2014
03.31

うにゅほとの生活856

2014年3月31日(月)

「ほんと、天気いいなあ」
「ねー」
「こんにちは、春!」
「はるー」
アスファルトの感触を靴の裏で確かめながら、ゆったりと歩を進めていく。
なんだかとても気分がよかった。
「どこいくの?」
「コンビニでジャンプを買う」
「あ、げつようだ」
「あと、おやつも買う」
「いいねえ」
「ワインも買う」
「えー」
「安いやつな」
「そか」
最寄りのセブンイレブンで買い物を済ませ、レシートをうにゅほに手渡した。
「ジャンプは、しょせきだい?」
「そう」
「チョコだいふくは?」
「飲食費」
「ワインは、さかだい……」
ふんふんと頷きながら、うにゅほが家計簿アプリに金額を入力していく。
なんだか楽しそうなのは、気のせいではないだろう。
「じゃ、ちょっと遠回りして帰るか」
「うん」
縁石から腰を上げ、レジ袋を手に取る。
「──…………」
ずしりと重い。
ワインが二本に雑誌が一冊となれば、そこそこの重量がある。
持つぶんには構わないのだが、コンビニの薄いレジ袋が耐えられるだろうか。
そんなことを考えながら歩いていると、
「──おあッ!」
予感が的中した。
「わー!」
レジ袋の持ち手が千切れ、ワインボトルがアスファルトの上を転がっていく。
「××、そっち拾って!」
「はい!」
慌てて拾い上げ、大きく息をついた。
「抱えて帰るしかないな……」
「そだね」
「それにしても、ワインボトルってけっこう丈夫なんだな」
地面に叩きつけられたにも関わらず、傷ひとつついていない。
「ドラマのが演出なのは知ってるけど、改めて理解できるというか」
「えんしゅつ?」
「ほら、ビール瓶とかで人を殴るとさ」
「──……?」
うにゅほが小首をかしげる。
「しぬとおもう」
「まあ、死ぬんだけど、割れるじゃん」
「われるー……?」
「見たことない?」
「おぼえてない……」
「刑事ドラマとかで」
「けいじドラマ、みない」
なるほど。
殺人シーンとか苦手だもんな。
ジェネレーション的なギャップじみたものを感じながら、再び帰途についた。
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2014
03.30

うにゅほとの生活855

2014年3月30日(日)

「スープ春雨食べるけど、××も食べる?」
「たべるー」
「味は?」
「ランダムがいい」
「俺もそうしようかな」
チェストの引き出しに手を入れ、中身を適当に掴む。
「……うわ、コンソメとカレーか」
「おいしいかな」
「××は?」
「シーフードと、ぱいたん」
「すげえ美味そう」
「ふへへ」
スープ春雨の備蓄が大量にあるので、こういった遊びもできる。
「××、お湯沸かして」
「はい」
マグカップにお湯を注ぎ、数分待つ。
「もういいかな」
「いいんじゃないか」
「いただきます」
「いただきます」
軽く手を合わせ、透明にふやけた春雨を箸で掻き混ぜた。
「あ、シーフードぱいたんおいしい」
「白湯はハズレないよな」
「コンソメカレーは?」
「……不味くはないけど、薄いカレーだな」
「ひとくち」
「はいはい」
和気藹々と食べ進めていると、
「──……?」
うにゅほの口数が唐突に少なくなった。
「どうかした?」
「んー」
小首をかしげ、もごもごしている。
「はうはめ、はさまっは」
春雨が歯に挟まったらしい。
「舌で取るのは諦めて、爪楊枝使った方がいいぞ」
「うん」
爪楊枝を取り、うにゅほに手渡す。
「こっちみないでね」
「はいはい」
うにゅほの女の子らしい反応を見ると、なんだかほっとしてしまう。
基本的に、羞恥心薄いからなあ。
「とれた」
「はいはい」
しばらくして、
「はさまっふぁ……」
「またか」
「おなじとこはさまった」
「──…………」
春雨と同じ幅の隙間でもあるのだろうか。
ちょっと確認してみたい気もするが、やめておいた。
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2014
03.29

うにゅほとの生活854

2014年3月29日(土)

「──◯◯!」
階段を駆け上がる小気味良い音と共に、細い声が俺を呼んだ。
「タイヤこうかんおわったー」
ぶかぶかの作業服に身を包み、ロングヘアを結い上げたうにゅほが、リビングからひょいと顔を出した。
「おー、お疲れさん」
もちろん、うにゅほひとりでタイヤ交換ができるわけもない。
父親の手伝いをしていたのである。
「あのね、ナットしめたんだよ」
「えっ」
「ほしがたにしめるんだよ」
「──…………」
大丈夫なのか?
大丈夫か。
父親が締め直しているだろう、たぶん。
「おとうさん、タイヤかたづけるからきてって」
「了解」
重い腰を上げ、背筋を伸ばす。
シーズンオフのタイヤは車庫の二階で保管しているため、どうしても力仕事になるのだ。
「あ、作業服着てくから脱いで」
「きてくの?」
「タイヤ下ろしたとき、ジーンズ汚れたからさ……」
「あー」
うにゅほが作業服を脱ぎ、髪を解く。
普段着の上に着ているので目を逸らす必要はない。
「じゃ、行ってくる」
「わたしもいく」
「手伝わなくていいぞ」
「てつだわない」
「よし」
よくわかっている。
なにしろ、ランクルのタイヤは30kgを軽く超えるのだ。
手伝われると、逆に危ない。
「◯◯も、おとうさんも、ちからもちだねえ」
「腕力というか、体格の問題だと思うけど」
「せーのびたら、ちからつく?」
「つかないんじゃないかな」
「えー」
「背丈だけじゃなくて、肩幅とか骨格とか──」
そこまで言ったところで、
「──…………」
とても嫌な想像をしてしまった。
「……××はそのままでいてくれ」
苦笑を浮かべながら、うにゅほの頭をぽんぽんと撫でた。
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2014
03.28

うにゅほとの生活853

2014年3月28日(金)

「××、iPhone貸して」
「はーい」
うにゅほからiPhoneを受け取り、親指でロックを解除した。
「──…………」
App Storeを起動し、しばし適当に検索する。
「××」
「はい?」
「適当に数字言って」
「うと、じゅうよん?」
「一桁で」
「よん」
「ほーほー、なるほど」
「なにー?」
「家計簿──出納帳? まあ、それをつけようかと思ってさ」
「いくらいくらつかいました、とか?」
「そう」
「すうじは?」
「家計簿アプリ検索したらたくさん出てきたから、どれがいいかなって」
「てきとう」
「大差ないでしょ、こういうのは」
「ね、どんなやつ?」
うにゅほが俺の手元を覗く。
「まず予算の設定をして、あとは収支をその都度入力していけばいいみたいだ」
「よさん?」
「全財産でいいんじゃないかな」
通帳の残高と財布の中身を合計し、キーパッドを叩く。
「わたしのおかね──」
「それは自分で管理してください」
「はーい」
うにゅほがいそいそと自分の財布を仕舞う。
「かけいぼ、いきなりだね」
「前々からつけようとは思ってたんだけど──」
iPhoneを置き、うにゅほに向き直る。
「ほら、最近ちょっと金遣いが荒くなってたから」
「あー」
「稼ぐ以上に使ってるってことはないけど、いちおう記録は残しておくべきかと」
「わたしやっていい?」
「なにを?」
「かけいぼ、やる」
「支出とかの入力をってこと?」
「そう」
「……あー、うん、いいけど」
「やた」
なんか、余計に無駄遣いしにくくなった気がする。
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2014
03.27

うにゅほとの生活852

2014年3月27日(木)

ウォシュレットを買い換えた。
「──◯◯!」
「あいよー」
父親に呼ばれてトイレへ向かうと、取り付け工事は既に終わっていた。
「おー、新品だ」
「それはいいんだけどよ、ほらこれ」
「?」
反射的に受け取ると、それは壁掛け型の操作パネルだった。
「あ、リモコンになったんだ」
交換前のモデルでは、本体と直接繋がっていたのである。
「これ、どこに付けたらいいと思う?」
「あー……」
なるほど、そういう問題があるのか。
「俺は左がいいと思うんだけどな」
「左手で操作すんの?」
「いや、右手でこう、伸ばして──」
侃侃諤諤の議論を交わしていると、母親とうにゅほが買い物から帰ってきた。
「ただいまー」
「××、ちょっとこっち」
「なにー?」
うにゅほがとてとてやってくる。
「あ、といれあたらしくなった」
「それはいいんだけど、これ」
操作パネルを手渡す。
「これ、どこに掛けたらいいと思う?」
「リモコン?」
「そう」
「──……うーと」
トイレをぐるりと見渡し、
「すわっていい?」
「ああ」
うにゅほが、スカートのまま便座に腰を下ろす。
「……このへんかなあ」
「ほら、やっぱ右側のほうがいいって」
「そうかー……?」
父親が不服そうな顔をする。
「右は決まりとして、そこだとちょっと遠くないか?」
「そかな」
「止ボタンが押しにくいような」
「でも、ちかいと、びでおしにくい」
「──…………」
「──…………」
父親と横目で視線を交わす。
なんだか変な空気になってしまった。
結局、操作パネルは、うにゅほの希望の位置に取り付けられたのだった。
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2014
03.26

うにゅほとの生活851

2014年3月26日(水)

読書に飽きてソファでうとうとしていると、右手に触れるものがあった。
「──…………」
見ると、うにゅほが俺の手を取っていた。
もみもみ。
親指と人差し指のあいだのツボを刺激されている。
「──…………」
五指を折り畳まれる。
「──…………」
人差し指と中指を開かれる。
「──…………」
ぐー、ちょき、と来たので、軽く抵抗してみた。
「ぬ」
「──…………」
「ぬぬ」
「──…………」
「あかない」
諦めたところで、ぱっと手を開く。
「あー↑」
閉じる。
「あー↓」
面白い。
「暇なの?」
「テレビ、おもしくない」
夕方の情報番組が面白くないのは仕方ない。
「録画してるの見ればいいのに」
「うーん……」
気が引けるらしい。
「あ、ゆびげだ」
「引っ張るな引っ張るな」
「ごめんなさい」
「謝らなくてもいいけど──」
ふと、思った。
うにゅほの手を取り、顔を近づける。
「?」
「……生えてないな」
「はえてないよ」
うにゅほはそもそも体毛が薄いので、そんなものかもしれない。
「足はどうだろう」
「あしのゆび?」
靴下を脱ごうと、うにゅほが前かがみになる。
「あ、ストップ」
「……?」
「やっぱいいです」
生えてたら生えてたで、見たいかと言えばそうでもない。
「もしあったら処理しといて……」
「はい」
のちほど、生えてなかったとの報告を受けた。
律儀である。
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2014
03.25

うにゅほとの生活850

2014年3月25日(火)

「──……う」
グラスから口を離し、思わず眉根を寄せた。
「このワイン、すっげー甘い……」
「きのうかったやつ?」
「そう」
「おたるのやつ?」
「そう」
国産ワインはどうかと試しに買ってみたのだが、これはない。
「あまいのに、だめなの?」
「甘けりゃなんでもいいってわけじゃないでしょ」
「そかなー」
ピンと来ないようだ。
「えーっと、ちょっと待ってな」
腕組みをし、天井を見上げながら、適当な言葉を探す。
「……××、ホタテの刺し身好きだろ」
「うん」
「あれ、甘いよな」
「うん、あまい」
「砂糖まぶしても美味しいと思う?」
「──……う」
想像したのか、うにゅほが口元を押さえた。
あまり上等な喩えではないが、なんとなくは伝わったようだ。
「そんなかんじで、なんか不自然に甘いんだよ」
「ふうん……」
「舐めてみるか?」
「いいの?」
「舐めるだけな」
うにゅほにワイングラスを渡す。
「──…………」
ぺろ。
「あ、あまい」
「だろ」
「おいしいよ?」
ぺろ。
「はい、そこまで」
そのまま舐め続けそうだったので、グラスを取り上げた。
「俺が飲みたいのは、ぶどうジュースじゃなくて、ワインなんだよ」
「はー」
「ジュースが飲みたいなら、ファンタを買う」
「おたるワイン、どうするの?」
捨てちゃ駄目という視線が俺を射抜く。
「大丈夫、こういう甘いお酒が好きなやつがいるから」
「だれ?」
「弟」
というわけで、おたるワインは弟に進呈された。
感謝するがよかろう。
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2014
03.24

うにゅほとの生活849

2014年3月24日(月)

「──…………」
薄く開いた扉の隙間から、うにゅほの右目が覗いていた。
キャン!
「う」
仔犬の鳴き声にうにゅほが怯む。
「怖がるから、余計に吠えられるんだと思うけどなあ」
「うー……」
仔犬を抱き上げ、俺の膝に乗せる。
「ほら、いいよ」
「──…………」
おずおずと扉を開き、うにゅほが自室から出てきた。
「……はなさないでね?」
「はいはい」
苦笑する。
「今から、飼い主が迎えに来るってさ」
「そか」
「結局慣れなかったなあ」
「ごめんなさい……」
「謝る必要ないからな、ほんとに」
誰にでも苦手なものはあるし、誰に迷惑をかけたわけでもない。
「でも、最後にちょっとだけ撫でてみない?」
「むりです」
きっぱりと断られてしまった。
うーん、仔犬を預かると聞いたときは、もっと感動的な展開を想像していたんだけど。
「──ま、現実はこんなもんか」
「そうです」
「犬、嫌いになった?」
「いぬすきだよ」
「こいつは?」
「……にがて」
ヒャン!
仔犬が不服そうに吠えた。

しばらくして、仔犬は無事に飼い主の元へと帰っていった。
「はー……」
うにゅほがくったりとソファに倒れ込む。
「おつかれさん」
「うん」
「うちでは小型犬は飼えないなー」
「……いぬ、かうの?」
神妙な顔で、うにゅほが尋ねた。
「飼うつもりないけど、飼いたいか?」
「──…………」
首を横に振る。
「コロいるもん」
「……そっか」
一昨年死んだ飼い犬が、写真立てから俺たちを見上げていた。
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2014
03.23

うにゅほとの生活848

2014年3月23日(日)

リビングに通じる扉を開くと、
ワン! ヒャンヒャン! ヒャン!
預かっている仔犬が機敏に回転しながら吠えた。
「ほら、すこし大人しくなってる」
「そかなー……」
犬が来てからというもの、うにゅほは部屋に閉じこもりがちになってしまった。
「しばらくほっとけば静かになるし、あとは可愛いもんだよ」
「うん……」
「ごはんのときは大丈夫じゃん」
「ごはんときは、おすわりしてるもん」
「そうだけど」
目にも留まらぬ身のこなしと、脳髄に響く甲高い鳴き声とが、うにゅほに苦手意識を植え付けてしまっているらしい。
「でも、見た目は可愛いだろ」
「みためは……」
薄く開いた扉越しにそんな会話をしていると、父親が口を挟んだ。
「おう、ちゃめ、まだ怖いのか!」
「こわい」
「俺なんてぜんぜん怖くねーけどなあ」
そう言って、ウイスキーをロックで傾ける。
自慢にならない。
「出てきたときにしか吠えねーんだから、こいつにしたら挨拶みたいなもんだろ」
「……あいさつ?」
「挨拶!」
「あいさつ……」
しばし考え込み、
「こ、こんに、こんばんわー……」
うにゅほが僅かに扉を開く。
ヒャン!
「ひ!」
ばたん。
「弱い……」
父親と顔を見合わせ、溜め息をついた。
しかし、この「挨拶」という認識が功を奏したのか、
「……こんばんわー」
キャン! ヒャンキャン!
「──…………」
逃げ腰の姿勢は変わらないものの、ほんのすこしだけ犬に近づくことができるようになった。
「ふー……」
「あとは、触れればいいんだけどな」
「むり、むり」
「手を向けたら舐めてくるよ」
「……ほんと?」
うにゅほが、立ったまま右手を犬の鼻先に差し出した。
キャン!
かぷ。
「わー!」
うにゅほが飛び上がる。
「かまれた! かまれた!」
「甘噛み、甘噛みだって!」
仔犬を預かるのは明日までだ。
それまでに仲良くなるのは、どうにも難しそうである。
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2014
03.22

うにゅほとの生活847

2014年3月22日(土)

父親の誕生日プレゼントにと注文した真空断熱タンブラーが二日遅れで届いた。
「さて、実験だ」
「おとうさん、かえってきてないのに、いいの?」
「気にしない気にしない」
体裁を気にする父親でもない。
化粧箱を開き、タンブラーを取り出す。
「あ、ぶあついね」
「そのあいだが真空になってるんだろうな」
タンブラーを水洗いし、ペプシネックスを八分目ほど注ぐ。
ガラス製のビアジョッキにも同様に注ぎ、氷をみっつずつ投入した。
「あとは待つだけ」
「ほんとにぬるくならないのかな」
うにゅほがタンブラーを両手で包み、
「……?」
おもむろに首をかしげた。
「つめたくない」
「あー」
なるほど。
「ぬるくなったのかな」
「ひとくち飲んでみたらいいんじゃないか」
「うん」
頷き、タンブラーに口をつける。
「……つめたい!」
「だろうな」
「なんで?」
「外側が冷たくないってことは、冷気を閉じ込めてるってことだろ」
「あ、そか」
「だから、ジョッキのほうは冷たいし、結露もしてる」
「びしょびしょだ」
「拭いとこう」
日が暮れるまで放置した結果、タンブラーの氷は半分ほどが解け残っていた。
ビアジョッキのほうは言わずもがなである。
「うん、これはいいものだ!」
「すごいねえ」
「結露しないから、夏場とか重宝しそうだな」
「……うん」
うにゅほがしみじみと頷き、言った。
「かがくのしんぽとは、かくもすごいものなんだねえ……」
「なにキャラだよ」
「うへー」
照れ笑いを浮かべながら、うにゅほがタンブラーを傾けた。
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