2015
04.30

うにゅほとの生活1250

2015年4月30日(木)

「わー……」
感嘆の声と共に、うにゅほが空に手を伸ばした。
白い白い花弁のあいだに新緑の葉が顔を覗かせている。
「さくら、きれいだね」
「ああ」
しかし、いまいちありがたみがないのは、玄関を出て一分のところに立派な桜があるからだろう。
贅沢な悩みではあるが、せっかくなら遠出したいものだ。
「──××、ヨドバシ行くか」
「いく」
即答するのが実にうにゅほらしい。
財布とキーを持ってきていたので、そのままミラジーノに乗り込んだ。
「なにかうの?」
「ちょっとな」
実を言うと、ヨドバシカメラへ行くのが目的ではない。
新川沿いの通りを札幌駅に向かって南下していくと、
「わあー……!」
そこに桜並木があった。
散り際の桜が枝を震わせ、その花びらがアスファルトを化粧している。
「すごいね!」
「俺も最近知ったんだけど、日本一の桜並木って言われてるんだってさ」
「にほんいち!」
「長さがな」
「ながさ!」
うにゅほのテンションが高い。
桜、好きだもんな。
俺もだけどさ。
「はー……」
「この桜並木を見ようと思って」
「すごいねえ……」
「ぐるっとUターンして、もっかい見るか?」
「ヨドバシは?」
「ヨドバシは──」
桜並木を通るための口実だ。
特に用事があったわけではない。
「ヨドバシのかえり、またみよう」
「……そうだな」
電器屋さん、好きだもんな。
俺もだけどさ。
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2015
04.29

うにゅほとの生活1249

2015年4月29日(水)

ソファに腰を掛けながら、うにゅほが靴下を履いていた。
「──…………」
じ、と見つめる。
「?」
黒とピンクのボーダー柄。
爪先の生地が薄くなってきている。
しかし、いま気になっているのは別の事柄だ。
「××さ、立って靴下履けないの?」
「たって?」
「できないと運動不足なんだって」
「えー」
うにゅほが、片方の靴下を持ったまま立ち上がった。
「やってみる」
そろそろと右足を上げる。
ふらふらと重心が傾く。
あ、これは危ないな。
靴下を履くために背中を丸めようとして、
「わ、わ、──わぶ!」
俺の胸元に顔から突っ込んだ。
「大丈夫か?」
「ぶー……」
鼻を打ったらしい。
「××、運動不足だな」
「◯◯、うんどうぶそくじゃないの?」
「……運動不足だけど、最低限の筋トレはしてるだろ」
腹筋とか、背筋とか、その場足踏み千回とか。
「××は脚力が足りないんだな」
「あし?」
うにゅほが、葡萄踏みの娘のようにスカートを持ち上げた。
あのくらい足踏みができれば、立って靴下を履くなんて余裕なのだろうけれど。
「……スクワットとかしてみる?」
「あたまにてー?」
「それは、まあ、どっちでもいいけど」
ぱん、ぱん、と手を打ち鳴らす。
「さあ、何回できるかやってみましょう」
「はい!」
「あ、靴下履いてからな」
「うん」

結果:七回。

「……運動不足だな」
「はっ、は、は、うん、はー」
「足踏みとスクワット、どっちがいい?」
「あ、しぶみ……」
だろうなあ。
「あと、散歩とかも行こうな」
「……さんぽがいい」
だろうなあ。
俺は、窓の外を見やった。
春である。
散ってしまう前に、うにゅほと桜を見に行こう。
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2015
04.28

うにゅほとの生活1248

2015年4月28日(火)

「──……ぐ、」
両腕を天に突き上げ、吠える。
「終わったァー……あ!!」
「おわったの?」
「ああ、ひとまずは」
なにをしていたかと言えば、大したことはしていない。
ただ、作業量は膨大だった。
「おつかれさま」
うにゅほが俺の肩をやわやわと揉む。
「あ、かたい」
「肩だけに」
「ぶふっ」
うにゅほが吹き出した。
「うふ、かただけに、ふふふ……」
不意のダジャレに弱いのは相変わらずである。
というか、恥ずかしいからそんなにウケないでほしい。
「おきゃくさん、こってますねえ」
「凝ってますか」
「すごいかたいよ」
肩だけに。
「──……うん」
二度目はさすがにやめておこう。
「きもちいい?」
「ああ」
肩の凝りには無力だが、気持ちいいのは嘘じゃない。
耳元で弾む息づかいが心地いい。
かぼそい指先が愛らしい。
触れた場所から疲れが溶け出していくような気がする。
「──……あ、ふぅ」
あくびを噛み殺す。
「◯◯、ねむい?」
「ちょっとだけ」
「ひるねする?」
「しようかな」
気がついた瞬間、眠気が急に強くなった気がした。
「……三十分経ったら起こして」
「さんじゅっぷんでいいの?」
「仮眠は、三十分くらいがちょうどいいんだってさ」
「そうなんだ」
起床したのは二時間後だった。
うにゅほはちゃんと起こしてくれたのだが、俺の「もうすこしもうすこし」が始まったのだそうな。
「つかれてたんだね」
「……そうかも」
フォローまでさせてしまった。
甘やかされてるなあ、と思うのだけど、あまり改める気はしないのだった。
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2015
04.27

うにゅほとの生活1247

2015年4月27日(月)

きのこのひみつを紐解きながら、うにゅほがぽつりと呟いた。
「えりんぎは、えりんぎ……」
「──…………」
「しめじは、しめじ?」
「そうそう」
「いろんなきのこのってる」
「美味しそうなの、あった?」
「これ」
うにゅほが、作りものじみた赤いきのこの写真を指さした。
「たまごたけ、あかくてかわいい」
「……食えるのか?」
真っ赤だけど。
「たべれるらしい」
真っ赤なのに。
「これ、かざりたいな」
「食べたくは?」
「ない」
なるほど。
「他に、面白いきのこは?」
「うと、やまぶしたけ、とか」
「ヤマブシタケ……」
ぺらぺらとページを繰り、
「これ」
「うわ、なんじゃこりゃ。毛玉?」
チアリーダーが使うポンポンのようだ。
「たべられるんだって」
「美味いのかな」
「わかんない」
「こんなの落ちてたら、つい拾っちゃうな……」
「あと、こんなのある」
「どれどれ」
うにゅほの講釈に耳を傾ける。
うまいこと知識欲を刺激することができたようだ。
「これ返しに行ったとき、きのこの図鑑でも借りてみようか?」
「うーん……」
ちいさく首をかしげ、
「それより、べつのよんでみたい」
と言った。
「そーかそーか」
うにゅほの頭をぐりぐり撫でる。
まんがでよくわかるシリーズはあくまで導入だ。
そのうち、うにゅほが本当に興味を抱くものが現れるだろう。
それがなんなのか、楽しみである。
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2015
04.26

うにゅほとの生活1246

2015年4月26日(日)

知識欲を満たす快感をうにゅほに知ってもらうためには、やはり図書館であろうという結論に至った。
検索用端末に「まんがで」と入力し、画面をスクロールする。
「──あった!」
学研の、まんがでよくわかるシリーズ。
これこそ俺の求めていたものだ。
「××、こういうの読んでみない?」
「……まんがでよくわかる、トランプのひみつ?」
「他にもたくさんあるぞ」
将棋のひみつ、
化石のひみつ、
統計学のひみつ、
アイスクリームのひみつ、
衛星多チャンネル放送と衛星通信のひみつ──
「……節操ないな」
「うん」
「でも、面白そうじゃないか?」
「うーん」
「一冊借りてみよう」
「うん」
「どれがいい?」
「うと……」
しばらく悩んだのち、うにゅほが画面を指さした。
「きのこのひみつ」
「××、そんなにきのこ好きだったっけ」
うーん、と小首をかしげる。
「ふつう?」
「なら、どうしてきのこなんだ?」
「えりんぎ、ほんとにしめじじゃないのかなって」
「……?」
なにを言っているのだろう。
「◯◯、しめじがおっきくなったのが、えりんぎだって」※1
「──…………」
そんな冗談を言った気もする。
「あー、そうだな、ちゃんと調べないとわかんないもんな」
「うん」
なんであれ、興味を持ってくれたのなら僥倖だ。
「じゃ、これ借りて帰ろうな」
「うん」
まあ、エリンギはエリンギ、しめじはしめじなんだけども。

※1 2014年3月16日(日)参照
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2015
04.25

うにゅほとの生活1245

2015年4月25日(土)

弟がディスプレイを買い換えると言うので、古いほうを貰い受けることにした。
俺のPCはもともとデュアルディスプレイである。
つまり、
「……やっちゃったぜ」
禁断のトリプルディスプレイに手を出してしまいました。
「──…………」
漢字の「品」の形に設置されたディスプレイを見て、うにゅほが恐る恐る口を開いた。
「◯◯、はっかーになるの……?」
なりません。
「ディスプレイ増やしたくらいでハッカーになれたら世話ないって」
「じゃあ、こんなにどうするの?」
「──……」
「──…………」
どうしよう。
正直なところ、「やってみたかった」というのがいちばんの理由である。
グラボも換装したばかりだったし。
「……まあ、うん、広いぶんには困らないから」
「そかな」
「ほら! なんか適当に動画とか見てみようぜ」
「うん」
うにゅほを膝に乗せ、レンタルしてあったゲームセンターCXのDVDを再生する。
「なんのゲーム?」
「バトルゴルファー唯だって」
「ゴルフ?」
「たぶん」

十分後──
ずっと上を向いているためか、だんだん首のあたりが疲れてきた。
「……××、首痛くない?」
「いたくないよ?」
「そっか」
なるほど、俺の膝のぶんだけ視点が高いからか。
トリプルディスプレイを活用するために乗り越えなければならない障壁は、まだいくつかあるらしい。
「ちょいと失礼」
「わ」
俺は、うにゅほを抱え上げると、チェアの座面を限界まで上げた。
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2015
04.24

うにゅほとの生活1244

2015年4月24日(金)

「◯◯、◯◯!」
「うん?」
「きょう、きせいじゅうだって」
差し出されたiPhoneにテレビ番組表アプリが表示されていた。
「金曜ロードショーか」
「うん」
「……見るの?」
「うん」
「えっと、大丈夫か?」
「だいじょぶ」
うにゅほが鼻息荒く頷いてみせる。
まあ、アニメは最後まで見れたのだし、たぶん大丈夫だろう。

放映開始から十分後、

「──ナぅ!」
謎の奇声と共に、うにゅほが両目を覆い隠した。
「だめ、だめ!」
実写版の「ぱふぁ」に耐えられなかったらしい。
「ほら、テレビ消したよ」
「……ほんと?」
「本当」
「ミュートじゃない?」
「なんでそんなことしなきゃならん」
うにゅほがショボショボと目蓋を開き、ほっと安堵の息を吐いた。
「映画、観に行かなくてよかったな」
「うん……」
「映画館だと逃げ場ないもんな」
「だいじょぶとおもったのに……」
「人間、駄目なもんは駄目なものだよ」
「でも」
うにゅほの頬にそっと触れる。
むにむにして心地よい。
「でも、昔よりずっと、いろんなことが大丈夫になっただろ」
「……そかな」
「初めて会ったころなんて、古畑任三郎で怖がってたじゃないか」※1
「あー……」
きまり悪そうに、うにゅほが苦笑する。
「あれは、うん、その、ふしぎ」
「だから、そのうち、寄生獣だって見られるようになるよ」
グロ耐性のついたうにゅほ、というのも、いまいち想像がつかないけれど。

※1 2011年11月30日(水)参照
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2015
04.23

うにゅほとの生活1243

2015年4月23日(木)

「──いよし、できた!」
日立製の電動ドライバーで五連のウォールハンガーをビス止めし、ほっと息をついた。
「おー」
「斜めってない?」
「うん」
うにゅほが小首をかしげる。
「でも、なにかけるの?」
「言ってなかったっけ」
「いってなかった」
「ここにベルトを掛けようと思ってさ」
「べると……」
クローゼットの扉を開き、内側を示す。
「ほら、いままでずっとネクタイラックに無理矢理引っ掛けてたから」※1
「あー」
「それに、ちょっとしたインテリアにもなりそうだし」
「なるかなあ」
「なるなる」

掛けてみた。

「ならなかった……」
「うん」
ベルトをインテリアにする、という発想自体は間違っていなかったようなのだが、
「ベルトがみんな中折れしてるのがなあ……」
「へろへろしてる」
ネクタイラックに掛ける際、半分に折り曲げていたのがよくなかったらしい。
「まあ、便利だからいいけど……」
最低限の仕事は果たしている、はず。
「ね、◯◯」
「うん?」
「わたしのベルト、かけていい?」
「いいけど……」
うにゅほが、穿いていたジーンズから細身のベルトを抜き取った。
「はい!」
「──…………」
そういえば、うにゅほの持っているベルトってこれ一本だけだったっけ。
「ズボン下がらないか?」
「だいじょぶ」
「……なら、いいか」
真ん中のフックにうにゅほのベルトを掛けると、なんだかすこしマシになったような気がした。
使わないベルトとか、処分しようかなあ。

※1 2014年3月9日(日)参照
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2015
04.22

うにゅほとの生活1242

2015年4月22日(水)

ネットで注文したパソコンチェア用の低反発座布団がようやく届いた。
「おー、こりゃいいわ」
チェアの座面と同じ大きさだから、敷いている感覚がない。
そのくせ、厚みのある低反発ウレタンが、体重を見事に分散してくれている。
ちょっと高かったけど、買ってよかった。
「すわりたい、すわりたい」
「はいはい」
うにゅほに席を譲る。
「うへー」
「どうだ?」
「もちもちしてる」
「いいよな」
「うん」
リクライニングで遊ぶうにゅほを眺めていて、ふと、おまけがあるらしいことを思い出した。
ダンボール箱の底を漁る。
「……LOVEプレゼント梱包材?」
それは、「L」「O」「∨」「E」「ハートマーク」をかたどった五つの小さなスポンジだった。
どう使えと。
「それなにー?」
「……おまけ?」
「らぶ」
「LOVEとは限らないぞ」
四つのスポンジを並べ替え、
「ほら、VOL3」
「ハートは?」
「──…………」
VOL3の上に、ハートマークを逆さにして置いた。
「バーミヤン」
「──…………」
「──……」
「……ふ、ふふふ、ばーみやん……くふ、ばーみやん……」
うにゅほが静かにウケている。
ツボだったらしい。
「××、××」
「?」
今度はディスプレイの上に置いてみる。
「バーミヤン」
「ぶっ!」
うにゅほが吹き出した。
なにに使えばいいかわからなかったが、しばらくうにゅほの笑いを取れそうである。
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2015
04.21

うにゅほとの生活1241

2015年4月21日(火)

「──…………」
スタンドミラーを覗き込みながら眉毛を整えていたところ、抜き過ぎてしまった。
「××、眉毛短くなっちゃった……」
「ほんとだ」
「さすがに変だよなあ……」
「そかな」
抜くことは容易だが、生やすことは難しい。
生え揃うまで麿でいるしかないのだろうか。
「あ、そうだ」
いいことを思いついた。
「××、化粧ポーチ貸して?」
「けしょう……」
うにゅほが小首をかしげる。
「ほら、母さんに買ってもらったのがあるだろ」
「あー」
いくら化粧をしないからって、無頓着にも程があるような。
うにゅ箱から取り出した化粧ポーチを受け取り、中身をあらためる。
「なにするの?」
「アイブロウ」
「……あいぶろ?」
「どうしようもないから、眉毛を描き足すんだよ……」
こんなギャル男みたいな真似はしたくないのだが、背に腹は代えられない。
麿でいるよりかは幾分かマシである。
「まゆげかくの?」
「ああ。あんまり好きじゃないんだけど……」
「じゃ、わたしかいてもいい?」
そういう意味じゃない。
「……ま、今回は練習みたいなもんだから、好きにやってくれい」
「うん」
うにゅほが、ぽんぽんとふとももを叩いた。
「……膝枕?」
「うん」
え、横から?
まあ、いいか。
五分後、修正に修正を重ねて星飛雄馬のような眉毛になった俺がいた。
ふたりで大笑いしたあと顔を洗ったら、タオルに黒い筋が引かれてしまった。
ちょっと虚しくなった。
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