2014
05.31

うにゅほとの生活917

2014年5月31日(土)

照りつける太陽が俺たちを呼んでいた。
「さんぽ、さんぽいこ」
うにゅほが俺の袖を引く。
「はいはい」
犬か。
もともと犬っぽいけど。
「じゃ、中学校の奥のほうの道でも探索してみるか」
「おー」
このあいだGoogle Earthを見ていて気づいたのだが、アスファルトが途切れた先にも道が続いているようなのだ。※1
「あ、ついでに通帳の記帳もしてこよう」
「うん」
「きなこ切れてたっけ」
「まだある」
適当に支度して、家を出た。
「──……あー」
影の色が濃い。
夏とまでは言えないが、初夏と呼んでも構うまい。
「ちゅうがっこう、うんどうかいだって」
「へえー」
晴れてよかったと言うべきか、この暑いのに、と言うべきか。
「××、混ざってくれば?」
「やだ」
「俺も嫌だな」
「うへー」
うにゅほが、間の抜けた声で笑った。
喧騒の横を通り過ぎ、さらに奥へと進んでいく。
「なんかある」
「ああ、除雪機だな」
野ざらしのわりに、状態は悪くない。
誰かが管理しているのだろう。
緑の生い茂るのどかな野道を歩いていくと、やがて開けた場所に出た。
「あー……、なるほど、ここに出るのか」
「ゆきすてば?」
「そう」
堆雪場。
除雪、排雪した雪をダンプカーで集め、重機によって積み上げていく場所である。
いまだ解けきることのない雪山を見上げ、口を開く。
「なんか、ティラミスみたいだな」
茶色い泥と白い雪が層をなし、おどろおどろしいスイーツのようだ。
「てぃらみすって、ケーキ?」
「ああ」
「こすとこにあったやつ?」
「ああ」
「……そっか」
ティラミスに対する好感度が不当に下がる音がした。

※1 2014年5月28日(水)参照
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2014
05.30

うにゅほとの生活916

2014年5月30日(金)

髪を切った。
姿見の前で前髪を掻き上げる。
さっぱりして気分がよかったので、思わずシャツを脱ぎ捨てた。
「──……ふン!」
両腕を上げ、ダブルバイセップスを決める。
相変わらず、なんの運動もしていない人間とは思えないほどの逆三角形である。
体脂肪が内臓に集中していそうだ。
そのままサイドチェストに移行しようとしたとき、
「──ただいまー!」
うにゅほの声が階下から響いた。
慌ててシャツをかぶり、何事もなかったように家族を出迎える。
「おかえり、面白かった?」
「おもしろかった!」
「母さんたちも?」
「うん、面白かったよ」
母親の隣で、弟も頷く。
「◯◯もくればよかったのに」
「あー……」
しばし言葉を探し、
「……ほら、床屋行かなきゃだったから」
「そっかあ」
それで誤魔化されてしまうのだから、微笑ましいような、心配のような。
「××、兄ちゃんミュージカル嫌いだって言ってたよ」
「おいこら!」
余計なことを。
「みゅーじかる、きらい?」
「嫌い──というか、食わず嫌いだな。演劇は好きなんだけど」
歌って踊る意味がわからない、というか。
「でも、すごかったよ」
「凄かったか」
「しゃんでりあがね、こっちきて、おちるの」
「ああ、シャンデリアが落ちて怪人が死ぬんだっけ」
「兄ちゃん、それたぶん金田一」
楽しそうに話すうにゅほを見て、ほんのわずかだけ後悔がよぎった。
いや、でも、どうかなあ。
同じ機会が巡ってきたとして、今度は一緒に行くだろうか。
行く気もするし、行かない気もする。
連れて行ってほしいと頼まれたのなら、絶対行くと思うけど。
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2014
05.29

うにゅほとの生活915

2014年5月29日(木)

バターロールを半分にちぎり、チロルチョコを挟む。
「××、チロルチョコパン」
「たべにくそう」
「板チョコだったらよかったなあ」
「でも、おいしそう」
コップに牛乳をそそぎ、チロルチョコパンを頬張った。
ごり。
「──ギッ!」
「!」
背筋が伸びるほどの痛みが走り、慌てて口元を押さえた。
大惨事を回避しようと無理矢理に飲み下したのち、大きく舌を出す。
「ひ、ひたはんだ……」
「ち!」
うにゅほがティッシュを二、三枚抜き取り、
「むぶ!」
慌てて俺の口に押し込んだ。
「ち、ち、すごいでてる!」
そんなに?
ティッシュをめくり、指先で舌に触れてみる。
「──……うあ」
舌の輪郭がほんのすこし歪んでいた。
かなり激しく噛んだらしい。
「あ!」
うにゅほが立ち上がり、戸棚を開く。
「めんたむ、めんたむ!」
「ほれは勘弁ひてくれ……」
舌を噛んだのが俺だったからいいものの、もしうにゅほだったら自分の舌にメンタムを塗っただろうか。
「──…………」
塗りかねない。
教えることは、まだまだたくさんあるようだ。
「さびお、さびお!」
絆創膏を手に狼狽しているうにゅほの頭を撫で、とりあえずうがいをした。
真っ赤だった。
あ、今はもう痛くないです。
大丈夫です。
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2014
05.28

うにゅほとの生活914

2014年5月28日(水)

「──××、××」
ちょいちょいとうにゅほを手招きする。
「?」
「面白いものを見せてあげよう」
そう言って、ディスプレイを指し示した。
「ちきゅう」
「そう、地球。ただし──」
マウスをドラッグする。
「自在に動かせる」
「おー!」
Google Earthをインストールしてみたのだった。
「ちきゅうぎだ」
「とんでもなく精密だけどな」
マウスホイールを操作し、画面を拡大していく。
「わ!」
「うちも見えるぞ」
「みたい、みたい」
うにゅほが無邪気にはしゃいでいる。
なんとも微笑ましい姿だ。
「えーと、だいたいこのあたりかな」
「ここ?」
「ほら、これが中学校」
「ほんとだ」
「ここが、うちの前の公園で──」
ストリートビューに切り替える。
「あ、うち! うちだ!」
「うちだな」
「すごいねえ、すごいねえ……」
感動している。
なんだ、かわいいぞ。
「ね、べつんとこもみたい」
「ああ」
ストリートビューを利用し、擬似的に近所を散策する。
「てんきわるいねえ」
曇りの日に撮影車が来たのだろう。
「あ、昨日散歩したサイクリングロードでも見てみるか」
「みる」
ストリートビューを終了し、画面をわずかに縮小する。
「このへんだな」
「ほんとだー……」
「こっちの、緑の多いとこに、きつねが住んでるんだろうな」
「この、へんなのは?」
「草野球の練習場」
何故かはよくわからないが、歩いて行ける範囲に片手で余るくらいある。
バッティングセンターも二軒ある。
強豪という話は聞かない。
「そうさしていい?」
「ああ」
うにゅほにマウスを譲り、トイレに立つ。
帰ってくると、何故か、モンゴルのドゥンドゴビ県が表示されていた。
なにをどうしたらそんなところに。
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2014
05.27

うにゅほとの生活913

2014年5月27日(火)

「──……あふぁ」
あくびを噛み殺す。
「ねむいの?」
「眠いけど、眠くない」
「……?」
うにゅほが小首をかしげる。
「えー……と、なんて言ったらいいかな」
思案し、言葉をひねり出した。
「あくびは出るけど、横になる気分じゃない」
「あー」
わかってるんだか、どうなんだか。
「──ぃよし!」
自分の頬をパンパンと叩き、立ち上がった。
「散歩行こう、散歩」
「いいねー」
うららかで、清々しい日和である。
暖かな太陽の光が、しどけなく俺たちを誘っていた。
「どこいくの?」
「サイクリングロードかなあ」
近所のドブ川沿いに、サイクリングロードとは名ばかりの小さな舗道がある。
レクリエーションとして楽しむには短すぎるし、抜け道としての利用価値もないので、自転車の姿を見かけることはまずない。
ただ、犬の散歩コースとしての需要は高いようだ。
「──……ん、ぁー!」
思いきり伸びをする。
「緑が多いから、気分いいな!」
「うん……」
うにゅほが暗澹たる面持ちで頷いた。
まあ、言いたいことはわかる。
「……川は、汚いよな」
「きたない」
汚いというか、ほとんど流れていない。
環境汚染とかそういったたぐいのことではなくて、もともと水量が少なく澱みがちな小川なのだ。
変な虫が大量発生していないだけ、よしとしよう。
「でも、ほら──」
反対側の野原に視線を向ける。
「たぶん、ここのどっかに、こないだ見たきつねが住んでるんだぜ」※1
「きつね!」
うにゅほの瞳が輝いた。
「なんでか知らんがこのあたり、なんもないからなー」
牧野でもなければ防風林でもない、ただ自然そのままの草原が目の前に広がっている。
市街地では珍しい光景かもしれない。
「きつね、いないねえ」
「どっかにいるよ」
「そっかー」
一時間くらいのんびり散歩して、帰宅した。

※1 2014年4月6日(日)参照
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2014
05.26

うにゅほとの生活912

2014年5月26日(月)

母親の誕生日である。
家族で折半して、靴を贈ることになった。
「ただいま」
「ただいまー」
母親とうにゅほが意気揚々と帰宅し、購入したばかりのミュールを自慢げに見せてくれた。
「へえー、いいじゃん」
他に言えることもないけど。
「わたしえらんだよ」
うにゅほが得意げに言った。
「うん、派手すぎないから、合わせやすそうでいいな」
具体的な褒め言葉が自然に湧いて出た。
我ながら不思議である。
「××も、◯◯も、ありがとうね」
母親が笑顔で礼を言う。
「あー、はいはい」
改めて感謝されると対応に困る。
「あ、そだ」
うにゅほがポシェットから財布を取り出した。
「せんごひゃくえん」
「うん?」
「たてかえたから、せんごひゃくえん」
「あー……」
忘れてた。
というか、まだ金も払っていない状態でちょっと照れていたのか。
そっちのほうが恥ずかしい。
財布から千円札を二枚抜き取り、うにゅほに渡す。
「あ、おつりない」
「べつにいいよ、それくらいなら」
「だめだよ」
うにゅほがきっぱりと言う。
「こんげつ、しゅっぴおおいんだから」
「……あ、うん」
まったくそのとおりです。
「◯◯、もう尻に敷かれてんのかい」
母親が苦笑する。
どうしてこうなった。
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2014
05.25

うにゅほとの生活911

2014年5月25日(日)

明日は母親の誕生日なので、前倒しで外食することになった。
三十分ほど車に揺られて辿り着いたのは、旧家を改装した洋食レストランで、佇まいからして高級感に溢れていた。
「……だいじょぶかな」
うにゅほが俺に耳打ちをする。
「……うち、裕福じゃないけど、貧乏でもないからね」
問題があるとすれば、外食するとだけ言われて連れ出された俺の直し損ねた寝癖のほうだろう。
いいとこ行くなら事前に教えてほしかった。
前菜は、サーモンのカルパッチョ。
じゃがいものポタージュとサラダを経て、やけに少ないパスタを食べ終えるころには、既に一時間近くが経過していた。
「コース料理って、長いもんだなあ……」
「そだねえ」
ちゅるちゅるとパスタをすすりながら、うにゅほが頷いた。
うにゅほは食べる速度が遅いから、まだいい。
俺や父親などは、出されたものを即座に食べ尽くしてしまうので、非常に暇である。
主菜のフィレステーキに舌鼓をうち、デザートの蒸し焼きショコラを堪能したのち、レストランを後にした。
「やー、美味しかったね!」
「そうか?」
満足そうな母親に、父親がぼやく。
「美味いは美味いけど、食った気がしねえな」
「待ち時間、半分くらいにしてほしい……」
弟が父親に追従する。
その横で、
「××、美味しかったよねえ」
「おいしかった」
女性陣が意気投合していた。
サッと注文してパッと食べたい男性陣との対比が面白い。
「ね、◯◯、おいしかった?」
うにゅほが俺を見上げ、そう尋ねた。
「美味しかったと思うよ」
「よね」
「蒸し焼きショコラ、もうひとつ食べたかったなあ」
「──……あー」
なにかを納得されてしまった。
なんだよ。
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2014
05.24

うにゅほとの生活910

2014年5月24日(土)

釧路でおみやげを見繕い、帯広の神社に参拝し、夕刻までぶらぶらと観光してまわった。
道東自動車道を利用して北海道を横断し、帰宅したのは午後九時だった。
「ただいまー……」
遅くなったから、怒ってないだろうか。
こまめに連絡はとっていたし、大丈夫だとは思うけど。
「おかえりー」
玄関の白熱灯がともり、うにゅほがちょこちょこと出迎えてくれた。
「にもつもつね」
「あ、悪い」
意外と普通だった。
いっそ抱きつかれでもするんじゃないかと思っていたので、すこし拍子抜けだった。
「……ま、そうか」
旅行とは言え、たかだか一泊二日である。
いちいち感動の再会を演じていては身がもたないというものだ。
「あ、おみやげあるぞ」
「ほんと?」
「さんまんまっていう釧路の名物と──」
階段を上がりながらレジ袋を探り、
「ほら、キタキツネ」
「わ」
うにゅほの肩越しにぬいぐるみを差し出した。
「かわいかろ」
「うん!」
荷物を置き、キタキツネのぬいぐるみを両手で受け取る。
「ありがとね」
「どういたしまして」
祖母と両親にも帰宅の挨拶をし、それぞれにおみやげを手渡した。
「くっ──……、あー!」
思いきり伸びをする。
部屋でゆっくりくつろいで、旅の疲れを癒そう。
そう思い、自室の扉を開いた。
「うお!」
びっくりした。
年末の大掃除もかくやというレベルで部屋が整頓されていたのである。
「えー……と、××さん、掃除した?」
「うん」
「漫画とか、袋とか、全部片付いてるな」
「ひまだったから……」
うにゅほが苦笑する。
思い出した。
この娘、寂しいと掃除するんだっけ。※1
部屋が片付くのはいいことだけど、さすがに心が痛むので、そのうちふたりでどこかに出かけよう。
もちろん日帰りだけど。

※1 2013年5月27日(月)参照
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2014
05.24

うにゅほとの生活909

2014年5月23日(金)

旅先でこの日記を書いている。
Bluetoothのキーボードは慣れないが、仕方がない。
午前九時、戦地へと赴くかのような見送りに後ろ髪を引かれながら、友人の車に乗り込んだ。
目的地は釧路である。
一泊二日で帰れる距離となると、道外はさすがに無理だ。
いずれ東京などに行く用事ができるかもしれないが、そのときはそのときで考えよう。
最初の電話があったのは、出発してから一時間後のことだった。
「──……もしもし、○○?」
「……さすがに早くない?」
「どこ?」
「どこもなにも、まだ札幌だけど……」
二言三言会話して、通話を終えた。
それからも、思い出したように電話が掛かってきた。
ほんのすこしでも会話をすると、気持ちが落ち着くようだった。
いろんな意味で旅行している気分にならない。
電話の持ち主である母親は、聞こえよがしに苦笑していたけれど。
ともあれ、明日には帰るのだ。
おみやげはなんにしようかな。
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2014
05.22

うにゅほとの生活908

2014年5月22日(木)

「──…………」
「──…………」
距離が近い。
近いどころか触れ合っている。
そこまでは普段どおりとしても、寄り掛かってくるのは珍しい。
「××、暑くない?」
「ちょっとあつい」
「窓、開けよう」
「あける」
うにゅほが立ち上がり、ベランダに通じる窓を開く。
そして、
──ぴと、
再び俺に密着し、漫画を開いた。
「♪~」
明日、俺は、一泊二日の旅行に出かける。
寂しいのかなと思いきや、機嫌は悪くなさそうだ。
「──…………」
尿意を催し、立ち上がった。
「あっ」
「トイレ行ってくる」
「うん……」
小用を済ませ、トイレから出ると、
「でた?」
扉の前でうにゅほが待っていた。
「そりゃ出ましたけど……」
幼稚園を卒園してから初めて聞かれたぞそんなこと。
部屋に戻ると、うにゅほがついてきた。
ソファに座ると、寄り添ってくる。
そんなうにゅほの様子を、なんとなく、懐かしいと思った。
「──…………」
ああ、そうか。
うにゅほと初めて出会い、俺にだけ懐くようになって、そのくらいの時期の行動を思い出させるんだ。
離れると不安になるのか、カルガモの雛みたいに俺の後をついてまわってたっけ。
なんだ、結局寂しいんじゃないか。
「──××」
「!」
うにゅほの肩を引き倒し、俺の膝に導いた。
「膝枕をしてあげよう」
「うん」
トイレは行ったばかりだから、しばらく大丈夫。
そのままふたりで読書に耽っていた。
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