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2013
12.20

うにゅほとの生活755

2013年12月20日(金)

「お」
俺に背中を向けてなにやらごそごそしていたうにゅほが、小さく声を上げた。
うにゅ箱からなにか出てきたらしい。
「◯◯、これ!」
うにゅほがにこやかに差し出したものは、深緑色のくたびれたリボンバレッタだった。
「おー、懐かしい」
「でしょ」
バレッタを受け取り、指先で撫でる。
これは、俺たちが出会ったとき、うにゅほが身に着けていたものだ。
衣服は捨ててしまったから、かつての記憶を宿すものは、もうこれしか残っていない。
「──本当、懐かしいな」
うにゅほはころころ髪型を変えるから、髪留めもたくさん持っている。
今だって、ふたつに分けた髪束をゆるく三つ編みにして髪ゴムとシュシュでそれぞれ留めるという一言では言い表せない髪型をしている。
可愛いし、似合っていると思う。
しかし──
「ちょっと、これ使ってみよう」
あの日のうにゅほを再現してみたくなった。
「うん」
鷹揚に頷き、うにゅほがシュシュを外す。
三つ編みをほどくと、髪先に軽くウェーブがかかっていた。
このくらいは仕方ない。
「つけて」
肩越しにそう告げ、うにゅほが膝をついた。
すべらかな髪の毛を手櫛でまとめ、恐る恐るリボンバレッタを留める。
両手で位置を調整し、言った。
「もういいよ」
「うん」
うにゅほが立ち上がり、その場でくるりと回った。
「──…………」
あの日の少女が、そこにいた。
「にあう?」
「ああ、似合うよ」
なにも変わらない。
中身は比べものにならないくらい成長しているけれど、ああ、成長期とはいったい。
こないだ測ったら身長も伸びてなかったし、もう過ぎているのかもしれない。
成長期が早いと身長は伸び悩むって言うしな。
「──…………」
ぽん、とうにゅほの肩を叩く。
「?」
「そのままの君でいてくれ」
「……? うん」
きょとんと頷くうにゅほの髪をわさわさ掴んで遊ぶ午後だった。
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2013
12.19

うにゅほとの生活754

2013年12月19日(木)

「──……あふ、ぁ……」
生あくびを噛み殺しながらリビングへ行くと、うにゅほが家族とテレビを見ていた。
「あ、おはよ」
「おふあ」
どうにも眠気が取れない。
炭酸を摂取しようと台所に足を向けたとき、うにゅほがパーカーを着ていることに気がついた。
「──…………」
ぱさ。
特に意味もなくフードをかぶせてみる。
「なにー?」
「なんでもない」
「……?」
不思議そうな表情を浮かべ、フードを脱ぐ。
もしかすると俺は、うにゅほを困らせるのが好きなのかもしれない。
小学生か。
そう自嘲しながら、グラスに注いだペプシネックスをあおり、眠気をわずかに飛ばした。
帰り際、
「──…………」
ぱさ。
またフードをかぶせてみた。
ぶーたれるかな。
笑うかな。
「──……?」
じ。
うにゅほの視線が俺を貫く。
きょとんとしているように見える。
「──…………」
さっと目を逸らし、うにゅほの隣に腰掛ける。
なんだか、こちらが笑いそうになってしまった。
それから一時間ほどして、
「××、いつまでフードかぶってるの?」
ようやく母親から突っ込みが入った。
ありがたい。
自分でやった手前、自分では突っ込みづらかったのである。
「ぬいでいいの?」
うにゅほが俺に問い掛ける。
「ごめん、いいよ」
「ふー」
ほっと一息つきながら手櫛で髪を整えるうにゅほを見て、俺は思った。
危ういくらい素直な娘だ。
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2013
12.18

うにゅほとの生活753

2013年12月18日(水)

「──……はー」
助手席のうにゅほが吐息で手を温めている。
なんてことのない光景だが、ひとつだけおかしな点があった。
「……手袋してるのに?」
「!」
うにゅほが慌てて姿勢を正す。
「なんだ、若くしてボケが始まったのか」
茶化すように言うと、
「うん、そう、あはは」
と、なんとも不自然な答えが返ってきた。
「──…………」
なにかを誤魔化しているような気がする。
確証はないが、そんな気がする。
うにゅほの様子を横目で窺っていると、両手をもじもじと擦り合わせていることに気がついた。
「──……もしかして」
「?」
「その手袋、薄い?」
買ったばかりの手袋だが、あまり良い品ではなかったのかもしれない。
千円だったし。
「えと、うん……」
うにゅほが躊躇いがちに頷いた。
遠慮していたらしい。
「ここだけうすい……」
指のあたりを曖昧に示す。
「どこ?」
「ここ……」
よく見ると、親指と人差し指の先端だけ、別の生地で仕立ててあるようだった。
「親指と、人差し指──あ、そうか」
なるほど理解した。
「これ、手袋したままスマホ操作できるやつだ」
「そなの?」
「試してみな」
信号の隙を見て、うにゅほにiPhoneを手渡す。
「──あ、ほんとだ」
「な?」
しばし操作したのち、
「でも、てぶくろぬいだほういい」
と、うにゅほが呟くように言った。
電話の受信など緊急性の高い要件でなければ、脱いだほうが操作しやすいに決まっている。
「現状、ただ指先が冷えるだけの手袋ってことだな……」
「うん……」
うにゅほの指先が凍傷になっても困る。
今度はよく確認して買い直すことにしよう。
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2013
12.17

うにゅほとの生活752

2013年12月17日(火)

「あー……」
肩の筋肉を指先で圧しながら、ゆっくりと首を回した。
「かたこってる?」
「肩凝ってる──……」
ぐりぐりと指を動かしてみる。
「……気がする」
「きがするの?」
「気がする……」
と言うのも、実のところ肩凝りというものがよくわからないのである。
経験がないのではなく、どこからが肩凝りなのかが判別できない。
確実に凝っているときはあるが、いつも凝っているような気もするし、あるいはすべて気のせいなのかもしれない。
「かたもむ?」
「頼む」
うにゅほに背中を向ける。
「よっ、しょ」
もみもみ。
「かたい」
「いつもより?」
「いつも、わかんない」
そりゃそうである。
「──…………」
それにしても、弱い。
心地はいいのだが、効いている感じがまったくしない。
遠慮しているのか、単純に非力なのか、よくわからないけど。
「──よし、ありがとう」
「もういいの?」
「あんまり揉んでもらったら、××の手のほうが痛くなるだろ」
「だいじょぶ」
「だいじょばない」
チェアから腰を上げ、本棚の上の段に手を伸ばした。
「代わりにこれ貼ってくれ」
「しっぷ?」
「モーラステープ」
「しっぷだ」
うにゅほはモーラステープのことを湿布と呼んでいる。
似たようなものだけど。
「悪いけど、肩と二の腕に貼ってくれる?」
「うん」
シャツの襟元に手を掛けると、
「わ」
うにゅほが声を上げた。
「ぬぐの?」
「脱がないと貼れないでしょう」
「ほー……」
なにそのリアクション。
二年以上も同じ部屋で暮らしているのだから、俺の上半身なんて見慣れているだろうに。
不器用に歪んだモーラステープの表面を撫でながら、パジャマの上衣に袖を通した。
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2013
12.16

うにゅほとの生活751

2013年12月16日(月)

「スープ飲むけど、どうする?」
「のむー」
いよいよ冷え込みが厳しくなってきたため、あたたかいカップスープを好んで飲んでいる。
「組み合わせは?」
「うーと、ほうれんそうと、ふつうのポタージュ」
「定番だな」
「うん」
いくつもの種類を揃え、組み合わせて作ることで、飽きが来ないようにしている。
これが、けっこう楽しい。
「◯◯は?」
「どうしようかな……」
チーズときのこにしようか。
それとも、きのこを取り止めて、男爵いもを使おうか。
いっそシンプルにコーンポタージュというのも悪くないかもしれない。
コーンポタージュに限っては、混ぜないほうが美味しいのだ。
「──……あっ」
「?」
ふと思い至ることがあった。
「そういえば、ブレンドせずに飲んだことあるのって、コーンポタージュくらいじゃないか?」
「ほうれんそう、あるよ」
「ほうれん草はあるな」
「きのこもあるよ」
「あ、きのこ俺は飲んだことない」
「きのこにする?」
「いや──」
ビニール袋を漁り、ちょうど二袋余っていたサーモンチーズチャウダーを取り出した。
「これにしよう」
「うー……」
うにゅほが渋い顔をする。
「わたし、それすきじゃない」
「飲んだことあったっけ」
「まぜたことある……」
「……?」
好みの味じゃなかったのだろうか。
そんなことを考えながら、ヤカンでお湯を沸かし、二人分のスープを作った。
「──…………」
「──…………」
眼前のマグカップに、薄いピンク色のスープが注がれている。
「──……あのさ」
「?」
「このスープって、こんなに生臭かったっけ」
「うん」
ブレンドしたときは気がつかなかったが、猛烈に臭い。
意を決し、ひとくち啜る。
「──…………」
味は悪くない。
悪くないが、犬のエサの臭いが口いっぱいに広がった。
「……××が嫌いな理由、わかった」
「うん……」
牛乳で薄め、一気に飲み干した。
好きな人は好きなんだろうけど、俺とうにゅほは駄目でした。
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2013
12.15

うにゅほとの生活750

2013年12月15日(日)

「……母さん、早く帰ってこないかな」
思わずそう呟いた。
旅行に行っている母親が、今日帰宅する予定なのである。
「かぜ、すごいもんね……」
未曾有の暴風で、ぎしぎしと家が揺れている。
雪が降れば、吹雪となる。
何事もなく無事に帰宅できればいいが──と、思っていないわけではないが、すこし違う。
「いや、おみやげが……」
「?」
「おみやげがあるって言うから晩御飯抜いたわけで」
空腹を訴える胃袋を撫でつける。
「だからたべなかったの……」
うにゅほが呆れたように言った。
「だって、吉野家の牛丼だろ。それはいつでも食べられるわけだし」
「そだけど」
「糖分が足りないんだ、糖分が……」
連日の吹雪で外出できなかったため、甘味に飢えているのだ。
「ああ、早く帰ってこないかなあ」
「あめなめる?」
「舐める」
ソーダ味のキャンディを舌の上で転がしながら、母親の帰宅を待っていた。
午後九時をいくらか過ぎたあたりで、
「──ただいまー!」
大荷物と共に母親が帰宅した。
「おかえりー」
「おかえり」
段ボールいっぱいのおみやげを、テーブルの上にひとつひとつ並べていく。
伊勢餅、草餅、桔梗信玄餅──
「餅ばっかだな!」
「もちきらい?」
「好き」
満足するまで餅菓子を頬張ったのだった。
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2013
12.14

うにゅほとの生活749

2013年12月14日(土)

台所の隅に牛乳パックが並んでいたので、開いておくことにした。
牛乳パックの開き方は、各家庭によって異なるようだ。
我が家では、まず縦に裂いたのち、底に沿ってざくざく切り開くという順序である。
半分ほど開き終えたあたりで、
「あ!」
うにゅほが台所にやってきた。
「ぎゅうにゅうパックきってる」
「溜まってたから」
「はさみ、つかわないの?」
俺の右手に握られている包丁を眺めながら、うにゅほがそう尋ねた。
「包丁のほうが楽だろ」
「きれないよ」
「そうか?」
ざく。
うにゅほの目の前で牛乳パックを裂いてみせる。
「えっ」
「ほら、簡単だ」
「もっかい!」
ざく、ざく。
「えー!」
うにゅほが驚嘆している。
「もしかして、包丁の使い方が悪いんじゃないか」
「そかな」
「普段どうやって使ってる?」
「ねこのて」
合ってるけど違う。
「肉を切るときと基本は同じなんだけど……」
「にく、おかあさんがきる」
「こないだのシチューのときは?」
「きりにくかった」
「なるほど」
なんとなくわかった。
「切りにくいものを切るときって、刃を前後に動かすだけじゃ駄目なんだよ」
「そなの?」
「なんというか、その、弧を描くように引いて切る、というか──」
言葉にするのが難しい。
「こ?」
「丸の下半分、みたいなかんじ」
「──……?」
きょとんとしている。
これはもう、実践して見せたほうが早い。
「牛乳パックの口を、指で左右に広げるだろ」
「うん」
「あいだの辺に刃を当てて──」
うにゅほの視線を受け止めながら、包丁を動かす。
ざく。
「おー!」
「こうすると、簡単に切れる。力もほとんどいらない」
「すごい!」
すごくはない。
というか、包丁の使い方くらい、ちゃんと教えておいてほしい。
「やってみたい」
「ああ──あ、駄目だ」
「なんで?」
「牛乳パック、これで最後だ」
パックが溜まったら、また教えてあげよう。
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2013
12.13

うにゅほとの生活748

2013年12月13日(金)

「ゆきだ」
うにゅほの言葉に窓の外を見ると、粉雪が静かに舞っていた。
「うわ……」
「ゆきかき?」
鬱々とする俺を前にして、弾む声音を隠そうともしない。
どうしてそんなに元気なのだろう。
「この調子なら、夕方にちょっと掻くだけで済むだろ」
「そかー」
残念そうなうにゅほの様子に、犬は喜びなんとやら、というフレーズが脳裏をよぎる。
わりと犬っぽいし。
三十分後──
「ふぶいてきた」
「……吹雪いてきたな」
一時間後──
「もうふぶき……」
「──…………」
霧よりも激しい白が世界を引き裂いている。
空が、溜め込んでいたものすべて吐き出しているようだった。
「こりゃ駄目だ」
「ゆきかき?」
ぴこん、と脳天から「!」を出して、うにゅほが腰を浮かせた。
「……雪かき、そんなに好きだったっけ」
「ふつう」
そう答えながら、いそいそと防寒着を着込み始める。
本格的な雪かきは今季初だろう。
二度の冬を越えて戦力になってきたうにゅほを連れ、吹雪のなかへと繰り出した。

「はー……」
「……ふひー」
玄関へ逃げ込み、コートの雪を払う。
「こりゃ、後でもう一度やらないと駄目そうだ」
「うん」
掻いたそばから積もっていくのだから、どうしようもない。
「ストーブにあたって休もう。寒い」
「うん」
日没を迎えても、吹雪は治まる気配を見せなかった。
父親の帰宅を待って、もういちどしよう。
そんなことを考えていたとき、
「──……?」
うにゅほがトイレから戻ってこないことに気がついた。
リビングを覗くと、干していた防寒着がなかった。
「──…………」
コートを着込み、外に出た。
うにゅほがひとりで雪かきをしていた。
「あ、◯◯……」
いたずらが見つかったような素振りで、うにゅほが手を止めた。
「──…………」
自分が腹立たしかった。
理由は書けない。
言葉にすると嘘になってしまうような気がするから。
うにゅほに歩み寄り、
「むい」
両のほっぺたを軽くつまんだ。
「あんまりひとりで頑張りすぎるなよ……」
「ほへんなはい」
「よろしい」
手袋をして、ジョンバを掴む。
「本日二度目、やるぞー!」
「おー!」
やがて吹雪を勢いを弱めていき、三度目の雪かきはなんとか免れた。
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2013
12.12

うにゅほとの生活747

2013年12月12日(木)

「◯◯、◯◯」
俺の名前を呼びながら、うにゅほがとてとてと寄ってきた。
小脇になにか抱えている。
「じゅうにがつじゅうににちだから、これかかないと」
半紙と筆ペンだった。
「あー……」
ぼんやりしてたらもう12日なのか。
「面倒だなあ」
「たのまれたでしょ」
「そうだけど」
我が家では、毎年12月12日にちょっとしたおまじないをする。
「十二月十二日 水」と紙札に記し、それを逆さまに貼ることで、一年のあいだ火災から家を守るというものだ。
書道経験者である母親が毎年書いていたのだが、旅行中なのだから仕方がない。
「俺だって、そんなに字が上手いわけじゃないんだけど……」
「でもにばんめにうまい」
「それは君たちが下手なだけだと思う」
半紙を八等分し、札とする。
最初の二、三枚は練習である。
「とめが上手くいかない……」
「十」が卍手裏剣みたいになってしまった。
習字なんて小学校以来なのである。
「これだめ?」
「駄目だろう」
「だめかー……」
それでも、紙札を何枚か消費するうち、なんとか見られる字が書けるようになっていった。
「──よし、こんなもんか」
最後に書き記した紙札を眼前に掲げた。
一年間壁に貼っておいても恥ずかしくはない程度の出来栄えだ──と、思う。
「わー」
無邪気に手を叩くうにゅほに、
「はい」
と、筆ペンを手渡した。
「?」
「今度は××の番な」
「えっ」
「上手く書けたら部屋に貼ってあげるから」
「えー……」
うにゅほはあまり字が上手くないし、そもそも筆でものを書いたことさえないかもしれない。
だから、単なるお遊びである。
「い、いきます」
ぷるぷると揺れる筆先が半紙に下ろされていく。
その出来栄えは、
「──……まあ、父さんたちよりかは上手いと思う」
といった具合のものだった。
「うー……」
「部屋に貼ろうか?」
「うー!」
うにゅほが紙札をくしゃくしゃに握り潰し、二枚目を手に取った。
「こんどこそ」
しかし、納得のいく紙札は、ついには完成しなかった。
また来年である。
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2013
12.11

うにゅほとの生活746

2013年12月11日(水)

「うわあー」
家の前の道路が凍りついていた。
昨夜の吹雪が原因だろう。
「くつかってよかったね」
「ああ」
一週間ほど前、揃って冬靴を買い替えたのである。
「去年までの靴は、お互いけっこう滑ったもんな」
「あぶないあぶな──」
つるっ。
うにゅほが、玄関から一歩目で滑った。
「あぶぁ!」
奇声を発しながら、慌ててうにゅほの上体を支える。
「ふー……」
「?」
きょとんとしている。
「斜めのとこは気をつけないと」
「うん……」
何事もなくてよかった。
「このくつ、けっこうすべる」
「おろしたてだから、靴底がまだ硬いのかもな」
「そかな……」
そんなことを話しながら十メートルほど歩いたころ、ふと気がついた。
凍結した路面を不用心に歩いているというのに、俺の靴はまったくと言っていいほど滑らないのである。
「──……××」
「?」
「ちょっと背中押してみて」
いかにも滑りそうな場所で立ち止まり、ちょいちょいと背中を指で示した。
「おすの?」
「ああ」
「おすよ」
「ああ」
うにゅほの手のひらが俺の背中を圧迫する。
「もうすこし強く」
「んぎぎ」
動かない。
「……スタッドレスかってくらい滑らないな、この靴」
六千円の価値はあったようだ。
「いいなあ」
とんとんと爪先で地面を蹴りながら、うにゅほがそう呟いた。
「なに、××が滑って俺が滑らないなら、手を繋いで歩けばちょうどいいだろ」
「あ、そか」
ぱん、と両手を合わせ、名案とばかりに目を輝かせる。
手袋越しの手のひらは、なんだかふわふわと遠い気がして、ぎゅっと強めに握り締めた。
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