2015
05.31

うにゅほとの生活1281

2015年5月31日(日)

ぼり。
ぼりぼり。
飴を噛み砕く振動が、奥歯を伝わって頭蓋を揺らしている。
「◯◯、もうかんじゃったの?」
「もう噛んじゃった」
「◯◯、すぐかんじゃうねえ」
「なんかなー」
ココアキャンディの残りカスを噛み潰しながら、新しい飴の個包装を破ろうとして、

──ガリ!

「……?」
不意の異物感に顔をしかめた。
なんだろう。
指先に吐き出すと、白く、半透明な、2mm角ほどの小さな破片だった。
「なんだ、これ」
「なにー?」
「なんか、口から出てきた」
「くちから──」
うにゅほが俺の口元を覗き込み、はっと目を丸くした。
「◯◯! まえば!」
「前歯?」
「かけてる!」
「──……えっ」
卓上鏡を手に取り、恐る恐る確認する。
「あー……」
小さく目立たないが、確かに前歯の一部が欠け落ちていた。
「あめかむから……」
言葉も無い。
「……これ、歯医者行ってなんとかなるのかなあ」
「わかんない」
鏡に向かい、笑顔を作ってみる。
間が抜けていた。
「──……はあ」
溜め息と共に、大きく肩を落とす。
「飴は、奥歯で噛むことにしよう……」
「かむんだ……」
「あと、なるべく小さくなってからにしよう」
「かむんだ……」
「××も気をつけろよ」
「うん」
うにゅほが真剣な瞳で頷いた。
女の子だもの、前歯が欠けるなんて嫌だよな。
男だって嫌だけど、欠けてしまったものは仕方がない。
現代の歯科技術に委ねよう。
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2015
05.30

うにゅほとの生活1280

2015年5月30日(土)

「あ゙ー、あ゙──……」
喉が痛い。
軽い風邪を引いてしまったようだ。
トローチを口に放り込み、使い捨てマスクを着けて、横になった。
「◯◯、だいじょぶ……?」
「いまんとこは……」
喉は痛いが、咳もない。
明日には治っているだろう。
ちいさくなったトローチを噛み砕き、頭から毛布をかぶる。
「ちょっとだけ寝る」
「うん、ねたほういいよ」
「おやすみ」
「おやすみなさい」

しばしして、
「……ぶはー!」
暑い!
毛布を蹴り飛ばし、枕に顔を突っ伏した。
肌寒さから毛布にくるまったが、速攻で蒸してしまった。
「あ、だめだよ」
「暑くて……」
「なんかかけないと、かぜひどくなっちゃうよ」
「でも、汗だくになったら体温下がるし……」
「じゃあ──」
がら。
うにゅほが、すこしだけ窓を開けてくれた。
「すずしくなった?」
「ああ、ありがとう……」
再び毛布を掛けてもらい、目を閉じた。
至れり尽くせりである。

しばしして、
「──……寒い」
毛布一枚では足りないと、足元の布団を引き上げる。

しばしして、
「暑い!」
俺は、毛布ごと布団を引き剥がした。
「どしたの?」
「毛布だけだと寒くて、布団掛けると暑い……」
帯に短したすきに長しである。
「うーん」
小首をかしげながら、うにゅほが言った。
「タオルケット、だす?」
「たのむう」
うにゅほが押し入れから持って来てくれたタオルケットをかぶり、小一時間ほど横になると、すこしだけ楽になった。
どうか長引きませんように。
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2015
05.29

うにゅほとの生活1279

2015年5月29日(金)

「うへー……」
うにゅほがソファでとろけている。
窓を開けても暑いのだ。
「……アイス食べたいなあ」
「うん……」
「せっかくだから、映画館の途中にあるジェラート屋さん行こうか」
「いく!」
途端にシャキッと立ち上がる。
現金なものだ。
海沿いの国道をミラジーノでひた走り、たっぷりと風景を堪能したあと、道を間違えていたことにようやく気づき、慌てて引き返した。
「うみきれいだったねー」
「晴れててよかったな」
「うんうん」
うにゅほが喜んでいたので、たまにはこんな回り道もいいだろう。
「俺は──ミルク、かぼちゃ、きなこのトリプルで。
 ××はどうする?」
「うと、きなこと、チョコ……」
「ダブルでいいのか?」
「うん」
ジェラートを受け取り、ベンチに座る。
「──あ、きなこ美味いな」
「うん、おいしい」
スプーンをひとなめするたびに、初夏の暑さが心地よく引いていく。
「あ!」
うにゅほが唐突に声を上げた。
「◯◯、◯◯、あーん」
「……?」
差し出されたスプーンを無言でくわえる。
「おいしい?」
「美味い」
「きなことチョコ、いっしょにたべると、とうにゅうココアのあじする」
「……あー、するかも」
豆乳もきなこも同じ大豆だしな。
「きなことかぼちゃ、一緒に食べてみるか?」
「なんのあじ?」
「きなことかぼちゃを一緒に食べた味」
「あはは、ふつうー」
仲良くジェラートをたいらげ、帰宅した。
夏になったら、また来よう。
夏を待たずに来るかもしれないけど。
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2015
05.28

うにゅほとの生活1278

2015年5月28日(木)

プリンタが紙詰まりを起こし、印刷を停止してしまった。
「あー……」
「エイさん、さいきんちょうしわるいね」
「なんかな」
「エイさーん……」
プリンタのスキャナ部を、うにゅほが優しく撫でる。
「──……××」
「?」
「機械は、撫でても直らないぞ」
「わかってるよー」
うにゅほが不興な面持ちでこちらを睨む。
よかった、わかってた。
「エイさん、どしたんだろね」
「買ってから一年以上経つから、どっか壊れてるのかもしれない」
「うん……」
「まあ、保証書あるし、最悪──」
取扱説明書の袋から保証書を取り出し、気がついた。
「……これ、エイさんの保証書じゃない」
「え」
「Logicoolって書いてある」
「ろじくーる」
うにゅほが小首をかしげる。
「エイさんは?」
「EPSON」
「ろじくーるは?」
「マウス……」
「なんで?」
「わからん……」
「ほしょうしょないと、どうなるの?」
「修理するのにお金がかかる」
「たいへんだ」
うにゅほと一緒にプリンタの保証書を探したのだが、これがまあ見つからない。
「困った……」
「どうするの?」
「騙し騙し使うしかないなあ」
「そか……」
エイさん用のインクを大量に買ってしまったから、買い換えるわけにもいかないし。
本格的に壊れないことを祈りながら、大切に使おう。
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2015
05.27

うにゅほとの生活1277

2015年5月27日(水)

最初に見つけたみっつの言葉。
ひと昔前にtwitterで流行した心理テストである。
ふとした拍子に見かけたので、うにゅほに勧めてみることにした。
「××、××」
「なにー?」
「この画像を見てください」
「……?」
「ひらがながたくさん書いてありますね」
「うん」
「この中から、意味のある言葉を探してください」
「いみのある──」
うにゅほが画像下部を指さす。
「けんりょく」
「権力……」
予想だにしない単語が飛び出した。
「あとふたつ……」
「うと」
すこし迷ったあと、中央付近を指し示す。
「せいこう」
「成功……」
「あ、さるあった」
「……猿?」
「これなに?」
「えーと、このみっつが、あなたが人生で手に入れたいものなんだって」
「えー……」
権力、成功、猿。
すごい単語が出揃ったものである。
「猿、欲しい?」
「べつに……」
だよなあ。
あまり当てにはならなそうだ。
「ね、◯◯は?」
「俺はたしか、自由、時間、余裕──だったかな」
「あってる?」
「合ってる気はする」
「わたしの、へん……」
権力、成功、猿。
「なんか、裏社会のボスっぽい」
「えー」
「もうひとつだけ探してみるか?」
「うん」
じ。
うにゅほがディスプレイとにらめっこをする。
「──あ、へいわ!」
「平和か」
「へいわ、あってる、かも」
「俺もそう思うよ」
いかにもうにゅほらしい単語だ。
権力、成功、猿については、あまり深く考えないことにしよう。
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2015
05.26

うにゅほとの生活1276

2015年5月26日(火)

部屋の拭き掃除をするために雑巾をしぼっていると、うにゅほが俺の手元を覗き込んだ。
「あ!」
「うん?」
「◯◯、ぞうきんのしぼりかた、ちがうよ」
「雑巾にしぼり方なんてあるのか?」
うにゅほが得意げに頷く。
「そうじのひみつにかいてた」
「ほう」
学研のまんがでよくわかるシリーズが、着実に力になっているようだ。
「どうやるんだ?」
「たてにしぼる」
「縦?」
「うん」
「縦だと、なんか違うの?」
「……?」
小首をかしげる。
知識はあっても経験が伴っていないのだ。
「まあ、やってみようか」
「かして」
うにゅほが、バットを握るように雑巾を持った。
「ん!」
しぼる。
少なくない量の水が雑巾から垂れ落ちた。
「しぼりやすい?」
「──…………」
「──……」
「はい」
うにゅほから雑巾を受け取る。
よくわからなかったらしい。
同じように雑巾を持ち、軽く手首を捻ってみた。
「……?」
横に持ってしぼるのとでは、なにかが違う。
幾度か持ち変えてみて、気がついた。
「縦にしぼると、右手も左手も内側に捻り込めるんだ」
「うちがわ?」
「ほら、横に持ってしぼると──」
左手が順手、右手が逆手となって、均等に力が入らない。
「あー」
「なるほどなあ」
これは、実際にしぼってみなければわからないだろう。
「たてしぼりっていうんだよ」
「へえー」
雑巾の正しいしぼり方か。
覚えておこう。
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2015
05.25

うにゅほとの生活1275

2015年5月25日(月)

耳鼻科から帰ってくると、うにゅほが俺のベルトをいじっていた。
「ただいま」
「あ、おかえりなさい」
「なにやってんだ」
「◯◯のベルトつけてる」
「いや、それは見ればわかるけど……」
うにゅほが、スカートの上からベルトを絞る。
「あなない」
「そりゃなあ……」
俺のウエストとうにゅほのウエストとでは、20cm以上の開きがあるだろう。
「◯◯いまつけてるやつ、あなたくさんあるやつ?」
「ああ」
シャツの裾をめくる。
ベルト全体に均等に穴があるタイプの二つ穴ベルトだ。
「俺は──、何列目だ?」
「いち、にー、さん、よん、ごー、れつめ」
「五列目か」
「ぎりぎり?」
「いや、もっと絞れば六か七まで行くけど」
ベルトを外し、渡す。
「わたし、なんこめくらいかな」
「十くらいは行くんじゃないか?」
うにゅほが俺のベルトを締める。
「いち、にー、さん──はっこめ!」
「八か……」
そんなに太いはずないと思うけど。
「このベルトなら、わたしもつけれる」
「やらんぞ」
「えー」
狙ってたのかよ。
うにゅほが手を離した瞬間、
「あっ」
すとん、とベルトが足元に落ちた。
「──…………」
「──……」
「落ちたの、ベルトだけで良かったな」
「うん」
やはり、絞りが甘かったらしい。
改めて俺が締め直してやると、ぴったり十列目だった。
「ちょっときつい」
「腰骨に引っ掛けないと、また落ちるからな」
「そか」
今度、同じようなデザインのベルトを買ってあげようかな。
うにゅほ、お揃い好きだし。
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2015
05.24

うにゅほとの生活1274

2015年5月24日(日)

作務衣の尻の部分が破れてしまったので、裏から布を当てて補修した。
「──…………」
「──……」
「……目立つな」
「うん」
紺青色の作務衣に、薄群青の当て布。
青は青だが色味がまったく違う。
「変、だよな」
「はいてみないと……」
穿いてみた。
「どうだ?」
「パンツみえてるみたい」
予想通りだった。
「こんな仕上がりになるなら、いっそ、アップリケみたいにすればよかったかもなあ」
「あっぷりけ」
完成図を想像する。
「あ、駄目だ。どっちにしろ駄目だ」
「だめ?」
「作務衣の尻に猫の顔があるのを想像してしまった」
「かわいい」
「成人男性の尻だぞ……」
うにゅほのおしりでもギリギリだと思う。
「──…………」
いや、やっぱりアウトだ。
「さむえ、すてちゃうの?」
「いや、捨てない。箪笥の奥にでも仕舞っておくよ」
いちおう祖父の形見でもあるし。
「じゃあ、わたし──」
「サイズが合わないから、駄目」
「えー」
「××、甚平持ってるだろ。そろそろ暖かくなるし、そっち着なさい」
「はあい」
うにゅほは、要らなくなった俺の衣服を欲しがる傾向にある。
構わないと言えば構わないのだが、サイズが違いすぎて下衣が脱げてしまったりするのが悩みどころだ。※1
手ぬぐいやハンカチに加工し直そうかと思ったが、水を吸う生地ではないので、やめた。
面倒だし、ミシン苦手だし。

※1 2013年5月1日(水)参照
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2015
05.23

うにゅほとの生活1273

2015年5月23日(土)

「──……うぐ」
腹部を押さえながら、前傾姿勢で自室の扉を開く。
「◯◯、だいじょぶ?」
「大丈夫……」
普通に腹を下しているだけだから、さほど深刻ではない。
まあ、痛いけど。
「あかだまのんだ?」
「飲んだ」
「なんかへんなのたべた?」
「パンしか食ってないよ」
ずっと一緒にいただろうに。
「ふしぎだねえ……」
うにゅほが小首をかしげる。
「もともと病弱だからな、仕方ない」
ソファに体を横たえると、うにゅほが傍に膝を突いた。
「おなかなでる」
「ありがとう」
うにゅほの右手がへそのあたりをぎこちなく這いまわる。
不思議とくすぐったくはない。
「きもちい?」
「ああ」
手のひらの熱が腹の底に染み込んでいくようだった。
「てをあてるから、てあてっていうんだって」
「それ、前も言ってなかったか?」
「そうだっけ」
そのフレーズが気に入っているらしい。
「俗説らしいけどな」
「ぞくせつ?」
「本当は違うってこと」
「ちがくないよ」
うにゅほが自信たっぷりに言う。
「おなかなでたら、おなかいたくなくなるし、あたまなでたら、あたまいたくなくなるよ」
「そういう意味じゃ──」
「◯◯になでてもらったら、いたくなくなるもん」
「──…………」
そこまで言われてしまっては、否定なんてできない。
「……そうだな、違わないな」
「うん」
なでなで。
通説とか、俗説とか、どうでもよくなる程度には心地いい。
そのまましばらく撫でられていると、五分ほどで腹痛は治まった。
半端な知識なんかより、その事実のほうが重要である。
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2015
05.22

うにゅほとの生活1272

2015年5月22日(金)

マイピクチャを整理していると、三年ほど前に撮った写真が出てきた。
「××、××、ちょっと見てみ」
「?」
うにゅほが顔を上げる。
「わたし?」
「そう」
その写真は、ソファに腰掛けてぼんやり天井を見上げているうにゅほを、こっそり撮影したものだった。
「ちょっと口開いてる」
「わあ!」
うにゅほが慌てて立ち上がり、手のひらでディスプレイを隠す。
「あんまみないでー……」
「可愛いのに」
「かわいくない、かわいくない」
画像ビューアを閉じ、改めてうにゅほを観察する。
「××、ちょっと変わったよな」
「かわった?」
「ああ」
以前より顔色がよくなったし、ずっと表情豊かになった。
そして、
「ちょっと太ったな」
「ふと!」
があん、とうにゅほが凍りつく。
「ああ、違う違う! ××が太ってるって意味じゃない!」
「ふとったって」
「三年前よりってことだよ」
「ふとったって」
「ガリガリが痩せになったからって、前よりかは太ったにしても、太ってることにはならないだろ!」
「ふとったって……」
「……ごめん、表現を誤った」
これまで体重を気にする素振りを見せたことがなかったから、こんなにショックを受けるとは思わなかった。
ああ、ちゃんと女の子しているのだなあ。
風呂上がり、体重計に乗るうにゅほの姿を見た。
体重は教えてくれなかった。
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