2013
11.30

うにゅほとの生活735

2013年11月30日(土)

「──さて、と」
ジョンバを雪山に突き刺し、ほっと一息ついた。
「こんなところかな」
「うん」
「思ったほど積もってなくて、よかった」
「そだねえ」
うにゅほが膝を折り、質素な墓石の雪を払った。
今日は愛犬の一周忌である。
「一年経ったかー」
「うん」
「なんか、そんな感じしないけどな」
「そう?」
「俺は、そうかな」
コートのポケットからビーフジャーキーの袋を取り出し、開封する。
「おそなえ?」
「犬用ジャーキーのほうがいいんだろうけど、余っても困るから」
「えんぶん、だいじょぶかな」
「死んでから健康を気にしてもなあ」
ビーフジャーキーをひとかけら、墓前に供えた。
「──…………」
ぱん、と手を合わせる。
「南無大師遍照金剛でいいのかな」
「おきょう?」
真言ってお経なんだろうか。
「まあ、いいや、なんでも」
「うん」
黙祷を捧げ、立ち上がる。
「──…………」
うにゅほの黙祷が終わるのを待ち、きびすを返した。
「もうおわり?」
「他にできることがない」
死者への祈りは、自分への祈りだ。
納得できればそれでいい。
「──…………」
うにゅほの表情が翳る。
さばさばし過ぎていただろうか。
そうかもしれない。
「……散歩」
「?」
「散歩、しようか。久しぶりに」
すこしだけ照れながら、振り返らずにそう言った。
「うん」
とてとてと寄り添い、うにゅほが俺の手を取った。
その手は、俺と同じくらい冷えきっていた。
「──…………」
「──…………」
かつての散歩コースを辿る。
会話はなかった。
すぐ傍にありながら、一年も歩いていなかった道。
なにひとつ変わらない。
なんとなく空を見上げながら、手を繋いで歩き続けた。
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2013
11.29

うにゅほとの生活734

2013年11月29日(金)

「あ、ごまどれあった」
「二本だっけ」
「うん」
胡麻ドレッシングをカゴに入れ、一息ついた。
「これで全部かな」
「うと、ごまどれかった、めぐすりかった、はぶらしかった──」
うにゅほが、カゴの中身をひとつずつ確認していく。
「うん、だいじょぶ、ぜんぶ」
うんうんと頷いた。
「××はなんか欲しいものある?」
「んー」
しばし黙考し、
「ない」
と答えた。
「◯◯は?」
「俺か、俺はなあ……」
しばし思案し、
「あ、ポッキー食べたい」
さっき見かけてからすこし気になっていたのだ。
「わたしもたべていい?」
「いいぞ、二袋入ってるし」
「わー」
そんな会話を交わしながら、会計を済ませて帰宅した。
「ポッキー、大人のミルク……」
呟きながら開封し、口に入れる。
ぱり。
なんだか妙に歯ざわりが良い。
「サクパリのパイ食感?」
と、書いてある。
「どんなあじ?」
「ほら、××のぶん」
一袋を手渡す。
「これは、あしたたべる」
「ああ」
「いっぽんちょうだい」
そう言うと思った。
ただあげるのもつまらないので、ちょいちょいとうにゅほを手招く。
「?」
うにゅほが傍に寄ってきた。
「ほら、あーん」
「あー」
かりっ。
指先に振動が伝わる。
「かたい」
「ちょっと硬いよな」
「おいしい」
かりかり。
「──…………」
なんだろう、この満足感は。
「……もう一本食べる?」
「いいの?」
「あーん」
「あー」
かりかり。
ああ、これは、そう、ウサギに餌をあげているときのような──
「まだ欲しい?」
「もういいよ?」
「そうか……」
なんとなく残念に思いながら、前歯でポッキーを噛み砕いた。
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2013
11.28

うにゅほとの生活733

2013年11月28日(木)

ソファに腰掛けて本を読んでいると、うにゅほが俺の膝に上半身を預けてきた。
寒かったのだろう。
「──…………」
膝をちょっと上げる。
「う」
おなかを押され、うにゅほがうめく。
「──…………」
「う、う、う」
面白い。
「もー」
「ははは」
うにゅほが不満げに上体を起こす。
そのまま読書を続けるのかと思いきや、くるりと反転して仰向けに寝そべった。
俺の膝を支点にして、全身が猫のように反り返っている。
「──…………」
大丈夫なのだろうか。
相変わらず、前屈以外はすこぶる柔らかいうにゅほである。
「ほら、おなか出てる」
「うん」
ちょいちょいと上着の裾を直しながら、思う。
腹太鼓を誘うような体勢だなあ。
やらないけど。
「──…………」
人差し指の先をおなかに突き立てて、へそ当てゲームとかしたら面白いだろうか。
やらないけど。
「──…………」
むに。
「ぶ」
うにゅほのほっぺたをつまむ。
反応なし。
うにい。
「ふー」
うにゅほのほっぺたを伸ばす。
反応なし。
ぱ。
「ぷ」
離す。
反応なし。
漫画に集中しているのか、どうでもいいのか。
ゆるゆるに気を許されているのは嬉しいが、ここまで無反応だと逆に寂しくもある。
まあ、いいや。
ちょっと重い膝掛けと思って読書を再開した。
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2013
11.27

うにゅほとの生活732

2013年11月27日(水)

スピーカーで音楽を流しながら、ひとり読書に勤しんでいた。
うにゅほは台所で夕食の手伝いをしている。
そのうち戻ってくるだろう。
「お」
懐かしくも印象的なイントロがスピーカーから流れ始めた。
スガシカオの夕立ちだ。
こうして耳にするのは何年ぶりだろうか。
「♪その日 午後から──」
無意識に口ずさみながら、ゆっくりとページを繰る。
懐かしい。
本当に懐かしい。
「♪不意に──」
いよいよサビに差し掛かったとき、

がちゃ。

不意に扉が開いた。
思わず口をつぐむ。
うにゅほだった。
濡れているのか、左手をスカートで拭っている。
「──…………」
なんとタイミングの悪い。
「きょうのごはん、とりにくとネギのやつだよ」
「おー」
わりと好きなおかずだ。
「ふう……」
ソファに腰を下ろし、うにゅほが口を開いた。
「うたわないの?」
「!」
心臓が跳ねた。
それほど大きな声で歌っていたつもりはないのだが。
「……聞こえてたの?」
「うん」
壁仕事しろ。
「あー、もう、あー……」
顔から火が出そうだ。
「はずかしいの?」
うにゅほがきょとんと問う。
「恥ずかしいよ!」
「なんで?」
「××だって歌うの恥ずかしがるだろ」
「◯◯、カラオケうたうのに」
「カラオケは歌う場所だから恥ずかしくないんだよ」
「──……?」
小首をかしげる。
どちらも恥ずかしいうにゅほとしては、その差がよくわからないらしい。
「うー……まあ、いいや」
説明は諦めた。
いつか同じ目に遭わせたい。
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2013
11.26

うにゅほとの生活731

2013年11月26日(火)

「♪~」
うにゅほがリビングでごろごろしている。
い草のカーペットから冬用のラグに敷き替えたためだろう。
「にしても、随分ふかふかしたラグだな」
「ねー」
どうやら低反発素材が使用されているようで、毛足が長いわけでもないのに足あとがくっきりと残る。
「これから寒くなるんだし、いいのかな……」
「うん」
手にしたマグカップをテーブルの上に置き、ソファに腰掛ける。
そして、片手でテーブルを引き寄せようと──
「……あれ」
動かない。
テーブルの下を覗き込む。
「あー……」
テーブルの脚がラグにめり込んでいた。
「これは動かない……」
「どしたの?」
「あんまりふかふかしてるせいで、テーブルが片手で動かなくなった」
「えー」
うにゅほが上体を起こし、テーブルの端を掴む。
「ぬうー……!」
動かない。
ちなみにマグカップは退避済みである。
「これはちょっと持ち上げないと無理かもしれない」
「もちあげる、の?」
「ああ」
「これ?」
「ああ」
畳一畳ほどはあろうかという木製のテーブルである。
ソファに寝そべったまま気軽にスープが飲めなくなってしまった。
「──…………」
「!」
俺の内心を察したか、
「でもこれいいよ。あったかいよ」
うにゅほがラグを擁護し始めた。
「ふかふかしてるし」
ふかふかしてるせいでこんなことになったわけだけれども。
「まあ、そうだな。もう冬だもんな」
いまさら返品するわけにも行かないだろうし。
テーブルを動かすのが面倒になって、ラグの上にあぐらをかいた。
「──…………」
座り心地は悪くないな、と思った。
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2013
11.25

うにゅほとの生活730

2013年11月25日(月)

師走も近づき、道路工事を見かけることが多くなった。
工事をするぶんには一向に構わないが、道幅が狭くなるのは困りものである。
「あー……」
前方に連なる小渋滞を見つめ、唸る。
「ここ橋だから迂回できないんだよなあ」
「れつながいねえ」
「信号の五、六回分は覚悟しないと駄目そうだ」
「うん」
左腕を肘掛けに置き、前方車両のナンバープレートでぼんやり暗算などしていると、
「♪」
うにゅほに手を取られた。
「なに?」
「うん」
もみもみ。
手のひらをマッサージされている。
「よいどめのつぼ」
酔ってないが。
「ぐりぐり」
ちょっと痛い。
されるがままにしているのもつまらないので、ちょっとからかうことにした。
「──…………」
「!」
すべての指を折り畳み、握り拳をつくる。
「──…………」
「──…………」
しばしの膠着状態ののち、
「──…………」
「!」
素早く人差し指を立てた。
「──…………」
うにゅほが、俺の人差し指を恐る恐る掴もうとする。
「──…………」
「!!」
すんでのところで人差し指を折り、同時に小指を立ててみせた。
「おー……」
道具を使わない簡易的なモグラたたきゲームである。
「お」
「ほい」
「やっ」
「よいしょ」
「お、ほ、あはは!」
けっこう楽しそうだ。
これって、本来は幼児向けの手遊びなんだよな。
いいんだけど。
右手を交えてしばし遊んでいると、やがて車が動き出した。
暇は潰せたな、うん。
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2013
11.24

うにゅほとの生活729

2013年11月24日(日)

「あー……」
ソファの背もたれに沿って天井を見上げながら、ぼんやりと呟く。
「どっか出かけるかー」
「どこいくの?」
「それは決めてないんだけども……」
部屋のなかでくさくさしていても、精神衛生的によろしくないことはたしかである。
「行きたいとこ、ある?」
「えー」
小首をかしげながら、
「すぐおもいつかないよ」
「思いつかないか」
いきなり言われたところで、そりゃそうかである。
「じゃあ、やりたいこととか」
「うー?」
「欲しいものとか」
「んー……」
しばし思案し、
「あ、あまいのたべたい」
「ほう」
食指が動く。
甘いものはいつだって美味いものだ。
「じゃあ、またクレープ食べに行こう」
「あそこのとこ?」
「たぶんそこで合ってる」
以前見つけたクレープ専門店だが、なんだかんだで行きつけになりつつある。※1
バナナを抜くと50円引きになるところが素晴らしい。
「目的地も決まったし、出かけるかー」
「おー」
クレープを食べて、ホームセンターへ寄り、適当に遠回りしながら帰宅した。
「──……ふへ」
ソファに寝そべりながら、うにゅほがにへらーとした笑みを浮かべる。
「そんなに気に入ったのか……」
「ふかふか」
立ち寄ったホームセンターでふかふかもちもちのクッションを発見し、一も二もなくうにゅほが自腹で購入したのである。
「ちょっと貸して」
「いいよお」
──ふかっ。
「……いいな、これ」
「うん」
でも、こういうクッションって、だんだんふかふかしなくなってくるんだよな。
「うへへ……」
嬉しそうだから言わないけど。

※1 2013年11月13日(水)参照
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2013
11.23

うにゅほとの生活728

2013年11月23日(土)

「──……うぅ……」
午後三時を回ったころ、ようやく起床した。
ぐうたらしていたわけではなく、熱があったのである。
原因はわかっている。
火垂るの墓だ。
どうにも精神的ダメージが肉体にフィードバックする性質らしく、同じようなことを幾度も繰り返している。
翌日まで持ち越したのは俺のほうだったということだ。
「おはよう」
「あ、おはよ」
うにゅほはすっかり落ち着いた様子で、KindlePaperwhiteをいじりまわしていた。
「あとで出かけるけど──」
「いく」
即答である。
確認する必要をあまり感じないのだが、ごくまれに優先度の高い用事があったりするからなあ。
「どこいくの?」
「ホームセンターでステンレスワイヤーを買いたいのと、」
「ふんふん」
「モニタ用のクリーナーを買いたいのと、」
「ふむふむ」
「あと、コンテにガソリン入れたいかな」
「ガソリンやっていい?」
「いいよ」
「わー」
たったそれだけのことで上機嫌になってくれるのだから、無闇に微笑ましい。
買い物を手早く終えたあと、行きつけのガソリンスタンドに立ち寄った。
「はい、カード」
「うん」
レバーで給油口を開き、車を降りようとすると、
「ひとりでできるよ」
「そうか?」
「うん」
まあ、大丈夫だろう。
そう思い、運転席で待つことにした。
「──…………」
ウィンドウ越しにうにゅほの様子を見る。
静電気除去シート撫で回し過ぎだって。
ああ、ほら、キャップ開く前に給油ノズル持つから。
「ふー……」
なんだか気疲れしてしまう。
天井を見上げながらうにゅほを待っていると、
「──……?」
様子がおかしいことに気がついた。
コンテを降り、うつむいているうにゅほの傍へ近づいていく。
ぽたり。
うにゅほの足元にしずくが落ちる。
「──……ぶぇえ」
号泣していた。
「今!?」
なにをきっかけにして!?
「××、どうしたんだ……?」
「ぶー……」
うにゅほが俺に抱きつく。
視線が痛い。
「──よし、とりあえず車に乗ろう。戻ろう。な!」
あとから聞いたところによると、なんの前触れもなく火垂るの墓のラストシーンを思い出してしまったらしい。
理由は自分でもよくわからないのだとか。
翌日まで持ち越したのは、うにゅほも同じだったということである。
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2013
11.22

うにゅほとの生活727

2013年11月22日(金)

だから言ったのだ。
俺は止めたのだ。
うにゅほは泣き疲れて眠り、涙と鼻水とよだれの入り混じった大きな染みが俺のシャツに残された。
賢明な読者諸兄には、この一言で御理解いただけるだろう。

──火垂るの墓を見た。

うにゅほはジブリ映画が好きである。
俺は失念していたのだが、先週のルパン三世放映後に「秋もジブリ!」のキャッチフレーズで大々的に予告されていたらしい。
余計な真似を。
今日の午後九時を一週間ものあいだ心待ちにしていたうにゅほを、
「絶対泣くから!」
の一言で止められるはずもない。
スタッフロールが終わったあとも、俺のシャツに顔を押しつけたまま微動だにしないという有り様である。
火垂るの墓を見て泣かなかったのは、もしかすると初めてかもしれない。
泣く暇がなかった、とも言える。
「──…………」
たっぷり二十分も俺の腰にしがみついたあと、うにゅほがむくりと起き上がった。
「大丈夫か……?」
「……ねる」
そう呟き、ふらふらと立ち上がる。
「来週のおもひでぽろぽろはどうする?」
「──…………」
ぴたりと動きを止め、
「……みる」
と答えた。
見るんかい。
「まあ、泣くやつじゃないから大丈夫」
「うん」
「おやすみ」
「おやすみ……」
うにゅほが布団に吸い寄せられていくのを眺めながら、思った。
明日に持ち越さなければいいんだけど。
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2013
11.21

うにゅほとの生活726

2013年11月21日(木)

「◯◯、つたやいかないの?」
青いレンタルバッグを掲げながら、うにゅほが尋ねた。
「見たいのあるのか?」
「ちがくて」
ふるふると首を振る。
「でぃーぶいでぃー、かえさないの?」
「あれ、もう一週間経ったっけ」
よく思い出せない。
見ていないDVDがあると返却期限に対してナーバスになるが、すべて見てしまった場合その限りではない。
さっさと返せばいいんだけど。
「今日が期限なら、日が暮れる前に行っとかないとなー」
後頭部を掻きむしりながら、ぼんやりと呟いた。
「あの」
「?」
「ちがくて」
「なにが?」
「きげん、きのう……」
「えっ」
バッグを受け取り、レシートを確認する。
返却期限 2013年11月20日(水)
「……やっちゃったぜ」
「どうなるの?」
うにゅほの表情が不安に翳る。
「や、そんなひどいことにはならないよ。
 追加料金を取られるだけで」
「どんくらい?」
「延滞したの初めてだからなあ……」
「ひゃくえんくらい?」
「もうすこし高いんじゃないか」
そんなことを話しながらTSUTAYAへ赴くと、
「──……1枚につき、315円」
「ごまいだから……」
「1,575円、だな」
思ったより高かった。
「いっしゅうかん、ひゃくえんなのに、いちにちさんびゃくえん……」
納得の行かない顔をしている。
「そうしないと、なかなか返さない人が出てくるから」
「──……うー……」
「?」
うにゅほがなにやら呟くように唇を動かしている。
「……いっかげつえんたいすると、きゅうせんえん?」
「そうなるな」
「でぃーぶいでぃー、かえる?」
「買えるな」
「もったいないね……」
「ほんとだよ」
一年延滞すると、十万円以上請求されるのだろうか。
そうなる前に督促の電話が来そうなものだけど。
「ちゃんとかえさないとね」
「今日は借りてないけどな」
「かりてないけど、ちゃんとかえさないとね」
「そうだな」
一階の書籍コーナーで、ねこむすめ道草日記の10巻を購入し、帰宅した。
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