2015
02.28

うにゅほとの生活1189

2015年2月28日(土)

「──◯◯!」
自室へ戻るなり、うにゅほが俺の腕を取った。
「どうした?」
「きて!」
ふんすふんす、と鼻息荒い。
素直に腕を引かれて行くと、そこは洗面所だった。
「これ」
「……身長計?」
うにゅほが指さしたのは、二十年以上ものあいだ壁を飾り続けている子供用の身長計だった。
「測ったの?」
「うん」
「あれ、目盛り狂ってるって話しなかったっけ」
「した」
身長計に背中を預け、
「ん」
と催促する。
「はいはい」
うにゅほの頭に手を乗せ、身長を測ってみた。
150センチまでしか計測できないから、はみ出たぶんを考慮して──
「……163センチ、くらいかな」
「ね?」
同意を求められましても。
「つまり、すこし目盛りがずれてても、数字の上ではこれだけ伸びてるんだから、ちょっとくらいは大きくなってるはず──ってこと?」
「そう」
言いたいことはわかるが、論理的には間違っている。
どう伝えようかと思案して、
「……ふむ」
ここはひとつ、うにゅほをからかって遊ぼうと考えた。
「じゃあ、××は5センチくらい成長したと」
「たぶん」
「うーん、俺は、背が伸びる前のほうが、ちいさくて可愛いと思うんだけどなあ……」
「!」
うにゅほが硬直する。
「──…………」
「?」
ずり。
頭頂部の位置が下がっていく。
「こら、膝を曲げるな」
「──…………」
あ、ちょっと悲しそう。
やり過ぎたかな。
「冗談、冗談。大きくなっても可愛い可愛い」
なでなで。
「……ほんと?」
「本当だけど、そもそも、身長伸びてないと思うぞ」
「えー……」
コンベックスで身長を測り直してみると、152.2センチだった。
誤差を考えると、たぶん151センチ前後。
まったく変わっていない。
「……うー」
うにゅほが不満げに唸る。
これだけ変化がないということは、うにゅほの成長期は、たぶんとっくに終わってるんだろうなあ。
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2015
02.27

うにゅほとの生活1188

2015年2月27日(金)

「──……っ」
左腕が暖かい。
助手席のうにゅほが、俺の腕に額を押し付けていた。
祖母が「死にたい」と漏らすたび、うにゅほが傷ついていくのがわかる。
毎日だったお見舞いも、週に一度になってしまった。
「……大丈夫だから」
根拠のない言葉で誤魔化しながら、右手でうにゅほの髪を梳く。
ほつれた髪の毛は指に従い、驚くほど素直に整った。
うにゅほの呼吸が落ち着くのを見計らって、俺は口を開いた。
「帰り、図書館寄ってこうか」
「──…………」
こく。
頷き、顔を上げる。
うにゅほの目は、すこしだけ赤くなっていた。
市立図書館は、祖母の病院と自宅とのちょうど中間にある。
最近はあまり立ち寄っていなかった。
「今日、金曜日だよな」
「……うん」
「じゃ、やってるな」
「うん」
安心して図書館へ向かうと、休館日だった。
「何故……」
自動ドアの向こうに「図書整理日」と掲げられた看板がある。
なんだかよくわからないが、とにかく運が悪いことだけは確かだった。
「えーと、××──」
うにゅほを見ると、
「──……ぶぇ」
思いきり泣きそうになっていた。
「あー、よしよし」
「ぶー……」
図書館のエントランスでうにゅほの体を抱き締めてやりながら、ぼんやりと曇り空を見上げた。
なんだか俺も泣きたいよ。
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2015
02.26

うにゅほとの生活1187

2015年2月26日(木)

「お」
ニュースサイトを巡回していたとき、面白い商品を見つけた。
「××、これどうよ」
「どれー?」
「えーと、ラケット型電撃──」
電撃殺虫器、蚊ットリくん。
ひどく読み上げにくい商品名だった。
「かっとりくん?」
あ、読まれた。
「……うん、ラケットのガット部分に電気が流れて、それで虫を殺すんだって」
「あぶない」
「虫にとってもな」
ネーミングセンスはさておき、悪くない発想だと思う。
あって困るものでもあるまい。
ポチろうかとマウスを手に取ったとき、
「うーん……?」
うにゅほが大きく首をかしげた。
「危ないのは確かだから、やめとこうか?」
「うと、ちがくて」
「違うのか」
「うん」
うにゅほが右手を掲げ、見えないラケットで素振りをする。
「……あたるかなあ」
「当たらないことはないと思うけど」
「だって、ハエたたきあたんないのに……」
「でも、当たったら一撃で──」
そこで言葉を止め、うにゅほの真似をして右手を幾度か振ってみた。
当たれば一発で仕留められる。
しかし、よく考えると、それはハエたたきも同じことではないか。
「よし、やめよう」
「うん」
無駄遣いはよくない。
ネット通販は手軽すぎるのが難点だ。
こうして、うにゅほと相談してからでも、注文を確定するのは遅くない。
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2015
02.25

うにゅほとの生活1186

2015年2月25日(水)

「──……うん?」
サブディスプレイをぼんやり眺めていると、twitterで心理テストが流れてきた。
暇していたし、ちょうどいい。
「××」
「?」
うにゅほが顔を上げる。
「今日は、友達の誕生日。あなたは」
「そなの?」
「いや、違う違う。心理テスト心理テスト」
「あー」
「今日は友達の誕生日。
 あなたは、本当のプレゼントの前に、びっくり箱を渡して友達を驚かせることにしました」
「しないよ?」
「……うん、俺もしないけど、たとえな」
「はい」
「んで、そのびっくり箱の、びっくり、箱の……」
待て。
この心理テスト、まさかシモ系ではあるまいな。
そんな危惧が脳裏をよぎったが、ここまで来て止めるわけにもいくまい。
シモならなんとか誤魔化そうと心に決め、続きを読み上げた。
「びっくり箱の中身はカエルのおもちゃなのですが、そのカエルは何色だったでしょうか。
 一番、緑。
 二番、赤。
 三番、黒。
 さあどれだ?」
「みどり」
うにゅほが即答する。
「かえるは、みどりいろ」
「……うん」
なにかが違う気がしないでもない。
「◯◯は、なにいろ?」
「俺は赤かな」
イチゴヤドクガエルって、赤いし。
「結果は──ええと、あなたのユーモア度だって」
「ゆーもあど?」
「緑は、60パーセント」
「あかは?」
「80パーセント」
「ゆーもあどって、なに?」
「……さあ?」
高ければ高いほどユーモアがあると言いたいのはわかるが、三択で百分率を持ち出されても困る。
「心理テストって、だいたいこんなもんだよ」
「ふうん……」
あまり盛り上がらなかった。
心理テストなんて信じてはいないが、せっかくならもっと面白いやつがいい。
試しに探してみようかな。
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2015
02.24

うにゅほとの生活1185

2015年2月24日(火)

「そういえば──」
ベッドに寝そべりながらサナギさんの新刊を読みふけるうにゅほに声を掛けた。
「それ、どんな感じだ?」
「?」
うにゅほが顔を上げる。
「サナギさん?」
「いや、サナギさんじゃなくて、マットレスのほう」
「あー」
ぽふぽふ。
マットレスを叩きながら小首をかしげ、
「きもちい」
と答えた。
「気持ちいいか」
「うん、ふかふかしてる」
「そっか」
それならよかった。
「◯◯は?」
「俺は、その──」
正直、いまだによくわからない。
寝心地が良いのは間違いないが、それが良質の睡眠に繋がっているという実感が持てない。
俺の睡眠障害は、相当根が深いようだ。
「買ってよかった、とは思う」
「ほんとう?」
「本当」
うにゅほが喜んでくれたから、ではない。
「俺、ちゃんとしたマットレス敷いたベッドに憧れてたんだよね……」
「そなの?」
「そうなの」
ベッドで寝ていた時期はあるが、マットレスではなく、底板の上に煎餅布団を敷いただけのものだった。
「それに、ほら、部屋がすっきりしただろ」
厚みのあるマットレスによって、曖昧だった寝床と床との境界線が明確になった。
それだけで、部屋がぐっと垢抜けて見える。
「……そう、かな?」
「そうです」
「そだね」
「そうそう」
鷹揚に頷くと、うにゅほが微笑んだ。
ここらで一枚、クレジットカードの明細書が怖い。
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2015
02.23

うにゅほとの生活1184

2015年2月23日(月)

「──……う」
うにゅほのベッドで目を覚まし、ぼやけた天井をしばらく見上げていた。
マットレスの寝心地は、よくわからない。
ただ、眠りは深くなった気がする。
うにゅほはどう感じているのだろう。
後で聞いてみようと思いながら、枕元に手を伸ばした。
「……あれ?」
眼鏡がない。
目を細めて必死に探すも、見当たらない。
おかしいな。
ソファからベッドへ移るとき、いったん必ず眼鏡を掛けるのに。
考えられる場所すべてを手探りで捜索するも、視力0.03の俺には限界がある。
予備の眼鏡は?
あるはずだが、置き場所がわからない。
眼鏡を探すために眼鏡を探す、というのは、あまりに馬鹿らしい。
仕方ない、うにゅほに頼もう。
リビングへ通じる扉を開くと、うにゅほらしき人影がソファに腰を下ろしていた。
「××、おは──」
「わ」
よく見えないが、慌てたような気配。
「おはよう」
「おは、ようございます」
こと。
テーブルの上に、なにか置いた?
「──……?」
近づいてみる。
わからない。
もっと近づき、触れてみる。
手に馴染んだ感触。
「……××」
「はい」
「眼鏡が気になるなら、言ってくれればいいのに」
「ちが!」
眼鏡を掛けると、うにゅほがあたふたしながら首を横に振っていた。
「俺の眼鏡、××が持ち出したんじゃないの?」
「ちがう」
「違うのか」
「めがね、ここにあったの」
「ここ、って──」
うにゅほが、テーブルの一角を指さした。
「……なんで?」
「わかんない」
そりゃそうか。
嘘をついている様子はない。
というか、うにゅほはこんなことで嘘をつかない。
思い出せないが、たぶん、ベッドへと移動する際にトイレにでも立ち寄って、そこでなにかがあったのだろう。
「でも、さっき眼鏡掛けてたよな」
たぶん。
「う」
うにゅほが絶句する。
「ごめんなさい……」
「あ、いや、責めるつもりじゃなかったんだけど……」
「あそんでました……」
「遊んでたのか」
「はい」
「そうか……」
どうしよう、この空気。
「……パン焼いてくれる?」
「はい」
「二枚な」
「うん」
ブランチを終えるころには、すっかりいつものふたりに戻っていた。
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2015
02.22

うにゅほとの生活1183

2015年2月22日(日)

母方の実家で家系図を見せてもらった。
といっても、巻物などではない。
家族史を編纂している親類がいて、そのひとにプリントアウトしてもらったものらしい。
「へえー」
「いち、に──」
うにゅほが、下から順に指先で名前を遡っていく。
「さん、よん、ご!」
「五代前って、すごいな……」
俺たちの世代は記載されていないので、祖父の祖父の祖父くらいまで遡及できるということだ。
「兄ちゃん兄ちゃん」
「うん?」
弟が、家系図のある一点を指さした。
「もへ」
「……もへ?」
「あ、もへ」
もへ。
三代前の遠い親戚の名前が「もへ」さんだった。
昔の女性の名前って、サイコロで適当に決めたようなものばかりだと思う。
「もへ……」
うにゅほが忍び笑いを漏らした。
ひとつ面白い名前を見つけると、もっと面白い名前を探してしまうのは人間の性である。
「もせ」
「もせ!」
「てへだって、てへ」
「てへぺろ?」
「ぺろいないか、ぺろは」
「いや、ぺろはさすがに犬でしょ」
家系図に記された百名前後の親類のうち、もっとも印象的だったのは、
「……きゃう?」
だった。
「きゃう──って、ぺろよりすごいんじゃない?」
「きゃう!」
「たぶん、キョウって発音するんだろうな」
「きょう?」
「歴史的仮名遣いってやつだ」
「はー……」
うにゅほが溜め息をつき、呟くように言った。
「むかしのひとのなまえ、おもしろいねえ」
「そうだな」
キラキラネームの相当だと思うが、こちらのほうが味がある。
歴史を感じた一日だった。
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2015
02.21

うにゅほとの生活1182

2015年2月21日(土)

「さんふくろ、いれすぎとおもうなあ……」
「一袋じゃ少なすぎるって」
俺は、クノールのコーンスープをドロドロに濃く作るのが好きである。
「えんぶん」
「お茶飲むから大丈夫」
そもそも低血圧なのだから、塩分過多を気にするほうが間違いだ。
「……ひとくち」
「はいはい」
どろりとしたスープをひとさじすくい、うにゅほの口元へ運ぶ。
「──…………」
「濃すぎる?」
うにゅほが複雑そうな顔で、
「こいけど、おいしいけど、こい……」
と答えた。
和やかにスープを飲んでいたとき、不意に急ブレーキの音が耳朶を打った。
「!」
うにゅほと顔を見合わせる。
祖母の病院へ行った両親が帰ってきたのかもしれない。
「見に行こう」
「うん」
両親の寝室へ急ぎ、自宅正面の道を窓から見下ろした。
「……あれ」
「だれもいない、ね」
たぶん、通りすがりの車が、たまたまブレーキを強く踏み過ぎたのだろう。
「よかったー」
うにゅほが、ほっと胸を撫で下ろす。
まったく人騒がせな。
スープが冷めないうちにリビングへ戻ると、
「──……?」
うにゅほが不思議そうな表情を浮かべてあたりを見回した。
「どうかした?」
「スプーン、ない……」
「ないって──」
うにゅほの手元を見る。
持っていない。
カップの周囲にも見当たらない。
「寝室行くとき、持ってったんじゃないか?」
「そうかも」
しかし、両親の寝室を隈無く探しても、うにゅほのスプーンが見つかることはなかった。
跡形もなく消えてしまったのである。
「……わたし、スプーンつかってたよね?」
「そこから?」
うにゅほの使っていたスプーンは、こうして日記を書いている今もなお発見されていない。
思い入れのない安物のプラスチックスプーンだから問題はないが、いまごろスープが乾いてカピカピになっているんだろうなあ。
ほんと、どこやったんだ。
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2015
02.20

うにゅほとの生活1181

2015年2月20日(金)

「××、ちょっとテーブルどけて!」
「てつだ──」
「手伝ってくれるなら、テーブル!」
「は、はい!」
てんやわんやののち、
「──よし、設置完了!」
「ぴったしだ」
すのこの上に置かれた、分厚いポケットコイルマットレス。※1
いままで便宜的に「うにゅほの寝床」と呼称していたが、これからは「うにゅほのベッド」として差し支えあるまい。
「ね、すわってみていい?」
「寝てみてもいいぞ」
うにゅほがマットレスに腰を下ろし、しずしずと矮躯を横たえる。
「……わ」
「どんな感じだ?」
「──…………」
無言で俺のシャツを引く。
寝てみればわかる、ということらしい。
うにゅほの隣に寝そべると、言わんとするところがなんとなく理解できた。
「……これは、なんと言えばいいのか」
「かた──く、ない?」
「柔らかくもない」
「おもしろい」
くふ、とうにゅほが笑い声を漏らした。
仰向けに寝るだけで背筋がピンと伸びるような、不思議な寝心地である。
「◯◯、ねていいよ」
「昼寝?」
「うん」
特に眠くもないのだが。
「◯◯、さいしょにねてほしいな」
うにゅほがベッドから下り、俺の体に丹前を掛けた。
たぶん、今日もソファで寝ることになる俺を気遣ってのことだろう。
そういうことなら、ありがたく。
「……おやすみ」
「うん、おやすみなさい」
大きく息を吐き、目蓋を下ろした。
横になると腰が痛むのが当然だったから、ふかふかしてどうにも落ち着かない。
三十分ほどうたた寝して、目を覚ました。
いい品物なのは間違いないが、慣れるまで時間が掛かりそうである。

※1 2015年2月4日(水)参照
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2015
02.19

うにゅほとの生活1180

2015年2月19日(木)

「◯◯、◯◯」
「?」
「ストローみつけた」
うにゅほの手に、曲がるタイプの真っ黒なストローがあった。
「つかう?」
「いや──」
烏龍茶の入ったペットボトルを視線で示し、告げる。
「俺、直飲みだからなあ」
「……つかわない?」
「うっ」
残念そうな顔をされると、弱い。
「その、グラスに氷を入れて飲むときは」
「つかう?」
「……かもしれない」
「まってて!」
二分後、氷を入れたグラスを両手に携えて、意気揚々とうにゅほが戻ってきた。
「おちゃいれてー」
「はいはい」
ひとつのグラスに二本のストロー、なんてことにならなくて安心した。
グラスのふちギリギリまで烏龍茶を注ぎ、ストローで掻き混ぜる。
しばらく俺の真似をしていたうにゅほが、ストローの先を、ちゅう、と吸った。
「つめたい!」
「そっか」
「ストローでのむと、おいしい」
うにゅほが、ほにゃっと笑う。
つられてひとくち。
「うん、冷たい」
「ね」
テーブル代わりに使っている冷蔵庫の上に、うにゅほがグラスを置く。
すると、
「わ!」
ぴょん、とストローが飛び出した。
グラスが深すぎて、浮力に耐え切れなくなったらしい。
「……これ、半分くらいまで一気に飲まないと駄目そうだな」
「うう……」
喫茶店のストローは、もっと細い。
ファーストフードのドリンクに蓋がついているのは、摩擦係数を上げるためなのだろうか。
「──けぷ」
「無理して飲むと、おしっこ近くなるぞ」
「だいじょぶ」
グラスの中身を減らすと、ストローは飛び出してこなくなった。
注ぎ過ぎたな、うん。

[2/20 追記]
ストローが飛び出したのは、烏龍茶のあとに飲んだペプシネックスのときだったかもしれません。
炭酸でなければ浮かないようです。
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