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2015
05.21

うにゅほとの生活1271

2015年5月21日(木)

「あ、あー……」
プリンタのインクカートリッジを交換していたところ、人差し指の腹にマゼンタが付着してしまった。
「どしたの?」
「これ」
「!」
うにゅほが息を呑む。
「──ち! ち、ち、ちー、じゃない」
「血じゃない」
「ちじゃなかった」
うへー、と苦笑する。
血にしては色が明るすぎるものな。
「プリンタのインクがついちゃったんだよ」
「エイさんのインク?」
「……えーと、まあ、そうかな」
久し振りに聞いたな、エイさん。
「かして」
うにゅほが俺の左手を取り、細い親指でインクを擦った。
俺のインクは薄くなり、うにゅほの指がピンクに染まる。
「なにやってんだ」
「とれるかとおもって」
「素直に手を洗いに行きましょう」
「そうしましょう」
しかし、プリンタのインクは、そう簡単に落ちなかった。
「どうしよう……」
「ニ、三日ほっといたら落ちるんじゃないかな」
「きになる」
「まあ、気にはなるけど」
うにゅほが落ち着かない様子だったので、「プリンタ インク 手」で検索をかけてみた。
「お」
「わかった?」
「シャンプーで落ちるらしいぞ」
「シャンプー?」
「ああ」
「ビオレはだめなのに」
「そうだな」
うにゅほが小首をかしげる。
「なんで?」
「いや、なんでかは知らないけど……」
「ふうん」
風呂から上がって確認すると、インクは見事に落ちていた。
なにはともあれ、よかったよかった。
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2015
05.20

うにゅほとの生活1270

2015年5月20日(水)

評判がよかったので、プリングルズのマヨチーズポテト味を買ってみた。
「せーのでね」
「はいはい」
「せーの!」
うにゅほの掛け声に合わせ、ポテトチップスを口に放り込む。
チーズともマヨネーズともつかない強い酸味。
「ふうん……」
そこそこ美味しい。
「しょぱ!」
うにゅほには味が濃すぎたようだ。
「◯◯、ぎゅうにゅういる?」
「頼むー」
とてとてとリビングへ向かううにゅほを見送り、もう一枚。
「──…………」
更に一枚。
「……?」
なにかが記憶に引っ掛かる。
「はい、ぎゅうにゅう」
「ありがとう」
ポテトの欠片を牛乳で流し込み、尋ねた。
「××、この味、なんかに似てない?」
「なんかって?」
「なんだろう……」
大きく首をかしげても、耳から答えは出てこない。
「たくさんたべたら?」
うにゅほが、プリングルズの缶に手を突っ込み、五枚まとめて取り出した。
「あーん」
多い。
「──…………」
ボリボリと骨に響く音と共に、極めて塩気と酸味の強い味が口いっぱいに広がった。
これは、そう──
「ふぁんはーはーだ!」
「ちゃんとのみこんで」
「……ハンバーガーだ!」
「はんばーがー?」
「マクドナルドのチーズバーガーそっくりだ」
「へえー」
「似てない?」
「あんまし……」
「ほら、チーズのしょっぱさとピクルスの酸味がさ」
「わたし、ぴくるすきらい」
「あー」
そうだった。
「ぴくるすはいってると、こんなあじするの?」
「かなり近いと思う」
「じゃあ、こんどたべてみる」
「ああ」
「……ひとくちだけ」
酢漬けの苦手なうにゅほだった。
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2015
05.19

うにゅほとの生活1269

2015年5月19日(火)

「……いえ、ゆれてるね」
「ああ」
震える窓、耳障りな家鳴り、暴風が市街地を駆け抜けていく。
「平気か?」
「うん」
「本当は?」
「ちょっとこわい」
「どうしたら怖くなくなる?」
「……てーつなぐ」
「はいはい」
苦笑し、うにゅほに右手を差し出した。
成長しているようでいて、していないようでいて、やっぱりしている。
出会ってすぐの頃は、頭から布団をかぶっていたものな。
「ゆびげ」
「痛い、痛い」
「ごめんなさい」
「暇なのか」
「うん」
「テレビでも見るか?」
「うん」
うにゅほの手を引いて、リビングへと赴いた。
「先週のナイトスクープでいい?」
「いい」
「ナイトスクープ、北海道だと半年ずれてるんだよなあ」
「そなの?」
スリムクラブ真栄田の服装を指さし、
「ほら、コート着てる」
「ほんとだ」
うにゅほが小首をかしげる。
「なんで?」
「いや、俺にもよくわからんけど」
いろいろと細かな事情があるのだろう。
「もともとは関西ローカルで──」
不意に、大きく家が傾いだように感じられた。
「わああ」
いささか間の抜けた声を上げて、うにゅほが俺に抱きついた。
「ゆれた、ゆれた」
「大丈夫だって」
頭を撫でて落ち着かせる。
「地震のほうが揺れるだろ」
「かぜでゆれるからこわい……」
仕方がないので、しばらくのあいだくっついたままテレビを見ていた。
寒かったからちょうどよかった。
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2015
05.18

うにゅほとの生活1268

2015年5月18日(月)

「あ!」
うにゅほが、唐突に、タイルカーペットをばんばんと叩き始めた。
「どうした?」
「が!」
「蛾?」
「ちいちゃいが!」
を、見つけたらしい。
しばらく窓を開けていないのに、いったいどこから湧いて出てくるのだろう。
「蛾、どのあたり?」
「くうきせいじょうきんとこ」
キンチョール☆の缶を手に取り、空気清浄機の傍に膝を突く。※1
「あ、いた!」
そして、うにゅほの指さした先に、大量に噴霧した。
体長1センチほどの小さな蛾がバタバタとのたうち回り、やがてその動きを止める。
同時に、

──ぶおおおおおおおおッ!

空気清浄機が唸りを上げた。
「うお、ニオイランプとハウスダストランプがダブルで真っ赤になってる!」
「ほんとだ!」
初めて見た。
「きんちょーるのせい?」
「他にないだろ」
「ちいちゃいが、はいったとか……」
「──…………」
無言で蛾の死骸を示す。
「あ、そか」
「蛾なんて入ったら大事だぞ」
「そだね」
一枚目のフィルタに引っ掛かると思うけど。
「──…………」
「──……」
「……いちおう確認しとくか」
「うん」
我ながら小心者である。

※1 2014年7月1日(火)参照
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2015
05.17

うにゅほとの生活1267

2015年5月17日(日)

目を覚ますと午後三時だった。
「──……あつ」
胸元を開き、ぱたぱたと風を送る。
ここまでがっつりと寝過ごしたのは久し振りだ。
「あ、おきた」
「……おはようございます」
すぐ傍で漫画を読んでいたうにゅほにぺこりと頭を下げ、マットレスの上であぐらをかいた。
「なんじにねたの?」
「三時くらいだと思うんだけど……」
「じゅうにじかん……」
「……十二時間ですね、はい」
「ぐあい、わるくない? だいじょぶ?」
「──…………」
あふ、とあくびをひとつ。
「……まだ眠い」
これは、たぶん、寝過ぎて眠いのだ。
「あー……」
頭をゆっくりと左右に振りながら、呟くように口を開く。
「具合は悪くないんだけどなあ……」
「からだ、いたくない?」
「痛い」
主に背中が痛い。
「まっさーじしてあげましょう」
「お願いします」
布団を端に折りたたみ、うつ伏せになる。
うにゅほが、俺の両足を挟むように膝立ちになり、親指の腹で背筋を押した。
「ん、しょ」
「──…………」
「ん、しょ」
「──…………」
「きもちいい?」
「──…………」
「……?」
「──…………」
一瞬で眠りに落ちていた。
「◯◯、◯◯!」
「──はっ」
結局、完全に目を覚ますまで三十分ほど掛かってしまった。
なんでこんなに眠かったんだろう。
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2015
05.16

うにゅほとの生活1266

2015年5月16日(土)

祖母の見舞いを終えたあと、うにゅほが泣き止むのを待って帰途についた。
「──…………」
ぐし、とうにゅほが目元をこする。
「……おばあちゃん」
「──……」
「おばあちゃん、いつ──」
そこまで口にして、再びしゃくり上げる。
うにゅほは、祖母の苦しみを傍で見てきた。
うにゅほは、祖母が延命治療を拒否していることを知っている。
うにゅほは、既に覚悟している。
俺と同じように。
「……わからない」
わからないよ、俺には。
早いほうがいいのか、遅いほうがいいのか、その程度のことでさえ。
「──…………」
「──……」
沈黙。
カーステレオから流れる桑田佳祐の歌声だけが、車内を賑やかしていた。
「……××」
「──…………」
「クレープ、食べに行くか」
「……いい」
「じゃあ、俺が食べたいから、付き合ってくれるか」
「……うん」
行きつけのクレープ屋へと立ち寄り、生チョコモンブランクレープを食べた。
うにゅほも、ふたくちだけ食べた。
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2015
05.15

うにゅほとの生活1265

2015年5月15日(金)

うにゅほが首を寝違えた。
「くびいたい……」
「ほら、モーラス貼るから髪の毛持ち上げて」
「はあい」
後れ毛を指で払い、うにゅほの首筋にモーラステープを貼る。
「うう……」
ハクメイとミコチを開きながら、うにゅほが苦しげにうめいた。
「ほんよむといたい……」
「首、傾けて読んだら?」
「したむくといたい」
「じゃあ、腕上げて」
「うん……」
しばしして、
「うでつかれる……」
「横になって読むとか」
「うん……」
しばしして、
「──……すう」
うにゅほの寝息が聞こえてきた。
「××、××」
「う」
「その体勢で寝ると、余計に寝違えるぞ」
「うん……」
そうなると、途端にすることがない。
「ひま」
「そっか」
「さむいねー」
「本当だよな」
「◯◯、くつしたはく?」
「履こうかな」
「わたしもはく」
「そのほうがいいな」
「くびいたい」
「大丈夫か?」
「うん」
「──…………」
「──……」
仕方ない。
俺は、自分の膝を叩いてみせた。
「××、なんかDVDでも見よう」
「でぃーぶいでぃー?」
「パソコンチェアなら回るから、首に負担を掛けないように微調整できるだろ」
「おー」
「……それに、寒いしな」
「そだね」
うにゅほを膝に抱きながら、水曜どうでしょうの中米コスタリカ編を一緒に見た。
今日の作業は進まなかったが、まあいい。
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2015
05.14

うにゅほとの生活1264

2015年5月14日(木)

「──…………」
俺は、あるものの処分に困っていた。
「?」
うにゅほが俺の手元を覗き込む。
「……たこやきキャラメル?」
正確に言うと、大阪限定たこ焼き風味キャラメルである。
「◯◯、またへんなの……」
「誤解だ!」
このキャラメルは友人の大阪みやげであり、意図して購入したものではない。
「そもそも俺は、マズいものが好きなわけじゃない」
「……そなの?」
うにゅほの視線がサルミアッキ周辺へと向かう。
「俺は珍しいものが好きなの!」
「あー」
うんうんと頷く。
なんとなくわかってもらえたようだ。
「たこやきキャラメル、めずらしくないの?」
「うーん、大阪限定って意味では珍しいのかもしれないけど──」
キーボードを叩き、ある単語で画像検索する。
「……じんぎすかんきゃらめる?」
「そう。十年くらい前、爆発的に売れた北海道みやげなんだけどさ」
「おいしいの?」
「クソマズい」
「まずいの……」
「マズいから売れたんだよ」
「えー?」
うにゅほには理解しがたい感覚のようだ。
「ジンギスカンキャラメル以降、マズいご当地キャラメルが雨後のタケノコみたいにぽこぽこ現れ始めた」
「それが、これ?」
「そういうこと」
「ふうん……」
「──でも、わざとマズく作ったものに価値なんてあるか?」
「?」
「それも、何番煎じの出涸らしでさ」
友人には申し訳ないが、決して嬉しいおみやげとは言えない。
「あのまずいあめ──」
「サルミアッキは、フィンランドでは大人気のお菓子なんだぞ。わざとマズく作ったわけじゃない」
「はー」
うにゅほが気圧されたように頷く。
「だから、こういう狙っただけのキャラメルは嫌いなんだ」
「たべないの?」
「……いちおう、ひとつ食べる」
マズかった。
もちろん、うにゅほには食べさせなかった。
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2015
05.13

うにゅほとの生活1263

2015年5月13日(水)

ぐう、と腹が鳴った。
「腹減ったなー」
「うん」
「なんかある?」
「あ、うまいぼうあるとおもう」
「チーズ?」
「ううん」
うにゅほが首を横に振る。
「やさいさらだと、ぎゅうたんしおあじ」
「なんか中途半端だな……」
「そかな」
階下の仏間へ赴くと、うまい棒の30本入りパックがふたつ置いてあった。
「牛タン塩ねえ」
食べてみる。
「……あ、美味い」
後味がちゃんと焼肉している。
癖は強いが、好きな味だ。
「はんぶん」
「はいはい」
食べかけのうまい棒を、うにゅほの口へ差し入れる。
「──…………」
サクサクサクサク
心地よい振動が指先に伝わる。
「おいしい」
「美味いよな」
欲望のまま食べ進め、気づけば牛タン塩味が残り十本を切っていた。
「──…………」
胃のあたりを撫でる。
「……なんか、気持ち悪い」
「だいじょぶ」
「げふ」
意図せずして沸き出したげっぷは、牛タン塩の味がした。
においだけでなく、本当に味がした。
「──…………」
うにゅほが自分の胸を押さえる。
「……けふ」
押し殺したような、ちいさなげっぷ。
「××、大丈夫か?」
「ちょっときもちわるい……」
牛タン塩味のうまい棒は、食べ過ぎると胸焼けしてしまうらしい。
読者諸兄も気をつけるように。
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2015
05.12

うにゅほとの生活1262

2015年5月12日(火)

「××、××」
「?」
うにゅほの眼前に手をかざす。
「すげーぷるぷるしてる」
「!」
ダイソンのハンディクリーナーでたっぷり掃除をすると、いつもこうなってしまう。
「……だいじょぶ?」
「大丈夫」
うにゅほが俺の手を取った。
「まっさーじ、する」
「ありがとう」
もみ、もみ。
もみ、もみ。
華奢な指先が手のひらを刺激する。
「きもちい?」
「ああ」
「なおる?」
「どうかなあ」
経験上、なにもしなくとも明日には治るのだけど。
「だいそん、おもいもんね」
「重いし、震えるしな」
「あー」
うんうんと頷く。
「だいそん、ふるえるから、◯◯のてもふるえるんだ」
それは、なんかちょっと違う気がする。
「──…………」
「──……」
もみ、もみ。
もみ、もみ。
「きもちい?」
「ちょっと痛くなってきた、かも」
「あ、ごめん……」
「今度は腕のほう揉んでくれるか」
「うん」
もみ、もみ。
もみ、もみ。
「いたくない?」
「気持ちいい」
「そか」
しばらくマッサージを受けていたが、手の震えは止まらなかった。
ダイソン重すぎ。
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