2014
02.28

うにゅほとの生活825

2014年2月28日(金)

「えー……と、これは?」
「たいよういっぱいのまっかなゼリー、だって」
かぶりを振って問い返す。
「……なんのゼリーだって?」
「トマトのゼリー」
あゝ、無情。
その存在は遠く聞き及んでいたが、まさか御目に掛かる日が来てしまうとは。
「つーか、なんでこんなものが」
「おかあさんのともだちが、おみやげにくれたんだって」
「余計な真似を……」
吐き捨てるように呟いた。
「◯◯、トマトきらい?」
「生のトマトは好きじゃない」
「たべなかったらいいとおもう」
「まったくその通りなんだけど、そういうわけにもいかないんだ」
「……?」
「こんな変なもの、食べなかったら後悔する」
「ふうん」
「食べても後悔すると思うけど」
「──…………」
うにゅほが、くしゃみを我慢しているような表情で俺を見上げた。
呆れられている気がする。
「……でも、まるまる一個はきついから、ひとくちください」
「いいけど……」
ぺり。
トマトゼリーの蓋を剥がし、うにゅほがスプーンを差し入れる。
「──あ、おいしい」
「まじで」
「うん、あまくておいしい」
「──…………」
トマトが甘くて美味しいなんてことがあるのだろうか。
「はい」
ほんのちょっぴりだけすくい取られたゼリーが、俺の口元に差し出された。
「──…………」
ごくりと喉を鳴らし、躊躇いながら口にする。
「──……うん」
「おいしい?」
「甘い」
「うん」
「甘い、トマトだ」
素材を活かした美味しいデザートなのだろうが、その素材が嫌いなのだからどうしようもない。
「うん、やっぱり駄目だった。駄目でした」
「だめかー……」
「あ、でも、サラダで食べるよりはいいかな」
フォローしてみた。
「そかー」
はいはい、という顔をされた。
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2014
02.27

うにゅほとの生活824

2014年2月27日(木)

高速道路を走ったためか、コンテの車体が白く汚れてしまっていた。
「これ、どろ?」
「泥じゃなくて、塩カルだな」
「えんがる」
「遠軽じゃなくて、塩化カルシウム。
 雪を融かすために道路に撒いてあるんだよ」
「へえー」
「ほっといたら錆びるから、洗車しに行こうと思うんだけど」
「いく」
コンテに乗り込み、エンジンを掛けた。
「あれ、どうぐないよ?」
「今日は、洗車機を使います」
「せんしゃき」
「ガソリンスタンドにたまにあるんだけど、知らない?」
「……んー?」
心当たりがないらしい。
「まあ、行けばわかる」
すこし離れたガソリンスタンドに着いたとき、
「あ!」
うにゅほが、門のような形状の自動洗車機を指さした。
「これだ!」
「そう、これだ」
「これやるの?」
「やるよ」
「ほー……」
精算機に五百円玉を投入し、クリープ現象を利用してゆっくりと洗車機に乗り入れていく。
「まわってる……」
左右と上部を覆う回転ブラシを見つめ、戦々恐々とうにゅほが呟いた。
「……怖い?」
「こわくないよ」
「じゃあ、なんで袖を掴んでるの?」
「いちおう」
一応じゃ仕方ない。
最初は怯えていた様子のうにゅほだったが、
「おー!」
洗車が始まってしまうと、次第に楽しくなってきたようだった。
「すごい」
「ちょっと面白いよな」
「うん」
安上がりな娘である。
「ね、◯◯」
「ん-」
「つぎ、いつあらう?」
「雪が解けたころ……か、な?」
洗車が趣味の父親の顔を思い浮かべながら、曖昧な答えを返した。
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2014
02.26

うにゅほとの生活823

2014年2月26日(水)

母親が実家に帰省すると言うので、付き合うことにした。
高速道路を使えば一時間ほどの距離なので、帰省と呼ぶには大仰かもしれない。
正月に交わせなかった年始の挨拶を済ましたあと、近隣に住む従姉と蕎麦を食べに行くことになった。
「わー……」
うにゅほが従姉のおなかを凝視する。
「おっきい」
「七ヶ月だよー」
「あかちゃん、はいってるんですか?」
「そだよ」
妊娠中の従姉が、自分のおなかを愛おしげに撫でた。
「触ってみる?」
「いいの?」
「いいよ」
「はい……」
恐る恐るおなかに触れる。
「あ」
うにゅほがこちらを振り返り、
「かたい」
と呟いた。
「え、硬いんだ」
「あはは、ちょっと張ってるんだよねえ」
触らせてもらうと、見た目よりもかなり弾力があった。
「赤ちゃん、おなか蹴ったりしないの?」
「するよ」
「え、けるの?」
「蹴るよー」
「へえー……」
うにゅほが目を輝かせるのを見て、従姉が言った。
「蹴ったら教えてあげるよ」
「──……!」
うにゅほが無言で何度も頷いた。
しばらくして、注文した蕎麦を待っていたとき、
「あ、蹴った」
「!」
従姉の隣に座っていたうにゅほが、遠慮がちに手を触れた。
「……あ、一回だけだった」
「──…………」
無言で触り続けている。
「××、もう蕎麦来るし、食べてからでいいんじゃないか?」
「いいよいいよー」
おおらかな従姉である。
「あ!」
うにゅほが声を上げた。
「……おしてる」
「蹴ってるんじゃなくて?」
「足で押してるんだと思うよ」
そういうこともあるのか。
「次に来たときは、もう産まれてるかもしれないな」
「そだね……」
心ここにあらずといった表情で、ふわふわとうにゅほが頷いた。
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2014
02.25

うにゅほとの生活822

2014年2月25日(火)

「はー、食った食った」
ソファに倒れ込み、天井を仰ぐ。
「たべすぎ」
「××だってケーキふたつも食べたろ」
「ふへー」
本日の昼食は回転寿司だった。
満腹になるまで食べても一人当たり千円程度なのだから、平日のはま寿司は偉大である。
「今日はもう、なにもしたくないねえ……」
「ひるね?」
「──…………」
しばし黙考し、
「……ここで寝たら、なにか取り返しのつかないものを失うような気がするから、寝ない」
「ふうん」
とっくに手遅れな気もする。
「なんかして遊ぶかー」
「うん」
「なにがいい?」
「うーと……」
うにゅほの視線が部屋をぐるりと一周し、
「あ、つるおりたい」
「折り紙?」
「うん」
「いいけど、いきなりだな」
「モヤさまでおってた」
「あー」
なるほど、わかりやすい。
デスクの引き出しから和紙の折り紙を取り出し、二枚引き抜いた。
「折り方、覚えてるか?」
「おぼえてるよ」
数分後、
「……おしえてください」
「はいはい」
やっぱりな、と苦笑する。
二羽目の鶴を解き、うにゅほに折り跡を見せて、また折り直した。
「だいたいわかった?」
「うん」
うにゅほが集中して折り始めると、なんだか手持ち無沙汰になってしまった。
青色の鶴を手のひらに乗せ、ぼんやりと眺める。
「あ」
ふと、いいことを思い出した。
折り鶴の尾を下ろし、ハサミで切れ込みを入れる。
そうしてできた二本の足をガニ股に折って、足の生えた鶴のできあがり。
「××」
「?」
「クリーチャー」
「んばふ!」
うにゅほが思いきり吹き出した。
「ぶふ、なんだこれ、うふ、あはははは!」
思った以上に爆笑である。
「それやりたい!」
「ああ、まずは鶴をちゃんと折らないと」
「て、てーふるえる、うひー」
「落ち着け」
こうして、青と黄色の夫婦鶴のようなものが完成した。
どうしよう、これ。
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2014
02.24

うにゅほとの生活821

2014年2月24日(月)

「ただいまー」
「おかえり!」
帰宅すると、うにゅほが階段の途中まで下りてきてくれた。
「たのしかった?」
「ああ」
海外へ行っていた友人と久闊を叙していたのだ。
「ごはんは?」
「──…………」
腹具合を撫でて確かめる。
「今日はいいかな……」
「そか」
「おひる遅かったし、ちょっと食べ過ぎた」
「なにたべたの?」
「海老チャーハンと──」
雑談しながら自室に戻り、ジャケットを脱ぐ。
「お」
そこで、ポケットの膨らみのことを思い出した。
「そうだ、おみやげがあったんだ」
「おみやげ?」
「おみやげ」
「なにー?」
「ほい」
ポケットの中身をうにゅほに手渡す。
「あ、がちゃぽんだ」
「たまたま見かけたから」
「なんだこれ」
かぽ。
ちょっと手間取りながらカプセルを開く。
「ニャンコせんせいだ!」
こちらを見上げ、うにゅほが目を輝かせた。
さすがニャンコ先生、鉄板である。
「あれ、ストラップじゃないね」
「違うのか」
「かざるのみたい」
スケート靴の上に乗ったニャンコ先生を、氷面を模した台に取り付ける。
「どこにかざる?」
「好きなところでいいよ」
「じゃあ──……」
しばし室内を見回し、
「テレビのところにしましょう」
ぽん、とテレビの傍に置いた。
「……悪くないな」
「わるくない」
俺とうにゅほの気が向けば、どんどん増えてしまいそうだった。
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2014
02.23

うにゅほとの生活820

2014年2月23日(日)

冬は体調が悪くなりがちである。
布団に包まれて睡眠と半覚醒とを繰り返していると、いつしか日が落ちていた。
「あ、おきた」
「──…………」
「だいじょぶ?」
「ふぁ──……ぁ、ぁ、うん」
大あくびをかましながら、幾度か頷く。
「なんか、寝れば寝るほど眠くなる気がする……」
「つかれるのかな」
「疲れるんだろうなあ」
首筋に触れる。
「……うあ、凝ってる」
「もむ?」
「あとでお願いするかも」
「あとでいいの?」
「いま揉まれたら、絶対また寝る……」
「あー」
のそりと立ち上がり、ぐいっと背筋を伸ばす。
「なんか、目が冴えることしよう」
「めがさえること?」
「このままうつらうつらと一日を終えることだけは避けねば……」
「でかけるとか」
「出かけ──……」
壁掛け時計を見る。
午後六時。
「いま出かけても、夕飯が」
「そだね」
正直ちょっとだるいというのもあるし。
「よし、ストレッチしよう」
「おー」
上半身を軽くほぐし、立位体前屈を行う。
手のひらをぺたりと床につけると、
「……なんでとどくの?」
と、うにゅほが神妙に呟いた。
なんでと言われても返答に困るけど。
「普通に体柔らかいのに前屈だけできないほうが不思議だと思う」
「う」
うにゅほは前屈限定で体が硬いのである。
「やってみ」
「はい」
うにゅほが上半身を折り曲げる。
「く、く、くく」
中指の先が、膝の下までしか届いていない。
「ふとももの筋肉が硬いのかなあ」
「わかんない……」
「どのあたりが突っ張る?」
「えと──」
俺ではなくうにゅほのストレッチになってしまったが、目は冴えた。
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2014
02.22

うにゅほとの生活819

2014年2月22日(土)

「あ゙ー……」
ふくらはぎをバリバリと掻き毟る。
痒くて仕方がなかった。
「かいちゃだめだよ」
「それはそうなんだけど……」
痒いものは痒いし、いつまでも我慢できるわけじゃない。
無意識に手が伸びてしまう。
「めんたむもってくる」
「悪いー」
軟膏の容器を手にしたうにゅほが、俺のジーンズの裾をめくる。
「おさえてて」
「はい」
言われたとおりにすると、うにゅほがちょっと過剰なくらい軟膏を指に取った。
いつものことである。
「ぬるよー」
ぺと。
両手に伸ばした軟膏を、ふくらはぎを揉むように塗り込んでいく。
ちょっと気持ちいい。
「すねげ、すねげ」
「なんかすいません……」
塗りにくそうだし。
「夏はあせもで、冬はじんましんだもん。嫌になっちゃうよな」
「なつ、かもいるよ」
「俺、蚊に刺されてもすぐ治るし」
「ずるいよね」
「××は腫れるからなあ」
見ていてちょっと痛々しいくらいだ。
「そう考えると、夏に楽してるツケが冬に回ってきているようにも思える」
「あー」
「でも、あせもにはなるんだから、トータルで言うと損してる気がする」
「そだね」
「納得いかない……」
「ぬれた」
「お、さんきゅー」
「ほかにかゆいとこない?」
「背中がちょっと痒いかな」
「じゃーせなかだして」
「はい」
背中に軟膏を塗ってもらいながら、なんだか子供に戻ったような気がしていた。
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2014
02.21

うにゅほとの生活818

2014年2月21日(金)

雪かきのため、完全防備で外へ出た。
「わー……」
「──…………」
眼前に、ちょっとした小山が聳え立っていた。
母親が出掛けに集めていったものだ。
「……もうこれかまくらにして春まで放っとこう」
「かまくらするの?」
ちょっとわくわくした様子で問い返すうにゅほに、
「駐車スペースじゃなかったら、それでもよかったんだけどな」
と、溜め息まじりに答えた。
「とにかく、手分けしよう。
 俺がスノーダンプで雪捨てるから、××は新しく積もったのを集めてくれ」
「はい」
家の前が公園である僥倖に感謝する。
冬期間の平均気温が氷点を下回る土地では、雪は積もれど減ることがない。
ゆえに、雪捨て場の確保は冬場の最重要課題と言える。
雪捨て場の十分でない住宅地では、一軒家よりも高い螺旋状の雪山が空き地に聳えることも珍しくない。
「──つっても、大変なもんは大変なわけで」
「はー……」
縁石があった場所に腰を下ろし、休憩する。
「うんどう、うんどう」
「前向きだなあ」
苦笑する。
運動不足はよくないものな。
「さて、やるか!」
「うん」
さっさと終わらせて、コーンスープでも飲もう。
その一心で、スノーダンプを押し続けた。
「終わっ、たー!」
「わったー!」
「ばんざーい!」
「ばんざーい!」
妙なテンションで諸手を上げる。
疲れているのだ。
「よーし、帰って──」
そう言い掛けたところで、視界が暗くなった。
生理的なものではない。
本当に、暗くなったのだ。
「……?」
空を見上げた瞬間、
──ぶわっ!
そんな音が、見えた。
「──…………」
「──…………」
いきなり吹雪だった。
それも、目を開けるのが難しいほどの、猛吹雪だった。
「……ふりだしに戻る」
「?」
「戻ろう。そして、積もるまで待とう」
「……うん」
雪が降らなくて、虫もいない、そんな楽園に移住したい。
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2014
02.20

うにゅほとの生活817

2014年2月20日(木)

「──……ぁ、ふ」
あくびを噛み殺しながら部屋を出ると、うにゅほがテーブルにハガキを並べていた。
「なにしてんの?」
「あたり、しらべてる」
「……今?」
お年玉くじの抽選って、とっくに終わってなかったっけ。
「おばあちゃんが、とうせんばんごうくれたの」
「へえー」
うにゅほの手元に、番号の書かれたメモ用紙が置かれていた。
合ってるのかな、これ。
「切手シート当たってた?」
「ないねえ……」
「ないのか」
量からして、二、三枚は当たっていてもおかしくないのだけど。
「◯◯、ねんがじょうない?」
「あるぞー」
自室へ取って返し、うにゅほに年賀状を手渡す。
「……いちまい?」
「一枚」
「すくない」
「××より多いだろ」
「はい」
「最近はメールで済ませちゃうからなー」
「あ、はずれだ」
「だろうね」
ごろんとソファに寝転がる。
「当たってたら教えてくれ」
「うん」
しばしして、
「ぜんぶはずれだった……」
「マジか」
3等の当選番号は72と74だ。
つまり、切手シートが当たる確率は1/50ということになる。
我が家に届いた年賀状はざっと見て百枚以上ありそうだから、これはもう相当に運が悪いということだ。
「うーん、まあ、そういうこともあるのか……」
「もっかいしらべる」
うにゅほが再び年賀状の束に向き直った。
帰宅した母親から、当選した年賀状は別に分けて保管してあると聞かされるのは、それから一時間後のことになる。
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2014
02.19

うにゅほとの生活816

2014年2月19日(水)

「──よっ」
ペットボトルとグラスで両手が塞がっていたので、足で扉を開いた。
「おぎょうぎわるい」
「すまんすまん」
「わたしあけるのに……」
ぶちぶちと文句を言いながら、うにゅほが後ろ手に扉を閉じた。
「◯◯、あしきようだよね」
「そうか?」
「おやゆびと、なかゆび、くっつくし」
「まあ、そうか」
器用か不器用かで言えば、器用だろう。
グラスにペプシネックスを注ぎ、軽くあおる。
「たぶんだけど、字くらいは書けるかもしれないなあ」
そう言うと、
「え!」
うにゅほが予想以上に驚いた。
「じーかける?」
「いや、試したことないけど、たぶん……」
「ほおー……」
感嘆と尊敬とできらきらと輝く瞳が、俺を見つめていた。
「やったことはないんだぞ」
「うん」
「……やってみる?」
「うん!」
やってみることになってしまった。
グラスをうにゅほに手渡し、デスクにメモ帳を用意する。
チェアの上で膝を抱え込みながら、親指と人差し指のあいだにマジックペンを挟んだ。
これで準備完了である。
「行くぞ……」
「うん」
ふるふると震える爪先が、メモ用紙の上で弧を描く。
一文字、二文字と、幾重もの線がひらがなを形作っていく。
「……書けちゃった」
メモ用紙の上でのたくった黒いミミズは、それでもうにゅほの名前であると容易に判別できた。
「すごい!」
「すごい、のか……?」
両腕を失わない限りは役に立たないと思うが。
「やってみたいな」
「ああ、ほら」
腰を上げ、チェアを譲る。
「よーし!」
うにゅほがチェアの上で膝を抱え、はだしの指先にマジックペンを挟んだ。
すとん。
マジックペンが落ちた。
「──…………」
拾い上げ、手渡すと、うにゅほが再びマジックペンを指先に挟んだ。
すとん。
落ちる。
「もてない……」
字を書く以前の問題だった。
またどうでもいい特技が増えた。
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