2013
04.30

うにゅほとの生活522

2013年4月30日(火)

すんすん。
自室の扉を開くなり、うにゅほが静かに鼻を鳴らした。
「もものにおい」
「桃だなあ」
部屋の芳香剤を、桃の香りに変えたのである。
「いいにおい」
「でも、ちょっと濃いかな」
ふたりで生活できる程度には広い部屋なので、芳香剤もふたつ置いている。
そのためだろう。
「◯◯、ももすきだよね」
「桃自体が好きってわけでもないんだけど……」
そもそも果物が好きではない。
「まあ、桃の風味とか、匂いとかは好きかな」
「ふうん」
「あんまり関係ないけど、××って果物で言うと、桃ってかんじがする」
「えー」
喜んでるのか嫌がってるのかよくわからない反応である。
「なんで?」
「べつに、なんでってこともないけど……」
しばし思案し、
「──……なんとなく?」
「ふうん」
「こればっかりはフィーリングとしか」
「わたし、バナナすきだよ」
「そういうことでもないんだが……」
苦笑する。
「じゃあ、俺は果物で言ったらどんなかんじ?」
「えー?」
うにゅほが虚空を見上げる。
「むずかしいなあ」
「こういうのは適当に答えたほうが本質的っぽい気がするぞ」
たぶん。
「えと、じゃあ、くり」
「栗……」
果物、なのか?
木に生るんだから果物なのだろうが、いささか瑞々しさに欠けている気もする。
「なんで栗?」
「えー……」
うにゅほは律儀にしばし考え、
「……なんとなく」
と答えた。
「まあ、そういうもんだよな」
「うん」
「そうかー、栗かー……」
ひとつ、仮説がある。
うにゅほはこの問いを、好きな果物と軽く混同しているふしがある。
つまり、俺が栗ようかんをこよなく愛していることと無関係とは言えないのではないか。
というか、たぶんそうだ。
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2013
04.29

うにゅほとの生活521

2013年4月29日(月)

昨日の夕飯はカレーだった。
今日の夕飯もカレーだった。
「カレーは美味いなあ」
「うん」
「明日になってもその言葉を言えるのかなあ」
「うん……」
作り過ぎなのである。
「さすがに飽きたな……」
父親がそう呟き、冷凍庫からピザ用チーズを取り出した。
「今からチーズカレーにするの?」
そう尋ねると、
「いや、焼きカレーにする」
と答えた。
オーブンを使うのだろうか。
「その食器、耐熱じゃないんじゃない?」
「いや、関係ない」
父親の右手には、ガスバーナーが握られていた。
「えっ」
「えっ」
「えっ」
「また……」
母親以外、ハモる。
「いやそういう調理法があるのは知ってるけどわざわざ食卓で──」
──ボウッ!
瞬間、テーブルの上が赤い炎に包まれた。
「ッ!」
反射的にうにゅほをかばう。
フランベのような一瞬の炎だったが、総毛立つのに十分すぎた。
「すまんすまん」
「すまんで済んだら消防車はいらん……」
呟くように言いながら振り返ると、
「──…………」
うにゅほが、小動物のように固まっていた。
かなりびっくりしたらしい。
「お前らのカレーもやってやろうか?」
「──…………」
俺とうにゅほと弟は、慌てて首を振った。
母親はやってもらっていた。
長年連れ添っただけはある。
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2013
04.28

うにゅほとの生活520

2013年4月28日(日)

「──××、おはよう」
「おは──……えっ」
目を覚ましたばかりのうにゅほの眠気が、一瞬で飛んだように見えた。
「おはよう?」
「おはよう」
「◯◯、はやいね」
「まあな」
「……てつやした?」
「いや、ちゃんと仮眠はとった」
二時間くらい。
「ねないとだめだよ……」
「移行しても移行しても終わらねんだよお……」
「そうなの……」
「××えもん、PC環境をまるごと移行するソフトが欲しいよ……」
「ごろわるいね」
実在はしていそうだ。
「○○、ねよ?」
「そうしたいところだけど、今はちょっと目が冴えてるから」
「よこになるだけでもいいんだって」
ああ、心配をかけてしまっている。
「……そうだな、ちょっと横になるか」
「うん」
うにゅほのぬくもりが残る布団に包まれて、思い切り悪夢にうなされて起きた。
徹夜明けに眠るとよくこうなる。
それでも、一時間ほどは休息できた。
作業に戻った俺に、うにゅほが言った。
「……そんなにいそがなきゃだめなの?」
「駄目ってこともないけど……」
「おでかけするとか」
「五月も間近だっていうのに雪降ってるけど」
「──…………」
うにゅほが口をつぐむ。
「あー……なんて言ったらいいかな」
「?」
「日常には、刺激が欲しいんだ」
「そかなー」
「俺はそうなの。
 でも、刺激はちょっとでいいんだ。
 だからさっさと終わらせて、いつもどおりに戻りたい」
「うん」
「今やってるのは、そういうことだよ」
「……よくわかんない」
うにゅほの髪を、わしわしと撫でる。
「わあ!」
「明日になれば、いつもどおりってことだよ!」
そう言って、チェアに腰を下ろした。
「──……ったー!」
午後七時過ぎ、ほぼすべての作業が終了した。
「おわった?」
「ああ、終わった終わった。飯だ飯だ」
「──…………」
うにゅほが、軽く握ったこぶしをこちらに突き出した。
こつんとこぶしを合わせる。
「いぇー」
「いぇー」
夕飯は、カレーだった。
PC環境の移行は終わったから、あとは旧PCのリカバリを残すのみだ。
まだ作業が残っていることは、うにゅほには秘密である。
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2013
04.28

うにゅほとの生活519

2013年4月27日(土)

「さて──……」
60cm×60cm×30cmという巨大な箱が、目の前に鎮座している。
「これからどうしよう」
「でかい……」
うにゅほが圧倒されている。
「これなに?」
「なにって……一緒に注文しに行っただろ、パソコン」
受け取りに行ったのは、俺と弟だけど。
「こんなにでかかったっけ……」
「大きめのケースしか置いてなかったから、感覚が麻痺してたんだろうな。
 ほら、手伝ってくれ」
「はい」
段ボール箱を横に倒し、中身を引きずり出す。
「でかい!」
「わかってたけど、でかいな……」
以前のパソコンと比較すると、親と子ほどの差がある。
まあ中身はスカスカなんだけど。
「あ」
パソコン一式を取り出し空になった段ボール箱を見て、ふと思いついた。
「××、このなか入れるんじゃないか?」
「えー?」
「ほら、物は試しだ」
「うん」
うにゅほが段ボール箱の縁をまたぐ。
「そこで、体育座りできる?」
「やってみる」
できた。
「すげえ、入った! あははははは!」
「……くふ、ふふふ」
うにゅほがつられて笑う。
「ひー、ひー、フタ閉じて──」
箱入り娘だ、と言いかけて、踏みとどまった。
「よし、出荷しよう!」
「やめてー!」
ひとしきり笑ったあと、ふと冷静になった。
今のが本当に面白かったのかどうか、疑問が残る。
新PCを抱えて運び、コード類を繋ぐ。
モニタケーブルとグラフィックボードの相性による問題で、Windowsを起動するまでに二時間ほどかかった。
「あ、ついた?」
おやつの菓子パンをちびちび食べていたうにゅほが、ディスプレイの点灯に気づいた。
「おわり?」
「とんでもない──」
ああ、こんな台詞を吐く日が来るとは思わなかった。
「──ここからが、本当の地獄だ」
「えー……」
「データの移行はクロスケーブル使うにしても、4、5時間は見込まなきゃならないし、なによりPC環境の再現が問題だよなあ。
 インストールしてるフリーソフトだのツールだのをリストアップして、ひとつひとつ入れ直すなんて相当の手間だし。
 ブラウザひとつ取っても設定を再現するのにどれくらいかかるやら……」
「どうしてかったの……」
「──…………」
軽く思案して、
「……なんだかんだ言って、こういう手間が好きなのかもしれないなあ」
「へんなの」
データ及びPC環境の移行は、うにゅほが就寝してからも続いた。
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2013
04.26

うにゅほとの生活518

2013年4月26日(金)

「──大切なことを忘れていた」
「?」
テガミバチ1巻に視線を落としていたうにゅほが、静かに顔を上げた。
「なに?」
「ダイエットの大原則だ」
「ふん」
「なんだと思う?」
「うんどう?」
「運動はなるべくしたくないんだ」
「そう……」
うにゅほが苦笑する。
「基本的に、栄養を取らなければ痩せる。これは当たり前だな」
「うん」
「でも、栄養が足りないことに体はすぐ慣れてしまう」
「ふうん」
「だから、ある程度のカロリーは摂取し続けないと、逆に太りやすくなってしまうんだ」
「ふん」
「興味ない?」
「ん」
首を振る。
すごくあるわけでも、全然ないわけでもないらしい。
「よくカロリーってひとくくりにされるけど、栄養素にはいろんな種類があるだろ?」
「うん」
「たとえば?」
「えー、ビタミン、だいず……りこぴん?」
すごいのが出てきた。
「炭水化物、脂質、タンパク質、ビタミン、ミネラル──これが五大栄養素」
「ビタミン」
「うん、合ってたな」
「──…………」
すこし得意げである。
「炭水化物は、ごはんとかパンとか。
 脂質は、まんま油。
 タンパク質は、肉とか魚かな。
 とりあえず、この三種類あれば説明できる」
「ほおー」
これは、わかってない返事だ。
「炭水化物は、食べるとエネルギーになる」
「ししつは?」
「脂質も、食べるとエネルギーになる」
「えー……」
「もちろん、違いはある。
 炭水化物はすぐエネルギーになるけど、脂質は貯めておけるんだよ」
「あ、ぜいにくだ」
「そう。基本的に、脂質を取らなきゃ太らない」
「◯◯、だからごはんばっかたべてるの?」
「そのとおり。
 でも、炭水化物も取り過ぎると脂肪に変わるから、食べ過ぎはいけない」
「ふうん」
ここで大きく息を吐き、話題の転換点を作った。
「最初に忘れてたって言ったのは、つまりこのあたりなんだ」
「なに?」
「タンパク質を忘れてた」
「たんぱく」
「タンパク質は、動物の肉体を構成する主成分だ」
「ふん」
「つまり、摂取しないと筋肉を作る材料がなくなって、代謝が落ちる」
「たいしゃ」
「いくら部屋を汚さないようにしても、掃除しなきゃ綺麗になりません──みたいな」
「おお」
「そのことをスポーンと忘れてたんだよなあ……」
老化現象だろうか。
「じゃ、どうするの?」
「プロテインを飲みます」
「ぷろ?」
「ほとんどタンパク質でできてる、粉」
「きなこ?」
「きなこじゃないけど、粉」
「はー」
「ダイエット向きで手軽に取れるタンパク質なんて、あとはゼラチンくらいしか思い浮かばないしなあ。
 ビーフジャーキーは高いし」
「ほー」
というわけで、プロテインを買ってきた。
用法用量を守って正しく飲みましょう。
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2013
04.25

うにゅほとの生活517

2013年4月25日(木)

ホームセンターでアロンアルファを買ってきた。
昨日の続きである。
容器の先端に針で穴を開けながら、うにゅほに話しかける。
「アロンアルファの接着力は、すごいんだぞ」
「そなの?」
「廊下にスリッパを貼り付けておくと、足が上がらなくて顔から転倒するらしい」
「すごい……すごい?」
接着力を証明する適切な喩えではなかった。
「指と指をくっつけてしまうと、死ぬまで取れないという……」
「うそだー」
うにゅほが一笑に付す。
「ゆびもあせかくし、はがれるよ」
素晴らしい着眼点である。
「よくわかったなあ」
「じょーしき」
「さすがに死ぬまでは嘘だけど、しばらく取れないのは本当だけどな」
「ふうん」
「さて、と──」
作業に入ろう。
靴紐の先端に通したシューレースパイプが外れないよう、アロンアルファでフタをするのだ。
「ほいほいっと」
さほど難しい作業でもない。
さっさと終わらせて、うにゅほに肩でも揉んでもらおう。
「あ」
案の定、指についた。
「××、やっちゃった」
「えー?」
「ほら」
「──……えっ?」
うにゅほが怪訝そうな表情を浮かべた。
「……なんで、そんなくっつきかた?」
「いや俺もよくわからないけど」
右手の薬指と、左手の中指とが、見事に接着されていた。
どうしてこうなったのか、本当に思い出せない。
「ど、どうするの?」
うにゅほがそわそわと狼狽えはじめる。
それを制するように、口を開いた。
「大丈夫、俺は自分を知っている男だ」
「?」
「レジ袋を漁ってみてくれ」
ホームセンターのレジ袋から、うにゅほがあるものを取り出した。
「あろんあるふあ、せんようリムーバー、はがしたい?」
「そう、アロンアルファ専用のはがし剤だ!」
「おー!」
「こうなることを予測し、あらかじめ一緒に購入しておいたのだよ」
「すごい!」
「──…………」
うにゅほからの称賛の声が、虚しく心に響く。
「というわけで、接着面にちゅちゅっとやってくれたまえ」
「うん」
すこし痛かったが、見事に剥がれた。
靴紐も上手く仕上がったので、全体的には花マルである。
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2013
04.24

うにゅほとの生活516

2013年4月24日(水)

以前購入した革靴の靴紐がやたらに長く、それがずっと気にかかっていた。
シュープラザで靴紐を見繕ってみたのだが、色はともかくちょうどいい長さのものがない。
110cmの次が165cmなんて、過程はどこに置いてきたんだ。
「というわけで、シューレースパイプを買ってみたわけだけど」
「うん」
「これ、どう使うものか、わかる?」
「くつひものはしっこの、セロテープみたいやつ」
「おー」
不思議そうな顔をしていたから、理解していないものとばかり。
指のあいだでぷにぷにとパイプを弄びながら、うにゅほが口を開く。
「でも、すぽってぬけそう」
「ちっちっちっ」
指は振らずに答える。
「これは、熱を加えると収縮する素材なんだよ」
「もやす?」
「燃やしたら燃えるだろう……」
「あっためる」
「そう、ドライヤーを使うのだ」
「なるほど……」
深く頷いている。
心から納得しているようだ。
「そういうわけで、ドライヤー持ってきてくれるか」
「はい」
うにゅほが小走りで洗面所へ向かった。
靴紐を適当な長さにカットし、先端をレースパイプに通す。
平紐のため少々手こずったが、作業は数分で済んだ。
「──ドライヤー、スイッチオン!」
ぶおおおおー、と年代物のドライヤーが唸りを上げる。
「どうなるのかな……」
うにゅほはもう科学実験のノリである。
「それでは、温風を当ててみましょう」
ドライヤーの送風口をレースパイプに近づけると、面白いように縮んだ。
「わ」
うにゅほの瞳がきらきらしている。
さては、こういうの好きだな。
俺も好きだ。
そのまますべてのレースパイプを収縮させ、ドライヤーの電源を切った。
「思ったより、いいかんじになったな」
「うん」
仕上がりが平たいのは、平紐だから仕方がない。
「そんじゃ、さっそく結んでおくか」
革靴に爪先を入れ、ソファに腰を下ろす。
靴紐を軽く引きながら、締まり具合を調節し──
すぽっ
「すぽ?」
レースパイプが抜けていた。
「不良品だー!」
ひとりで騒いでいると、うにゅほが包装袋の裏に記された使用方法を読み上げた。
「しゅんかんせっちゃくざいを、しょうりょうつける──だって」
「え?」
「せっちゃくざいで、ふたするのかな」
「あー、なるほど」
同梱しろよ。
家に瞬間接着剤がなかったため、明日にでもホームセンターへ行くことにした。
ホームセンター万能説。
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2013
04.23

うにゅほとの生活515

2013年4月23日(火)

病院の帰り道、あるものを購入して帰宅した。
開封し、うにゅほに見せる。
「これなーんだ」
「?」
小首をかしげたので、手のひらに乗せてやる。
「ゴムの、きのこのやま?」
「あー」
三重に傘のついた形状とサイズは、たしかにきのこの山を彷彿とさせる。
「答えは、耳栓です」
「みみせん?」
「耳に詰めて、音が聞こえないようにするやつだよ」
「なんで?」
「昼寝するときとかに、いいかと思って」
「あー」
「試してみよう」
うにゅほの手のひらから耳栓をつまみ上げ、自分の耳にねじ込んだ。
けっこうきつい。
「なんか、適当に文章で話してみて」
「ぶんしょう?」
「そう」
あ、この時点でもう聞こえとる。
うにゅほはしばらく首をひねったあと、
「おやつロールケーキだったけど、もうないよ」
と言った。
おもむろに耳栓を抜き、うにゅほのこめかみを両手で挟み込む。
「ぜんぜん聞こえてましたーっ!」
うりうりうりうり。
「ダイエットちゅうだっていうからあああ」
しばしじゃれ合ったあと、うにゅほを解放する。
「思ったより聞こえるなあ」
「いみないね」
「静かにはなるから、ないことはないんだけど、きつくて頭が痛くなりそうだ」
「そうなの?」
「××はやめたほうがいいな、狭そうだし」
会話しながらレジ袋を漁る。
「──とまあ、そんなこともあろうかと、もうひとつ買ってある」
「おー」
「さっきの耳栓は、オレンジ色のきのこの山として、弟のおやつにでも忍び込ませておこう」
「こっち、どんなの?」
「細くして耳に入れると、なかで膨らんでフィットするらしい」
開封して、うにゅほに手渡した。
「今度は××が試す番だ」
「えー」
「ほら、さっさと入れたまえよ」
「はい」
さして問題もなく、うにゅほが耳栓を装着する。
「……聞こえるか?」
まずは小声で言ってみた。
「?」
聞こえていないようだ。
どうしよう、なにを言おうか。
ちょっと恥ずかしいことを言ってみようかとも思ったが、オチが見えるのでやめた。
しばし思案し、
「カネボウフォービューティフルヒューマンライフ」
と早口で言った。
「え、ぼぼー、えっ?」
うにゅほが慌てて耳栓を抜く。
「さて、なんと言ったでしょうか」
「きこえたけど、よくわかんない……」
でしょうね。
うにゅほが試したポリウレタン製の耳栓は、どうやら実用に耐えそうである。
きのこの山のほうは、とりあえず引き出しの奥に突っ込んでおいた。
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2013
04.22

うにゅほとの生活514

2013年4月22日(月)

帰宅して自室の扉を開くと、うにゅほがべそをかいていた。
ソファの隣に腰を下ろし、優しく問う。
「どうした?」
「──……あ、ぅ」
言葉も出ないらしい。
「よしよし」
背中を撫でて落ち着かせること数分、うにゅほの嗚咽がようやく収まってきた。
「それで、なにかあった?」
「うん、あの、あの──……うぁ」
説明しようとして、また込み上げてきてしまったようだ。
らちがあかないので、かいつまむことにする。
うにゅほは、つい先程まで、夕食である鶏肉のトマト煮込みを母親と一緒に作っていた。
料理はつつがなく完成し、あとは食器によそうだけ。
その段になって、なにを思ったか、うにゅほは料理の入ったフライパンをカウンターへと移動させようとしたらしい。
理由はよく思い出せない。
うにゅほは、その点を何度も強調していた。
その際、フライパンの取っ手の深いところを掴んだらしく、うにゅほは軽いヤケドを負ってしまった。
反射的に手を離したフライパンの中身は、狙いすましたかのようにシンクにだばあ──と、こういう事情であるらしかった。
そりゃあ母親も怒るわな。
怒鳴り散らすまではしていないことは、うにゅほの様子を見ればわかるけれど。
「……もう、りょうりできないよう」
「母さんがそう言ったのか?」
「うん……」
まあ、もののはずみということもある。
「──……××」
汗と涙で貼り付いたうにゅほの前髪を掻き上げ、優しく告げた。
「実は、事情はとっくに知ってたんだ」
「?」
ピンと来ていないらしい。
「母さんはもう習い事に行っちゃったから、伝言を頼まれたんだよ」
「──…………」
うにゅほの表情が、ずうんと暗くなる。
苦笑し、続けた。
「罰として、なんでもいいから夕食作っときなさいってさ」
「?」
小首をかしげる。
「サラダはあるから、ありもので肉野菜炒めとかでいいんじゃないか?」
「りょうり、いいの?」
「誰かが作らないと、食べるものないだろ」
「そだけど……」
「父さんは仕事帰りだし、弟は作れないし、婆ちゃんはもう自分で作って食べてたし、俺はお目付け役だもの。
 ほら、他に適任がいない」
「……いいの?」
「罰なんだから、作りなさい。
 私は腹が減っている」
「うん」
うにゅほがゆっくりと立ち上がる。
その目は赤かったが、もう涙は止まっていた。
「やさいいためがいい?」
「豚バラあったから、あれも入れよう」
「なにあじがいいかな」
「醤油ベースか、ウスターソースか──あ、カレー粉あったな」
「えー?」
結果として、なんだかよくわからないが、そこそこ美味い肉野菜炒めができた。
再現性は、ない。

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2013
04.21

うにゅほとの生活513

2013年4月21日(日)

図書館からの帰り道、スクーターを見かけた。
春である。
「あ、スクーター走ってる」
「ほんとだ」
「二輪車が走ってるのを見ると、冬が終わったんだなーって実感するよ」
「そう?」
「雪道で走るのは無理があるだろ」
「あ、そだね」
意識していないと、こんなものか。
「××もどうだ?」
「どうだ?」
「いや、二輪免許。あーゆーの、乗ってみたいと思わん?」
「えー、おもわん」
「思わんか」
「おもわん」
今は無理でもそのうち自動二輪免許を取れるようになるのだが、思わないのであれば仕方がない。
「バイクはいいぞー」
でも、ちょっとだけマーケティングしてみる。
「感覚としては自動で走る自転車だから、爽快感がすごい」
「わたし、じでんしゃのれない」
それもそうだ。
「炎天下で風を切る快感は、なかなか得がたいものだと思うし」
「うーん」
しばし考え込み、うにゅほが口を開いた。
「スクーターとバイクって、どうちがうの?」
「あー……形、かなあ」
バイクはまたがるもので、スクーターは座るものだ。
そう伝えると、うにゅほは、
「スクーター、ふたりのりできないの?」
「ビッグスクーターならできたと思うけど」
「ビッグスクーター、うちにある?」
「ないなあ」
あるのはビラーゴ250だけである。
「びらーごは、ふたりのりできるの?」
「できるよ」
「わたしがうんてんして、◯◯がうしろのるの?」
「んー……?」
なんだか妙な話である。
「その場合は、俺が運転して、××が後部座席になるよな」
「めんきょ、いるの?」
「いらないな……」
論破されてしまった。
うにゅほもなかなかやるものである。
「そもそも自転車に乗れなきゃ自動二輪もないしな」
「うん」
「そこは胸を張るところじゃないと思うぞ」
「?」
うにゅほが小首をかしげた。
ビラーゴ250の自賠責を取ろうか悩む春の午後であった。
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