2015
10.31

うにゅほとの生活1433

2015年10月31日(土)

「──……ず」
サージカルマスクの下で、ちいさく鼻をすする。
鼻風邪を引いてしまった。
「……ほんと、季節の変わり目は駄目だなあ」
「ねたほういいよ?」
「いや、ちょっと、用事があるから……」
「ぱそこん?」
「そう」
「じゃあ、あったかくしないと」
そう言って、うにゅほがストーブの電源を入れる。
「はんてんきて」
「はい」
「くつしたはいて」
「はい」
言われるがまま対冬用装備を着込む。
「あったかい?」
「あったかい」
「よし!」
うにゅほが満足げに頷いた。
「あとは、にじゅうごどになったらストーブけして、にじゅうどになったらストーブつける」
「完璧だな」
「かんぺき」
完璧すぎて、逆に体が弱くなってしまいそうなほどだ。
「いつもありがとうな」
「うん」
「……あと、なんか、すまないな」
「?」
うにゅほが小首をかしげる。
「なんであやまるの?」
「その、これだけ的確に動けるってことは、その数だけ、心配を掛けてきたってことだから……」
「──…………」
うにゅほの手が、俺の頬に添えられた。
「びょうにんは、そんなことかんがえないで、いいの」
「いや、病気のときだから──」
「いいの!」
ぺし。
両手で頬を挟まれる。
「わたしがかぜひいたとき、◯◯がかんびょうしてくれたら、いいの」
「……わかった」
「うへー」
その微笑みを見て、うにゅほが風邪を引いたときは嫌と言うほど甘やかしてやろうと心に誓う俺だった。
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2015
10.30

うにゅほとの生活1432

2015年10月30日(金)

「いて」
ダンボールで親指の付け根を切ってしまった。
「あー……」
血が滲み出す様子をぼんやり眺めていると、
「ちー! ちーでてる!」
「××、ティッシュ取って」
「はい!」
舌先で血を舐め取ると、かすかに塩味がした。
「◯◯、これ、ティッシュ……」
「ありがとう」
「……いたくない?」
「痛い」
紙で指を切ると、刃物での切り傷より痛む気がする。
切れ味が鈍いせいだろうか。
「だいじょぶ……?」
「痛いけど、痛いだけだし、問題ないよ」
「オロナイン、ぬる?」
「血が止まってから」
「うん」
傷口をとんとんと叩くたび、鮮紅色の染みがティッシュに咲いていく。
思いのほか深く切ってしまったようだ。
「いたくない?」
「痛いよ」
「あんましいたくなさそう」
「痛い痛いって言ったところで、痛くなくなるわけじゃないしなあ」
「そかな……」
「あ、止まったかな」
「オロナインぬる」
「頼む」
「さびおもはるね」
「ああ」
オロナインはともかく、絆創膏は、片手では貼りづらい。
ほんのちいさなことだが、こんなとき、うにゅほがいてくれてありがたいと思う。
「はい、おしまい」
「ありがとうな」
なでなで。
手当てしてもらった方の手で、うにゅほの頭を撫でる。
「うへー……」
「さ、ダンボール畳んじゃわないとな」
「わたしやる」
「──…………」
しばし思案し、
「……気をつけてな」
「うん」
うにゅほに任せることにした。
畳んだダンボール箱は、いつものように、まとめて玄関に出しておいた。
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2015
10.29

うにゅほとの生活1431

2015年10月29日(木)

風呂上がりのストレッチをしていたときのことである。
「ね、◯◯」
「んー」
「ふとった?」
「──…………」
前屈をしたまま、ぴたりと固まる。
「……わかる?」
「ちょっとふとったきーする」
「わかるかー……」
横っ腹の肉をつまむ。
全身にまんべんなく贅肉がつくタイプなので、悟られにくいが、確実に太った。
「……ダイエット、する?」
「ダイエット事案でしょうな」
「あんまし無理しないでほしいな……」
冬が近づくにつれ悪化していく俺の体調を心配してのことだろう。
「……あー、うん、今回はゆっくり落とそうかな」
「ほんと?」
「無理なく痩せるには、一ヶ月に3kgくらいがいいらしい」
「へえー」
うにゅほがうんうんと頷く。
「だから、今回は、一ヶ月で5kgくらいを目標にしよう」
「……むりなく?」
小首をかしげる。
「一週間に1kgくらいなら、無理じゃないと思うけど」
「うーん……」
「ほら、一週間に5kgとか言い出すよりはさ」
「うん」
深々と頷く。
「◯◯、すぐむりするから」
「つい、ゼロかイチかで考えちゃうんだよなあ……」
やるときはやり過ぎるし、やらないときはまったくやらない。
この考え方は正していくべきだろう。
「……でも、一週間で1kgって、さすがに余裕すぎないか?」
「そかな」
「一週間で2kgくらいでも──」
「──…………」
うにゅほの視線が痛い。
「……うん、一週間に1kgにしとこう」
「むりしない」
「はい」
心配してくれる誰かがいるということは、幸福だ。
冬に向けてゆっくりと痩せていこう。
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2015
10.28

うにゅほとの生活1430

2015年10月28日(水)

「──つッ」
パソコンチェアに腰を下ろしたとき、尻に痛みが走った。
「どしたの?」
うにゅほプレイス※1でくつろいでいたうにゅほが、軽く身を乗り出した。
「いや、ちょっと……」
「?」
「ちょっと、尻に、おできが……」
「あー」
「座ったあとは気にならないんだけど、座るとき痛くてさ」
「みして」
「えっ」
「オロナインぬらないと」
「いや、自分で塗れるから……」
いくら相手がうにゅほでも、改めて尻を露出するのは恥ずかしい。
「ちゃんとぬれる?」
「塗れるって」
「さびお、はれる?」
「貼れるって」
「そか……」
どうして残念そうなんだ。
「××だって、おしり見せるの嫌だろ」
「うーん」
うにゅほが小首をかしげる。
「──…………」
「──……」
沈黙。
「……恥ずかしいだろ?」
「はずかしい」
こくりと頷く。
よかった、羞恥心はあるようだ。
「背中とかだったら、絆創膏貼ってもらったんだけどな」
恥ずかしくないし、そもそも届かないし。
「せなかにおできできたら、いってね」
「ああ」
「はるからね」
「わかった」
そんなに頻繁にできるものでもないが、そのときはうにゅほに頼むことにしよう。

※1 うにゅほプレイス
座椅子にクッション完備の快適空間
自室のソファが撤去された際、うにゅほの新しい居場所として冷蔵庫の隣に設置された
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2015
10.27

うにゅほとの生活1429

2015年10月27日(火)

病院にて、ふと財布の中身が気になった。
「あー……」
「?」
「財布にお金入れるの、忘れてた」
「あらー」
気付いたのが会計待ちの時間でよかった。
「ちょっと、そこのコンビニで下ろしてくるよ」
「うん」
「悪いけど、先に呼ばれたら、そう説明しといてくれな」
「わかった」
「おとなしく人質になっているように」
「ひとじち?」
うにゅほが小首をかしげる。
「ほら、ずっと前だけど、ここでお金が足りなかったとき──」※1
「……あっ」
うにゅほの頬が朱に染まる。
思い出したらしい。
「むかし! むかしのこと!」
「はいはい」
恥ずかしがるうにゅほをなだめ、病院を後にする。
コンビニATMで万札を下ろしながら、ふと思った。
「……また飴もらってたりして」
うにゅほは、俺が目を離した僅かな隙に通りがかりの人から飴をもらう才能を天に与えられた少女である。
待合室へ戻ると、案の定だった。
「♪~」
ころころ。
「……何味?」
「ぶどう」
「誰からもらったの?」
注意したほうがいいかもしれない。
「うけつけの、おねえさん」
うにゅほが指さすほうに視線を向けると、四年越しの顔見知りである受付の女性が笑顔で頭を垂れた。
不器用に笑顔を浮かべ、返礼する。
「……知らない人じゃないから、いいのか」
「?」
「いや、こっちの話」
なんだか病院中の人間がうにゅほに飴を与える機会を窺っているような気がしてきた。
学齢期の少女が平日の昼間から大の男に付き添っているのだから、目立つし、記憶に残りやすいのだろう。
「◯◯にも、あめあるよ」
「……ありがと」
温州みかん味のキャンディを口に放り込み、財布を取り出して、受付へと足を向けた。

※1 2011年12月20日(火) 参照
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2015
10.26

うにゅほとの生活1428

2015年10月26日(月)

早々と仕事を片付け、マットレスの上に倒れ伏す。
深呼吸。
うにゅほの香りがする。
「おつかれさまー」
なでなで。
頭を撫でられている。
「疲れた」
「ねる?」
「いや、夜に眠れなくなるから……」
仮眠はしばらく禁止である。
生活サイクルが戻りつつあるのに、元の木阿弥になっては事だ。
「××、なんか、漫画持ってきてくれる?」
「まんが?」
「小説でもいいけど」
とにかく読むものが欲しかった。
「……なんのまんが?」
「任せる」
「うーと……」
うにゅほが困ってしまうのがわかっていて、曖昧な注文をしている。
女の子をちょっとだけ困らせたいというのは、世の男性に共通する欲求なのではあるまいか。
「……これでいい?」
うにゅほが本棚から持ってきたのは、ますむらひろしの銀河鉄道の夜だった。
「お、いいな」
「──…………」
安心したように、うにゅほがほっと息を吐いた。
「ありがとう」
「うん」
マットレスにうつ伏せになったまま、両手を伸ばして漫画を開く。
「うしょ」
ずし。
「──……?」
背中の上に、暖かくて柔らかいものが乗ってきた。
「うへー……」
耳元で、照れたような笑い声。
くすぐったい。
「一緒に読みたいのか」
「うん」
親亀子亀になって読書をするのは久しぶりかもしれない。
夏場は暑くてやってられないからなあ。
「あったかいねえ」
「ああ」
しばらく読み進めていると、ふと首筋に寝息が触れた。
「──……すう」
どうしよう。
迂闊に動けない。
銀河鉄道の夜を読み終えたあとも、うにゅほが目を覚ますまで、トイレを我慢する羽目になったのだった。
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2015
10.25

うにゅほとの生活1427

2015年10月25日(日)

「──…………」
パソコンチェアに深く腰を下ろしながらぼへーっとしていると、うにゅほが俺の頭に触れた。
なでなで。
くすぐったいが、悪い気分ではない。
「かみ、のびたねえ」
「伸びた」
最後に散髪をしたのは、いつのことだったっけ。
「このくらいのびるとね、かっこいい」
「カッコいいか」
「いちばんは、きったあと」
「やっぱり」
床屋行こうかなあ。
「切ったあとが一番で、いまくらいが二番なら、ちょっと前の半端な時期は?」
「──…………」
あ、苦笑してる。
つまりそういうことなのだ。
「しらが」
ぷち。
「……誤魔化してる?」
「うへー……」
ぷち。
「あっ」
間違ったらしい。
「ごめんなさい……」
「べつにいいよ」
ハゲる家系じゃないし。
「ながいと、しらが、ぬきにくい」
「そうなのか」
「とくていがむずかしい」
「髪、切ろうかな」
「──…………」
「──……」
ぷち。
「……もすこし、このまま」
「はいはい」
切るのはいつでもできるけど、伸びるまでには時間が掛かる。
うにゅほがいいと言うまでこのままにしておこう。
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2015
10.24

うにゅほとの生活1426

2015年10月24日(土)

「♪」
ぺき。
ぽき。
ふんふんと鼻歌まじりに、うにゅほが俺の指を鳴らしていく。
「楽しい?」
「うん」
楽しいらしい。
左手中指の第二関節を、ぱき。
左手薬指の第一関節を、ぽき。
自分の指は痛くて鳴らせないからって、やりたい放題である。
べつにいいけど。
視線をテレビへと戻したとき、うにゅほが俺の小指を折り曲げた。
ぼき。
「──つッ!」
激痛。
慌てて左手を引き戻す。
「え──」
呆然とするうにゅほの顔を見て、はっと我に返る。
忘れていた。
今朝、起きたとき、誤って左手の小指を痛めていたのだった。
「あ、あの、だいじょぶ……?」
「大丈夫、大丈夫」
あえて左手でうにゅほの頭を撫でる。
この痛みを知られてはならない。
気づかれてはならない。
うにゅほには、自分自身を過剰に責め立ててしまう悪癖があるからだ。
「手の甲が急にかゆくなって……」
そう言って、ぼりぼりと掻いてみせる。
「──…………」
疑いの目。
「ほら、右手もやってくれ」
「……いたくなかった?」
「どうして」
「いたそうだったから……」
「痛かったら言うよ」
「──…………」
うにゅほが小首をかしげ、
「そか……」
不承不承に頷いた。
「ほら、右手」
「うん」
うにゅほが俺の右手を取る。
「──…………」
ぺき。
「──…………」
ぽき。
恐る恐る、指を鳴らしていく。
「いたくない?」
「痛くない」
「そか」
左手の倍以上の時間を掛けて、右手の指をすべて鳴らし終えた。
「いたくなかった?」
「痛くないって」
疑り深い。
「また、ならしていい?」
「いいよ」
そう答えると、うにゅほがようやく笑ってくれた。
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2015
10.23

うにゅほとの生活1425

2015年10月23日(金)

「……眠い」
「きのう、ねれなかったの?」
「すこしは寝れたよ」
「すこしかあ」
「風邪のせいで、生活サイクルが完全に逆転しちゃったからな」
「すこしずつもどさないとね」
「……できれば、一気に戻したいんだけどな」
「だめだよ」
「駄目か」
「だって、てつやでしょ?」
「そうなるかな」
「ぜったい、とちゅうでねむくなって、へんになる」
「……反論できない」
「◯◯、いっきにやろうとしすぎだとおもう」
「──…………」
「ダイエットも、きんとれも、いきなり、すごくやる」
「──…………」
「からだよわいのに……」
「心配かけてすいません……」
「ひる、ねむいなら、ひるねしてもいいとおもう」
「そうなると、また──」
「よる、ねむくなくなる?」
「ああ」
「だからね、じかんをきめてねるの」
「三十分とか?」
「そう」
「なるほど……」
「きょう、なんじかんねれたの?」
「えーと、何度か起きてるけど、総計では五時間ちょっとくらい……」
「いちじかんくらいなら、ひるねしてもよさそう」
「……こないだ、それで寝過ごした気がするけど」
「おこす」
「起こせる?」
「おこせるよ」
「本当に?」
「……たぶん、おこせる」
「遠慮しないで、べしべし叩いてくれていいんだからな」
「うん……」
「もしくは膝枕」
「ひざまくら」
「膝枕の場合は、三十分かな」
「いちじかん、いいよ?」
「足しびれるだろ」
「ちょっと」
「じゃあ駄目だ」
「いいのに」
「俺が無理しないのに、××が無理してどうする」
「……そだね」
うにゅほの膝枕で、三十分×二回の仮眠を取った。
いま、いい感じに眠い。
そこはかとなく作戦成功の予感がする。
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2015
10.22

うにゅほとの生活1424

2015年10月22日(木)

備蓄分のペプシと飴を購入した帰りのことだった。
「……なんか、小腹が空いたな」
「うん」
「コンビニ寄ろうか」
「うん」
「食べたいものある?」
「あ、」
うにゅほが、なにかを言いかけて、口をつぐんだ。
「うん、なんでもいい」
「──…………」
なるほど。
「××が食べたいもの、当ててやろうか」
「?」
「マカロン」
「えっ!」
うにゅほが目を見開いた。
「すごい」
「いや、大してすごくないと思うぞ」
直近で美味しかったものを言ってみただけだし。
「不二家寄って帰ろうか」
「でも」
iPhoneの家計簿アプリを起動しながら、うにゅほが言った。
「まかろん、いっこ、ひゃくごじゅうえんもする……」
「それはそうだけど」
「ひゃくごじゅうえんあったら、ペプシいっぽんかえる」
「──…………」
たしかに、1.5リットルのペプシとマカロン一個が同じ値段と考えると、躊躇のひとつもしたくなる。
だが、
「マカロン買えないほど逼迫してるつもりはないんだけど……」
さして多くはないが、収入も貯蓄もある。
たとえ百個買ったところで大した痛手ではない。
「……じゃあ、まかろん、かっていい?」
「ああ」
鷹揚に頷く。
「何個買おうか」
「みっつ」
「みっつずつ?」
「ううん」
うにゅほが首を横に振る。
「みっつかうと、くじひけるから」
「あー、あったな」
不二家でマカロンを三個買うと、ハズレなしのスピードくじが引ける。
このあいだはペコちゃんのほっぺが当たったんだっけ。
「じゃあ、××はマカロンふたつ食べな」
「いいの?」
「いいよ」
大通りを左折し、不二家をへと向かう。
バニラひとつ、抹茶ふたつを注文し、くじを引くと、「金と銀」というシュークリームが当たった。
これも美味しかった。
さすが不二家、侮れない。
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