2015
12.30

うにゅほとの生活1492

2015年12月30日(水)

祖母の病院を辞し、駐車場へ戻る。
「おばあちゃん、きてくれてありがとうっていってたね」
「ああ」
「げんき、なるかな」
「……どうかな」
「たいいんできるかな」
「わからない」
祖母が入院して、そろそろ一年が経とうとしている。
もう長くはない。
食事をしても吐いてしまうのだから、当然だ。
「……たいいん、できるかな」
うにゅほも、それを知っている。
知っているから、泣いているのだ。
「ほら、こっち来い」
うにゅほを抱き寄せる。
「うぶ……」
慰めることしかできない。
誤魔化すことしかできない。
俺は無力だ。
胸元を濡らす涙と鼻水の感触に苦笑しながら、呟く。
「……なんだか俺も泣きたいよ」
泣きたいけど、泣けない。
覚悟ができてしまったから。
「ぐじゅ、ぶー……」
泣きたくないけど、泣いてしまう。
避けられない未来と理解してしまったから。
残る時間は、僅かだ。
後悔するだろう。
どんなに手を尽くしたって、後悔するに決まってる。
だから、せめて、慰め合おう。
ひとりではないのだから。
家族がいるのだから。
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2015
12.29

うにゅほとの生活1491

2015年12月29日(火)

「はー、さむさむ……」
無意識に両手をこすり合わせる。
ほんの一時間ほど部屋を空けただけで、あっという間にこの冷え込みようだ。
「さむいねえ……」
はー。
俺の隣では、うにゅほが吐息で両手をあたためている。
「ストーブつけよう」
「そうしよう」
「──うわ、椅子まで冷たい」
「ほんと?」
うにゅほが座椅子に腰を下ろす。
「わ」
そして、ぴょこんと立ち上がった。
「つめたい」
「そのスカート、薄いんじゃないか?」
「そかも……」
パッチワーク風の可愛らしいスカートだが、冬用ではないのかもしれない。
「ゆたんぽ」
「?」
「ほら、ゆたんぽ、こっち来い」
「!」
理解したらしい。
「……うへー、ゆたんぽです」
照れくさそうにそう言って、うにゅほが俺の膝に乗る。
「はー……」
ふにふにとしてあたたかい。
首筋に鼻先をうずめると、いい匂いがする。
なんて素晴らしいゆたんぽだろう。
「うしし」
「どうした?」
「くすぐったい」
「我慢」
「はい」
「……あったかいなあ」
「あったかい」
俺にとってうにゅほがゆたんぽであるように、その逆も然りである。
俺があったかいと、うにゅほもあったかいのだ。
「やっぱ冬場はくっついてるのが一番だな」
「うん」
まあ、部屋の温度が上がってきたら、暑苦しくなって離れるんですけどね。
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2015
12.28

うにゅほとの生活1490

2015年12月28日(月)

「◯◯、やさいジュースのむ?」
「飲むー」
うにゅほの作る野菜ジュースは絶品だ。
キウイと柿と、それからリンゴが入っていることは確かだが、詳しいレシピはわからない。
たぶん、トマトは入っていないと思う。
「はい」
「いつもありがとな」
グラスを受け取ると、ずしりと重かった。
「……ちょっと、りんごいれすぎちゃった」
「あー」
「すりりんごみたいになっちゃった」
随分と色味の悪いすりおろしリンゴである。
「つくりなおす?」
「いや」
グラスの中身をすすり、軽く噛んでから飲み下す。
「けっこう美味い」
「ほんと?」
「味見しなかったのか?」
「したけど、ジュースっぽくないなって」
「……まあ、ジュースではないな」
「なんだろう」
「スムージー──は、違うか」
「すむーじー」
「なんか、ふわっとした飲み物だよ」
「ふわっとは、してないね」
「シャリッとしてるな」
ひとくちすする。
「……噛まないと飲み込めない」
「えきたいでは、ない?」
「液体ではない」
「こたい?」
「固体ってほどでもないなあ」
「なんなんだろう……」
「ま、美味いから、なんだっていいじゃないか」
またひとくち。
「……なんかこれ、すごい腹に溜まるな」
ダイエットにはいいかもしれない。
「あしたは、りんご、いれすぎないようにするね」
「ああ」
どちらも美味しいからいいのだけど、やはり、うにゅほ的には失敗作なのだろう。
健康的な食生活は、うにゅほ印の野菜ジュースから。
そんなフレーズが脳裏をよぎったのだった。
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2015
12.27

うにゅほとの生活1489

2015年12月27日(日)

眼鏡を外し、蛍光灯に透かす。
思ったとおり、だいぶ汚れている。
「──…………」
ティッシュを二枚ドローし、四つ折りにして、右手に構える。
クロスは使わない派だ。
「めがねふくの?」
「ああ」
「ふいてみたいな」
「いいけど、大して面白いもんじゃないぞ」
うにゅほに眼鏡を手渡す。
「ひだりてで、めがねもって」
「うん」
「みぎてで、めがねふく」
「そうそう」
「めがねふくとき、はーってする」
「わかってるじゃないか」
「うへー」
てれり。
「じゃ、はーってする」
はー。
うにゅほの呼気でレンズが曇る。
「ふくね」
「ああ」
ふきふき。
「あれ、あんましきれいになんない……」
「そういうときは、何度も拭く」
「はい」
はー。
ふきふき。
はー。
ふきふき。
ぱき。
「あっ」
「……なんか、鳴ったな」
慣れていないためか、変なふうに力を込めてしまったのだろう。
「ごめ、ごめなさ……」
「ちょっと貸して」
泣きそうなうにゅほから眼鏡を受け取り、検める。
「……壊れては、ない、かな」
「ほんとう……?」
「どこが鳴ったんだろ」
ともあれ、
「やっぱ、俺がやるな」
「はい……」
すっかり落ち込んでしまったうにゅほの頭を撫でてから、眼鏡を拭き直した。
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2015
12.26

うにゅほとの生活1488

2015年12月26日(土)

年末年始に向けて、箪笥の中身を整理することにした。
「──これは、着ないだろ。これも着ない。これも、さすがに着れないよな」
箪笥の肥やしになっていた衣服を、ぽいぽいと選別していく。
「ぜんぶすてちゃうの?」
「捨てる。着ないのに持ってても仕方ないだろ」
「もったいない……」
「売ったって、全部まとめて十円だよ」
ブランドものなんて一着もないし。
「これは?」
うにゅほが手に取ったのは、高校のときの青ジャージだった。
「……むしろ、捨ててなかったのが不思議なくらいだ」
「わたし、もらっていい?」
「駄目」
「えー……」
「どう考えたってサイズが違いすぎるだろ」
ジャージの下がずり落ちる未来しか見えない。
「じゃ、うえだけ」
「上だけ?」
「うえなら、ぬげない」
「袖が余るぞ」
「あったかい」
「……そういう考え方もあるか」
試しに着せてみた。
「どかな」
「──…………」
下スカートの上ジャージって、なんかこう、すごく、女子高生っぽい。
「……悪くない」
むしろ、いい。
萌え袖なのも好評価である。
「うごきやすいねえ」
「家のなかで一枚羽織りたいときとか、いいかもな」
「もらっていいの?」
「ああ」
「やた!」
「ものを持つときは、袖まくれよ」
「はーい」
胸元に刺繍された苗字を指先でなぞりながら、うにゅほがうへーと笑う。
なるほど、それが嬉しかったのか。
「××も、着ない服出しとけよ」
「うと……」
「ないなら、出さなくてもいいよ」
「うん」
相変わらず、ものを捨てるのが苦手な子だ。
思い出を捨て去るようで、気が咎めるのだと思う。
断捨離とまでは行かずとも、捨てる技術くらいは磨いておいたほうがいいかもしれない。
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2015
12.25

うにゅほとの生活1487

2015年12月25日(金)

消費税増税前に我が家をリフォームしようという話が持ち上がっている。
「水回りを一階に集めて──」
「弟の部屋は二階に──」
「こことここの壁はぶち抜いて──」
「キッチンをL型に──」
間取り図を挟んで侃々諤々の議論を交わす両親を尻目に、昨日のあまりのケーキをパクつく。
「りほーむだって」
「ああ」
「どうなるのかな」
「俺たちの部屋は、大して変わらないよ」
「そうなんだ」
「ただ──」
言いかけて、やめる。
「なんでもない」
「?」
家をリフォームするとなれば、ひとつ、どうしても避けられない問題が出てくる。
「──××!」
父親がうにゅほを手招いた。
「なにー?」
「お前の部屋は、どこがいい?」
「……?」
小首をかしげる。
「いつまでも◯◯と同じ部屋っちゅーわけにもいかねーだろ」
「──えっ、う、え?」
目を白黒とさせながら、うにゅほがこちらに視線を向ける。
つまりはそういうことだ。
「お前たちの部屋を真ん中で間仕切って──」
「一階の和室をフローリングにしたほうがいいんじゃ──」
「いや、それだとリビングが──」
「二部屋にするとさすがに狭いと──」
両親のあいだで狼狽えていたうにゅほが、意を決したように口を開く。
「──や!」
そして、俺の左腕に抱きついた。
「◯◯といっしょがいい!」
「──…………」
「──……」
両親が、無言で、互いに顔を見合わせる。
その目に込められた感情は、ふたりとも同じだ。
「やっぱり……」
「しゃーねえなあ」
そして、何事もなかったように議論を再開する。
「◯◯と、いっしょがいい……」
呟くように繰り返すうにゅほの頭を撫でてやる。
「一緒でいいってさ」
「……ほんと?」
「ああ」
正直、今更である。
両親としても、いちおう尋ねてみただけだろう。
「よかった……」
ほっと胸を撫で下ろすうにゅほの姿に苦笑しながら、ケーキの最後のひとかけらを牛乳で流し込んだ。
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2015
12.24

うにゅほとの生活1486

2015年12月24日(木)

「──よし、できた!」
「かんせい!」
「いえー」
「いえー」
うにゅほとハイタッチを交わす。
市販のスポンジにナッペを施しただけのシンプルなホールケーキに見えるが、実は違う。
スポンジのあいだに嫌と言うほどくるみを敷き詰めた「くるみのショートケーキ」なのだ。
「じゃ、これは冷やしとこうな」
「うん」
「今日の晩ごはんは?」
「てまきずし、だって」
「豪勢だな」
「クリスマスだもん」
うへーと笑う。
「晩ごはんのあと、ケーキを食べて」
「うん」
「そのあとは?」
「ぎんがてつどうのよる!」
クリスマスイヴの夜、映画版の銀河鉄道の夜をふたり静かに観賞する。
毎年の恒例行事だ。
「えーと──」
指折り数えながら、呟く。
「もう、五回目になるのか」
「ごかいめ?」
「××がうちに来たのが2011年の10月で、その年のクリスマスイヴに初めて見ただろ」
「うん」
「2012、2013、2014と来て、今年は2015だから、五回目」
「まだ、ごかいめ……」
まだ五回目。
その声音に秘められた感情に気づき、俺はうにゅほを背後から抱き締めた。
「来年は、六回目」
「──…………」
「再来年は、七回目」
「──…………」
「八回目、九回目、十回目。ずっと続けていけばいい」
「……うん」
「一緒にいような」
「うん!」
うへーと笑いながら、うにゅほがこちらへ振り返る。
この笑顔を、ずっと見ていたい。
そう思うのだ。
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2015
12.23

うにゅほとの生活1485

2015年12月23日(水)

「──はい、しっぷおわり」
うにゅほがぽんぽんと足の甲を撫でる。
「じゃ、くつしたね」
「いや、靴下くらい自分で」
「へんにはいたら、しっぷ、ぺろんてなっちゃうよ」
「──…………」
耳が痛い。
昨日、ぺろんとなってしまって、湿布を貼り直したからだ。
「……履かせてください」
「♪」
俺の世話を焼くときのうにゅほは、本当に満足そうだ。
この表情を見るためだけにダメ人間になってもいいとさえ思う。
ならないけど。
「はい、はけました」
「ありがとう」
「みぎもはく?」
「いや、右は自分で──」
「──…………」
じ。
「……履かせてください」
「はーい」
世話どころか、介護されている気すらしてきた。
「××」
「?」
「なんか、してほしいことないか?」
バランスを取らなければ。
「してほしいこと……」
うにゅほが小首をかしげる。
「うと」
「──…………」
「えっと」
「──…………」
「あ」
「あるか?」
「うん」
「なんだ?」
「あんまし、けがしないでほしいな」
「……はい」
ぐうの音も出ないのだった。
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2015
12.22

うにゅほとの生活1484

2015年12月22日(火)

朝起きると、雪が積もっていた。
「……××、ごめん」
「?」
「一緒に雪かき、まだできそうにない」
痛み止めを飲むほどではないが、歩くだけですこし痛む。
「あー」
うにゅほが苦笑する。
「むりしないでね」
「しない、しない」
無理は嫌いな性格だ。
できることを、できるだけしか、するつもりはない。
「おとうさん、ゆきかき、ひとりでしちゃったし」
「仕事行く前に?」
「うん」
「除雪機か」
「すごいたのしそうだった」
新しいおもちゃを手に入れたようなものだからなあ。
「……飽きるまで邪魔しないようにしよう」
ガレージの一角を占拠して秘密基地にしてしまった父親である。
童心を忘れないと言えば言える。
「××も、除雪機使ってみたいか?」
「──…………」
ふるふると首を横に振る。
「いい」
「いいのか」
「こわい」
「怖いのか」
「なんか、ぐるぐるってしてて、あぶない」
「俺の友達、小学生のころ、あれに巻き込まれてなあ」
「!」
ひ、とうにゅほが息を飲む。
「おそろしい……」
「使うなら、気をつけて使わないとな」
「あぶないよ」
「危ないって言ったら、車のほうが危ないぞ」
「でも……」
除雪機の回転刃に生理的な恐怖を覚えるのは、なんとなくわかるけど。
「使い方を間違わなければ、大概は大丈夫なものだよ」
「うん……」
しぶしぶ頷くうにゅほの頭を撫でたあと、布団に戻って二度寝を決め込んだ。
次に起きたのは、昼頃だった。
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2015
12.21

うにゅほとの生活1483

2015年12月21日(月)

「ただいまー」
整形外科から帰宅すると、うにゅほが二階から駆け下りてきた。
「おかえり!」
「ただいま」
「あし、どうだった?」
薬局の袋を掲げながら、答える。
「骨に異常ないって。湿布と痛み止めもらったよ」
痛み止めを使うほどではないと思うが、あるに越したことはない。
「よかったー……」
うにゅほが、ほっと胸を撫で下ろす。
「大丈夫って言ったろ」
「うん」
心配性なんだから。
靴を脱ごうと身を屈めたとき、
「──……ん?」
ふと、鼻腔をくすぐるものがあった。
「なんか、いい匂いがする」
甘い。
そして、瑞々しく爽やかな香り。
「りんごだよ」
「りんご?」
「あおもりから、りんごとどいた」
うにゅほの視線を辿ると、玄関の隅に、青森りんごと書かれた段ボール箱があった。
「──…………」
すんすん。
「──……」
はー。
「いいにおい」
「ああ」
「ぎんがてつどうの、りんごみたい」
「そうだな」
これほどまでに香るのだから、さぞ甘くて美味しいのだろう。
「きょうのやさいジュース、このりんごつかうからね」
「楽しみにしてる」
「うん!」
夕食時に出された野菜ジュースは、いつもと同じ味がした。
いつも美味しいのだけど、すこし拍子抜けだった。
ここまでぐちゃぐちゃになってしまうと、りんごの質など誤差に等しいようである。
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