2016
01.31

うにゅほとの生活1523

2016年1月31日(日)

仮眠を取ろうと横になっていたところ、不意に気配を感じた。
アイマスクを上げると、うにゅほと目が合った。
「……どうかした?」
「うと、その、ねてるかなって」
「不安だったか」
「うん……」
祖母は、眠るように逝った。
そのイメージが脳裏に焼きついて離れないのだと思う。
「大丈夫、寝るだけだよ」
「……うん」
「鼻詰まってるから、ぴーぴーうるさいだろ」
「うん」
「手でも握るか?」
「ひざまくら……」
「膝枕するの好きだなあ」
「すき……」
「じゃあ、お願いしようかな」
「うん」
マットレスに腰を下ろしたうにゅほが、伸ばした両足をぽんぽんと叩く。
「いいよ」
「はいはい」
細く、しなやかで、芯のあるふともも。
慣れた寝心地だ。
「あいますく、ずらしていい?」
「ずらしたらアイマスクの意味がないと思うんだけど……」
「めかくしするから」
「……まあ、いいか」
テンピュールのアイマスクを外すと、うにゅほの両手が俺の目元を隠した。
「──…………」
手が熱い。
落ち着かない。
「……××、目隠しいいわ」
「あかるいよ?」
「大丈夫、すこしくらい明るくても眠れると思うから」
「そか」
「代わりに頭でも撫でててくれ」
「わかった」
髪の毛が掻き上げられ、うにゅほの手のひらがぎこちなく頭頂を這いまわる。
懐かしい感触だ。
仮眠はできなかったが、休息は取れた。
十分である。
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2016
01.30

うにゅほとの生活1522

2016年1月30日(土)

「──…………」
「……?」
うにゅほがチェアの肘掛けに顎を乗せてこちらを覗き込んでいたので、ぽんぽんと膝を叩いてみせた。
「!」
うしょうしょと俺の膝の上に腰を下ろし、うへーと笑う。
最近のうにゅほは、以前にもまして、俺とくっつきたがる。
空虚。
不安。
焦燥。
そういった感情を心の底に押し込めるには、うにゅほはまだ幼いのだろう。
「てーにぎっていい?」
「左手なら」
「なにきいてたの?」
「谷山浩子」
「だれ?」
「歌手」
「きいていい?」
「じゃ、スピーカーに切り替えるな」
「うん」
まっくら森の歌を流しながら、思いついたことを口にする。
「暇だなー」
「しごとは?」
「夕方」
「そか」
「なんかして遊ぶか」
「あそぶ!」
「したいこと、ある?」
「うーん……」
うにゅほが小首をかしげる。
「あ、あれやるか。前に一度やったやつ」
「なにー?」
「なにをするにも、ずっと相手に触れていなければならない」
「つながりごっこ!」
「やる?」
「やるー」
という名目で、今日はずっとくっついていた。
うにゅほの心に空いた穴を一時的にでも埋めることができたなら、僥倖である。
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2016
01.29

うにゅほとの生活1521

2016年1月29日(金)

「四色、黒」
「はい」
「──…………」
「──……」
「蛍光ペン、紫」
「はい」
仕事を手伝いたいとうにゅほが言うので、助手を務めてもらうことにした。
「四色、青」
「はい」
「雲形定規」
「はい」
気分は手術中の外科医である。
「てつだい、できてる?」
「できてるよ」
「たすかる?」
「助かってる」
実際、普段よりストレスなく仕事をこなすことができている。
「ごはんしたく、ないとき、てつだっていい?」
「ああ、頼む」
図面を引いていると作図用具があちらこちらへ散らばるもので、それを手渡してくれる助手の存在は、お世辞抜きでありがたい。
「雲形定規」
「はい」
「四色、赤」
「はい」
「お手」
「はい?」
「お手」
「──……?」
小首をかしげながら、うにゅほがお手をする。
「よしよし」
なでなで。
「うへー……」
「おかわり」
「はい」
「雲形定規持ってて」
「はい」
「普通の定規」
「はい」
犬扱いされたことには、さして疑問はないらしい。
「──終わった!」
「おつかれさま」
普段より十五分ほど早く仕事を終えることができた。
たまに手伝ってもらうことにしよう。
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2016
01.28

うにゅほとの生活1520

2016年1月28日(木)

「××、ゼリーひとくち食べるか?」
「……あーん」
「なんだ、甘えっ子だな」
「うへー……」
祖母が亡くなって数日、うにゅほにすこしずつ笑顔が戻ってきた。
まだ、ぎこちない。
けれど、笑えないよりずっとましだ。
「美味しい?」
「おいしい」
「もうひとくち、食べるか?」
「たべるー」
うにゅほの口元にスプーンを運びながら、思った。
もっと笑わせたい。
悲しみなんて吹き飛ぶくらい。
「──…………」
す。
「?」
うにゅほの脇腹に手を這わせ、
「こちょ」
「うひにゃ!」
「こちょこちょ」
「うしし」
「こちょこちょこちょこちょ!」
「ひ! うひは、ひひ、やめへ、ひ、ひー!」
笑い転げるうにゅほに追撃を加えながら、俺は満足感を覚えていた。
それがどんな形であれ、うにゅほが爆笑する姿を見るのは久し振りだったから。
「ひ、ひー……」
「参ったか」
「まいりました、まいりました……」
力なく横たわっていたうにゅほが、ゆっくりと上体を起こす。
「もー!」
「ごめんごめん」
怒ったように頬を膨らませたうにゅほの瞳から、
「……え?」
つ、と涙がこぼれ落ちた。
「うわ、マジごめん! 泣くとは思ってなくて……」
「ちが──う、ぶ……うう、ずー……」
うにゅほを抱き寄せる。
「……ごめんな、嫌だったか?」
「──……!」
うにゅほが激しく首を振る。
嫌ではなかったらしい。
推測ではあるが、急に思いきり笑わせたために、感情の揺り返しが起きたのだと思う。
「ごめんなー……」
うにゅほの頭を優しく撫でる。
「……ぶー」
涙と鼻水でシャツが濡れていく。
冷たい。
だが、自業自得だ。
「ぐじゅ、く、っで、いいからね……」
くすぐっていいからね、と言いたいらしい。
「わかった。また今度な」
「うん……」
次にくすぐるのは、うにゅほが精神的に安定してからだ。
それまでは我慢しよう、うん。
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2016
01.27

うにゅほとの生活1519

2016年1月27日(水)

ちいさな手のひらが額に添えられる。
「ねつある」
「だろうなあ……」
予想はしていた。
過負荷だ。
数日分の疲れが一気に噴出したのだろう。
「きのうの、あまったおべんとう、たべる?」
「いい……」
「やさいジュース、のむ?」
「飲む」
「わかった」
うにゅほ印の野菜ジュースを飲み干し、横になる。
「マスク、いらない?」
「いらない。風邪じゃないし……」
「そだね」
半日も休めば復調するはずだ。
感覚でわかる。
「ひざまくら、する?」
「いや……」
壁掛け時計を見上げる。
午後一時。
「二時間くらい寝るつもりだから」
二、三十分の仮眠ならともかく、膝枕慣れしているうにゅほでもつらいだろう。
足の痺れはもちろん、トイレにだって立てない。
「じゃ、そいねする?」
「さすがにそれは……」
「あたまなでる?」
「ずっと?」
「うん」
「ずっとはいいかな……」
「て、にぎる?」
あ、わかった。
触れていないと落ち着かないのだ。
「……じゃ、手ー握っててもらおうかな」
「うん」
俺の左手を、うにゅほの両手が包み込む。
すこし冷たい。
だが、すぐに、俺の手と同じ温度になった。
「おやすみ」
「ああ、おやすみ……」
目蓋を閉じると、すぐに眠気が襲ってきた。
起きたとき、手のひらが汗ばんでいたけれど、安眠はできたと思う。
「手、熱くない?」
と尋ねると、
「ちょっとあつい」
と苦笑が返ってきた。
体調は、いつの間にかよくなっていた。
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2016
01.26

うにゅほとの生活1518

2016年1月25日(月)
2016年1月26日(火)

祖母の葬儀は、終始、和やかに執り行われた。
涙する者は少なかった。
一年間に及ぶ入院生活は、誰しもの心に、覚悟の種を植え付けていたのだろう。
「どうして死んでしまったのか」
ではなく、
「よくここまで頑張った」
と、讃える声の多さこそが、祖母の人徳を詳らかにしていると思う。
「──…………」
告別式を終え、帰宅するなり、喪服も脱がずマットレスに倒れ込んだ。
頭が痛かった。
理由はわかっている。
感情に負荷が掛かり過ぎたのだ。
「◯◯、だいじょぶ?」
「……××こそ、大丈夫か?」
うにゅほは、まだ、泣いていない。
あれほど祖母に懐いていたのに。
祖母が弱音を漏らすたび、頬をしとどに濡らしていたのに。
「おばあちゃん、らくになったって」
「ああ」
「しにたいって、いってたから」
「……ああ」
「よかったのかなって」
「そうだな」
実際、その通りだったのだと思う。
祖母が退院できる見込みはなかった。
先のない退屈には、死しか望みがない。
祖母は賢明な人物だ。
それがわかっていたからこそ、死にたい、死にたいと、漏らしていたのだろう。
「◯◯」
うにゅほが自分の膝を叩く。
「すこし、ねたほういいよ」
「……ああ」
うにゅほの膝に頭を預け、横になる。
すべすべとした喪服の生地が、頬に心地よい。
「──…………」
うにゅほの手が、俺の前髪を掻き上げる。
頭痛。
熱っぽさ。
溢れ出したもの。
戻らないこと。
それらが、すべて、溶けていく。
「◯◯」
「うん」
「おばあちゃん、しんじゃったねえ」
「──…………」
「……しんじゃったねえ」
「──…………」
ぽた。
水滴が、目蓋を濡らす。
ぽた。
頬を濡らす。
「──…………」
俺は、目を開けなかった。
これは、俺の涙だ。
泣くことができなかった俺の代わりに、うにゅほが流してくれた涙だ。
悲しいのに。
つらいのに。
そのはずなのに。
泣けなかったから。

泣けなかったから。
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2016
01.24

うにゅほとの生活1517

2016年1月24日(日)

午前四時二十一分、祖母が亡くなった。
享年八十八歳だった。
死に目には、会えなかった。
「──…………」
病室。
母親が言う。
「……あと五分でも早く着けたらね」
父親が言う。
「道が凍ってるんだから、仕方ねーべや」
弟が言う。
「まだ眠ってるみたいだ」
俺が言う。
「……でも、もう起きない」
うにゅほは、口を閉ざしたまま、なにも言わない。
背中から抱き締め、尋ねる。
「また、怖いか?」
愛犬が死んだときのことを思い出す。※1
あのとき、うにゅほは、こわい、こわいと泣きじゃくっていた。
死ぬことが怖いのか。
残されることが怖いのか。
「──…………」
沈黙。
「……××?」
うにゅほの顔を覗き込む。
「──…………」
うにゅほは、見ていた。
口を真一文字に結んで、眠るように逝った祖母の顔を見つめていた。
死を、真正面から、睨みつけていた。
俺は、思った。
強くなったのだ、と。
脆くなったのだ、と。
ぎゅ、と腕に力を込める。
壊れないように。
壊れても、崩れないように。
泣いたっていいのだと、告げるように。

※1 2012年11月30日(金)参照
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2016
01.23

うにゅほとの生活1516

2016年1月23日(土)

「──よし、今日の仕事終わり!」
引き終わった図面をファイルに綴じ、背筋をうんと伸ばす。
「おつかれさまー」
「ああ」
「かたもむ」
「ありがとう」
俺の肩をやわやわとマッサージしつつ、うにゅほが尋ねる。
「さいきん、しごとすくないの?」
「どうして?」
「しごとおわるの、はやいから」
「あー」
そりゃま、そう思うよな。
「仕事の量は、あんまり変わってないよ」
むしろ、平均的には増えているくらいだ。
「そなんだ」
「単に、急いで終わらせてるだけ」
「いそいで?」
小首をかしげる。
「だって、早く終わらせたら、そのぶん自由時間が増えるだろ」
「あ、そか」
「自由時間が増えたら、××とだってたくさん遊べるぞ」
「おー!」
うにゅほが目を輝かせる。
「なにしてあそぶ?」
「ちょっと待って、すこし休憩してから……」
座椅子を倒し、横になる。
「……ふー」
作業速度を上げたおかげで、疲労感も幾許か増している。
LED照明を見上げながら、す、と目蓋を閉じた。

「──……は!」
次に目を開けたときには、一時間ほどが経過していた。
「あ、おはよー」
「せっかく作った時間が!」
なんとまあ、もったいないことを。
「◯◯、やすめた?」
「そりゃまあ、スッキリはしたけど……」
「ならよかった」
うにゅほがほにゃりと笑う。
「……ま、いいや。遊ぶか」
「うん!」
そんなわけで、うにゅほと一緒にだらだらしたのだった。
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2016
01.22

うにゅほとの生活1515

2016年1月22日(金)

自室で静かに読書を嗜んでいたときのことである。
「──に゙!」
うにゅほが唐突に変な声を上げた。
「どうした?」
「したかんだー……」
「大丈夫か?」
「うん」
大したことはなかろうと、文庫本に視線を落とす。
「──…………」
ふと思った。
「……あれ、なにか食べてたっけ?」
「たべてないよ」
「喋って──は、いないよな」
「うん」
「なんで舌噛んだの」
「わかんない……」
逆に器用である。
「なんにせよ、気をつけてな」
「はい」
どう気をつければいいか、さっぱりわからないが。
「口内炎にならないように、早めにビタミン剤飲んどきな」
「ビタミンびーつー?」
「そうそう」
「わたし、くすりのむのにがて……」
「知ってる」
「うー」
「なら、やめとくか?」
「う?」
「口内炎なんて、ちょっと痛いくらいのもんだし」
「──…………」
「──……」
「……やっぱし、のむ」
「一日2錠な」
「はい……」
扱いやすい性格である。
たぶん、俺に似たのだろうなあ。
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2016
01.21

うにゅほとの生活1514

2016年1月21日(木)

外出のための身支度を整えている最中、ふと視線を感じた。
「どした?」
「すごいねえ……」
「なにが──って、ああ、靴下か」
「うん」
何度か書いているかと思うが、うにゅほは立ったまま靴下が履けないのだ。
「運動不足だよなあ……」
「ゆきかき」
「降ったらな」
「うん」
「とりあえず、スクワットでもするか?」
「あたまにてーのやつ?」
「そう」
「やったら、くつしたはける?」
「たぶんな」
「やる!」
うにゅほが後頭部で両手を組む。
「えっ、」
いま?
そう口にしようとした次の瞬間には、やる気満々にスクワットを始めていた。

記録:六回

「はひー、ひ、ひ……」
「大丈夫か?」
「らいじょぶ……」
ちっとも大丈夫じゃなさそうだけど。
「みへ、みててね……」
自分の靴下を手に、うにゅほが片足を上げる。
「えっ、」
いま?
そう口にしようとした次の瞬間、うにゅほは、マットレスの上に尻もちをついていた。
「……大丈夫か?」
「あれ?」
小首をかしげる。
「すくわっとしたのに……」
そういう意味じゃない。
「ほら、掴まれ」
「うん」
うにゅほの手を取り、引っ張り起こす。
「毎日スクワットして、筋力をつけないと」
「そかー……」
うにゅほが残念そうに呟く。
ちらりとぱんつが見えたけど、それは言わぬが花である。
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