2013
01.31

うにゅほとの生活433

2013年1月31日(木)

ゆでたまごがあった。
「わー」
テーブルに駆け寄ったうにゅほが、ゆでたまごを指先でつつく。
「ぷにぷにしている」
「手を洗ってからにしましょう」
「はーい」
ふたりで手を洗い、行儀よくテーブルについた。
うにゅほが塩の小瓶に手を伸ばす。
俺はマヨネーズ派で、うにゅほは塩派である。
でも、マヨネーズの油脂分が不吉な未来を暗示しているようで、空恐ろしい。
「◯◯も、しおつかう?」
ゆでたまごの半分ほどを食べ進めたうにゅほが、こちらに塩を差し出した。
「うーん……」
「どうしたの?」
「いや、ずっと思ってたことがあってさ」
「なにー?」
「卵って、万能だよな」
「うん?」
「いろんな料理に合うし、栄養もあるし、お菓子にだって欠かせない」
「うん」
「マヨネーズだって、卵だ」
「そうなの?」
「卵と油と酢を混ぜてるんだよ」
「へえー……」
うにゅほが深く頷いた。
「卵がどんな味にでもなれるなら、どんな調味料だって合うはずだ」
「うん?」
「だって、塩も砂糖も酢も、生クリームにだってなじむだろ?」
「あー」
「でも、ゆでたまごには、しょっぱいのしか使わない」
「そだね」
「卵をゆでただけなんだから、どんな調味料とだってピタリと合わなきゃ嘘だ」
「うん、うん」
「ところで、チョコレートシロップとメープルシロップを見つけたんだけど」
「おー」
「どっちがいい?」
「うーん」
うにゅほはしばし考えこみ、
「メープルかな……」
と答えた。
ああ、俺の思いつきにうにゅほを巻き込んでしまった。
でもこんな馬鹿らしいこと一人でやりたくないし。
良心の呵責を覚えながら、チョコレートシロップの容器に力を込めた。
「やってしまったな……」
「でも、おいしそう」
なかばまで食べ進められたうにゅほのゆでたまごは、黄身とメープルシロップとが絡み合い、きらきらと美しい。
俺のほうは、白身のチョコレートがけ以外の何物でもないが。
「せーので食べよう」
「うん」
「せーの!」
ぱく。
しばし咀嚼。
「──……ゆでたまごにチョコレートシロップをかけたような味がする」
グルメレポーターにはなれそうもない。
「どうだ?」
隣に視線を向ける。
うにゅほが、虚空を見つめながら呟いた。
「おいしくない」
「おいしくないか」
「これは、おいしくない」
「そんなにか……」
ゆでたまごに、甘いものは合わない。
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2013
01.30

うにゅほとの生活432

2013年1月30日(水)

雲形定規を購入した。
抽象画のような、見たこともない形の万能雲形定規だ。
雲形定規といえば、二十五種ひと組の冷艦カマキリ号保全作業員のイメージしかなかったので、すこし驚いた。
このところ、父親の仕事の補佐で簡単な図面を引くことが多かったので、幾分か楽になるだろう。
「はー……」
合成樹脂でできたオレンジ色の雲形定規を蛍光灯に透かしながら、うにゅほが長々と息を吐いた。
「ふしぎなかたちをしている……」
なんか一連の言動が、よつばと!のよつばっぽい。
「これで、なにをするの?」
「曲線を引くんだよ……」
「はー」
帰途の車中で説明したろうに。
雲形定規のふしぎなかたちにだいぶやられているらしい。
「──…………」
うっとりしている。
その様子に嘆息しながら、俺は立ち上がった。
本棚の上からコピー用紙を抜き出し、うにゅほの眼前に突きつける。
「いつまでも眺めてるより、試しに使ってみたらいい」
「つかう?」
「いろんな線を引いてみなさい」
「はい」
素直である。
リビングへと場所を移し、ふたりでテーブルに向かった。
「まず、お手本を見せよう」
「はい」
「動かないように、定規を押さえて」
「──…………」
「定規のふちに、ペンの先を添えて」
「──…………」
「形をなぞりながら線を引く」
「おおー!」
拍手はいらない。
「まあ、ふつうの定規と同じ使い方だ。わかった?」
「やっていい?」
「ほら」
雲形定規をうにゅほに手渡す。
一分後、
「──……すごい」
うにゅほが感動の声を漏らした。
「かくめいだ」
革命だとしても、それはたぶん数百年前のことだ。
「これがあれば、なんでもかけるね!」
「……ああ、まあ、そうかな」
この子、なんでこんなに興奮してるんだろう。
「すごい! ここ! ここつかったらハートがかけるよ!」
「あ、本当だ。わりとちゃんとしたハートだな」
「おとくだね!」
「……そうだね」
今後の人生で、この大きさのハートを描く機会が訪れることを願う。
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2013
01.29

うにゅほとの生活431

2013年1月29日(火)

今年も確定申告の時期が近づいてきた。
「──…………」
絨毯の上にどっかと座り、粗末な紙箱を目の前に置く。
「? それなに?」
「病院の領収証」
「ぜんぶ?」
「そう」
「ほー……」
うにゅほを除く家族は、全員がなんらかの持病を抱えている。
当然、医療費も馬鹿にならない。
しかし、還付申告を行うことで、幾許かの控除を受けることができる。
確定申告と異なり、還付申告の申請は年中可能だ。
ただ、わかりやすいので、毎年確定申告期のすこし前に申請することにしている。
「なにするの?」
電卓を掲げながら、告げる。
「領収証に書かれた領収金額を、すべて足す……」
「え……」
うにゅほが絶句する。
去年は税務署で計算したから、うにゅほは初めて見るのだろう。
数百円単位の小額が織り成す数の暴力により薄めの辞書くらいの厚みとなった領収証の束を!
「て、てつだうこと、ある?」
及び腰である。
「あー、同じ病院の領収証をまとめてくれると嬉しい」
「うん」
電卓にメモ帳という完全装備で、領収証の山に取り掛かった。
しばしの時が流れ、
「あ」
一枚の領収証に思わず手を止めた。
「?」
うにゅほが、こちらの手元を覗き込む。
「これ、××が夏バテで病院行ったときのやつだ」※1
「え、ほんと?」
「ほら、氏名のとこ見てみ」
「ほんとだ!」
「懐かしいなあ」
右手が機械的に電卓を叩く。
十割負担なので、点数と不釣り合いに請求金額が高い。
それから、三十分ほどで作業が終了した。
「あー、終わったー!」
「いくらになった?」
「えー……四十万円ちょいだな」
「……それ、どれくらい?」
金銭感覚が身についていないなあ。
「ミラジーノが二台買える」
「えー!」
大仰に驚くうにゅほの姿を見て、もっと驚かせたくなった。
「でも、今年はまだ安いほうだよ。一昨年なんて、百万超えてたし」
「……ごだい?」
「そう、五台」
「はー……」
うにゅほがへなへなと崩れ落ちる。
「どうしてそんなことに……」
「たしか、入院とか手術とか続いたんだよ。
 入院一回手術一回で数十万円とかざらだしな」
「あ、ぢのしゅじゅつ?」
「──…………」
それ忘れてくんないかな。

※1 2012年7月30日(月)参照
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2013
01.28

うにゅほとの生活430

2013年1月28日(月)

引き出しの整理をしていると、懐かしいものが出てきた。
「iPhone4専用画面保護フィルム……」
しかも、二枚。
保険としても、自分に自信がなさすぎやしないか。
iPhone5にしたのが昨年の十月のことなので、それ以前に購入したものである。
「ほら、こんなん出てきたよ」
「?」
二枚の保護フィルムをうにゅほに手渡す。
「ほごふぃるむ?」
「そう」
「ほごふぃるむ、かえるの?」
うにゅほが残念そうに言う。
「いまの、すべすべしてすきなんだけどな……」
同感である。
ヤマダ電機で買った800円もする保護フィルムだからな。
「違う違う、よく見てみな」
「?」
「それは、iPhone4用の保護フィルム」
「うん」
「これは、iPhone5」
「ちがうの?」
「4より5のほうが新しい」
「うん」
「わかった?」
「うん?」
いまいちわかっていない。
まあ、スマートフォンに興味がなければそんなものか。
「えーと、すこしだけ形が違うんだよ」
「うん」
「だから、フィルムの形が合わなくなったんだ」
「あ、そうか」
納得したように、深く頷く。
「じゃ、いらないねー」
ぽい。
「あ」
二枚の保護フィルムを、うにゅほがあっさりとゴミ箱に捨てた。
「え?」
「あー……いや、いいんだけど」
さばさばしてるなあ。
単に俺が貧乏症なだけか?
「──…………」
単に俺が貧乏症なだけだ。
「そういえば、××ってあんまり物にこだわらないよな」
「?」
物の多いこの部屋で、うにゅほの私物は数えるほどしかない。
それも、俺がプレゼントしたものばかりだ。
うにゅほが、自分で、自分のために買ったものは、ひとつとしてない気がする。
おやつを除いて。
「だいじなもの、あるよ?」
胸元で揺れるペンダントに触れながら、うにゅほがそう言った。
「……そっか」
うにゅほの私物は少ない。
でも、大切なものはけっこう持っているのかもしれないと思った。
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2013
01.27

うにゅほとの生活429

2013年1月27日(日)

部屋の片隅にふたつのカゴがある。
昼は寝間着を、夜はアウターやジーンズなどを入れておく、洋服の一時置き場だ。
一階の脱衣所まで行くのが面倒なとき、下着以外の汚れ物を放り込んでおくこともある。
「……あれ?」
昨夜脱いだ靴下がない。
正確に言うと、片方だけない。
「裏かな」
カゴを持ち上げるが、ない。
「こっちか?」
うにゅほのカゴにも、やはりない。
「××、俺の靴下見なかった?」
ソファでくつろいでいたうにゅほに問い掛ける。
「どれー?」
「これ」
灰色の靴下を、うにゅほの前で揺らしてみせた。
「え……?」
指先で靴下を示しながら、うにゅほが戸惑ったような上目遣いで俺の顔を窺う。
「?」
すこし考え、気がついた。
「……違う、片方だけないんだよ!」
「あ、そっか」
横山やすしか俺は。
「んで、見なかった?」
「いまみてる」
「冗談を言うようになったじゃないか……」
うにゅほの顔に靴下を近づけていく。
「?」
すこしは嫌がれ。
「いっしょにさがす?」
「頼もうかな」
数分後、
「あった!」
うにゅほが、靴下の片割れを誇らしげに掲げてみせた。
「おー、どこにあった?」
「わたしの、ふとんのなかにあった」
「──…………」
「あった」
「え、なんで?」
「なにが?」
「なんでそんなところに?」
「さあ」
うにゅほが小首をかしげてみせる。
推理してみよう。
「××、そういう趣味とかあるの?」
一秒で辿り着いた結論がそれだった。
「しゅみ?」
「……聞かなかったことにしてくれ。俺も、言わなかったことにしたから」
それからふたりで考えて、カゴの外に落ちた靴下が、ベッドメイキングのとき布団に紛れ込んだのではないか、という結論になった。
信憑性はともあれ、うにゅほ靴下フェチ説より幾分かましだろう。
まあ、よくわからない場所でよくわからないものを見つけることは珍しくない。
日常は神秘に満ちている。
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2013
01.26

うにゅほとの生活428

2013年1月26日(土)

「あ!」
つん。
「おふ!」
小用を足そうとソファから腰を上げたとき、うにゅほが俺の右尻をつついた。
「何故尻を突く!」
「あなあいてる」
「そりゃあ──……」
尻には穴が空いてるものだ、と言いかけてやめた。
我ながら賢明である。
「──…………」
右尻をまさぐると、指先に引っ掛かるものがあった。
「穴が空いている」
「でしょ」
ジーンズの尻ポケットに、指先ほどの大きさの穴が空いていた。
長財布を仕舞ったとき、ちょうどカドのあたりが触れる位置である。
「耐久力が尽きたか……」
買い換えたジーンズは、いつもこの場所から擦り切れていく。
逃れられぬ運命と言える。
「ちょっとまってて!」
うにゅほが立ち上がり、リビングへと消えた。
「ただいま!」
一分後、金属製の平たい箱を掲げて戻ってきた。
「つくろってあげよう!」
「お断りしよう」
「えー」
うにゅほが持ってきたものは、ソーイングボックスである。
焼き海苔の缶箱を再利用した粗末なものだが、裁縫道具が入っていることに違いはないので、ソーイングボックスと言い張ることにしている。
「◯◯、さいほうできないでしょ?」
「──…………」
得意ではないが、苦手でもない。
単純な文字やイラストを刺繍できる程度である。
「……できないけど、駄目」
空気を読んだ。
「なんで?」
「べつに、××の腕前を信用してないってわけじゃないんだよ」
危なっかしい手つきながら、ボタン付けはできるようになったと聞くし。
「ただ──……ほら、触ってみな」
指先で、ポケットの生地に触れさせる。
「どうだ?」
「えっと、じょうぶ?」
「そう。デニム生地は、厚くて丈夫だから、針が通りにくいんだよ」
「ふうん……」
通らないことはないが、端切れや綿に比べて難易度がぐっと上がる。
うにゅほの指先が穴だらけになりそうで、怖い。
「だから、まあ……これは母さんに頼もう」
「うん……」
がっかりしている。
見かねて言った。
「……でも、今度パジャマのボタンが取れたときは、××に頼もうかな」
「ほんと?」
「お願いします」
「されました」
互いに頭を下げ合って、ふたりで吹き出した。
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2013
01.25

うにゅほとの生活427

2013年1月25日(金)

「なんもないなあ……」
炊飯器のフタを閉じて、溜め息をついた。
昼食になりそうなものが見当たらない。
冷蔵庫には弁当用の冷凍食品くらいしかないし、ごはんも残っていない。
おもちはあるが、食べたくない。
「そっち、なんかある?」
台所の奥でごそごそやっているうにゅほに声を掛ける。
「カップラーメンあった」
掲げた両手にカップヌードルを掴んでいた。
「おー、でかした」
うにゅほの頭をなでくりまわす。
「──…………」
うにゅほも、まんざらではないように見える。
「カレーと、シーフードあったよ」
ことん、とシンクの上に、ふたつの容器が乗せられた。
「どっち、すき?」
「××はどっちがいい?」
「どっちでもいい」
「じゃあ、カレーがいいな」
カレーを取り、シーフードを渡す。
お湯を沸かそうとケトルを手に取ると、ずっしりと重みが伝わった。
既に水が入っているらしい。
汲み置きでも問題はなかろうと、そのままケトルを火に掛けた。
「カップヌードル、久しぶりだな」
「そだねー」
「最後に食べたの、いつだっけ」
「んー、きょねん?」
「去年かー」
適当な会話で時間を潰し、沸騰するのを待って火を止めた。
うにゅほのシーフードヌードルからお湯を注ぎ、
「あ」
思わず手を止めた。
お湯が、茶色かった。
「煮出したほうじ茶だ……」
やってしまった。
ちゃんと確認すればよかった。
「……どうする?」
既に三分の一ほど注いでしまっている。
うにゅほは、頬を引き攣らせながら、
「もう、おちゃでいい……」
と答えた。
こうなれば一蓮托生である。
カレーヌードルにも沸騰したほうじ茶を注ぎ、三分間待った。
「──…………」
「──…………」
互いに目配せをして、フタを開く。
「あれ、普通だ」
カレーヌードルだからだろうか。
「……ちょっとちゃいろい」
シーフードヌードルだからだろう。
「味は──……」
黄色い麺を口に運ぶ。
「普通だ……」
カレーの力は偉大である。
「シーフードは?」
「……おちゃっぽい」
シーフードの力は、一歩及ばなかったようである。
その後、ふたりでわいわいと食べ比べながら昼食を終えた。
なかなか味わい深かった。
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2013
01.24

うにゅほとの生活426

2013年1月24日(木)

新しいもちの袋と、古いもちの袋がある。
新しいもちはやわらかい。
古いもちは、固い。
しかし、食べなければならない。
そうしなければ、牛丼屋の紅しょうが方式で、古いもちばかりが更に硬度を増し続けてしまう。
ダイヤモンドになってしまう。
「──というわけで、二分ほどチンしたものがこちらになります」
「わあ……」
皿の上に、はぐれメタルがいた。
六割方とろけきって皿の形に広がり、残りの四割は煎餅のような断面を呈している。
「どうしよう」
うにゅほが俺の指示を仰ぐ。
「どうしようって言われても、どうにかして食べるしか……」
「どうやって?」
「……皿から引き剥がしてみよう」
かつてもちのカドだった部分を指先で掴む。
熱いが、我慢する。
「皿が浮いた……」
「すごい」
完全に貼り付いている。
「これは、駄目だ」
テーブルの上に皿を戻す。
「ひっぱらないの?」
「駄目、熱い、無理」
「あー」
苦笑しながら、うにゅほが言う。
「じゃあ、はしは?」
「箸?」
「はしで、こやって」
うにゅほのジェスチャーはたどたどしくてよくわからなかったが、言いたいことは理解した。
「いや、やめたほうがいいな」
「なんで?」
「絶対折れる」
それだけの硬度と粘着力を有している。
「じゃ、さめるまで──」
うにゅほが、言いかけて口をつぐんだ。
途中で気がついたらしい。
「冷めたらもう、こういう形の現代アートとして床の間に飾るしかない」
「しかないの?」
「しかない」
適当に断言しながら、もちに視線を送る。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
クッキングシートを切らしてさえいなければ、惨劇は避けられたはずだ。
「どうするの……?」
事の大きさを察したうにゅほが、おずおずと口を開いた。
「打つ手は、ひとつしかない」
「あるの?」
「あるけど、部屋に戻っててほしい」
「なんで?」
「……見苦しいから」
自室の扉が閉じるのを見届けたあと、直接皿に口をつけた。
犬食いである。
食べものを粗末にしてはいけない。
その一心で、がっついた。
クッキングシートの偉大さを、胸に刻みつけながら。
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2013
01.23

うにゅほとの生活425

2013年1月23日(水)

今日は、すこぶる天気がよかった。
雪がなければ外出するところだが、嫌というほどあるのでやめた。
俺の部屋は、日当たりがいい。
あたたかな陽射しを受けながら、ソファで読書をすることにした。
「~♪」
自室へと戻ってきたうにゅほが、機嫌よく隣に座った。
「なによんでるの?」
「このあいだ図書館で借りたやつだよ。もうすぐ期限だから、さっさと読んでおかないと」
「ふうん……」
大して興味もなかったらしく、背後にある本棚を物色しはじめた。
「漫画はもう、ほとんど読んだんじゃないか?」
「んー、だいたい」
俺の部屋には、漫画だけで千冊ほどもある。
それをだいたい読んだというのだから、なかなかすごいことだ。
「読んでないのって?」
「えっと、はじめのいっぽ、とか」
「あれ、読んでないのか。セリフ少なくて読みやすいと思うけど」
「いたそう……」
「あー」
たしかに、うにゅほ好みではなさそうだ。
「でも、そんなこと言ったら屍鬼とか駄目なんじゃないか?」
「しき?」
「ほら──」
本棚から抜き出し、表紙を見せた。
「よんでない……」
まあ、内容が内容だからな。
「じゃあ、蟲師は?」
「よんでない」
「あれ、苦手な要素ってあったっけ」
「なんか、よくわからなかった」
「あー」
あれこれと尋ねていくうち、続き物はほとんど読んでいないことがわかった。
「だいたい?」
「だいたいじゃなかった」
「うん、素直さは美徳だな」
言われてみれば、四コマやギャグ漫画を読んでいる姿しか思い出せない。
「逆に、どのストーリー漫画なら読んでるんだ?」
「んーと……ガッシュ、とか」
「あー」
「ナルトとか」
「随分と長いの読んだな」
「じゅっかんくらいまでよんだ」
「あー……」
「あと、ローゼンメイデンとかよんだよ」
「それは、なんかわかるな」
「あとは──」
そんなかんじで、漫画談義に花が咲いた。
漫画の話題でうにゅほと盛り上がるのは、もしかすると初めてだったかもしれない。
読書は進まなかったが、些細なことである。
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2013
01.22

うにゅほとの生活424

2013年1月22日(火)

起床して身支度を整えていると、階段を上る小気味良い音がした。
「あ、おはよ」
背中越しに、温和な声が聞こえた。
「おはよう──」
髪の毛を冷水で撫で付けながら振り返り、思わず絶句する。
視線の先に、うにゅほがいた。
「?」
ただ、髪型が普段と異なっていた。
「おさげだ」
「うん、おさげだよ」
右の三つ編みを持ち上げながら、うにゅほが答えた。
魔法陣グルグルのククリを彷彿とさせる。
「久しぶりに見た気がするなあ」
以前はころころと髪型を変えていたが、最近は後頭部にリボンバレッタを留めるだけのシンプルなものに落ち着いていた。
「なんかあった?」
うにゅほが首を横に振る。
「なんとなくか」
うにゅほが首を縦に振る。
「──……にあう?」
きびすを返し、肩越しに振り返りながらうにゅほが尋ねた。
「似合う似合う」
そう答えながら両のおさげを手に取ると、ずしりとした重みが伝わってきた。
さすがに長いだけはある。
「こしょこしょこしょ」
おさげの先で首筋をくすぐると、うにゅほは楽しげな悲鳴を上げて身をよじった。
「それ、いつもやるね」
「なんだろう、おさげを持つと反射的にやってしまう」
あらがえぬ誘惑である。
「これだけ長いと、なにかできそうだよな」
「なにかって?」
「高速で回転させると、飛べそうな気がする」
「とべるかな」
「問題は動力だ」
「ほかには?」
「筆っぽいから、墨汁をつけて字を書けそうな気がする」
「やめてね」
「二本あるから二人プレイが可能」
「やめてよ?」
「あと、針金を仕込むことで様々なヘアーランゲージを──」
適当な会話を交わしていると、いつの間にか正午を回っていた。
それからも、事あるごとにおさげで遊んでしまった。
おさげには、内なる小学生を揺り起こすなにがしかの魔力がある気がしてならない。
うにゅほは苦笑していたが、内心では迷惑がっていたかもしれない。
なんらかの巻き返しを図っていきたい。
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