2015
07.31

うにゅほとの生活1341

2015年7月31日(金)

「──……ぬ」
不快感に目を覚ます。
甚平の懐に手を入れると、指先が寝汗でしとどに濡れた。
暑い。
死ぬほど暑い。
「あ、おきた」
「……おはよう」
「おはようございます」
ぺこり。
「……今日、暑くない?」
「あついねえ」
温度計を覗く気にもなれない。
「××、平気そうだけど……」
「うん」
こくり。
「さっき、シャワーあびたから」
「あー」
いいなあ。
「俺も浴びてこようかな」
「そのほういいよ」
首筋を撫でる。
びちょ。
「……そうだな」
「いってらっしゃい」
「行ってきます」

シャワーを終えて戻ってくると、扇風機が部屋の外に出されていた。
「おかえりー」
「ただいま」
よく見ると、エアコンの効いたリビングの空気を自室へと送り込んでいるようだった。
「おー、頭いいな」
「うへー」
うにゅほが両手でほっぺたを包む。
「しもとりしたとき、せんぷうきつかったから」※1
「なるほど」
ナイス応用である。
「涼しくなってるかなー」
扇風機を避けながら自室に入る。
暑い。
十五分程度じゃそんなものかと顔を上げたとき、
「……××、窓開いてる」
「?」
うにゅほが小首をかしげる。
「だめなの?」
「まあ、うん、駄目だな。冷気が逃げるから」
「あ、そか」
詰めが甘いところがうにゅほらしいと思った。

※1 2015年7月24日(金)参照
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2015
07.30

うにゅほとの生活1340

2015年7月30日(木)

「あちー……」
シャツの裾を大きく開き、扇風機の前に立つ。
「ふひー」
涼しい。
上半身が一瞬で冷えていく。
「あ、ずるい」
「ふぉふぉふぉ、早いもの勝ち早いもの勝ち」
「わたしもやりたい」
「はいはい」
場所を譲る。
うにゅほが、短めのワンピースを大きくめくり上げ、扇風機に覆いかぶせた。
「ひやー」
「──…………」
ワンピースの裾がぱたぱたとひらめき、その中身があらわとなる。
危なかった。
下にスパッツを穿いていなければ、即死だった。
わかってるから止めなかったんだけど。
「××」
「ふぃー?」
「普通のスカートでそれやったら、駄目だぞ」
「わかってるよー」
わかってるならいいけど。
「スパッツ、やっぱ蒸すか」
「むす」
「見るからに暑そうだもんな」
「ホットパンツにしたらよかった……」
「穿き替えたら?」
「あ、そだね」
ワンピースの裾を下ろし、うにゅほが扇風機から離れた。
「んじゃ、アイス取ってこようかな」
「おねがいー」
「どのアイスがいい?」
「ガリガリくんの、チョコのやつ」
「あったらな」
エアコンの効いたリビングもいいが、蒸し暑い自室でアイスを食べるのも風情である。
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2015
07.29

うにゅほとの生活1339

2015年7月29日(水)

よく熱した鉄板に水を垂らしたような音がして、慌てて窓の外を見ると、景色が雨に霞んでいた。
「うわ!」
「あめだ」
「××、窓確認してきて」
「うん」
「俺は洗濯物取り込んでくる」
「わかった」
今日は母親がいない。
一階の掃き出し窓から外に出て、洗濯物の濡れ具合を確かめる。
「あー……」
我が家の物干し場はベランダの真下にあるため、突然の雨に強いはずなのだが、今日は風向きが悪かったらしい。
「半分は無事、かな……」
しかし、急がなければ、もう半分も濡れてしまうだろう。
慌てて洗濯物を取り込みはじめるが、すぐにある問題が浮上した。
母親やうにゅほの身長に最適化されているため、物干し竿の位置が非常に低いのである。
「──……!」
腰の痛みを我慢しつつ前かがみになりながら必死で洗濯物を回収していると、
「◯◯、はやくー!」
背後でうにゅほの声がした。
これでも急いでいるのだと振り返ろうとした瞬間、

──ズがん!

鈍い音と共に、視界がぶれた。
頭頂部に激痛。
「◯◯!」
「ぬ、お、お、お、おー……」
物干し竿に思いきり頭を打ちつけたらしい。
「◯◯、だいじょぶ!?」
「──…………」
大丈夫だ、と右手を上げる。
そして、奥歯をギリリと軋ませながら、すべての洗濯物を取り込んだ。
「……だいじょぶ?」
「大丈夫……」
相当強く打ったのか、痛みが銅鑼の音のように残響している。
「なでていい?」
「頼む……」
華奢なうにゅほの手が、俺の頭頂部に優しく触れる。
「なでなで」
「──…………」
「いたいの、いたいの──」
「飛んでいけ?」
「いたいの、こっちきていいよ」
「──…………」
思わず、うにゅほの頭に手を伸ばした。
「痛いの、痛いの、戻ってこい」
「いたいの、いたいの、もどってこーい」
くすくすと笑い合う。
頭を打った痛みは、いつの間にか、どこかに飛んでいってしまった。
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2015
07.28

うにゅほとの生活1338

2015年7月28日(火)

「──……、! ◯◯!」
「……?」
目蓋を開く。
うにゅほの顔があった。
「おきた」
「……おはようございます」
「おはようございます」
「どした?」
「うんうんいってたから、おこした」
「あー……」
昨日の言葉を実践してくれたらしい。
「今日も暑いなあ……」
「うん」
立ち上がり、温湿度計を覗き込む。
30℃。
「きょうも、やなゆめみたの?」
「夢……」
悪夢を見た、と、思う。
しかし、夢の記憶は既に霧散して、僅かにその滓を残すのみだった。
「……××は覚えてるか?」
「?」
「今日の夢」
「ゆめ」
「××が起きるころは、まだ涼しかったと思うけど」
「うーと……」
うにゅほが腕を組み、うんうんと唸る。
「……いいー、ゆめー、だった、きが、するー?」
「いい夢か」
「たぶん……」
「どんな夢だった?」
「……あっ」
「?」
「うーん……?」
記憶のサルベージに難航しているらしい。
「……あのね、ねこがね、でてきたとおもう」
「猫かー」
「でもね、ねこじゃないの」
「猫じゃない?」
「せんぷうきなの」
「扇風機……」
「でも、ねこなの」
「──…………」
仮面ライダーに怪人として出てきそうだ。
「わかる?」
「いや、わからん」
「うー」
「わからんけど、夢ってそういうものだからな……」
「そんでね、あるくともじがでるの」
「なんて?」
「おぼえてない」
「そっか」
「うん」
「──…………」
「──……」
夢の話って、だいたいふわっとした感じで終わっていくよな。
「◯◯、おもいだした?」
「いや……、あ、でもひとつだけ」
「なに?」
「象のフンが──」
「ぞうの」
「出てきた、気がする」
「そか」
「うん」
「──…………」
「──……」
ふわっとしたまま、終わる。
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2015
07.27

うにゅほとの生活1337

2015年7月27日(月)

「──……!」
は、と目を覚ます。
首元に手をやると、かなり寝汗をかいていた。
「あ、おきた」
「嫌な夢を見た……」
「どんなゆめ?」
「──…………」
あっという間に散らばっていく夢の記憶を拾い上げ、まとまらないまま口を開く。
「……玉乗り」
「たまのり」
「玉乗りをさせられた」
「うん」
「でも、玉じゃなかったんだ」
「なんだったの?」
「ムカデ」
「え」
「オレンジと黒の混ざった色をした、何匹ものムカデだった」
「はー……」
「で、起きた」
「やなゆめだねえ」
「おはようございます」
「おはようございます」
ぱたぱたと胸元に風を送りながら、おもむろに立ち上がる。
温湿度計を覗き込むと、31℃だった。
暑いはずである。
「××、リビングで涼んでればよかったのに」
「すずんでたよ」
「今は?」
「ほんとりにきたら、◯◯がうんうんいってたから、みてた」
そう言ってうにゅほが掲げたのは、買ったばかりのスケッチブック11巻だった。
「……そういうときは起こしてくれていいからな」
「わかった」
こくりと頷く。
「夏だなあ」
「なつだねえ」
「ガリガリくん、まだあったっけ」
「あったとおもう」
「リビングで食おう」
「うん」
エアコンの効いたリビングで食べるガリガリくんは、凍らせたネクタルの味がした。
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2015
07.26

うにゅほとの生活1336

2015年7月26日(日)

ベランダから運び入れられた新しいソファは、ワインレッドのおしゃれな一品だった。
「あしながいねえ」
「長いなあ」
「ものおちたとき、とりやすそう」
「便利だなあ」
「お前ら、もうちょっとこう、ないのか……」
父親が、呆れたようにそう言った。
「いや、カッコいいと思うよ」
「うん」
「硬くて座りやすいし」
「ね」
「弟はさっき、寝にくくなったって嘆いてたけど」
「……まあ、あいつはな」
弟だから仕方ない。
しばし新しいソファと戯れたあと、自室へ戻った。
「あのソファ、ふたつセットで18万円だってさ」
「たか!……い、の?」
「さあ……」
ソファの相場がわからない。
「まえのソファ、いくらしたの?」
「覚えてない」
「きのううったソファは?」
「あれは、お隣さんがくれたんだよ」
「へえー」
「でも、18万円はけっこう高いほうじゃないかな、たぶん」
「◯◯のぱそこんとおんなじくらい」
「そうだな」
ちょっとだけ新しいパソコンが欲しかったりするのだが、口には出さない。
「ね、◯◯」
「うん?」
「きのう、よくねれた?」
「──…………」
窓際に折り畳まれた敷布団に視線を送り、力強く頷く。
「ああ、よく眠れた」
「よかったー」
うにゅほが胸を撫で下ろす。
ソファを犠牲にして得た安眠である。
「やっぱり、ちょっと寂しいけどな……」
「でも、ねむれたほういいよ」
「……ありがとな」
髪の毛を手櫛で梳いてやる。
「うへー……」
うにゅほは物への執着が強い。
自分のほうが寂しいだろうに、優しい子だ、と思った。
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2015
07.25

うにゅほとの生活1335

2015年7月25日(土)

両親がリビングのソファを買い替えると言うので、自室のソファと取り替えることにした。
「……これ、かえちゃうの?」
自室のソファを撫でながら、うにゅほが呟くように尋ねた。
「リビングのソファのほうが座面が広いから、よく眠れると思うんだ」
「そか……」
俺は、ソファを寝台にしている。
睡眠障害を持つ身としては、眠りの質を向上させる機会を逃すわけにはいかない。
「──……?」
いざソファを撤去してみたところ、あることに気がついた。
「このスペースがあれば、布団敷けるんじゃないか?」
試してみた。
「……敷けるな、これ」
「うん」
どうして今まで気がつかなかったのだろう。
「ソファ、ないほうがよさそうだな」
「……うん」

軽トラでオフハウスに持って行くと、自室のソファは百円玉になった。

「いやー、すっきりし──」
広くなった部屋。
その真ん中で佇むうにゅほの姿を見た瞬間、俺は、自らの過ちを悟った。
「ああ……」
ソファは、俺の寝台であると同時に、自室でのうにゅほの定位置でもあった。
俺は図らずもそれを奪ってしまったのだ。
「……××、ごめん。リビングのソファ持ってこよう」
「ううん」
微笑みを浮かべたまま、うにゅほが首を横に振る。
「◯◯がねやすいほう、いいよ」
「でも」
「ふとんにすわるから、だいじょぶ」
「──…………」
いじらしい。
この子を軽んじることだけは、あってはならない。
そう思った。
「……よし!」
「?」
「××、ちょっと待ってて」
「うん」
使わなくなっていた座椅子を車庫の二階から引っ張り出し、かつてソファのあった場所に据え付けた。
ふかふかもちもちの巨大クッションをふたつ、座椅子の足元に設置した。
そして、麦わら帽子をかぶったビッグねむネコぬいぐるみを、座椅子の上にぽんと置いた。
「できた!」
「おー」
「ここが、これから、××の場所だ」
「わたしのばしょ……」
ねむネコぬいぐるみを胸に抱き、うにゅほが座椅子に腰掛ける。
「どうだ?」
「いいねー……」
あ、くつろいでる。
よかった。
「ほれほれ」
「やー」
パソコンチェアに腰掛けたまま爪先で膝をつんつんすると、うにゅほが笑いながら身をよじった。
布団を敷くときには座椅子を片付けなければならないが、それくらい手間でもなんでもない。
今夜は、よく眠れますように。
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2015
07.24

うにゅほとの生活1334

2015年7月24日(金)

自室の冷蔵庫の霜がえらいことになってきたので、ここらで霜取りをしておくことにした。
「がりがり」
「××、爪じゃどうしようもないって」
「どうするの?」
「こうする」
コンセントから、冷蔵庫のプラグを抜く。
「あ、そか」
「簡単だろ?」
「うん」
「あとは、冷蔵庫の中身を取り出して、底に雑巾を敷き詰めるだけでいい」
「あたまいいね」
「ベーシックなやり方だぞ」
「でも──」
ぺたぺたと霜に触れながら、うにゅほが言う。
「ぞうきんだけでだいじょぶかな」
「……大丈夫じゃない、かな」
なにしろ、霜の量が半端ではない。
備え付けの貯氷箱を飲み込み、一体化してしまっているほどだ。
「どうするの?」
「そこは、まあ、こまめに取り替えるしか」
「うーん……」
しばし思案し、
「……れいぞうこに、ちいちゃいバケツ、いれる?」
「あ、なるほど」
ただ雑巾を敷いておくだけより、ずっといい。
「××、頭いいな」
「うへー」
俺も負けてはいられない。
「よし、扇風機を使おう」
「せんぷうき?」
「扇風機で、冷蔵庫のなかに風を送る」
「すずしくなっちゃうよ?」
「約30℃の空気を大量に送り込むんだ。どうなると思う?」
「あ、そか」
うんうんと頷く。
「扇風機で霜を解かし、バケツで受け、雑巾で拭く。完璧だな」
「かんぺきだ」
「よし、中身をいったん台所に移そう」
「うん」
冷蔵庫の霜取りは、二時間ほどであっさり終了した。
夕食のうなぎは勝利の味がした。
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2015
07.23

うにゅほとの生活1333

2015年7月23日(木)

「◯◯、このチョコにがいー」
「うん?」
うにゅほが舌を出しながら持ってきたのは、カカオ72%のチョコレートだった。
「なんだ、72%か」
「?」
「俺、ビターなチョコわりと好きだからな」
「へえー」
個包装を破り、チョコレートを口に放り込む。
「おいしい?」
「──…………」
ペットボトルの烏龍茶を無言で飲み下す。
「苦い」
「にがいよね」
「あれ、こんなに苦かったっけ……」
カカオ99%のチョコレートが流行していたころ、この程度の割合のチョコを好んで食べていた気がするのだが。
「ぺ、ぺ、駄目だこれ、後味残る」
「わたしもー……」
「××、甘いチョコない?」
「ない」
「あ、牛乳飲んだらマシになるんじゃないか」
「なるかな」
リビングへと赴き、グラスに牛乳を注ぐ。
「ほら、××」
「うん」
こく、こく。
「あ」
「どうだ?」
「くちのなか、おいしくなった」
「美味しく?」
「はい」
グラスを受け取り、そっと牛乳をすする。
「……ほんとだ、苦味消えるな。すっきりする」
「でしょ」
「牛乳飲みながらなら、このチョコも美味しくいただけるんじゃないか?」
「どかな」
「試してみよう」
「うん」
試してみた。
「あ、美味い」
「ほんとだ」
「やっぱ、チョコにはミルクが必要なんだな」
「ねー」
俺たちのような子供舌には、ミルクチョコレートがお似合いなのだろう。
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2015
07.22

うにゅほとの生活1332

2015年7月22日(水)

自室のソファでくつろぎながら読書に耽っていると、うにゅほがリビングから顔を出した。
「ね、◯◯」
「んー?」
「こっち、すずしいよ」
「ああ、エアコンか」※1
しおりひもを挟み、ハードカバーを閉じる。
「こっちでよんだらいいよ」
「でもなあ……」
「?」
「なんか、夏の暑さに慣れてきちゃって、リビングはちょっと寒いんだよ」
「──…………」
うにゅほがリビングへ取って返し、すぐに戻ってきた。
「にじゅうななどだよ?」
「27℃でも」
「うーん……」
「なんか、慣れない」
「いまなんど?」
そう尋ねながら、うにゅほが、本棚に据えられた温湿度計を覗き込んだ。
「さんじゅうど……」
「そんなもんか」
「あ、しつどすごい!」
「湿度?」
「ななじゅうにぱーせんと!」
蒸すはずである。
「エアコンって、しつどもさげられるんだって」
「あー、だからか」
「……?」
うにゅほが小首をかしげる。
「たぶん、湿度が低いから、肌寒く感じるんだろうな」
「へえー」
「わからんけど」
「わからんの」
「だって、エアコンなんて車でしか使ったことなかったし……」
どうにも落ち着かないのである。
「……じゃ、わたしもこっちいる」
あ、いかんいかん。
慌てて立ち上がり、靴下を履く。
「やっぱそっち行くよ」
「でも、さむいって」
「甚平のままだから寒いんであって、普段着に着替えれば問題ない」
「そなの?」
「そうそう」
「ふうん……」
「着替えるから、ちょっと出ててくれな」
「うん」
うにゅほがリビングへ戻るのを確認し、ほっと胸を撫で下ろす。
せっかく夏を快適に過ごせるようになったのに、俺のわがままに付き合わせては可哀想だ。
エアコンの効いたリビングは過ごしやすかったが、なんだか物足りなくもあった。
難しいものである。

※1 2015年7月14日(火)参照
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