2012
12.30

うにゅほとの生活402

2012年12月30日(日)

「めが、もしもしする」
「あん?」
うにゅほが左目をこすりながら、わけのわからないことを言い出した。
携帯電話のメガ得プランとかそういうのだろうか。
「……うじうじする」
「あー……」
なんとなく理解した。
「目が痛いのか」
「いたくないよ」
「痛くないけど、なんかごろごろするんだろ?」
「ごろごろする」
目の異物感を表現する言葉が思いつかなかったのだろう。
面白い言語感覚である。
「逆まつげかな。ちょっと見せてみな」
「ん」
首を持ち上げたうにゅほの左まぶたを開き、異物を確認する。
「あった?」
「いや、まつげじゃない……かな? ゴミも見当たらないけど、真っ赤になってる」
「わー……」
うにゅほがあからさまに嫌そうな顔をした。
「……真っ赤って言っても、そんなには赤くないぞ?」
「どれくらい?」
「それくらい、鏡を見なさいよ」
デスクの上にあった手鏡をうにゅほに手渡す。
「あかい!」
まじまじと手鏡を覗き見るうにゅほを横目に、俺は自室を後にした。
「──ほら、目薬」
うにゅほの手に、冷蔵庫から取り出した目薬の容器を握らせる。
「めぐすり」
「自分でさせ──」
うにゅほの顔を見る。
「る、わけないか」
「させるよ」
「やってみな」
「どうやるの?」
「できないんじゃないか……」
肩を落とす。
まあわかってた。
「こう、上を向いて──中身を、目に、うまく垂らすんだ」
実際に点眼してみせた。
「うえ、むいて……」
うにゅほが天井を見上げる。
「ぎゅっておして……」
容器を持つ指先に力を篭める。
「ほっぺた、つめたい……」
全部ほっぺたに落ちてるからな。
「むりでした」
「……まあ、こうなるよな」
呆れながら、すこしだけ嬉しいような気もしていた。
うにゅほに何かしてあげるのは、決して嫌いではない。
「まだ、ごろごろする……」
膝枕で目薬をさしたあと、うにゅほが左目を押さえながらそう言った。
「だんだん効いてくるから、こすっちゃ駄目だぞ」
「うん……」
呟くように答えながら、ふらふらと部屋のなかをさまよう。
落ち着かないらしい。
まあ、俺は俺でやることがある。
作業を来年まで持ち越さないよう、俺はディスプレイを睨みつけた。
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2012
12.29

うにゅほとの生活401

2012年12月29日(土)

今日は大掃除をした。
昨年はジャンプのバックナンバーに気を取られてしまったが、今年の俺たちはそんなヘマはしない。
というか、古紙回収に出してしまったので、物理的にできない。
掃除に集中するほかなかったのである。
「あ!」
掃除機を掛けていたうにゅほが、唐突に声を上げた。
「どした?」
「コンセント!」
うにゅほの爪先が、クリーム色のコンセントに触れていた。
足で指すな足で。
「そのコンセントが、どうかしたか?」
「こんなとこに、コンセントあったんだ……」
「今気づいたのか」
掃除機なんて、両手両足の指に余るほど掛けているのに。
まあ、カーテンに遮られて見つけにくい位置にあることは確かだけど。
「じゃあ、ここのコンセントは知ってたか?」
デスクと壁との隙間を示す。
「そんなとこに──」
うにゅほが隙間を覗き込み、
「あった!」
と大袈裟に驚いた。
ここまでリアクションが大きいと、もっと教えてあげたくなる。
「じゃあ、小箪笥の裏は?」
「ほんとだ!」
「箪笥と本棚の隙間に詰め込んだカピバラさんを引き抜くと」
「またあった!」
「ソファの裏にも」
「それはしってる」
「──…………」
ネタが尽きてしまったので、大掃除を再開した。
小物を整理し、ホコリを落とし、掃除機を掛け、雑巾で拭くと、部屋はさっぱりと綺麗になった。
「よし! あとは、布団カバーを新品に取り替えるだけかな」
かいてもいない汗を拭い、あらかじめ購入してあった二人分の布団カバーの包装を解く。
「自分のぶんは、自分でやってみるか?」
「うん!」
はりきって頷くうにゅほに、掛け布団カバーを手渡した。
色落ちして薄くなった古いカバーを大わらわで外す様子を眺めながら、
「がんばれー」
などと適当に応援してみたりする。
「ふー……」
一段落。
汗を拭うふりをして、うにゅほが新しいカバーのシワを伸ばす。
「おー、しんぴんだ」
「やり方、わかるか?」
「うん」
「カバーのなかに紐があるから、それを布団に結びつけるんだぞ」
「うん」
悪戦苦闘しながら掛け布団を詰め込んだあと、うにゅほ自身もカバーのなかへ上半身を潜り込ませた。
「──…………」
「よっ……、しょ!」
いかん。
掛け布団カバーからおしりだけを出しているうにゅほに、イタズラしたくてたまらない。
具体的に言うと、叩いてみたい。
でもそれはあまりにもあまりにもだし、自分のときにどんな仕返しをされるかわかったものじゃない。
「──うん、次の機会にしておこう」
「? なにかいった?」
「なにもしないよ」
「……?」
命拾いしたとも知らずに。
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2012
12.28

うにゅほとの生活400

2012年12月28日(金)

「──……Oh!」
体重計が指し示す数値に、思わず悲鳴を上げる。
「どしたの?」
「!」
うにゅほが物珍しげに近づいてきたので、慌てて下りる。
「いや、ちょっと」
「ふとったの?」
速攻でバレた。
だってしょうがないじゃない。
ダイエットという名の体重管理を常に行なっていると、数日ほど油断しただけなのに光速で太るんだもの。
「なんきろ?」
「──…………」
「なんきろ、ふえたの?」
「……1キロ」
端数を切り捨てて、1キロ。
「?」
うにゅほが小首をかしげる。
「それ、ふとったの?」
「太ったよ!」
「ふとってないよ?」
「そりゃそうだよ!」
見た目でわかるほど太ったなら、人生についてすこし考えなおす必要がある。
「たとえ1キロでも、大事なんだよ……」
「そうかなあ」
「××も、太ってみればわかるよ」
「ふとったことないもん」
「──…………」
かちん。
「……お嬢様、こちらへどうぞ」
慇懃に、体重計を手のひらで示す。
「のるの?」
「乗ってみろい」
「いいよ」
うにゅほの爪先が、体重計に触れる。
「──…………」
その顔が、さっと青ざめた。
「どうだった?」
「──……ふえてる」
「どれくらい?」
「……いちきろ」
俺は、うにゅほの肩に手を置いて、
「仲間だな」
と耳元で告げた。
「ど、どうしよう! ダイエット?」
「俺と同じ食生活にしてみる?」
「や!」
いささかショックを受ける。
「ふとったー……」
あからさまに肩を落とすうにゅほを見て、満足した。
そろそろネタばらしをしよう。
「べつに、××は太ってないよ」
「ふとったよ……」
「いや、本当に太ってないんだよ」
うにゅほのトップスのすそを軽く持ち上げて、言った。
「××が最後に体重を測ったのって、たしか夏だったろ? 夏服と冬服で、重さが違うからだよ」
体重計に乗ってみたいだとか、そんな会話を交わしたことを覚えている。
覚えていて、イタズラしてみたのだ。
「……せんげつ」
「?」
「せんげつ、のったの」
イタズラでは済まなくなった。
「えーと、あー……その」
視線をさまよわせながら、言葉を探す。
「1キロなんて、大したことないだろ」
「◯◯、おちこんでたもん」
「成長──……したんじゃないか?」
「せ、のびてないもん」
「……健康的だと思うよ?」
「ダイエットする」
正月を前にして、ダイエットすることに決めてしまったらしい。
付き合うほか道はないようだ。
いいけど。
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2012
12.27

うにゅほとの生活399

2012年12月27日(木)

「ごうん、ごうん」
年代物の餅つき機の前に座り込んだうにゅほが、楽しげにそう口ずさんでいた。
いや口ずさむという表現が正しいかはよくわからないが、餅つき機の稼動音に合わせて口を動かしていた。
「足を閉じなさい、足を」
「ズボンはいてるよ」
「普段から習慣づけておかないと、ふとしたときに忘れるもんなんだよ」
「わすれないよー」
気づいていないかもしれないが、かなり忘れてるぞ。
「ほら、閉じる」
「はーい」
うにゅほが足を閉じ、体育座りの姿勢を取った。
「もち、まだかな」
「フタ取って、ちょっと見てみたら?」
「うん」
かぱ。
「おー……」
「どうだ、できてるか?」
新聞を下ろし、そう尋ねた。
「はんぶん、もち」
「半殺しか」
それも美味いんだよなあ。
「──…………」
うにゅほが、なに言ってんのという表情で俺を見上げた。
「いや、俺がおかしいんじゃないよ。半殺しって言うんだよ」
「なにを?」
「もち米の粒がまだ残ってる状態の、おもちのことだよ」
「ふうん……」
ぼんやりと納得した様子で、うにゅほが餅つき機に視線を戻す。
「フタ、閉めとけよ」
「うん」
「ちょっとつまみ食いする?」
「だめ」
うにゅほは生真面目である。
「なんで、もちになるんだろう」
呟くように、うにゅほが尋ねた
「ふるえてるだけなのに」
「ああ、それは──」
答えかけて、気がついた。
餅つき機の仕組みについて、俺はなにひとつ知らない。
「……餅つき機が起こす微細な振動がもち米と共振することで組織が破壊され、なんだかんだあって結果的におもちになるんだよ」
「ふうん?」
「ごめん今のウソ」
「えー」
あとで調べてみたところ、餅つき機の底にもち米を掻き混ぜるための回転ベラが取り付けられていた。
なるほどである。
「できたかなー」
しばらくして、うにゅほがフタを持ち上げた。
「あ、もち!」
「できたか。どれ──」
ソファから腰を上げ、餅つき機を覗き込むと、灰色につやめいた半球状の豆もちがそこにあった。
「美味そうだな……」
「だめだよ!」
うにゅほが立ち上がり、祖母を呼ぶため小走りに駆け出した。
餅つき機の番を頼まれていたのだ。
祖母の取り分けてくれた豆もちは、美味いがすこし塩辛かった。
婆ちゃん、塩の分量間違えたな。
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2012
12.26

うにゅほとの生活398

2012年12月26日(水)

「──……うーん」
鏡を覗き込みながら、唸る。
「今回はまた、一段と……」
俺だけかもしれないが、髪の毛が伸びてくると毎回異なる癖がつく。
前回は外ハネ、今回はソフトモヒカンである。
いずれにせよ髪型としては半端で間が抜けているため、ここ数日は室内でも帽子をかぶることにしていた。
「××、床屋──」
外出の準備を終えて自室を出ると、うにゅほがリビングのソファでうとうとしていた。
その寝顔は安らかで、起こすのが躊躇われるほどだった。
「おーい、床屋行くぞー」
うにゅほの頬を、躊躇うことなくうにっとつまむ。
なにも言わずに外出したら、絶対怒るもの。
「……ふい」
「床屋行くぞ、床屋」
「うん……」
よろよろとコートを着込むうにゅほの姿を目の当たりにしながら、ほんの僅かに罪悪感を抱く。
でも、置いて行ったらそれはそれで収拾つかなくなるからなあ。
「みち、こんでるねー」
「昨夜はえらい降ったからな……」
大量に雪を積み込んだダンプが、延々と行く手に連なっている。
いなければ困るが、邪魔くさいことは邪魔くさい。
「さんばいだって」
「なにが?」
「ゆき」
「なんの三倍?」
「……れいねんの?」
例年のなにと比較して三倍なのかはよくわからなかったが、とにかく今年が豪雪の年であることは間違いない。
伯父の経営する床屋へと辿り着いたのは、既に日も暮れかかったころのことだった。
夏場と比較して三倍ほどの時間が掛かっている。
三倍って、これか?
「こんなもんでどうだ」
伯父がそう言いながら、俺にメガネを手渡した。
「ああ、いいね。さっぱりした」
やはり、ツンツンと天を衝くくらいの短髪がしっくりくる。
うにゅほに感想を尋ねると、
「ぼうしないの、いいね」
と答えた。
「帽子、似合わなかったか?」
うにゅほは首を振り、
「ぼうしないの、ひさしぶりだから」
と言った。
ほんの数日だったと思うけど。
主観的に記憶される年月の長さは、年少者にはより長く、年長者にはより短く評価される──ジャネーの法則
年取ったなあ。
「さわりたい」
「……ああ、いいよ」
軽く頭を下げると、うにゅほがうんと手を伸ばした。
「いや、そんなにしなくても届くだろ」
「きぶん」
気分なら仕方がない。
「みじかいの、いいね」
俺の頭を撫で回しながら、うにゅほがそう言った。
「同感だけど、そろそろいいか?」
「もうちょっと」
「車のなかで撫でればいいだろ……」
伯父の視線に耐えながら、懇願するようにそう言った。
他に客がいなくて、本当によかった。
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2012
12.25

うにゅほとの生活397

2012年12月25日(火)

クリスマスプレゼントを買うため、ふたりで外出した。
「なにか欲しいもの、ある?」
「うん? うーん……」
さんざん悩んだ挙句、
「……よ、よもぎ大福」
と言われた。
大福好きだよね。
「それはまあ、帰りにコンビニで買おう」
「うん……」
「時間はあるんだし、適当に遊びながら見て回ろうか」
「うん!」
無料駐車場に乏しい札幌市街は避け、近郊のジャスコや小樽方面まで足を伸ばした。
日が暮れるまで遊び倒したが、クリスマスプレゼントは決まらなかった。
「欲しいものが大してないってのも問題だよなあ」
「うん……」
ならば、実用品はどうだろう。
可愛らしいステーショナリーあたりに目星をつけて、文具店へ立ち寄ったときのことだった。
「あ、トトロ」
文具店の一角にあったファンシーグッズコーナーで、うにゅほが足を止めた。
「ぬいぐるみ、いいな」
「──…………」
ファンシーショップは二軒ほど覗いたはずだが──まあいいけど。
決定回避の法則、というやつだろう。
「じゃあ、トトロのぬいぐるみにしようか」
「うん」
よし決まった。
しかし、一概にトトロのぬいぐるみと言っても、いろいろな種類がある。
値札を軽く確かめて、口を開いた。
「ここにあるくらいのサイズなら、どれでも──」
そう言いかけて、言葉を止める。
「……あれ以外なら、どれでもいいよ」
「でか!」
棚の陰に、うにゅほの身長ほどもあるトトロのぬいぐるみの姿があった。
あとで値札を見たところ、約十万円だった。
買えないし、置き場所もないし。
しばらく迷ったあと、
「──……これ!」
うにゅほが、両手に乗るくらいの大きさのトトロを掲げた。
「もっと大きいのじゃなくて、いいのか?」
「けなみがいい」
「……あ、ほんとだ」
一般的なぬいぐるみの素材ではなく、なんだかつやつやして心地がいい。
「××がお目が高いなー」
頭など撫でてみる。
それにしても、今年のクリスマスプレゼントは安くついたものだ。
去年のプレゼントは、洋服を上下一揃いで二、三万円くらいだったから、だいたい十分の一である。
「あと、これ」
うにゅほが、もうひとつぬいぐるみを手に取った。
「なめこ?」
トトロと同じくらいの大きさの、んふんふと鳴くなめこだった。
「それも、か。いいけど……」
「ちがうよ」
「?」
「これは、プレゼント」
「そりゃあ、プレゼントだろう」
「ちがうよ。わたしかって、◯◯にあげるの」
「──…………」
なんか、じーんと来た。
「……でも、なんでなめこ?」
「◯◯、とれなかったって」
「──……あー」
忘年会のときな。※1
「いや、あれも──」
あれも、うにゅほにプレゼントするつもりだったんだけど。
そう言いかけて、やめた。
うにゅほの頭に手を乗せて、そっと撫でる。
「……ありがとうな」
「どういたしまして。あと──」
うにゅほが頭を下げる。
「いつも、ありがとうございます」
「……ご丁寧に、どういたしました」
頭を下げ合って、ふたりで笑った。

※1 2012年12月23日(日)参照
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2012
12.24

うにゅほとの生活396

2012年12月24日(月)

「うー……ケーキ……」
買い出しの最中だというのに、うにゅほがぶーたれていた。
「ジュース、なにがいい?」
「ミルクティー……」
「ようかんいる?」
「いらない……」
「あきらめろって、もうケーキあるんだから」
「うん……」
今年もクリスマスケーキを作る気満々だったらしい。
数日前、既に母親がケーキを買っていたことも知らずに。
あらかじめ母親に打診しておかなかったことは申し訳ないと思うが、ずっと玄関にあったんだから気がついてほしかった。
というか、気づいてないと思わなかった。
「……◯◯のたんじょうび、いい?」
うにゅほが上目遣いで問う。
勝てるはずもない。
「ああ、約束な」
うにゅほの頭に、ぽんと手のひらを乗せた。
俺の誕生日は半月後である。
シフォンケーキ・リベンジに向けて、まあ、やることは特にない。※1
どちらかと言えば、生クリーム・リベンジだし。
「ああ、そうだ。今年もあれ見ようか」
「あれ?」
「銀河鉄道の夜」
去年のクリスマス・イヴに、ふたりで観たアニメ映画である。
「みる!」
と、うにゅほが両の拳を握り締めながら言ったので、TSUTAYAで借りてから帰宅した。
ゲオには置いていないのだ。
「ぐふう……」
家族でのささやかなクリスマスパーティを終え、膨らんだ腹を撫でながらソファに寝転んだ。
「ぎんがてつどう、みよう」
うにゅほが俺の顔を覗き込み、そう言った。
「あと五分……」
「えー」
じっ。
もしかして、そのまま五分待つつもりか。
「……見るか」
根負けして、立ち上がった。
再生してすぐに、うにゅほがジョバンニの先生を指さして、
「……ヒデヨシ!」
と囁くように言った。
「それ、去年も言ってた」
「ほんと?」
数日ほど前、去年の日記を読み返していたので間違いない。
日記というものが、備忘録としてこれほど優秀だと、付け始める前まで想像もしていなかった。
エンドロールが終わるのを待ち、うにゅほに尋ねた。
「──どうだった?」
「どうだった……って?」
「面白かったかな、ってさ」
「おもしろいよ。なんかいもよんでるから……」
うにゅほの瞳を見つめ、俺はもうひとつ尋ねた。
「もう、不安じゃないか?」
「……ふあん?」
うにゅほが小首をかしげる。
その姿に、思わず口角を上げた。
「ああ、ごめん。いいんだ、わからないほうが」
「?」
ピンと来ないなら、そのほうがいい。
それは、うにゅほが去年より幸せだってことなんだから。

※1 2011年12月24日(土)参照
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2012
12.24

うにゅほとの生活395

2012年12月23日(日)

今日は、大学時代の友人たちとの忘年会だった。
居酒屋へ行く途中に寄ったゲームセンターで、んふんふと鳴くほうのなめこのぬいぐるみを見かけた。
しばし粘ったが、収獲することはできなかった。
「なめこ持って帰るから!」とうにゅほにメールを送ることで自分を追い込もうかとも考えたが、財布のことを考えてやめた。
そもそもうにゅほ用の携帯電話など電池が切れて久しいし、クリスマスの直前にプレゼントというのも、なんだ。
「……おかえり」
自室の扉を開くと、うにゅほが眠そうな声で出迎えてくれた。
時計を見ると、日付けの変わるすこし前だった。
「ただいま」
挨拶を返し、コートのポケットからホットココアの缶を取り出す。
「おみやげ」
うにゅほが俺のことを待っているのも、あたたかいココアを買って帰るのも、なんだか定番になってしまった。
「飲んだら、布団に入りなよ」
「うん……」
ちびちびとココアを飲むうにゅほを、そっと見守る。
なにも慈愛の視線を送っているわけではない。
うにゅほはもう見るからに限界で、いつココアの缶を取り落としてもおかしくないように思えたからだ。
「……飲むの、明日にすれば?」
「──…………」
うにゅほがしっかりと首を振る。
そこは譲れないらしい。
「……あっ」
壁掛け時計を見上げ、うにゅほが呆けたような声を出した。
頂点で重なり合っていた長針と短針が、そっと離れたところだった。
うにゅほが立ち上がり、言った。
「メリー、クリスまあす!」
「え、あ、うん」
「メリーは!」
「メリー……クリスマス……?」
「うん!」
満足げな顔で頷くと、うにゅほはココアを一気にあおり、
「おやすみー……」
ふらふらと布団に吸い込まれていった。
「──…………」
それが言いたかった……の、か?
そうなんだろうなあ。
でも、その挨拶って丸一日早いんじゃないだろうか。
あまりに唐突で言い出せなかった。
来年の天皇誕生日も、日付けが変わるときに同じことを言われそうな気がする。
どうしよう、ちゃんと教えておくべきか。
でもうにゅほ寝ちゃったし、朝になったら今更な気もするし、そもそも大したことでもないし。
まあいいか……。
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2012
12.22

うにゅほとの生活394

2012年12月22日(土)

床屋へ行く予定だったのだが、先方の都合で延期することになってしまった。
暇と穀は潰し慣れているにも関わらず、急に時間が空くと持て余してしまうのは、一日の計画をそれなりに立てているからだろう。
「あー……」
「──…………」
「暇だ」
「あそぼう」
「お、いいな。なにする?」
「これ!」
軽く握った両手を合わせ、うにゅほが声を弾ませる。
「あー、久しぶりだな」
正式名称が不明のため、とりあえず「いっせーのーで!」と呼んでいる手遊びである。※1
うにゅほが一時期激ハマりしていたが、最近はあまりやっていなかった。
「よし、やるか。いっせーのーで──」
と、勢い込んでみたはいいものの、手遊びは手遊びに過ぎない。
せいぜいもって十分である。
「あれー……?」
うにゅほが不思議そうに小首をかしげる。
昔ハマったゲームって、プレイし直してみるとこんな感じだったりするよな。
「──…………」
「──…………」
そのあとは、いつも通りぼけーっと過ごした。
「──…………」
適当なニュースサイトを巡っていると、好みのタイプについて言及しているページに目が止まった。
そういえば、そんなものもあったなあ。
頭のなかで、かつて思い描いていた理想の女性像を組み上げていく。
「あれ……」
茫洋として、うまくまとまらない。
条件ごとに分けても、いまいちしっくりこない。
「……タイプが変わったのかな」
「?」
うにゅほが俺の独り言に反応し、顔を上げた。
「──…………」
ピンと来た。
来てしまった。
俺は思わず立ち上がると、こちらをぽけらっと見上げるうにゅほの両頬をつまみ上げた。
「お前かー! お前なのかー!」
「はに? はに?」
認めたくはないが、好みのタイプが歪んだのは、間違いなくうにゅほのせいである。
「?」
ああもう!
まったく抵抗しないのも、俺への全幅の信頼を表しているようで──あれだ、その、腹立たしい。
うるさい、照れ隠しだよ。
「お前はあとで、俺と一緒に怖いテレビを見るのだ……」
「!」
「俺も怖いから一緒に見るのだ……」
「や!」
俺の両手を振り払い、うにゅほはリビングへと逃げ去った。
さすがに趣味が悪すぎたかもしれない。
小一時間ほど後、PCのディスプレイで孤独にテレビを見ながらiPhoneをいじっていると、うにゅほが恐る恐る戻ってきた。
「悪い、あれは冗談だ。見なくてもいいよ」
「みないよ」
そう言って、ソファにちょこんと腰掛けた。
「こわいっていってたから、いっしょには、いる」
「──…………」
俺は、うにゅほの頭を無言で撫でた。
いい子だよ。

※1 2012年2月26日(日)参照
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2012
12.21

うにゅほとの生活393

2012年12月21日(金)

「××、ちょっとこっち向いて」
「?」
がばっ!
──と、来年のカレンダーを開いてみせた。
「いぬ?」
「そう、犬のカレンダーだ」
「かわいいねー」
うにゅほが、ほにゃっとした笑顔を浮かべる。
大丈夫そうだ。
「ちょっと出かけようか」
「どこ?」
「写真立てを買おうかと思ってさ」
「なんの──」
そう言い掛けたところで、なんとなく気がついたらしい。
「……そっか」
「ああ、そうだ」
愛犬の写真を飾るのだ。
愛犬が亡くなってから、もう三週間が経つ。
「いえい?」
「いや、遺影じゃ──……似たようなもんか」
「いえいかー」
「なんでもいいよ、もう」
言いながらコートを羽織ると、うにゅほも慌てて身支度を整えた。
「ひゃっきんかー」
「最近は、なんでも百円で揃うからいいな」
「なんでも?」
「ないものは、ないときに考えればいいんだよ」
近所のダイソーを物色しながら、そんな会話を交わした。
「ほら、写真立てだ」
「なんでもあるね」
「だろ?」
俺の手柄でもないのに、なんだか誇らしい気分になった。
「たくさんある」
「どれがいいか、せーので指さしてみようか」
「いいよ」
数秒ほど考え、合図とともにブラウンに染め上げた木製のフォトフレームを選んだ。
うにゅほの指先が、俺の指をかすめた。
「同じだな」
「うん」
「いぇー」
「いぇー」
指を畳んで、拳を合わせた。
ふたりのあいだで微妙に流行っている。
「他になにか、欲しいものある?」
「んー」
「チョコあるぞ、チョコ」
「◯◯、チョコたべたいの?」
「……そんなことないぞ」
そんなことないと言った手前、フォトフレームだけを購入して帰宅した。
「──ま、こんなもんか」
あらかじめ印刷してあった愛犬の写真をフォトフレームに収め、うにゅほに手渡した。
「うん」
愛犬の写真を、うにゅほが指先でそっと撫でた。
「──…………」
俺は、なにも言えなかった。
「……どこ、かざる?」
「ああ、そうだな──」
試行錯誤の結果、フォトフレームは背の低い本棚の上に飾ることとなった。
いつでも目に入るのは、いいことなのか、どうなのか。
感傷的になり過ぎないようにしようと思った。
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