2013
07.31

うにゅほとの生活613

2013年7月31日(水)

「なんか、あんまりいいのないなあ……」
近所にある大きめの本屋で、とあるものを探していた。
「さっきから、なにさがしてるの?」
「いやちょっと──……これでいいかな、もう」
「?」
うにゅほが俺の手元を覗き込む。
「ドリルのおうさま、さんねんせい?」
「計算ドリルだな」
「……ばかにしてる?」
うにゅほがぶーたれかける。
あ、そうか、ふつうに考えればそうなるか。
「いや、これは××用じゃないよ」
「ちがうの?」
「俺がやろうと思って」
「えっ」
しばし硬直し、
「◯◯なら、ろくねんせいでも……」
「中学生のでもできるわ。
 最近、暗算が遅くなってきたから、ちょいと頭の体操でもと思っただけだよ」
「あー」
うんうんと頷く。
「本当は、二桁三桁の四則演算がランダムに100ページくらい並んでるだけのやつとかがいいんだけど、そういうの見つからなくて」
「これやるの?」
「暇を見てな」
「わたしもやっていい?」
「そりゃまあ、いいけど──」
ふと、いいことを思いついた。
「そうだ、同じのを二冊買って、競争してみるか」
「お?」
「そのほうが捗ると思うし」
「いいねー」
小学3年生用の計算ドリルを二冊購入し、家路についた。
「では、始めましょう」
「はい」
食卓テーブルに陣取り、ドリルを広げる。
「まずは、二桁の足し算と引き算からだな」
「うん」
「迅速かつ正確に問題を解いたほうの勝ちです。
 合図をどうぞ」
「うーと、は、はじめ」
二分後──
「できた!」
「はや!」
俺は、まだ五問も残っている。
「ふふん」
得意げである。
答え合わせの結果、
「まんてん!」
「……1問ミスった」
「はい、ごうかくシール」
俺の答案に、うにゅほがはなまるのシールを貼った。
「××は?」
「まんてんシール」
自分の答案に、王冠のシールをぺたりと貼る。
「──…………」
なんか、異様に悔しい。
「まんてんシール欲しい……」
「がんばりましょう」
「頑張ります」
左脳がこなれてきたのか、三桁の足し算では同じくらいの速度だった。
「またごうかくシールだよ……」
「どんまい」
しかも、一桁目を書き損じるというケアレスミスである。
三桁の引き算に差し掛かり、ようやく、
「まんてんシール!」
「うー……」
うにゅほも満点だったのだが、速度で追い抜かれたのが悔しいらしい。
「これが実力ですよ」
「くそう」
ちなみに、小学4年生用の計算ドリルも購入してあったりする。
しばらく遊べそうだ。
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2013
07.30

うにゅほとの生活612

2013年7月30日(火)

冷蔵庫から1.5リットルのペットボトルを取り出し、チェアから手が届く位置に置いた。
「おちゃばっかり」
「いや、今日は飲んだほうがいいって」
室温はとうに30℃を超えている。
黙っていても汗が吹き出てくるくらいだ。
「××だって、汗かいてるだろ」
「うん」
「出たぶんは補給しておかないと、カラカラになっちゃうぞ」
「そっかー……」
うんうん、と頷く。
納得していただけたようである。
「おちゃ、のんでいい?」
「のど乾いてたのか」
「かわいてないけど、かわきそうだから」
うにゅほがペットボトルに手を伸ばす。
「──ぬゃ!」
表記しがたい悲鳴を上げて、うにゅほが自分の手を抱き寄せた。
「べしょべしょだ!」
「べしょ……あー」
ペットボトルに触れる。
猛暑のためか、結露がすごいことになっていた。
「川で冷やしてたみたいだなあ」
「たおる、たおる」
「俺が頭に巻くやつ、そのあたりにない?」
「つかっていいの?」
「いいよ」
どうせ洗濯するのだし。
ペットボトルの結露を拭い、人心地ついた。
「なんで、あせかくんだろ……」
「私たち人間が?」
「ペットボトルが」
「イージーとハード、どっちがいい?」
「なにが?」
「難易度が」
「なんの?」
「ペットボトルが汗をかく理由についての解説の」
「……イージー」
「了解」
こほん、と咳払いをする。
「空気には、水分が含まれてる」
「しつど?」
「そう。そして、空気が水分を含むことのできる量は、気温によって異なる。
 気温0℃と30℃とでは、同じ湿度100%でも、30℃のときのほうがずっと水分量が多いんだ。
 気温が高くなると、水を入れる器が大きくなるわけ」
「そうなんだ」
「水分をたくさん含んだ空気を急に冷やすと、器が急に小さくなるわけだから──どうなると思う?」
「……あふれる?」
「そう、溢れる。溢れた水分が、ペットボトルの汗ってことですね」
「おー」
ぱちぱち、と拍手が起きた。
「すごいねえ」
「なかなか面白いだろう」
「ハードだと、どうなったの?」
「飽和水蒸気量とかそういう単語が出てきた」
「……ほうわ、す?」
「イージーでよかったな」
「うん」
うにゅほにものを教えるのは、けっこう楽しい。
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2013
07.29

うにゅほとの生活611

2013年7月29日(月)

チェアに腰掛けていると、うにゅほがとてとて寄ってきた。
「◯◯、いーってして」
「いー」
口角を上げ、前歯を見せる。
「ふんふん」
「どう?」
「しろくなってきた」
「よかった……」
前歯に茶渋がついて、変色してしまっていたのである。
「ドラッグストアで買ったそれっぽい歯磨き粉でも、けっこうなんとかなるもんだなあ」
「ねー」
痛くもないのに歯医者に通わねばならないかと思った。
「それにしても、なんで茶渋がつくようになったんだろう」
「えーっと……」
うにゅほが顔を伏せ、遠慮がちに口を開いた。
「おちゃのむから……」
「それはそうなんだけど」
煮出した烏龍茶をペットボトルに入れ、冷蔵庫で冷やして飲む習慣がある。
「ペットボトルもちゃいろくなるんだから、はもちゃいろくなるとおもう」
「夏になって、飲む量も増えたしな」
「のみすぎだとおもう……」
そうかもしれない。
「××はいいな、茶渋つかなくて」
「りょうのもんだいかと」
「お茶を含んだまま生活してる人は、茶渋つきやすいのかな」
「そのひとは、なんでそうしてるの?」
「それは、その人に聞いてみないことには」
「えー……」
呆れた視線を向けられる。
「テレビかなにかの企画で、笑いを我慢しなきゃならないとか」
「ずっと?」
「ずっと」
「にじゅうよじかん?」
「二十四時間」
「おおみそかのやつみたい」
「笑ってはいけないシリーズか」
「うん」
「尻ぶっ叩かれて茶渋ついてじゃダウンタウンも大変だな」
「だから、おちゃすくなくしたほうがいいよ」
「だから……?」
急に話題が戻ったが、言いたいことはわかる。
「水のほうがいいんだろうか」
「うーん……」
「でも、水飲むくらいならお茶のほうがいい気もする」
「そもそも、すいぶんが……」
「ちゃんと水分を補給しないと、脱水症状になるんだぞ」
「のみすぎてもだいじょぶなの?」
「飲み過ぎちゃ駄目だけど」
「のみすぎないように」
「はい」
気をつけなければ。
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2013
07.28

うにゅほとの生活610

2013年7月28日(日)

コンビニで見かけるようなアイス用の冷凍ショーケースが、車庫の二階にある。
理由はわからないが、ある。
二十年ものあいだ、備蓄用の冷凍庫として稼働し続けてきたものだ。
それを、買い換えることになった。
というか気がついたら新しい冷凍庫が車庫の一階に置いてあった。
「──それはいいけど、どうやって入れ替えるのさ」
「滑車とロープがあるだろ」
「えー……」
父親の言葉に、思わず渋面を作る。
我が家の車庫は、ロフト付きマンションのような構造をしているため、滑車とロープを使って下ろすことは不可能ではない。
不可能ではないが、重い。
冷凍ショーケースの推定重量はおよそ120kgである。※1
そう告げると、
「人手を集めればいい」
と、あっさり言ってのけた。
三十分後──
「このひも、ひっぱればいいの?」
「紐じゃなくてロープな」
車庫の二階の窓から垂れたロープの先を、うにゅほがぴろぴろと弄ぶ。
真下では危ないので、車庫の外から引っ張ることにしたのだ。
「というか、べつに××は引っ張らなくていいんだけど」
隣近所に助力を請い、ふたりほど手伝いに来てくれることになったのである。
「やるよ」
「やるのか」
やるなら仕方がない。
「手順はわかるか?
 まずは引っ張って、合図と共にゆっくり下ろしていくんだぞ」
「うん」
庫内では、父親が冷凍ショーケースの操作や向きの調節を担当する。
俺たちは指示に従えばいい。
「てのひら痛くなるから、軍手しろよ」
「はい」
近所の人の笑顔に後押しされ、うにゅほが先頭に立った。
悪くない位置取りだろう。
「──引っ張ってくれー!」
父親の指示が飛ぶ。
「よいっ、しょお!」
成人男性3.5人分の膂力でも、かなりつらい。
「ゆー……っ!」
気合の抜けそうな声が、うにゅほの口から漏れる。
「よし、下ろしてくれ!」
後方に傾けていた重心を、ゆっくりと前方へ戻していく。
がむしゃらに引っ張るより、腕に響く。
「ぬぬぬぬぬ……」
うにゅほの声に、気が抜ける。
近所の人も同じ感想を抱いたのか、最後の最後で勢いがついてしまった。
まずい。
ショーケースが壊れるのは構わないが、アスファルトがへこむのは問題である。
そう思った瞬間、
「わー!!」
ロープにつられて、うにゅほが浮いた。
「うお!」
慌てて抱きとめる。
「ういた!」
「ああ、浮いたな」
50cmくらい。
「あはは、ういた、ういた!」
「──…………」
楽しそうだが、危ないところだったのは間違いないのだし、諭すべきかと思ったが、決してわざとではないし、同じシチュエーションはまずないと言える。
なんとなく苦笑して、うにゅほを離した。
新しい冷凍庫は、ショーケースの半分くらいの重量だったので、さほど苦労せず二階へと上げることができた。
後片付けにも駆り出されて、もう汗まみれである。
疲れた。

※1 一般的な冷凍ショーケースの重量、製造年代、成人男性ふたりで持ち上げられないことなどから推定した、おおよその数値。
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2013
07.27

うにゅほとの生活609

2013年7月27日(土)

引き出しから、未開封のワープロ用感熱紙が出てきた。
いまさらどう活用すればいいのだ。
「かみ?」
うにゅほが手元を覗き込んだ。
「これは、ただの紙じゃないぞ。不思議な紙だ」
「どうふしぎ?」
「指で字が書ける」
開封し、感熱紙を一枚抜き出す。
「なんて書いてほしい?」
「アイス」
それは食べたいものだろ、と思いながら、爪の先でアイスと書く。
「あ、ほんとだ!」
「だろ?」
「でも、アイヌになってる」
「うるさいな」
指で字なんて書き慣れているはずがない。
「わたしもやっていい?」
「いいよ」
「つめでやるの?」
「そう、なるべく強めに書いたほうがいいかもしれない」
うにゅほが大きく俺の名前を書く。
「◯◯!」
「──…………」
なんだか気恥ずかしい。
「なんで、じーかけるの?」
「熱に反応して黒くなる薬品が塗ってあるらしいよ」
「ねつ?」
「熱」
「もやしたらくろくなる?」
「燃やしたら灰になるな」
「ゆびですりすりしたら、くろくなるかな」
「摩擦熱か。試したことないな」
「やってみる」
うにゅほが感熱紙の上に指を置き、激しく前後させる。
「に、い、い、ぃ、い──……」
十秒ほど摩擦した結果、
「ならない……」
「ヤケドしない程度の摩擦熱じゃ、変色しないのか」
「じゃ、ドライヤーは?」
「あー、なるかもな」
試してみた。
「ならない……」
「ならないな」
意外である。
「ドライヤーくらいの熱なら、黒くなると思ったけど」
「もやす?」
「感熱紙関係ないからね」
「あついもの、あついもの……」
うにゅほが思案を巡らせる。
「あ、すなはま!」
「日差しが強い日の焼けた砂なら、黒くなるかもな」
「あめだもんね」
「いや、晴れてても行かないからね」
感熱紙を砂浜に押し付けるために海へ行くってなんだ。
「爪では黒くなるんだから、それでいいじゃないの」
「そだね」
感熱紙を使ってふたりで遊んでみたが、五分と持たなかった。
九十七枚の感熱紙は、引き出しの奥へと再び姿を消した。
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2013
07.26

うにゅほとの生活608

2013年7月26日(金)

「~♪」
口笛を吹きながら、弟が食器を洗っていた。
「?」
うにゅほが弟のそばへ行き、なにやら話しかけている。
しばらくして、帰ってきた。
「みて!」
うにゅほが唇を突き出し、思いきり息を吐く。
ふすー。
「あれ?」
小首をかしげる。
「ちょっとまってて」
きびすを返し、弟のところへ駆け戻る。
なにやら手ほどきを受け、自信ありげに帰ってきた。
「みててね」
うにゅほが再び唇を突き出し、ゆっくりと息を吐く。
ぴすー。
ちょっと鳴った。
「……?」
小首をかしげる。
思ったように行かないらしい。
「まっててね」
行ったり来たりと忙しい。
「いきます!」
うにゅほが三度唇を突き出し、慎重に息を吐く。
ぴゅぴすー。
「なった!」
「おー、鳴った鳴った」
軽く拍手をする。
「でも、ちょっとしかならない」
「初めて試して鳴ったんなら、上手いほうじゃないか?」
「そかな」
「俺、最初は全然だったし」
小学生のときだけど。
「◯◯はふけるの?」
「吹けるよ」
唇をまるくすぼめ、ドレミを奏でる。
「なんかひくいね」
「なんか低いんだよ」
弟より1オクターブは低い。
「おとかえるの、どうやるの?」
「えー……」
感覚で理解していることを言葉に変えるのは、けっこう難しい。
「たぶん、舌で調整してるんだと思うけど」
「した?」
「べろ」
「べろ?」
「まあ、自然とわかると思うよ」
「ふうん」
うにゅほがなんとなく納得する。
「他にも高等テクニックがあるぞ」
「?」
「口笛の必須テクニックと言っても過言ではない」
「おー」
うにゅほの目が輝く。
「口笛を吹いてると、どんどん空気がなくなって苦しくなっちゃうだろ。
 そんなとき、どうしたらいいと思う?」
「むりをしない」
身も蓋もないことを言われてしまった。
「答えは、吸いながら鳴らす」
「え」
「~♪」
猫の恩返しの主題歌を吹くと、うにゅほが目をまるくした。
「いき、すってるの?」
「吸ってないと、すぐ息切れるだろ」
「はー……」
「そんなに難しくないから、練習してみたらいい」
「うん」
果てしなく長い口笛坂を、うにゅほが登り始めた。
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2013
07.25

うにゅほとの生活607

2013年7月25日(木)

電話やメールなどの着信がわずらわしいので、普段はiPhoneをおやすみモード※1にしている。
着信の予定がある時間帯のみ解除し、あとは事後の確認で済ませているのだが、このおやすみモードに戻し忘れるときがたまにある。
──ぶぶぶっ!
デスクの上で、iPhoneが唐突に振動する。
「うおっ!」
聞き慣れていないので、びっくりする。
「──…………」
横を見ると、うにゅほの背筋が伸びていた。
両目がまんまるに見開かれている。
「……びっくりしたの?」
「──…………」
うんうん、と頷く。
「ここしばらく、ずっとおやすみモードにしてたからな……」
「しんぞうが」
「そこまで?」
固いものの上に置いた携帯の振動音は、たしかに心臓に悪いけど。
「やっぱ、音とか出ないようにしとこう」
「うん」
「──…………」
ふと、悪戯心が湧いて出た。
漫画を取るふりをして、ソファの裏にある本棚にiPhoneを設置する。
そして、三十分ほど放置したあと、GmailアカウントからiPhoneにメールを送った。
──ぶぶぶっ!
「!!!」
読書に集中して猫背がちだったうにゅほの背筋が、一瞬にしてピンと伸びた。
大きく見開かれた両目を、ぱちぱちとしばたたかせている。
面白い。
「びっくしした……」
iPhoneの存在に気がついたうにゅほが、背後の本棚に手を伸ばす。
「あ、悪いけどメール読んでくれる?」
「?」
手元に視線を下ろす。
「ごめんね……?」
「今の俺の気持ち」
「──…………」
小首をかしげ、送信者の名前を確認し、うにゅほの瞳に理解の色がともった。
「もー!!」
「つい出来心で」
「もー……」
牛になった。
「もうしないでね」
「しない」
「ほんとかな……」
うにゅほの目の前でおやすみモードに設定し、iPhoneをデスクの上に戻した。
いたずらはたまにやるから面白いのである。

※1 おやすみモード ── ロック中の着信や通知を消音する機能。
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2013
07.24

うにゅほとの生活606

2013年7月24日(水)

スタジオジブリ最新作「風立ちぬ」を家族で観に行った。
上映時間より随分と早く着いたので、軽く昼食をとり、シネマコンプレックスのあるアウトレットモールで適当に時間を潰した。
「たのしみだね!」
「そうだなー」
ジブリ好きのうにゅほであるが、今作はどうだろう。
肌に合わない気がする。
「──…………」
「──…………」
予感が当たった。
上映開始から一時間ほど経過したころ、集中力が切れたのか、うにゅほが俺の左手で遊びはじめた。
放っておくと、静かになった。
「──……すう」
寝ていた。
仕方ないか、と溜め息をつく。
「風立ちぬ」は、実在の人物を主人公とした伝記的な映画である。
同じ「でんき」でも、うにゅほが好むのは間違いなく「伝奇」のほうだろう。
トトロのようなファンタジーも、ラピュタのような胸躍る冒険も、そこにはない。
うにゅほの知らない昭和という時代を懸命に生きた人々の物語である。
「──……くぁ」
うにゅほが目を覚ましたのは、スタッフロールが流れ始めたころだった。
「ねてた……?」
「爆睡してた」
「ぜんぜんおぼえてない」
くしくしと前髪を整える。
「××の肌には合わない映画だったな」
「うん……」
「ジブリっぽくなかった?」
「えはジブリ」
うにゅほの言いように苦笑する。
「俺は、けっこう楽しめたけどな」
「◯◯はむずかしいのすきだから……」
「難しいというか、大正とか昭和初期の歴史をある程度知らないとわけわからんだろうなーとは思った」
「れきし?」
「関東大震災とか、第二次世界大戦とか」
「……?」
うにゅほが首をかしげる。
予想通りのリアクションである。
「あと、夢と現実がぱかぱか入れ替わるのもわかりにくい原因だろうな」
「ぱかぱか」
「……さては、ほとんど覚えてないな?」
「おぼえてない……」
うにゅほが頭を抱えた。
「──…………」
火垂るの墓とか見せてみようかな。
いや、よそう。
結果は見えているし、間違いなく俺も号泣する。
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2013
07.23

うにゅほとの生活605

2013年7月23日(火)

「ぅぁー……」
「──…………」
暑くてとろけていた。
真夏日も甚だしい。
「あーづーいー……」
「アイスもうないっけ……」
「ないー」
「……外、出たくないなあ」
日差しが強すぎて、屋内が薄暗い。
「あぉー……」
フローリングの上ででろんとしているうにゅほを眺めながら、思った。
「プール行きたいなあ……」
口に出ていた。
「いく!」
弾かれたような勢いでうにゅほが上体を起こす。
「じゃあ、行くか?」
「うん!」
「婆ちゃんの病院が終わったらな……」
「あー……」
迎えに行かなければならないのである。
それからしばらくして、俺たちは市民プールにいた。
利用料金は、一般で六百円だった。
値上がりしている気がする。
「ぶぶぶぶ」
ビート板を抱えたうにゅほが、バタ足をしながら徐々に沈んでいく。
「浮力を足して、なお沈むか……」
体脂肪率が低いせいだろうか。
「なんでしずむの……」
「そんなこと言われてもなあ」
無精髭の生えた顎を撫でる。
「ちょっと、もっかい泳いでみて」
「はい」
うにゅほが泳ぐさまを、真横から観察する。
秒速5センチメートルくらいでわずかずつ前進し、やがて導かれるように水底へと姿を消していく。
「あー」
わかった。
「ビート板の持ち方が悪い」
「もちかた?」
「××は、ビート板の先を握り込むように掴んでるだろ?」
「うん」
恐らく、ビート板を不慮に離してしまうことへの恐怖心からだろう。
「そう持つと、ビート板の先が下がるんだよな。
 先が下がると、前からの水が上のほうに流れるから、ビート板は自ずから沈んでいく」
「……?」
「ビート板の先を上げれば、沈まないってこと」
「どうやって?」
「持ち方の問題だから──あ、貸して」
「はい」
軽く試行錯誤し、確からしい持ち方を導き出した。
「ビート板の真ん中あたりに両手を置いて、端は掴まない」
「びーとばん、すべる……」
「滑らないから、やってみな」
「うん……」
しぶしぶといった素振りで、うにゅほが実践する。
「──すすんだ!」
「掴まなくても大丈夫だろ?」
「うんぶぶぶぶ」
うにゅほの口元が水没する。
全体的には、沈まなくなった。
一時間ほど遊び、心地よい疲労感と共に市民プールを後にした。
「──…………」
「ぅぁー……」
「あっぢー……」
外に出ると、入る前より暑いのだった。
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2013
07.22

うにゅほとの生活604

2013年7月22日(月)

「──……おあー……っふ」
大あくびをかましながら自室を出ると、うにゅほが耳を塞いでいた。
「どうかした?」
「なんか、ぴーっておとする……」
「ぴー?」
うにゅほに言われて耳を澄ますと、限りなく高音で単調な音が響いていた。
「なんだ、うるさいな……」
「きこえる?」
「そりゃま、聞こえるだろう」
決して大きくはないが、不快に分類される音である。
「おかあさん、きこえないって」
「あー……」
なるほど、モスキート音みたいなものか。
「人間が音を聴き分ける能力は、年齢と共に衰えていくらしい」
「?」
「あんまり高い音だと、俺たちには聞こえても母さんには聞こえないってことがあるのさ」
「おとうさんは?」
「聞こえないんじゃないかな」
「おばあちゃんは?」
「ふつうに呼んでもたまに聞こえてないじゃん」
「なるほど」
うにゅほがうんうんと頷く。
しかし、問題が解決したわけではない。
「で、なんの音だこれ……」
「わかんない」
「電化製品とか、携帯とか、とにかく通電してるなにかが発信源ってことは間違いないけど」
「そなの?」
「そうでなけりゃ声の低いコウモリとかだろ」
「えー」
テレビ、ではない。
PCでもない。
スピーカーやアンプが怪しいかと睨んだが、違った。
冷蔵庫ではない。
電子レンジでもない。
掃除機も、ドライヤーも、電位治療器も、コンセントに刺さっていない。
「なんの音なんだこれは……」
「でも、なんかこのへんなきーする」
母親用のPCデスク周辺を、うにゅほがぼんやりとなんとなく示す。
リビングのなかでもごちゃごちゃした場所である。
「そんな気するけど、ここ母さんのパソコンしかないよなあ」
「パソコン、でんきついてない?」
「ついてない」
一旦諦め、家族が揃ったときに改めて家探しをした。
「──……これだ!」
うにゅほがぼんやりと示したあたりを浚ってみたところ、デジタル式の小さな腕時計が見つかった。
発信源は、それだった。
「これ、誰の?」
「あ、俺が拾ってきたやつだわ」
父親が手を挙げた。
「なんでもかんでも拾ってくるから……」
「でも、これ拾ったのって去年とか一昨年だぞ」
「──……?」
妙である。
「××、この音っていつから鳴ってたんだ?」
「あさおきたら」
「──…………」
物陰に落ちていた時計が、なにをきっかけにして鳴り始めたのだろう。
謎だ。
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