2014
06.30

うにゅほとの生活946

2014年6月30日(月)

「──……ぅ……」
すっかりのぼせてしまった。
湯船で読書するのを控えるつもりはないが、自分の限界について考える必要はありそうだ。
バスタオルで体を拭き、甚平の下衣を身に着ける。
上衣は、まあ、涼んでからにしよう。
湯だった頭でそう思い、脱衣所を後にした。
渾身の力で手すりを掴みながら、なかば全身を引き上げるようにして階段をのぼっていく──
「──…………」
が、十段めで力尽きた。
めまいがする。
吐きそうなほど気持ちが悪い。
その場に座り込み、階段の段鼻に背中を預けた。
「──……あー」
情けない。
階段も上がれないのか。
テレビの喧騒に聞き入りながら体力の回復を待っていると、
「──◯◯?」
上方から声がした。
さらに反り返ると、逆光を背負ったうにゅほの姿が目に入った。
「どしたの……?」
「……んー」
なんと言えば心配をかけずに済むだろう。
すこし考えて、
「のぼせちゃいまして……」
素直に伝えることにした。
「のぼせたの?」
「あー」
「たてない?」
「……ちょっと、手ー貸してくれる?」
「!」
うにゅほの肩を借り、自室へと辿り着いた。
「はー……」
ごろん。
うにゅほの寝床で横になる。
「◯◯、どしたらいい……?」
「このまま寝てれば、よくなるよ」
「ほかには?」
「……えー、涼しいほうがいいかな」
「わかった」
うにゅほがリビングへ行き、うちわを手に戻ってきた。
「あおぐよー」
ありがたい。
マハラジャ気分でうとうとしていると、だんだん湯冷めしてきた。
「……寒い」
そう呟くと、
「はい!」
頭まで毛布を掛けられた。
湯船で読書は、二、三十分に留めておこう。
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2014
06.29

うにゅほとの生活945

2014年6月29日(日)

「ガツみかうめー……」
「うめー」
「××のはパインだろー」
「ふへー」
母親に似てか、うにゅほはパイナップルが好きらしい。
ガリ。
みかんの果肉を齧り取る。
「はー……」
それにしてもガツンとみかんは美味い。
赤城乳業、いい仕事をする。
「──そーいや、ガリガリ君あんま買ってきてなかったな」
うにゅほはガリガリ君ソーダ味が好きである。
好きと言うか、棒アイスではガリガリ君一択というイメージがある。
「あんましうってなかった……」
うにゅほが、ちょっと悔しそうに呟いた。
「そっか」
ガツンとみかんの数が相対的に増えたのなら、うにゅほには悪いが僥倖である。
ガリガリ君は好きだが、いささか食べ飽きた。
そんなことを考えながら齧り進めていると、
──カチッ。
「!」
なにか硬いものが歯に触れた。
口の中から、それを取り出す。
「……種?」
「たね?」
「ほら」
指先でつまんだ種を、うにゅほの眼前に差し出した。
「みかんのたねかな」
「ブドウの種だったらびっくりだな」
製造過程で混入したのだろう。
原材料の種なのだから、取り立てて気にすることもない。
丸い種を指で弾き、ゴミ箱に捨てた。
「あっ」
うにゅほがゴミ箱に手を突っ込も──
「ノウッ!!」
慌ててゴミ箱を確保する。
「なにをする!」
「え……、たね、うえようかなって」
「うん、品種改良した果物って種から育たないらしいよ!」
「そなの?」
「そう」
「ふうん……」
なんとか納得してもらえたようだ。
こころもちうにゅほから遠い場所にゴミ箱を置き、そっと胸を撫で下ろした。
読者諸兄、特に男性の方々にならば、俺の心情を察していただけるだろう。
わからない方は、わからないままのあなたでいてください。
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2014
06.28

うにゅほとの生活944

2014年6月28日(土)

「あぢぃ……」
自室の窓を全開にし、風を通しても、なお暑い。
「アイス食おう……」
ソファから腰を上げようとして、うにゅほに押しとどめられた。
「わたしもってくる。なにがいい?」
「なんでもいいよ」
残り僅かだったはずだから、選ぶ余地もない。
小走りで部屋を出て行ったうにゅほが、
「なかったー……」
肩を落として帰ってきた。
「……あー」
家族の誰かが食べたのだろう。
「しゃーない、買いに行くか……」
膝に手をつきながら、のそりと立ち上がる。
体が重い。
重力が1.5倍になったような──という表現は、我ながら正鵠を射ていると思う。
「──……あの」
くい。
シャツの裾が引かれた。
「わたしかってくる」
「……アイスを?」
「うん」
「ひとりで?」
「うん」
「──…………」
待て。
待て待て。
「え、大丈夫か……?」
「うん!」
うにゅほが自信満々に頷いた。
大丈夫、だ。
大丈夫のはずだ。
炎天下というほどではないし、コンビニまでの距離だってせいぜい1kmくらいのものだ。
買い物だって日常的にこなしている。
だのに、胸中で渦巻くこの不安はなんなのだろう。
「──……わかった、頼むよ」
「はい!」
財布を入れたポシェットを提げ、うにゅほは元気よく出掛けていった。
漠然とした不安を抱えながら、まんじりともせず待ち続ける。
「ただいまー!」
うにゅほが帰宅したのは、一時間近くも経ったころだった。
「おかえり──、って!」
「うへー」
両手に提げたレジ袋にいっぱいのアイスを詰め込んで、満足げである。
「すごい買ったな……」
「おもかった」
そりゃそうだろう。
「……えーと、ありがとな」
「うん!」
うにゅほの頬に手を添えて、親指の腹で目元を撫でた。
そして、冷凍庫に入りきらなかったアイスをふたりで食べきり、仲良く腹を壊したのだった。
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2014
06.27

うにゅほとの生活943

2014年6月27日(金)

「ばせどーしびょう?」
「バセドウ氏病」
「ばせどうしびょう」
「バセドー氏病でもバセドウ病でもいいんだけど、とにかくそれ」
血液検査の結果、再発が確認された。
家族として、うにゅほにも詳しい説明をしておかねばなるまい。
「……どんなびょうき?」
「えー、簡単に言うとだな──……」
視線を巡らせながら言葉を探し、
「──簡単に言うと、体が意味なく頑張っちゃう病気、かな」
「いみないの?」
「意味あって頑張ってるなら、ただの頑張り屋だろ」
「あー」
「首元にある甲状腺っていう器官から、壊れた蛇口みたいにホルモンがダダ漏れになってるわけだな」
「ホルモン?」
「食べないほうのな」
「うん」
わかってるのかなあ。
「車に喩えると、走ってないのにエンジンぶおんぶおん吹かしてる状態」
「ふうん……」
「すると、どうなると思う?」
「……ガソリンなくなる?」
「無くなるし、エンジンも焼けつくな」
「あ、だからてーあついの?」
「そうそう」
間違いではない。
「だから、なんもしてなくても疲れるし、だるい」
「そっかー……」
うにゅほの背後に回り、両肩に手を置いた。
「……××、ドラゴンボールって読んだことあるよな」
「ごくう?」
「そう。あれで、重力が何倍にもなる部屋が出てきたろ」
「でてきた」
「あれに似てる」
「にてるの?」
「俺だけ、1.5倍の重力室にいるみたい」
「──…………」
うにゅほが、青い顔で振り返った。
俺のつらさを具体的に想像してくれたのだろう。
「あの」
「大丈夫大丈夫。慣れてるし、薬もある。半月もすれば多少はよくなるよ」
「でも……」
「それに、恩恵もあるし」
「?」
「この病気って、痩せるんだよな……」
不健康この上ない痩せ方だが、メリットじみたものがあるだけましだと思おう。
「ほんとにきついときだけ、今みたいに肩貸してくれな」
「うん、うん、あげる……」
「……くれるの?」
「うん……」
何故か、うにゅほの肩をもらってしまった。
動揺しすぎである。
そのうち、この話を持ち出して、ちょっとからかってやろうと思った。
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2014
06.26

うにゅほとの生活942

2014年6月26日(木)

「──手が熱い」
「?」
「指を鳴らしたら火が出るかもしれない」
「でるの?」
「出ない」
うにゅほのほっぺたを両手で包み、
「あ」
ぶにい、と押し伸ばす。
「あぷい」
「な、熱いだろ」
うんうん、と頷く。
「ねつありそう」
「あるだろうなあ」
「はからない?」
「測らない」
「うー……」
俺は、体温計不要論者である。
ただし風邪に限る。
よくわからないけど、基礎体温とかは測ったほうがいいと思います。
「××、心配しなくていいよ。病院行くから」
「いくの?」
「行く」
「よかったー……」
うにゅほが、ほっと胸を撫で下ろした。
心配性だもんなあ。
「かぜかな」
「風邪──……じゃ、ないと思う」
「?」
「嫌な予感、というか、確信があるんだ……」
「なに?」
「数日中にわかる」
かかりつけの病院で採血をし、帰宅した。
明日には結果が出る。
間違いなくあれだろう。
心配そうなうにゅほの頭をうりうりと撫でて、ソファに腰を下ろした。
薬が増えようと、もうなにも感じない。
不健康であることに慣れすぎてしまったのだろうな。
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2014
06.25

うにゅほとの生活941

2014年6月25日(水)

しばらく前から気になっていた餃子の王将へ行ってきた。
「へえー」
うにゅほが店内を見渡す。
「ぎょうざだけじゃないんだ……」
「ちょっとした中華料理チェーンってかんじだな」
案内された席に横並びで座り、メニューを開く。
「ね」
「ん?」
「きょくおうてんしんはん、だって」
「きょくおう……?」
うにゅほの指さした1枚メニューを見ると、「極王炒飯」「極王天津飯」の文字があった。
「お、美味そうだな」
「うん」
「ルビ、ごくおうって振ってあるけどな」
「ごくおう」
見るからに高級そうなメニューのわりに680円と手頃だったので、このふたつとエビチリを注文することにした。
「お待たせしましたー」
おばちゃん店員が、炒飯と天津飯を同時に運んできた。
エビチリは後から来るらしい。
「──ほっ」
スプーンを口にくわえながら、うにゅほが息を漏らした。
「ごくおうてんしんはん、おいひい」
呟きながら、またひとくち。
「ほムライスみたい」
「あー」
構成物は同じだもんな。
あーんしてもらうと、たしかに中華風オムライスといった味わいだった。
これで680円なら、安い。
「ごくおうちゃーはんは?」
「──……うーん」
口元を手で隠しながら、唸る。
「……食べてみるか?」
「うん」
大きく開けたうにゅほの口に、スプーンを差し入れる。
「──…………」
もぐもぐ。
「おいしい」
「まあ、美味しいんだけど……」
「?」
「俺にとっての炒飯の基準って、あの店だからさ」
そう言って、個人経営の中華料理店の名を出した。※1
「……あそこ、おいしかったねえ」
味を思い出そうとするかのように、うにゅほの口元がもごもごと動く。
「だから、少なくとも、あそこの炒飯よりは美味しくないってことになってしまうわけで」
「うん……」
炒飯にしなければよかった。
「またいきたい」
「ちょっと遠いからなあ……」
餃子の王将は悪くない。
あの中華料理店が美味しすぎただけである。

※1 2012年6月25日(月)参照
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2014
06.24

うにゅほとの生活940

2014年6月24日(火)

「ぶー……──」
仕事を終え、作業テーブルに突っ伏した。
「おつかれさまー」
「おーう」
タンブラーを受け取り、キンキンに冷えたペプシネックスをすする。
「しごと、おおかったの?」
「多かった、けど、それ以上にだるい……」
ここ数日ほど、けだるさがずっと続いていた。
風邪かと思っていたが、どうやらそうではないらしい。
嫌な持病が再発していそうな気配がする。
「……だぁ!」
「!」
ペプシを一気に飲み下し、立ち上がった。
「気分転換!」
「きぶんてんかん」
「散歩行こう、散歩」
「よるだよ?」
窓の外は、とっぷりと暗い。
「夜ったって、まだ九時だろ」
「くじはよるだよ」
「とにかく、いつもと違うことがしたいんです」
「うーん」
「気が乗らないなら、俺ひとりで──」
「いく」
言葉を遮られた。
ぶれない娘である。
とりあえず、最寄りのコンビニへ向かうことにした。
「──……はー……」
深く呼吸をすると、新鮮な空気に肺が歓喜した。
「──…………」
うにゅほが俺の腕を取り、もぞもぞと歩いている。
「暗いな」
「くらい……」
最寄りのコンビニへと通じる道路は、住宅街と住宅街とを繋ぐ細い田舎道だ。
橙色のナトリウムランプが両脇の木々を不気味に照らしている。
「──……う」
俺から見ればただの夜道だが、うにゅほにとっては心霊スポットとなんら変わらないらしかった。
別のコンビニにすればよかったかな。
「××、怖いときは空を見る」
「……そら?」
「空は怖くないだろ」
「うん」
「あとは、俺の腕を離さないように」
「はい」
そのまま数分も歩くと、うにゅほも暗い夜道に慣れたようだった。
ただ、ローソンの店内が眩しくて仕方なかったけれど。
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2014
06.23

うにゅほとの生活939

2014年6月23日(月)

ソファに突っ伏してうとうとしていると、頭を撫でられる感覚があった。
目を開かなくとも、誰の手かわかる。
それがなんとなく心地よくて、そのまま意識の錨を下ろそうと──
「あ、ふけ」
「──…………」
すっと眠気が失せた。
「……フケ出てる?」
「でてる」
「どのくらい?」
「うーと……」
うにゅほの指先が、わきわきと髪を掻き分ける。
「金田一耕助くらい?」
「きんだいちしょうねん?」
「そのジッチャンな」
「ふうん」
あまり興味はなさそうだ。
「ふけ、おとす?」
「どうやって?」
「ばばばーっ、て」
頭上で、右手を激しく動かすような気配がした。
「飛散するからいいです」
「そだね」
「それに、汚いだろ」
「?」
「フケ」
「きたないの?」
「え、汚くないの?」
「わかんない」
「……汚いか汚くないかの二択であれば、汚いんじゃないか?」
「あ、しらが」
聞いてない。
まあ、ばっちいばっちいと嫌がられるより、ずっといいけれど。
「どこに生えてる?」
「まえのほうだよ」
指先で生え際をなぞられる。
「てっぺんにはないの?」
「てっぺんは──……、ない!」
「前だけかー」
戯れに髪の毛をいじられるのって、こんなに心地いいんだな。
よし、久し振りに、うにゅほの髪の毛で遊んでやろう。
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2014
06.22

うにゅほとの生活938

2014年6月22日(日)

「──よっ、しょ」
乾いた洗濯物を抱え、うにゅほが自室の扉を開いた。
「◯◯の、◯◯の、わたしの、◯◯の──」
作業テーブルの上に洗濯物の束を置き、慣れた手つきで選り分ける。
「──…………」
ちいさく折り畳まれたうにゅほの下着をぼんやり眺めていたとき、ふと気がついた。
「その甚平、俺んじゃないよ」
「これ?」
うにゅほが、浅葱色の和服を指さした。
「これ、◯◯のだよ」
「えっ」
そうだっけ。
いやでもここ数日のあいだに甚平を着た覚えはないぞ。
「じんべ、おじいちゃんのかたみなんだって」
「あ、そうなの?」
なるほど形見分けか。
そういえば、母親は、バンドが伸縮するタイプの腕時計を持ち帰っていたっけ。
「んじゃ、着てみようかな」
「うん」
生活スペースの奥に身を隠し、服を脱ぐ。
「……あれ」
着ている途中、気づいた。
「××、これ甚平じゃないよ」
「ちがうの?」
「作務衣だ」
「さむえ?」
寝室スペースに戻り、うにゅほの前でくるりと回る。
「……?」
きょとんとしている。
「じんべじゃないの?」
「作務衣」
「さむえって?」
「長袖長ズボンの甚平──って認識で、たぶんいいと思う」
起源を辿るといろいろ違うのだろうが、見た目の差異はそんなものだ。
「へえー」
うにゅほが、うんうんと頷く。
「◯◯のじんべ、わたしがきたら、さむえになるの?」
「あー……」
サイズ的にそうなるものな。
「……甚平として作られたんだから、甚平だと思う」
「そっかー」
言葉の定義は難しい。
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2014
06.21

うにゅほとの生活937

2014年6月21日(土)

「──……ん」
熱い。
布団からのそのそと抜け出ると、僅かに開いた窓から流れ込む外気に思わず溜め息が漏れた。
「あ、おきた」
うつ伏せで読書をしていたうにゅほが、背筋を反らすように上体を起こした。
「ぐあいわるい?」
「だるい……」
いつものに加え、すこし風邪っぽいかんじもする。
本格的に夏が来る前に、なんとか治してしまわなくては。
「すなっくぱいんあるよ」
「スナックパイン?」
「すなっくぱいん」
「なんだそれ」
「ぱいなっぷる」
「それはわかる」
「うーと……」
小首をかしげながら、うにゅほが思案する。
「パイナップルのお菓子?」
「ちがう」
違うのか。
「さくさくしててね、あまい」
「ドライフルーツ?」
「どらいふるーつ?」
「干し椎茸の果物版」
「ちがう」
「……じゃあ、パイナップルの品種なのか?」
「そう、ひんしゅ」
ああ、ようやく答えが見えてきた。
「メロンのあじがするんだよ」
「──…………」
遠くなった。
「……なに、メロンなの?」
「すなっくぱいん」
「パイナップルなんだよな?」
「ぱいなっぷる」
「──…………」
メロンっぽい味がするパイナップルって、パイナップルなのか?
「でね、かわのね、でこぼこしたのを、ちぎってたべるの」
「……皮を食べるのか?」
「かわはたべない」
「皮ごともぎって食べるのか」
「うん」
なんとなく正体が掴めてきた。
果肉が脆く、手で簡単に千切ることのできるパイナップルなのだろう。
「ちょっと食べてみたいかな」
「とってくるね」
小走りでリビングへ向かったうにゅほが、肩を落として帰ってきた。
「……ぜんぶたべちゃったって」
「あー……」
スナックパイン。
ちょっと気になるが、買ってまで食べたいとは思わない。
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