」
「30kg」
「さんじゅっきろ……」
何事か考え込んでいたうにゅほが、不意に目を伏せて言った。
「……いつも、だっことか、おんぶとか、ごめんね」
「なんで謝る」
「だってわたし、おこめよりおもい……」
「あー」
言いたいことは理解した。
「××さん、重心ってわかる?」
「じゅうしん?」
小首をかしげる。
「ここに、捨てようと思っていた2kgの鉄アレイがあります」
「はい」
うにゅほに鉄アレイを手渡す。
「重い?」
「おもくない」
「じゃあ、鉄アレイを持ったまま右手を前に持ち上げて」
「はい」
「重い?」
「お、も……いぃ……」
鉄アレイを受け取り、元の場所に戻す。
「抱っこするときは密着するし、××も、俺が持ちやすいよう体勢を整えますね」
「はい」
「そうすると、重心が安定します」
「はい」
「だから、××を重いって思ったことはありません」
「そうなんだ……」
「それに──」
「わ」
うにゅほを高い高いしたあと、いつものように抱っこする。
「米袋を抱っこしても、嬉しくないし」
「……うへー」
てれりと笑う。
「よーし、部屋までダッシュ!」
「おー!」
と、勢いよく駆け出したものの、階段はさすがにきつかった。
体力づくり、しよう。

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2016
05.24

うにゅほとの生活1637

2016年5月24日(火)

「──…………」
パソコンデスク代わりに使っていた学習机を撫でながら、独りごちる。
「この机とも、お別れだな」
「うん……」
なでなで。
俺にならい、うにゅほが天板を撫でる。
「頑丈な机だよ、こいつは」
「なんねんくらい、つかってたの?」
「二十年以上」
「わ」
「なにせ、小学校に入学したときに買ってもらったものだからなあ」
「がんばったねえ……」
「ああ、頑張った」
なでなで。
「もう、つかえないの?」
「使えないことはないさ」
「なら」
「でも、あちこちガタが来てるのは確かでさ」
「──…………」
「大きくて重い机だから、家の外に出すだけでも業者の手がいる」
「……うん」
うにゅほの頬に手を添え、もにもにとつまむ。
「××は優しいなあ」
「?」
「可哀想だって思ったんだろ」
「うん……」
「でも、仕方のないことはあるのさ」
「──…………」
「捨てるとき、いままでありがとうって言おうな」
「……うん!」
長い年月を経た道具には、魂が宿ると言う。
せめて、感謝と共に送り出そう。
そのくらいの感傷ならば持ち合わせている。
うにゅほと同じ視点に立つことができる。
それはきっと、幸福なことだろう。

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2016
05.23

うにゅほとの生活1636

2016年5月23日(月)

「──賽の河原って知ってる?」
「さいのかわら?」
「ひとつ積んでは父のため、ふたつ積んでは母のため」
「……?」
「死んだ子供が両親のために石で塔を作るんだけど、そのうち鬼がやってきて、それを壊してしまうんだ」
「あ、きいたことある」
「いま、そんな気分」
「あー……」
運び出しても運び出しても荷物整理が終わらない。
掘り進むごとに新たな地層が現れて、いっそ荷物が増えていっているような錯覚すら覚える。
「でも、おにいないよ」
「うん……」
「ちゃんとおわるよ」
「うん」
「がんばろ?」
「……××は頼りになるなあ」
「うへー……」
「そして、俺は、頼りにならないなあ……」
「そんなことない」
「そうですかね……」
「◯◯と、おとうさんいないと、おもいのだせない」
「……まあ、男手だからな」
「◯◯、つめるのとくい」
「詰め過ぎて重くなっちゃうけどな」
「あと、あと──」
うにゅほの頬に手を添える。
「ありがとう、元気出たよ」
「うん」
「あと一週間、頑張ろうな」
「──…………」
「××、どうした?」
「……わたし、おもいのもてないし、つめるのへただし、◯◯のみみせん、どっかやったし……」
「いやいやいや!」
うにゅほに俺のネガティブが伝染ってしまった。
「……休憩するか」
「うん……」
疲れていると、ろくなことを考えない。
ペース配分を考えて、ゆっくり作業を進めていこう。

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2016
05.22

うにゅほとの生活1635

2016年5月22日(日)

「──う、しょ、うん、しょ」
CDの詰まった小箱を抱えながら、うにゅほが階段を横歩きで下りていく。
「足元、気をつけてな」
「うん!」
「元気だなあ……」
「げんき!」
二日酔いで動けなくなるかと心配していたのだが、嬉しい誤算である。
「だからって、もう、勝手にお酒飲んじゃ駄目だぞ」
「ごめんなさい……」
ガレージにダンボール箱を積み上げ、ふう、と一息つく。
「××、昨日のこと覚えてる?」
「あんまし……」
「俺の背中にずっと負ぶさってたのは?」
「なんとなく」
「肩だの首筋だのをがぶがぶ甘噛みしてたのは?」
「おぼえてない……」
「暑い暑いって言って、いきなりパジャマ脱ぎ出したのは?」
「え」
「慌てて止めたら、俺にコート着せ始めたのは?」
「えー!」
「逆立ちしようとして失敗したのは?」
「──…………」
「ひとりでトイレ行けないって、俺を引っ張って行こうとしたのは?」
「すいません……」
「途中から嘘だけど」
「……?」
「途中から嘘です」
「うと、どこから……」
「秘密」
「もー!」
「はっはっは」
「……おさけ、もう、のまない」
「それがいいよ」
お酒は二十歳になってから。

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