2014
10.31

うにゅほとの生活1069

2014年10月31日(金)

ソファに斜めに腰掛けながら、うとうととナニコレ珍百景スペシャルを眺めていたときのことだった。
「──あっ」
俺に寄り掛かっていたうにゅほが、ちいさく声を上げた。
そして、画面を遮らない絶妙な位置に仁王立ちし、
「とり、あ、とりーと!」
「──……鳥?」
今日がハロウィンであることに思い至るまで、数秒を要した。
「仮装はしないのか?」
「……かそう?」
朝のニュースを流し見た程度の知識しかなさそうである。
俺も人のことは言えないけれど。
「まず、掛け声が違う」
「とり?」
「トリック・オア・トリート」
「とりっく、おあ、とりーと」
「お菓子くれなきゃイタズラするぞ、って意味らしい」
「へえー」
うんうんと頷く。
やはり、わかっていなかった。
「まあ、言われたからには仕方ないな」
自室へ戻り、輪ゴムで留めた食べかけの袋を手に取った。
「麦チョコだけど、いいか?」
「わあ!」
うにゅほが両手をおわんにする。
「──…………」
「──……?」
唐突な沈黙に、うにゅほの頭上からハテナが顔を出す。
いいことを思いついた。
輪ゴムを外し、あー、と大口を開く。

──ざららららららっ!

「!」
麦チョコが、ひとつぶ残らず俺の口のなかへと消えていった。
ボリボリと咀嚼し、嚥下する。
「美味い」
「むぎちょこ……」
「××、よし来い!」
「……?」
「お菓子くれなきゃ、イタズラするんだろう?」
「あー……」
ぽす。
その場で膝をついたうにゅほが、ソファの座面にくたりと突っ伏した。
思った以上に麦チョコが楽しみだったらしい。
「──…………」
トリック・オア・トリートで遊ぼうかと思ったのだが、それどころではないようだ。
「××、麦チョコもう一袋あるぞ」
「ほんと?」
「ああ、なんかどうでもよくなったから、ふたりで食べよう」
「うん!」
我が家はハロウィンとは縁遠そうである。
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2014
10.30

うにゅほとの生活1068

2014年10月30日(木)

「♪~」
起毛素材のネグリジェに袖を通したうにゅほが、機嫌よく髪を乾かしていた。
「その寝間着──」
「?」
ドライヤーを切り、こちらへ振り返る。
「なにー?」
「いや、このネグリジェ、もう出したんだなって」※1
うにゅほの肩を撫でる。
ふかふかと滑らかな手触りで、いかにも暖かそうだ。
「うん、もうさむいから」
「今年の冬は、気が早いよなあ」
「ねー」
うにゅほの髪の毛に触れる。
「かわいてる?」
「ああ、乾いてると思う」
すくなくとも、指通りは滑らかだ。
ブローを終えたうにゅほが、長い髪の毛をシュシュでふたつにくくり、前に垂らした。
寝癖がつかないよう、掛け布団の上に出しておくのだそうだ。
「前から思ってたんだけど──」
記憶を掘り起こす。
「髪の毛が外に出てるのって、最初だけだよな」
「……そなの?」
「起きたとき、どうなってる?」
「おきたときは──……」
しばし黙考し、首を横に振る。
「わかんない」
意識していなければ、そんなものかもしれない。
「起きたとき、シュシュ外れてない?」
「はずれてる」
「髪の毛よれてない?」
「……よれてる」
「寝返りは、まあ、どうしようもないからなあ」
「うーん……」
腕を組み、真剣に考え込んでしまった。
女の子には、俺の想像もつかない、いろいろな悩みがあるのだろう。
「──…………」
まあ、今回は俺が増やしたようなものだけど。

※1 2013年11月2日(土)参照
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2014
10.29

うにゅほとの生活1067

2014年10月29日(水)

パソコンチェアを時計回りに90度回転させ、両足をぴたりと下ろす。
上体を前方に傾け、両手で掴んだ肘掛けに体重を預けながら、おもむろに立ち上がる。
そして、ゆっくりと背筋を伸ばした。
「──よし!」
「◯◯、きょう、かくかくしてる」
「腰が痛くてさ……」
急な体勢の変化に耐えられないのである。
「せいこついん、いく?」
「まあ、うん、それが手っ取り早いんだけどな」
「いかないの?」
「──…………」
めんどくさいとは言いづらい。
「……ほら、昨日三ヶ所も病院行ったからさ」
「あー」
うにゅほが、うんうんと頷く。
やはり、病院の待ち時間は退屈だったようだ。
「あしたいく?」
「明日の様子次第かな」
「じゃあ、たいそうする?」
「……それに関して、すこし思うところがある」
「?」
「いままで、腰が痛くなってから慌ててストレッチしてたけど、よくなった試しがないんだよな」
「そうなんだ」
むしろ、悪化した覚えしかない。
「腰痛が起きたときは、まず姿勢をよくして、安静にしてるのが賢い気がする」
「なるほど」
「だから、今回はそうしてみようかなと」
「そか」
面倒なのは確かだが、こちらも嘘ではない。
試してみる価値はあるだろう。
「じゃあ、まっさーじもしない?」
「あー……」
しばし思案し、
「マッサージは、お願いしていいか?」
「うん」
うにゅほのふんわりマッサージであれば、よくも悪くも影響はないだろう。
しかし、リラックス効果は抜群である。
ちいさな手のひらで腰を揉んでもらいながら、うとうととまどろんだ。
これはこれで贅沢な一時だと思った。
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2014
10.28

うにゅほとの生活1066

2014年10月28日(火)

会計を済ませ、うにゅほのもとへと戻る。
「おわった?」
「ああ、終わった。
 ……病院、三ヶ所も付き合わせて悪かったな」
「ううん」
うにゅほが首を横に振る。
そう言ってくれるのは、わかっていた。
「××、いま何時?」
「うーと、よじ、さんじゅうにふん」
「一軒につき、だいたい一時間ってとこか……」
このまま帰るのは申し訳ない。
しかし、遊びに行くにはいささか遅い時刻だ。
「──…………」
うにゅほの靴を出してやりながら、なにかないかと思案する。
「あめふってる」
「今日、ずっと天気悪いもんなあ」
「うん」
行きつけのクレープ屋は自宅を挟んで正反対だし、コンビニで手軽に済ますのも芸がない。
そんなことを考えながら、自動ドアをくぐったときのことだった。
「わ!」
「いてっ!」
空からの不意打ちに、思わず玄関へ取って返す。
「ゆきだ……」
「……雪というか、霰だな」
湿った氷の粒が、雨と同じ速度で降り注いでいる。
「はつゆき?」
「初雪は初雪だけど、もっとこう、ひらひらと降ってきてほしいもんだよなあ……」
「そだねえ……」
霰はすぐに雨へと戻り、俺たちはそのあいだにミラジーノへと乗り込んだ。
秋の背中が見えた気がした。
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2014
10.27

うにゅほとの生活1065

2014年10月27日(月)

小腹が空いたので冷蔵庫を開いたが、おやつじみたものを見つけることはできなかった。
「しゃーない……」
四個入り98円のベビーチーズを開封し、銀紙を剥がす。
おやつというより、おつまみである。
「あ、チーズたべてる」
録画してあったモヤさまを弟と一緒に見ていたうにゅほが、目ざとく俺を指さした。
「××も食べるか?」
「たべる」
「兄ちゃん、俺にも」
「はいはい」
ふたりにベビーチーズを手渡し、自室へと戻った。
「──…………」
胃のあたりを撫でる。
やはり、チーズひとつでは満たされない。
ふわふわ大福のついでに購入してあった特濃ミルクキャンディで急場を凌ぐことにしよう。

口のなかでコロコロと飴玉を転がしていると、モヤさまを見終わったうにゅほが部屋に帰ってきた。
「♪~」
右手に、剥き身のチーズを持ったまま。
「……××、それふたつめ?」
「?」
うにゅほが首を振る。
「じゃあ、今までずっと食べてたの?」
「うん」
壁掛け時計を見上げる。
あれから三十分は経っているはずなのだけど。
「えーと、ちょっと食べてみて」
「はい」
ソファに腰を下ろし、体積を半分ほどに減らしたベビーチーズを口元へ運ぶ。
そして、その角をちょっぴりだけ前歯で削り取った。
「──…………」
なるほど、時間がかかるはずである。
「なんでそんな、ちょっとずつしか食べないんだ?」
「チーズ、しょっぱい」
「ああ……」
わからないではない。
だから酒のつまみになるんだもの。
「べつにいいけど、指がチーズくさくならないか?」
「──…………」
すんすん。
うにゅほが自分の指先を嗅ぐ。
「あー……」
くさかったらしい。
「食べ終わったら手ー洗ってきな」
「うん」
うにゅほが残り半分を食べ終えるまで、二分とかからなかった。
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2014
10.26

うにゅほとの生活1064

2014年10月26日(日)

「──……あふ」
手で隠しもせず大あくびをする。
体調が芳しくないからと、終日部屋に篭もりきりではいけない。
なにかが音を立てて磨り減っていくようだった。
「出掛けるかー……」
「うん!」
嬉しそうに頷いたあと、うにゅほが瞳を翳らせた。
「……あ、でも、だいじょぶ?」
「あんまり大丈夫じゃないけど、このままだともっと大丈夫じゃなくなる気がする」
「ふうん……」
「寝てどうなるもんでもないしな」
下手に睡眠をとると、今度は夜に眠れなくなってしまう。
それだけは避けたかった。
「××、どこか行きたい場所ある?」
「うと……」
うにゅほが小首をかしげる。
「……うー……」
かしいだ首の角度が深くなっていく。
「──……んと、うと」
はっ、と首の位置が戻り、今度は反対側に傾いていった。
面白い。
「……まあ、無難にヨドバシでも行こうか」
「あ、いいねー」
うにゅほは物事を決めるのが苦手である。
不安がないわけではないが、今すぐにどうにかできる問題でもない。

「──失敗だったかな」
人混みを避けるように歩く。
日曜のヨドバシカメラは、たいそう盛況のようだった。
「はー……」
「ふー……」
揃って溜め息をつく。
「ヤマダ電機なら空いてたな……」
「そだね」
「お、マッサージチェアがあるぞ」
「ほんとだ」
すこし休んでいくことにした。

「──はっ」
と我に返ると、五分ほど意識が飛んでいたようだった。
最近のマッサージチェア、やばい。
隣席のうにゅほを覗き込むと、
「…………すぅ……」
「──…………」
マジ寝だった。
疲れていたのかもしれない。
いちばん安いマッサージチェアをおばさん店員におすすめされながら、うにゅほが起きるまで待っていた。
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2014
10.25

うにゅほとの生活1063

2014年10月25日(土)

「××、いま何時?」
「んー……」
くしけずる手を止め、うにゅほが視線を落とす。
「にじ、じゅう……いっぷん!」
「そうか、ありがとう」
「うへー……」
うにゅほが照れたように笑みを浮かべた。
誕生日に腕時計を贈って以来、たまに時間を尋ねることにしている。※1
理由は、喜ぶからである。
「──お、ちょうどいま、俺からの誕生日プレゼントぜんぶ揃ってるじゃん」
「ほんとだ」
いつも胸元を飾っている琥珀のペンダントは、一昨年のプレゼント。※2
右手に持った本つげ櫛は、去年のプレゼントである。※3
「むてきだ」
「無敵か」
「うん、むてき」
言葉の意味はよくわからないが、たぶんよつばと!の台詞かなにかだろう。
最近読み返しているみたいだし。
「来年のプレゼント、なににしようかなー」
「あ、だめだよ」
「大丈夫、当日まで教えないよ」
「ちがくて」
「……?」
うにゅほの言葉に首をかしげる。
「つぎ、わたしのばん」
「プレゼントするのが、ってことか?」
「そう」
「──…………」
可愛いことを言ってくれる。
「それじゃ、次の誕生日も期待させていただこうかな」
「う」
うにゅほが目を伏せる。
「そこまでは……」
「そこは自信満々に頷いてくれよ」
「だって、まだきまってない」
「あと──ええと、二ヶ月半か。楽しみにしてます」
「はい」
あまりプレッシャーを掛けないよう、適当に会話を打ち切った。
結局のところ、うにゅほが俺のために真剣に選んでくれたものなら、なんだって嬉しいのだ。
「──…………」
それが俺の感性に沿うものであれば、もっと嬉しいけど。

※1 2014年10月15日(水)参照
※2 2012年10月15日(月)参照
※3 2013年10月15日(火)参照
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2014
10.24

うにゅほとの生活1062

2014年10月24日(金)

前髪を掻き上げたまま、手を止める。
「……髪、伸びたなあ」
「そかな」
うにゅほが小首をかしげた。
「ながくないよ?」
「長いとは言ってないよ」
最後に床屋へ行ったのはいつのことだったろうか。
たぶん、二ヶ月は経っているように思う。
「とこやのおじさんとこ、いくの?」
「あー、どうしようかな……」
剃ったばかりの顎を撫でる。
「短いほうが好きだけど、これはこれでメリットがないではない」
「ないではない」
「寝癖が直せるってのは大きいよなあ」
「ないではない」
「気に入ったのか」
「うん」
俺の髪は、太く、硬い。
床屋の伯父をして「針金のようだ」と言わしめるのだから、まさに筋金入りである。
散髪直後の寝癖は、手櫛に耐え、ドライヤーに耐え、最終手段であるはずのシャワーすら物ともしない。
蒸しタオルに至っては、皮膚のほうが先に音を上げる始末だ。
「××はどう思う?」
「?」
「今の髪型」
「うん、ないではない」
「──…………」
うにゅほの両頬をつまんで、うにうにとこね上げる。
「どーうーおーもーうー!」
「うぶぶ」
ぱ、と離す。
「どう思う?」
「……ないではない?」
うにゅほの両頬を手のひらで挟み、うりうりとこねまわす。
「おりゃー!」
「あうあうえう」
そんなことをして遊んでいるうちに、髪のことはどうでもよくなってしまった。
そのうち、そのうち。
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2014
10.23

うにゅほとの生活1061

2014年10月23日(木)

「ん、あれ……」
枕元に積み重ねられた漫画を整理する。
見当たらない。
「どしたの?」
「いや、耳栓がないんだよ」
「ねるときのやつ?」
「そう」
俺はソファを寝台にしているのだが、うにゅほが起きたあとはそちらへ移動する。
だから、うにゅほの寝床の枕元に耳栓がないとおかしいのだ。
「普段はこのあたりに置くんだけど」
「ないねえ……」
目蓋を下ろし、記憶を探る。
両耳から耳栓を抜いた覚えはあるが、それだけだ。
「さむえのポケットは?」
「あー、なるほど」
洗濯物カゴに畳んで入れてあった作務衣を調べる。
「あった?」
「……いや、ない」
「どこだろうねえ……」
二手に分かれ、耳栓を捜索する。
デスクには、ない。
トイレには、当然ない。
冷蔵庫には、もちろんない。
「××、あった?」
「ないー……」
うにゅほが肩を落とす。
「このままだと、◯◯、ねれない」
「ああ、いや、新しい耳栓はあるんだよ」
「あるの?」
「ほら」
本棚の奥から未開封のサイレンシアを取り出した。
「……◯◯、ねれないかとおもった」
「悪い、言葉が足りなかったな」
「よかったー」
うにゅほが胸を撫で下ろし、ほにゃっとした笑みを浮かべる。
いい娘だ。
「でも、耳栓の行方は気になるな。
 起きてから耳栓を外すまで、そう動くとも思えないんだけど……」
「うーん」
頭をひねったところで見つかるものでもない。

それから、数時間ほど経ったころだった。
「あ!」
寝床の上でうつ伏せになって足をぱたぱたさせながら漫画を読んでいたうにゅほが、不意に声を上げた。
「みみせんあった!」
「え、どこに?」
「まくらもと」
「最初に探したはずだけど……」
うにゅほの手のひらの上に載せられた耳栓を、じっと観察する。
ふたつとも、いびつな形をしていた。
「なんで潰れて──、あっ!」
理解した。
「俺が枕元を探したときは、本に潰されて表紙にくっついてたんだ……」
道理で見つからないはずである。
「よかったね」
「ああ、ありがとな」
せっかくうにゅほが見つけてくれたのだ。
換えどきかと思っていたが、もう数日は使うことにしよう。
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2014
10.22

うにゅほとの生活1060

2014年10月22日(水)

家族で焼肉を食べに行った。
「はー……」
年季の入った店舗を見上げ、うにゅほが感嘆の息を漏らす。
「××、ここ初めてだったっけ」
「はじめて」
「ボロいだろー」
「うん!」
失礼ながらも楽しげに頷く。
建物は古びているが、それがいかにも昭和めいていて物珍しいのだろう。
「おい、行くぞー」
がらりと音を立て、父親が引き戸を開ける。
店内は、薄く煙っていた。
「けむりすごい」
換気が弱いのである。
「──…………」
「いこ」
「ちょい待ち」
うにゅほの肩を掴む。
「?」
「このまま行くと、たぶん、髪がえらいことになるぞ」
「あー」
どう見ても、普通の焼肉屋より煙がひどい。
アウターとして羽織ってきたパーカーを脱ぎ、うにゅほの肩に掛ける。
「髪を仕舞って、フードかぶるといいよ」
「◯◯、さむくない?」
「店のなかは暑いだろう」
「あ、そか」
パーカーのファスナーを上げながら、うにゅほが笑顔で言う。
「ありがと」
「どういたしまして」
フードの上からぽんぽんと頭を撫でた。
「あ、壁とか手すりとか脂でべたべただから、なるべく触らないほうがいいぞ」
「すごいねえ……」
それでいて客足が絶えないのは、味がいいからだ。
満腹で帰宅したあと、うにゅほの髪に鼻先をうずめたところ、ちゃんとシャンプーの香りが残っていた。
これはいい。
今後、焼肉を食べるときは、俺のパーカーを着せることにしよう。
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