2013
06.30

うにゅほとの生活582

2013年6月30日(日)

「えだまめ、やさいなんだって!」
「はあ……」
起き抜けにそんなことを言われても、なにがなにやらわからない。
「あと、だいずなんだって」
「それは知ってる」
大阪が言ってた。
「ところさん、きょうはえだまめだったんだよ」
「あー」
そういえば、今日は日曜日だっけ。
うにゅほは所さんの番組が好きである。
目がテンも、そこんトコロも、欠かさずではないがよく見ている。
そして、いちいち内容を教えてくれるのだ。
「えだまめのね、ボタンがね」
「──…………」
枝豆のボタンってなんだ。
つたない説明が、逆に興味をそそる。
こんなとき、以前は歯がゆい思いをしていたが、今は全録レコーダーがある。
「面白そうだから、あとで見ようかな」
「うん、えだまめのとうふはみどりなんだよ」
ネタバレが止まらない。
楽しそうだし、気にならないからいいけど。
目がテンを視聴したあと、ふと気になったことがあった。
「××、好きな芸能人は?」
「すきな?」
「そう」
「うーん……?」
しばし思案する。
「……ぬー」
結論が出ないようなので、こちらで指定することにした。
「じゃあ、所さんは?」
「すき」
「向井理は?」
「だれ?」
これは母親の好きな俳優である。
「剛力彩芽」
「……?」
わからないらしい。
さすがに顔は覚えているだろうが、説明が面倒なのでやめた。
「じゃあ、マツコ・デラックス」
「ふふっ」
「名前だけで笑うなよ……」※1
「だって」
「マツコ・デラックスは、好き?」
「うーと……」
しばし首を傾け、
「……ふつう?」
「見ただけで笑うのに……」
「うるさいんだもん」
うるさい芸能人は駄目らしい。
「ビートたけしは?」
「?」
ピンと来ないらしい。
「タモリは?」
「ぐらさん?」
「グラサンて」
どういう経緯でそんな呼び方に。
「明石家さんま」
「あー」
「──…………」
「──…………」
特に思うところはなさそうだ。
「じゃあ、××の好きな芸能人は、所さんだけか」
「たぶん」
「所さんのフルネームは?」
「ところ──……」
数秒置いて、
「……じょーじ?」
「そう」
危ないところだった。

※1 2013年4月4日(木)参照
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2013
06.29

うにゅほとの生活581

2013年6月29日(土)

うにゅほの体はやわらかい。
股割りとまでは行かずとも足はよく開くし、こちらが心配になるくらい上体を反らすこともできる。
「エビ反りって言うけど、エビって反ってないよな」
「そ、だね……!」
「むしろ猫背だと思う」
「そだね……」
「指、それ以上行かない?」
「うん」
うにゅほが立位体前屈の体勢を崩す。
「えー、弁慶の泣き所のすこし下くらいか」
「うん……」
基本的にやわらかいうにゅほの体が、前屈限定で固いのは何故だろう。
うにゅほ七不思議のひとつとして登録したいくらいだ。
「◯◯やらかいよね」
「やわらかいってこともないけど、手のひらはつくよ」
「すごい」
「でも、あんまり反れない」
猫背だからだろうか。
「というわけで、ストレッチをしましょう」
「はい」
「ちょうど風呂上がりだし」
「◯◯は?」
「俺が上がるころには、××もう寝てるだろ」
「そっか」
「じゃあ、床に座って」
「はい」
「足を、開くところまで開いて」
「はい」
「……すごい開くな」
「そう?」
時計で言うと、4時58分くらいである。
ほとんど股割りじゃないか。
「じゃあ、背中押すよ」
「はい」
ぐい。
ずり。
「××」
「はい」
「前に倒れるんじゃなくて、前に進んだんだけど」
「はい……」
「突っ張ってない?」
「つっぱってない」
「じゃあ、もっかい押すよ」
「はい」
ぐい。
ずり。
埒が明かなかった。
「動かないように、壁に足をつけましょう」
「はい」
カタカナの「ヒ」のような体勢をとる。
「じゃあ、ゆっくり押すから」
「うん」
「せーの」
「いたいいたいいたい」
すこしゆるめる。
「ちょっといたい」
「これくらいの強度で、三十秒間キープ」
「ところさん?」
「所さん」
所さんの目がテン!で、効果的なストレッチの方法が紹介されていたのだ。
休憩を挟みつつ、これを4セット行った。
「ふー……」
うにゅほがやり遂げた顔をしている。
「やらかくなった?」
「すこしはなったんじゃないか」
「おー」
「続けることが大事だぞ」
「はい」
継続は力である。
せめて地面に指先くらいはつけるよう頑張りましょう。
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2013
06.28

うにゅほとの生活580

2013年6月28日(金)

父親の仕事の手伝いで、五時間ほど歩かされた。
「あー……」
頬が熱い。
日焼けしたらしい。
「ただいまー」
自室の扉を開き、うにゅほに帰宅を告げる。
「……あれ?」
あると思っていた姿が、見えない。
「××?」
きびすを返し、リビングに戻る。
いない。
両親の寝室を覗く。
いない。
トイレの扉を叩く。
いない。
「二階にはいないか……」
珍しいこともあるものだ。
一階で、祖母と話し込んででもいるのだろうか。
当初はうにゅほに対し冷たく接していた祖母だが、わだかまりはもうないらしい。
むしろ、可愛がっているとさえ言える。
「ま、いいか」
車通りの少ない住宅地のことだ。
外出していたとしても、そうそう危険があるはずもない。
チェアに腰を下ろし、PCを立ち上げた。
うにゅほがいるときには開きづらいサイトなどを読み流していると、
ガラッ!
「おふ!」
ベランダに通じるサッシが、前触れなく開いた。
慌ててブラウザを落とす。
「──あれ、おかえり?」
うにゅほだった。
「え、なに、ベランダ? いたの?」
視線が泳ぐのを自覚する。
「うん、いた」
「なんで?」
「そと、きもちいかなって」
「なるほど……」
日差しが強く、風もあった。
ひなたぼっこも悪くない日和ではあるだろう。
「気持ちよかったか?」
「うん、ねてた」
「え、寝てた?」
「てすりで、うとうとって」
「──…………」
うにゅほの頬に手を当てる。
「熱い」
「?」
「日焼けしてるみたいだ」
「そなの?」
「どれだけベランダにいたんだよ……」
うにゅほの腕を取る。
案の定、冷たい。
「体も冷えてるから、半纏着てなさい」
「はい」
「コーンスープ作るから、一緒に飲もう」
「のむ」
夕食の時刻まで、ふたりならんで暖まっていた。
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2013
06.27

うにゅほとの生活579

2013年6月27日(木)

ぺらっ。
うにゅほが俺の髪の毛をめくる。
「どうかなー」
「──…………」
なにその「おやっさん今日やってる?」みたいなかんじ。
円形脱毛症になって以来、うにゅほは時折俺の頭皮を確認してくるようになった。※1
新たなハゲが発生していないか調べているらしい。
「お?」
つんつん。
「ハゲをつつくな、ハゲを」
「ちがくて」
首を横に振る気配がする。
「うぶげはえてる」
「え、まじ?」
指先でハゲに触れる。
しょりしょりとした産毛の感触がそこにあった。
「──……っ、はー」
深く、長く、息を吐く。
「よかったー……」
「よかったね」
なでなで。
「ハゲを撫でるな、ハゲを」
「はい」
うにゅほがソファに座り直す。
「やー、ほんとよかったよ」
「うん」
「なかなか生えてこないからさあ」
「◯◯、ほっとけばなおるって」
「わかってても怖いものは怖いし、不安は不安なの」
「そなの?」
「そうじゃないと、お化け屋敷もジェットコースターも成り立たないでしょう」
「うーん?」
よくわからないらしい。
「これで、父さんの育毛剤はもう必要ないかな」
気休めに試していたのだ。
「いくもうざい?」
「髪の毛を生やすための──あれ、それは発毛剤だっけ」
よく知らない。
「おとうさん、はげてないのにねえ」
「ハゲてないけど、薄くはなってるらしいよ」
「そなの?」
「いや、見てもわからないけど、自覚症状があるならそうなんじゃない?」
「ふうん……」
伯父も薄毛に悩んでいるようなので、ハゲはせずとも薄くなる家系なのだろう。
「◯◯も、うすくなるの?」
「二、三十年後にはなるんじゃないか」
「いくもうざい、ぬってあげるね」
「──……ありがとう」
複雑である。

※1 2013年6月5日(水)参照
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2013
06.26

うにゅほとの生活578

2013年6月26日(水)

「あ」
「ん?」
「ぎゅうにゅうかんてん、だって」
「牛乳寒天?」
TSUTAYAからの帰途に寄ったセブンイレブンで、牛乳寒天なる商品を見かけた。
「牛乳寒天ねえ……」
「おいしいかな」
「××、寒天ってどんなのか知ってる?」
「ゼリーみたいやつ」
「そう。
 ただし、こんにゃくゼリーみたいなやつじゃなくて、固いゼリーな」
「かたいの?」
「固い──というか、変形しないんだ」
「?」
「つまり、水ようかんみたいなかんじ」
「うーん」
ピンとこないようだ。
「けっこう前、ゼラチン使って牛乳プリン作ったよな」
「あんなかんじ?」
「あんなかんじ、ではない」
「ではないの……」
「あれは、ぷるぷるで口当たりよかったろ」
「ぷるぷるしてた」
「寒天もぷるぷるするんだけど、弾力がないんだよ」
「……?」
「濃度にもよるけど、固いやつは歯型が残るくらい」
「え」
「固いやつは、だけど」
「りんごみたい?」
「りんごみたい、ではない」
「ではないの……」
「──…………」
言葉で説明することに限界を感じたので、牛乳寒天を購入した。
3パック入り158円なので、お買い得感はある。
「いただきます」
牛乳寒天に手を合わせ、うにゅほがいただきますを言う。
行儀がいいように思えるが、おやつにまでいつも言っているわけではなく、気まぐれである。
「……あー!」
ひとくち食べて、声を上げる。
「美味しい?」
「かんてん、こういうかんじ」
理解してくれたらしい。
味に関する感想は得られなかったので、自分のスプーンを口へ運ぶ。
「──……!」
衝撃が走った。
「あ、おいしいね」
食感を抜けて、ようやく味に到達したらしい。
「なあ、××」
「?」
「これ食べたらセブンイレブン行くけど、一緒に行く?」
「また?」
「牛乳寒天、あるだけ買い占めなきゃならないから」
これからしばらく、おやつはセブンイレブンの牛乳寒天に決定した。
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2013
06.25

うにゅほとの生活577

2013年6月25日(火)

運動不足解消のため、寝る前に軽い筋トレをしている。
「──……ふん!」
腹筋に力を入れ、指先で押す。
固い。
なんであれ、成果を確認できることは嬉しいものだ。
「××、ほら」
「?」
「ちょっと触ってみて」
「おなか?」
うにゅほの指が、腹部に触れる。
「お」
ぐい。
「おー」
ぐいぐい。
「かたい」
「だろ」
「ほね?」
「骨なわけあるかい」
「あはは」
ふたりで笑いあう。
冗談なんて言うようになったんだな。
なかなかに感慨深いものがある。
「──…………」
本当に冗談だったのか?
いや、よそう。
冗談だったに違いない。
「××は、ぜんぜん腹筋ないもんな」
「ない」
二十回もできていなかった気がする。
「ほら、ないよ」
「──…………」
シャツをまくり上げる必要はないと思うが、まあいい。
うにゅほのおなかに触れる。
「うひ」
おなかが出ているわけではないが、ぷにぷにしている。
「ふっきんしたほうがいい?」
「……いや、××はそのままでいいんじゃないかな」
「そかな」
「そうそう」
脂肪もあまりないから、すぐに腹筋が割れそうで怖い。
腹筋が六つに割れたうにゅほは、ちょっと嫌だ。
「でも、軽い運動くらいはしてもいいかもな」
「どんなの?」
「ジョギングとか」
「えー……」
太陽が燦々と照りつける窓の外を見ながら、うにゅほが口角を下げる。
「大丈夫、俺もしたくない」
「うん」
「お風呂上がりにストレッチでもするか」
「それがいい」
うにゅほは前屈限定で体が固いので、それをなんとかしたいと思う。
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2013
06.24

うにゅほとの生活576

2013年6月24日(月)

「ふすー……」
歯医者から帰宅すると、うにゅほがビッグねむネコぬいぐるみに顔をうずめていた。
案の定、ねむネコはギュウギュウに絞め上げられている。
おもちなら千切れているところだ。
「ただいま」
「ぷすー」
うにゅほの頭に手を乗せ、撫でる。
「帰りにジャンプ買ってきたけど」
「よむ」
顔を上げてくれたので、すこし安心した。
うにゅほの隣に腰を下ろし、分厚い雑誌を開く。
「なにから読む?」
「ワールドトリガー」
最近のお気に入りらしい。
絵柄がすっきりとして読みやすいからだろうか。
ちなみに俺は、最近の新連載だと、吹奏楽の指揮者のやつが好きである。
「──……?」
しばらく読み進めていると、うにゅほの視線が誌上から逸れた。
「ね、◯◯」
「どした?」
「うで、へんだよ」
「腕?」
左腕に視線を落とす。
皮膚が、楕円形に変色していた。
「なんだこれ」
指先で触れてみる。
「!」
皮膚が動き、ずるりと破れた。
「わー!」
うにゅほが驚く。
「だいじょぶ、だいじょぶ?」
「大丈夫だよ」
慌てふためくうにゅほをなだめる。
「水ぶくれが破れただけだから、大丈夫」
「みずぶくれ?」
「ぜんぜん忘れてたけど、そう言えば昨日ヤケドしてたんだよ」
乗り終えたバイクにカバーを掛けている最中、ひもを縛ろうとしてマフラーに触れてしまったのだ。
「わすれてたの……」
うにゅほが呆れたように呟く。
「や、とりあえず冷やしたら痛みもなくなったから……」
「ちゃんとしないとだめ」
「はい」
「どうすればいいの?」
「大したヤケドじゃないから、メンタム塗っとけばいいかと……」
「もってくる」
「いや、自分で──」
言い切る前に、駆け出してしまった。
残されたビッグねむネコぬいぐるみを膝に乗せて待っていると、
「◯◯ー!」
リビングから、俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
「どしたー?」
「めんたーむと、めんそれーたむ、どっちー?」
メンターム?
メンソレータム?
同じメンタムじゃないのか?
いや、会社が違うとか聞いたことがあるような気がする。
成分が異なるのは構わないが、効能が違うのは問題だ。
しばし逡巡し、
「……オロナイン持ってきて!」
「はーい!」
あきらめた。
あ、両方持ってきてもらえばよかったじゃないか。
いやオロナインでもいいんだけど。
「◯◯、はい」
「ありがとうな」
うにゅほからオロナイン軟膏を受け取る。
「あ、めんたむ、りょうほうもってくればよかった」
同じことを考えていた。
いやオロナインでもいいんだけど。
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2013
06.23

うにゅほとの生活575

2013年6月23日(日)

晴れていたので、布団を干した。
自室がベランダに面していると、手間が掛からなくてよい。
「……ふー、できた」
うにゅほが汗を拭う仕草をする。
「天気がいいから、ふかふかになるよ」
「いいねー」
「敷き布団、ちょっと潰れてるからな」
「ひさしぶりだもんね」
布団を干す手間と布団を干す頻度は相関関係にない。
「ちょっと出かけるか」
「うん」
「どこ行くと思う?」
「うーん……」
バイクを適当に乗り回し、遅い昼食を食べたあと、二時間ほどで帰宅した。
「ふとん、ほされてるかな」
「干され……」
なにか違う。
「干されてるじゃなくて、干し、干せ……」
「ほせ?」
「干せてる?」
「ほせてる?」
正しい言葉遣いがよくわからない。
「わー」
うにゅほが敷き布団をぽすぽす叩く。
「ふかふか?」
「ふかふか……では、ない」
元が元だから仕方ない。
「ほら、掛け布団は新しいからふっかふかだぞー」
「ふかふか!」
掛け布団がぼふぼふと音を立てる。
「こっちしきぶとんにしたい」
「敷き布団を掛けるのか?」
「たんぜんある」
「柔らかすぎて、すのこが痛いと思うぞ」
「そっかー」
あきらめてくれた。
「でもせっかくだから、掛け布団をふたつ敷いて、ちょっと横になってみるか」
「いいねー」
自室内寝室スペースにある2m×2m程度の持て余し気味の空間に、掛け布団を並べる。
「ふかふかー!」
ごろん。
掛け布団の上に、うにゅほが勢いよく転がった。
「いたい!」
「それはそうだろうな……」
筋斗雲のような感触を想像していたらしい。
「あ、でも、ふかふか」
「どれ」
うにゅほの隣で横になる。
「あー、いいな……」
「いいねー」
いい香りがする。
ダニの死骸の匂いではないらしい。
「あー……」
眠りに落ちることはなかったが、しばらくふたりで天井を眺めていた。
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2013
06.22

うにゅほとの生活574

2013年6月22日(土)

昨夜のことである。
風呂上がりにペンダントを着けようとしたとき、
──コトッ
眼下で物音がした。
視線を落とすと、ペンダントヘッドの水晶石が落ちていた。
胸元に手を伸ばす。
水晶石を支えていたシルバーワイヤーの感触があった。
シルバーワイヤーの感触、だけがあった。
「──…………」
さっと背筋が冷えた。
この水晶石のペンダントヘッドは、うにゅほからの誕生日プレゼントである。※1
それを壊したとあっては、うにゅほに顔向けができない。
「待て、待て、えー……」
水晶石を拾い上げる。
幸いなことに、水晶自体が欠けたわけではなかった。
シルバーワイヤーと水晶石との接触面積がもともと少なかったため、接着剤の劣化と共に剥がれて落ちたということらしい。
これなら、アロンアルファでなんとかなるかもしれない。
「焦るな、焦るな……」
それでは根本的な解決にならない。
今回は、脱衣所だったからよかった。
いつか同じ事態に直面したとき、それが屋外ではないと誰が言える?
後顧の憂いは断つべきである。
「──…………」
うにゅほの寝顔を確認し、音を立てないように外へ出た。
行き先は、24時間営業のドン・キホーテである。
「さて、と──」
帰宅し、デスクの上にレジ袋の中身を広げた。
青写真はこうだ。
シルバーワイヤーで形作られた輪をエポキシパテで埋め、水晶との接触面積を広げる。
そこにアロンアルファを流し込むことで、より強固に接着する。
これで再発を防げるはずである。
「……くさっ!」
エポキシパテを練ると、独特の臭気が自室に充満した。
慌てて窓を開ける。
こんなことで起こしてしまっては、これまでのコストが浮かばれない。
「──…………」
パテが硬化するころには、時刻は既に午前三時を回っていた。
水晶石との接着には成功したものの、パテを盛り過ぎたせいで裏面が膨れてしまっている。
「こんなこともあろうかと……」
一緒に紙やすりを買っておいたのだ。
自分の先見が怖い。
見抜いているのは自分の失敗だけだが。
しかし、思っていたよりも目が細かく、一向にパテが磨り減らない。
なんとか想定通りの形状に整えたころには、夜が白々と明けていた。
「はー……」
溜め息をついても、まだ終わらない。
灰色のパテが目立たないよう、薄い塗装を施し、ニスを重ねて仕上げなければならない。
「──…………」
「あれ、◯◯、おはよう……?」
仕上げ塗りをしたニスが乾いたころ、うにゅほが起き出してきた。
「おはよう」
「はやおき?」
「徹夜」
ペンダントを着け、うにゅほの前に立つ。
「なにか変なところ、ある?」
「へんなとこ?」
しばし観察し、
「ない」
と、答えた。
「そうか……」
よかった。
よかったのだが、異様に疲れた。
マイナスをゼロにする努力の、なんと達成感のないことか。
「……寝る」
「おやすみ……?」
うにゅほの寝床に入れ替わりで、そのまま不貞寝を決め込んだ。

※1 2013年3月2日(土)参照
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2013
06.21

うにゅほとの生活573

2013年6月21日(金)

「──ぃよっし!」
気合と共に立ち上がり、足元のレジ袋を手に取った。
「なに?」
うにゅほが小首をかしげる。
「いや、そろそろ染めようかと思って」
「そめよう?」
あれ、通じてない。
「ほら、これ……」
レジ袋を開き、中身を見せる。
「あ、きのうかったシャツ」
二束三文で購入した、三着の白いTシャツである。
「……わかった!」
うにゅほが高々と右手を上げる。
「これ、そめるんだ」
「そうだよ」
同じく購入した数種類の染め粉を使い、オリジナルのTシャツを作るのだ。
以前も思ったが、どうもこういうことが好きな性質らしい。※1
「──…………」
「得意げなところ悪いけど、ちゃんと買うときに説明してたからね」
「そだっけ」
「俺の言葉、けっこう聞き流してるよな……」
「してないよ?」
しれっと答える。
うにゅほは嘘がつけないので、意識的なものではないのだろう。
それはそれで傷つくが。
「──……。
 ともあれ、すこし手伝ってくれよ」
「うん」
漫画を閉じ、うにゅほが腰を上げる。
「なにすればいいの?」
「そうだな……むら染めにするから、すずらんテープでTシャツをギュウギュウに縛ってほしい」
「しばる?」
「ほら、ハムみたいに」
「あー」
一着につき五ヶ所ほど縛るので、それだけでもなかなかの重労働だ。
「なにいろにするの?」
「まず、二着はピンクかな」
「いいねー」
「××の思ってるとおりにはならないと思うけど」
「?」
三十分ほどつけ置きすると、二着のTシャツは綺麗に染め上がった。
「おー」
「いいかんじだな」
すずらんテープの作り出した模様が、なんとも言えず趣深い。
「××、次は何色がいい?」
「つぎ?」
「これを、別の染め粉で重ね染めするんだよ」
「え、またそめるの?」
「つい六色も買っちゃったから、いろんなパターンを試さないと」
「えー……」
五、六時間の作業を経て、三着のTシャツが見事に染め上がった。
「これいいね!」
「これは上手くいったな」
「こっちはふつう」
「まあ、すべて会心の出来とはいかないか」
それなりの結果だった。
納得のいかない仕上がりのものは、また重ね染めするかもしれない。

※1 2013年2月6日(水)参照
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