2013
10.31

うにゅほとの生活705

2013年10月31日(木)

「あつい」
小春日和という言葉がぴったりの、穏やかで暖かい気候だった。
やわらかな日差しが世界を包み込んでいる。
「あつい……」
「暑いな……」
それはそれとして、暑かった。
北海道のような寒冷地の住宅では、二重窓が用いられることが多い。
あいだに空気の層を挟むことで断熱効果を高めたものだが、熱を逃がさないということは、熱が篭もりやすいことと同義である。
ぴ。
ストーブの電源を一瞬だけつけて、室温を確認する。
「……27度」
夏か。
「まどあけよう」
「窓……」
憂鬱な視線を二重窓へ向ける。
「開けたくないなあ」
「なんで?」
「閉めるとき、あんなに苦労したの、忘れたのか?」
「……あー」
思い出したらしい。
二重窓の断熱性は、通気を遮断することで成り立つものである。
窓と窓のあいだに熱伝導率の低い空気の層を取り入れることで断熱効果を高めているのだが、内部の冷やされた空気が室内に流入しては本末転倒だ。
そこで、引き違いの窓を密閉する仕組みが必要になる。
我が家の窓には、閉じた状態の二枚の窓枠を貫通するネジ穴が開いており、それを締めることで密閉度を上げるという設計になっている。
しかし、だ。
我が家はそこそこの築年数であり、ところどころ綻び始めている。
それは、二重窓の建て付けも同様だ。
ネジを通すということは、二枚の窓枠に開いたネジ穴をぴったり合わせなければならないということである。
それがどれほどの難事か、
「この窓は、春まで開けないって決めたんだ……」
という悲壮な覚悟から理解していただきたい。
ちなみに、冬期間の換気はドアを開けることで賄っている。
「あついー……」
うにゅほがソファでぐったりしている。
「せんぷうきほしい」
「どうせ、夜になったらストーブをつける羽目になる」
「うー」
うめく。
「……あ、そだ」
うにゅほが立ち上がり、自室を後にした。
リビングで涼むのかと思いきや、
「うちわー」
二枚のうちわを持って帰ってきた。
「はい」
「……あ、うん、ありがとう」
うちわを受け取る。
「あついねー……」
ぱたぱた。
「──…………」
リビングは涼しいはずなのだけど。
わかっていて、あえて部屋にいるのだろうか。
どうしよう。
天然だったらどうしよう。
「……××?」
「?」
「なんでもない……」
聞けなかったのだった。
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2013
10.30

うにゅほとの生活704

2013年10月30日(水)

「♪~」
小澤征爾のラヴェルに合わせてうにゅほがヘタクソな鼻歌をうたう。
PC用のスピーカーを購入して以来、部屋に音楽が流れていることが多くなった。
「ノッてるなあ」
膝を抱え込みながら読書をするうにゅほの爪先が、リズムよく動いていた。
よく観察してみると、足の親指と人差し指が交互に前後している。
すっ、すっ。
かすれた音が耳に届く。
「──××」
「?」
「もしかして、これがやりたいのか?」
うにゅほに爪先を向け、親指と人差し指とを思いきり擦り合わせる。
ぴしっ! ぴしっ!
激しい擦過音がラヴェルを遮った。
「そう、それ」
「できてないぞ」
「できない」
「まあ、これができたところで人生においてなんらメリットはないんだが……」
「でも、すごい」
「……すごいか?」
「おとすごい」
「ああ、音か。音はな」
およそ考えられるあらゆる点において不器用な俺だが、足の指だけは器用である。
その握力は幼稚園児のそれを凌駕する。
「──…………」
だからなんなのだろう。
「……あ、いや、そうだ、これできるか?」
「?」
遠い目をしかけた自分を奮い立たせ、うにゅほの眼前に爪先を差し出した。
「親指と中指がこんにちわ」
足の親指が人差し指を跨ぎ越え、中指にぴたりと寄り添った。
「!?」
うにゅほの目がまんまるに見開かれた。
「そんなことが……」
愕然としている。
「ちなみに、親指と中指でもパシパシできる」
ぴしっ! ぴしっ!
「おお、おおお……」
うにゅほが俺の爪先を両手で包み込んだ。
ここまでリアクションが大きいと、このわけのわからん特技も報われるというものである。
「このあし、すごい」
この足て。
ちなみに、時間をかければ親指と薬指をくっつけることも可能なのだが、そこまで行くと気持ち悪がられそうなので、やめた。
言うまでもないが、小指は無理である。
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2013
10.29

うにゅほとの生活703

2013年10月29日(火)

自室のドアは立て付けが悪い。
開けにくいのはまだしも、閉まりづらいのが難点で、こつんと突っ掛かってから、もう一度力を込めなければならない。
家人が退室するときは、ほんのわずか隙間が開いているのが常である。
「んじゃしつれーい」
書類をコピーした母親がリビングへと戻っていく。
こつん。
──…………。
本来、「こつん」のあとに「かちゃ」がなければならない。
「──…………」
互いに視線を交わすと、うにゅほが無言で立ち上がった。
かちゃ。
きちんとドアが閉じられる。
「ふう」
「ちゃんと閉めてくれって言ってんのになあ」
母親からすれば、俺たちがここまで神経質になる理由がわからないのだろう。
部屋のなかにいれば、それは明白である。
つまり、
「テレビ、うるさいもんねえ……」
うにゅほの一言に尽きる。
薄い壁を隔てた隣にリビングのテレビがあるという家具配置上、騒音が漏れることは避けようがない。
しかし、音とは本来的に空気を振動させて伝わるものである。
ドアにほんのわずか隙間があるだけで、リビングから漏れ出す騒音は、体感で1.5倍にもなるのだ。
「……まあ、ずっと部屋にいないとわからんわな」
「そだねえ」
うにゅほが苦笑する。
「あ、でも、(弟)はちゃんとしめる」
「あー、そうかもな。そうだろうな」
「だろうなの?」
「ほら、ずっと前はこの部屋を兄弟で使ってたって言ったろ」
「うん」
「部屋を真ん中で仕切って、寝室側──ふだん使ってるドアのあるほうが弟の領地だったんだよ」
「あ、だから」
「うるさいのがわかってるんじゃなくて、立て付けの悪いドアを閉め慣れてるんだろ」
「あー」
うにゅほがうんうんと頷く。
「じゃあ、◯◯はどこからでてたの?」
「そこ」
本棚で塞がれたドアを示した。
「そか、それドアだもんね」
「なんだと思ってたんだ」
「うん」
「あんまり意識してなかったの?」
「うん」
あるある。
「あかずのま、みたい」
「内側からだけ見ればな」
開けてもテレビの裏に出る。
浪漫のない開かずの扉もあったもんだ、と思った。
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2013
10.28

うにゅほとの生活702

2013年10月28日(月)

左肩と人差し指に痛みがあったので、整形外科を受診した。
人数のわりに長い待ち時間とX線撮影を経てようやくお目通りのかなった医師に、
「目に見えて悪いところはないですね」
と言われてしまった。
うにゅほは安堵していたが、なんだかなあという気分である。
「日常的に運動なんてされてます? 草野球とか」
「したことないです」
「お仕事で、肉体労働なんかは」
「しないです」
「左肩、脱臼された経験とか……」
「ないです」
医師が困惑の表情を浮かべ、
「なにか、心当たりないですか?」
と尋ねた。
心当たりと言われても、あったら最初に言っている。
「うでたては?」
うにゅほが口を挟んだ。
「腕立てってなあ……」
いくらなんでもそれくらいで。
「いえ、強度と回数によっては痛めることもありますよ」
「そうなんですか?」
「ええ。参考までに、どの程度──」
「すごいです」
うにゅほが食い気味で答えた。
「すごくはないだろ……」
俺の呟きは医師に届かなかったようで、
「腕立て伏せはしばらく控えてください」
と、注意されてしまった。
そういうことに決まったらしい。
「あと、人差し指のほうなんですが──」
こちらも大したことはなかったが、いちおうテーピングの必要があるらしく、うにゅほが看護師から巻き方を教わっていた。
太巻きにされないことを祈る。
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2013
10.27

うにゅほとの生活701

2013年10月27日(日)

うにゅほは、日付が変わる前に就寝し、午前六時ごろ起床する。
「──……う」
もぞもぞと布団が動き始めたかと思うと、前触れなく上体を起こし、目蓋を下ろしたまましばらく左右に揺れる。
そのうちに、だんだん目が開いていく。
「……あれ…………」
目が合った。
「おはよう」
「おはよ……?」
目をこすりながら、うにゅほが問う。
「てつやしたの?」
「……眠れなかったんだよ」
あふ、と生あくびが漏れる。
体は睡眠を欲しているのに、神経ばかりが爛々と冴えている。
困ったものだ。
「横になっててもつまらないだけだから、眠気が出るまで起きてるよ」
「そっか」
そう頷き、うにゅほは柔和な笑みを浮かべた。
さして珍しいことでもないので、同棲しているうにゅほの理解は深い。
「着替えたら、洗濯するのか?」
「うん」
「じゃあ──」
物干しを手伝おうかと思ったが、窓の外は生憎の空模様だ。
屋内で干すとなれば、図体の大きい俺は、かえって邪魔になると思った。
「朝ごはん、は……」
扉の外から忙しない音が聞こえてくる。
母親は、既に朝食の支度に取り掛かっているらしい。
「──…………」
効率よく回っているところに気まぐれで混ざるのは、迷惑でしかない。
「……部屋でおとなしくしとく」
「そう?」
うにゅほが小首をかしげた。
午前十時を過ぎたあたりで、ようやく眠気が訪れた。
「ふぁ──……ふ」
「あくびながい」
「このまま夜まで起きていられれば、体内時計も狂わずに済むのになあ」
既に狂っているという意見は一時保留しておく。
「ねれないよりいいよ」
「かもしれない」
うにゅほの寝床に全身を沈め、呟く。
「俺、調子悪いのかなあ……」
「え!」
うにゅほが驚いた。
「きづいてなかったの?」
「──……?」
言葉の意味が理解できなかった。
「かおいろ、ずっとわるいよ」
「え、まじ?」
ぺたぺたと頬に触れる。
「やすんだほういいよ」
「……そうする」
掛け布団を頭までかぶり、目を閉じた。
起きると午後四時だった。
すこしだけすっきりした気がする。
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2013
10.26

うにゅほとの生活700

2013年10月26日(土)

注文していたハンディクリーナーが届いた。※1
「でっかいねえ」
「部屋で見ると、思ったよりごついな」
デスク周りで使うと、なにもかも吸い尽くしてしまいそうだ。
「ふつうのそうじきじゃだめなの?」
「部屋に欲しかったの!
 ほら、電源入れてみよう」
「うん」
異常に長いコードを解き、コンセントにプラグを差し込む。
「いいぞー」
「はい」
うにゅほが電源をONにする。
──ぶおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
「わ!」
「うるせえ!」
慌ててOFFにする。
「びっくしした」
「サイクロンで手元だから、覚悟がいる音量だな……」
同価格帯なら可能な限りハイパワーを、と俺のゴーストが囁いた結果である。
「……まあ、深夜に使わなければ、いいか」
「そだね」
たしかにうるさいが、会話できないほどではないし。
「さて、吸引力はどうだろう」
フロアブラシを装着し、カーペットを掃除してみる。
ずぼぼぼぼぼぼ。
「おお、吸い付く吸い付く」
「ほおー」
うにゅほに取っ手を渡す。
「おおおおお」
「な、吸うだろ?」
「うん!」
「うちの掃除機の、なんと弱っていることか」
「うん……」
さすがに十年は使っていないと思うが、それくらい古い。
「そうじき、すてるの?」
「いや、用途が違う。
 こんなので家中掃除してたら、腕パンパンになっちゃうよ」
「?」
「隙間とか、高いとことか、ふつうの掃除機が難しいところを掃除するの」
「おー」
うにゅほがうんうんと頷く。
「じゃあ、さっそく掃除してみるか」
「はい」
──十分後、
「……腕がパンパンだ」
本体重量は2kgだが、コードが重い。
取扱説明書で確認したところ、6mもあるらしい。
どこまで行くことを想定しているのだ。
「かみパック、ないの?」
「サイクロンだからないよ」
「どうするの?」
「ここ押して、ケースを外して──」
ころん。
毛玉が排出された。
「たまだ」
「ホコリと髪の毛が絡まり合ってるな」
「こんなにおちてたんだねえ」
「言っとくけど、ほとんど××の抜け毛だからな」
吸引力の弱まった掃除機では吸えなかった長髪が、まとめて絡まったものらしい。
「うへへ……」
「何故照れる」
ともあれ、部屋の清潔度がさらに上がりそうである。

※1 2013年10月23日(水)参照
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2013
10.25

うにゅほとの生活699

2013年10月25日(金)

昨夜の夕食の雑炊が余っていたので、ごはんと水を継ぎ足して適当に味を付けてみた。
「おいしい」
「な、味噌と粉チーズは合うんだって」
「ふしぎなかんじだねえ」
熱々の味噌雑炊にふたりで舌鼓を打つ。
「でも、ごまあぶら、よくわかんないね」
「完全に味噌に負けてる。最後に入れればよかったな」
「うん」
半分ほど食べ進んで、気が付いた。
「……ちょっと物足りないな」
うにゅほが、おなかをさすりながら、こくりと頷いた。
「なんかつくる?」
「まだ雑炊残ってるし、継ぎ足してべつの味にしてみよう」
「いいねー」
「さっきは俺が味付けしたから、今度は××やってみるか?」
「やるー」
茶碗の中身を掻っ込み、台所へ戻る。
「どうするんだ?」
「うーと……」
がさごそと調味料を漁り、
「コンソメあった」
「コンソメか」
下味として味噌が残っているはずだが、どうだろう。
味噌の風味を打ち消してくれるような気がしないでもないけど。
「あと、あと、ふりかけ!」
丸美屋のすきやきふりかけを掲げながら、うにゅほが得意げに言った。
「雑炊にふりかけ……?」
「うん」
「あとからかけるのではなくて?」
「にる」
ふりかけの妙味であるサクサク感が完全に殺されると思うのだが、調味料として使うのであれば、うーん?
「……まあ、試してみればわかるか」
「うん」
「じゃあ、最後に粉チーズを」
「えー……」
うにゅほが不満げに眉根を寄せる。
「こなチーズすきだねえ」
「俺、粉チーズをかけて不味くなる料理って基本的に存在しないと思うんだ」
「あまいのは?」
「甘いものはお菓子」
「ふうん……」
ぱたん。
会話をしている間に、粉チーズを仕舞われてしまった。
「あと、たまごいれる」
「定番だな」
ぐつぐつ煮込んで、
「できた!」
さっそく味見してみる。
「あ、悪くないな」
「でしょ」
「ふりかけに入ってたゴマが、ちょっといいかんじ」
「ごまりべんじ」
「逆襲のゴマ」
ふたりで笑い合いながら、雑炊を頬張った。
楽しい昼食だった。
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2013
10.24

うにゅほとの生活698

2013年10月24日(木)

「◯◯ー!」
俺の名前を元気に呼びながら、うにゅほが自室のドアを開いた。
「これみつけた!」
その手には、折り紙の束があった。
和紙製の折り紙で、一片が7.5cmと小さめである。
「懐かしいなあ」
「つるがおれない」
「鶴、けっこう難しいからな」
「うらにおりかたあるけど、よくわかんない……」
言われて裏返す。
「あー、なるほど。これじゃ、わからなくても仕方ないわ」
なにしろ、最低限のことしか記されていない。
これだけを見て鶴が折れるようなら、それはそれで稀有な才能だろう。
「◯◯、つるおれる?」
「折れるぞ」
「おしえてくれる?」
「いいとも」
お手本の鶴を折りながら、訥々と折り方を教授していく。
何年も折っていないと結構忘れているもので、内心ひやひやしながら折りきった。
「できた!」
「なんとか鶴になったな」
くしゃくしゃの鶴を見て、そっと苦笑する。
「おりがみちいさいんだもん」
「慣れれば綺麗に折れるよ」
「◯◯の、ぴしっとしてる」
「そりゃあ、折り鶴を趣味にしてたこともあるからな」
「おりづる、しゅみ?」
我ながらわけがわからないが、事実である。
「早く折ったり、小さく折ったり、繋がったのを折ってみたり、いろいろ」
「へえー……」
「今はもうできないけどな」
何年前のことだったか、それすらよく思い出せない。
「はやいの、どんくらい?」
「ちゃんと測ったことないけど、一分半くらいだったかな」
「はや……い、の?」
「さあー」
比較対象がない。
「じゃ、ちいさいのは?」
「五円玉くらい」
「ちいさい!」
うにゅほが親指と人差し指を近づけながら、
「これくらい?」
と尋ねた。
俺はにやりとした。
「五円玉それ自体じゃなくて、五円玉の穴くらいだよ」
「?」
「これくらい」
震える指先で5mmを示す。
「うそだー」
うにゅほが、またまたーという表情を浮かべる。
「写真あるぞ」
「えっ」
「たしか、このあたりのフォルダに──……あった」
「ちっちゃ!」
うにゅほを驚かせることができたので、満足である。
二度と折れる気はしないけど。
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2013
10.23

うにゅほとの生活697

2013年10月23日(水)

なんか暇だったので、ヨドバシカメラ札幌店まで足を伸ばした。
「ヤマダ電機は昨日行ったからなー」
「でんきやさん、すきだねえ」
好きというか、特に行きたい場所がない。
揃って出不精である。
立体駐車場の五階と七階がふわっとした感じで封鎖されていたので、六階の適当なところに停めた。
定期的な修繕工事かなにかだろう。
「ね、なにかうの?」
「なにを買えばいいんだろう」
「きまってないの?」
「決まってない」
「なにしにきたの?」
「ひまつぶし」
「そう……」
うにゅほが、なにか打ち消しているような、もにょもにょした表情を浮かべる。
「でも、電器屋って楽しいじゃん」
「うん」
「ヤマダよりヨドバシのほうが品揃えいいから、一緒に見て回ろうかなって」
「……うん」
電器屋デート、という言葉もあるそうだし。
「欲しいものって言えば、真っ先に出てくるのはタブレット端末かな」
「たぶれっと?」
「簡単に言うと、でかいiPhone」
「ほー」
うにゅほの瞳が輝いた。
「なめこもでかい?」
「でかいんじゃないかな」
「へえー」
iPhone=なめこの収穫らしい。
よく飽きないものだ。
「でも、iPadって高いんだよな……」
「どんくらい?」
「三万とか四万とか、いいのだと五万とか」
「たかい!」
「そんなもの買う前にコートを新調しないと冬が越せないですよ」
「ですね」
「あとは、空気清浄機とかかな」
「ほしいの?」
「ほら、冬は換気がしにくいから、どうしても空気が篭もるだろう」
「あー」
「だから、いいのがあればなーと思ったんだ、け、ど──……」
ちょうど、空気清浄機のコーナーに差し掛かった。
「高いな」
「たかい……」
「空気清浄機も諦めよう」
「そだね」
立ち寄らず、通り過ぎた。
「あとは?」
「えー、そうだな。うちの掃除機ってそろそろ限界だと思うんだよ」
「そかな」
「もうすこし小さくてハイパワーならなー」
「さっき、ちいさいのあったよ」
「あれ、気づかなかった。いくらくらいのやつ?」
「ごせんえんくらい?」
「えっ?」
いささか安すぎはしないだろうか。
「こんくらいのやつだよ」
広げられた両手を見て、理解した。
「ハンディクリーナーか」
「はんでぃりーなー?」
「小回りのきく小さな掃除機だよ。
 そうかー、ハンディクリーナーかー……」
デスク周りの掃除にいいかもしれない。
掃除機コーナーで実物を撫でまわし、帰宅してからネットで注文した。
ネット通販のほうが安いんだもん。
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2013
10.22

うにゅほとの生活696

2013年10月22日(火)

父親が仕事用のデジカメを新調したので、SDカードを買ってくるよう頼まれた。
「♪っ」
ヤマダ電機が好きなうにゅほはご機嫌である。
「ななーにかうううの?」
マッサージチェアに揺られながら、うにゅほが何度目かになる質問をした。
「だから、SDカードだってば」
「えすでぃーかーどって、なに?」
「撮った写真を保存するもの」
「……?」
「リスで言うと、木の実を食べる口がデジカメで、木の実をためておく頬袋がSDカード」
「ふうん?」
我ながらわかりにくい喩えである。
SDカードのコーナーへ行くと、無数の紙札が什器を飾っていた。
商品をレジで受け取るシステムだ。
「たくさんあるねえ」
うにゅほが適当な札を手に取る。
「さんじゅうに、じーびー」
「32ギガな」
「どれかうの?」
「どれも大差ないとは思うけど、いちおう確認はしてきた」
「かくにん?」
「古いデジカメで使ってたSDカードは認識したから、似たようなの買ってけば間違いないだろ」
「なるほど」
「えーと……」
iPhoneのロックを外し、先ほど撮影した写真を呼び出す。
「RSDC──って書いてある」
「あーるえすでぃーしー」
「そう書いてあるのを探してくれ」
「はい」
紙札をひとつひとつ確認していく。
「……あれ、ないなあ」
「でぃーえっちしーしかないねえ」
「Sが抜けてるぞ」
見つかるのは、SDHCとSDXCの二種類ばかりだ。
パンフレットがあったので目を通してみると、SDHCは記憶容量4ギガから32ギガまでに使われる名称で、SDXCはそれ以上のものを指すらしい。
「じゃあ、RSDCってなんだ?」
「さあー」
iPhoneを取り出し、検索してみる。
「──…………」
バッファロー製のメモリーカードに使われる型番だった。
まぎらわしい。
「どれかうか、わかった?」
「わかった」
「どれ?」
「2000円くらいの手頃なやつならどれでもいいや」
「じゃ、これにしよう」
「そうしよう」
うにゅほが選んだ紙札を受け取り、確認もせずレジへ向かった。
SDカードは、なんの問題もなく認識された。
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