2012
10.31

うにゅほとの生活342

2012年10月31日(水)

「んー……」
卓上鏡を覗き込みながら、唸る。
「なにやってるの?」
うにゅほの顔が鏡に映り込む。
「眉毛を整えてるんだよ」
言いながら、右手に持った毛抜きで産毛を抜き取る。
ああ、眉毛にまで寝癖がついている。
うつ伏せで眠ったのだろうか。
これは、あとでカットする必要があるな。
「──……ん?」
いや待て、なんでソファで眠っているのにうつ伏せになれるんだ?
寝返りを打つと自動的に落下するシステムなのに。
「謎だ……」
「ねえ」
「ん?」
「わたしもぬいていい?」
顔を上げて、うにゅほの顔をあらためる。
「××は抜く必要ないだろ。眉毛薄いし、産毛も目立たないし」
羨ましい限りである。
「ちがくて」
「じゃあ、なんだ?」
「◯◯のまゆげを、ぬいていい?」
「あー……」
うにゅほは、こういう手入れのような作業がけっこう好きらしい。
意味もなく俺のメガネを拭きたがる時期もあったっけ。
「……だめ」
ぼそりと呟くように言った。
「えー!」
「えー、と言われてもな」
「ひげはぬかせてくれたのに!」
言われてみれば、そんなこともあった。
「ヒゲと眉毛は違うんだよ」
「なにが?」
「いや、なんというか──……痛いんだよ、眉毛は」
自分で抜いても痛いのに、人に抜かれたらもっと痛いに決まっている。
「うー……?」
納得の行っていない様子のうにゅほが、唸るように声を上げた。
「いや、××にはヒゲないからわからないと思うけどさ。
 たぶん神経が集中してるんだと思うけど、眉毛は抜くと痛いんだよ。マジで」
ヒゲはヒゲでも、口ヒゲは痛いが。
「おなじ、けなのに?」
「同じ毛なのに」
「ふーん……」
不満そうである。
どんだけ俺の眉毛を抜きたいんだよ。
「──じゃあ、ちょっと試してみるか」
「ためす?」
俺は無言でソファに腰を下ろすと、自分の膝を叩いた。
うにゅほが横になり、俺の太腿に頭を乗せる。
「一本だけ抜いてみるぞ」
「うん」
目尻に近いほうの眉毛を、毛抜きで一本だけ掴む。
「せーの──」
ぷちっ!
「いたい!」
うにゅほの悲鳴が室内に響き渡った。
毛抜きを確認すると、二本抜けていた。
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2012
10.30

うにゅほとの生活341

2012年10月30日(火)

小用を済ませて部屋へ戻ると、うにゅほが扉に背を向けて布団の上に正座していた。
「なにし──」
声を掛けようとして、様子がおかしいことに気がついた。
右手で口元を隠すような姿勢で、なにやらもぞもぞと動いている。
うわあ、なんだか妙な場面に出くわしてしまった。
できることなら見なかったことにして台所で牛乳でもあおりたいが、教育係を自任する俺としては放っておくわけにもいかない。
深呼吸をひとつ。
「女の子なんだから、あんまりハナクソをほじるのは……」
「──ッ!」
うにゅほが慌てて振り返る。
「ち、ちがう! ちがう!」
「違うもなにも」
あれ。
うにゅほは今、口を大きく開いてはいなかったか。
「は! はに、なんかはさまってたの!」
「歯?」
「ほら!」
うにゅほが天井を仰ぎ、口を開ける。
「いや見えないから」
まあ、納得はした。
背中を向けて食べかすを取っていれば、鼻をほじっているようにも見えるだろう。
「わざわざ隠さなくたっていいのに」
「だって、へんなかおになるもん……」
おい、なんだ、かわいいな。
痒くもない後頭部を掻いて、言った。
「なら、爪楊枝を使えばいいよ。爪で取るのは衛生的によくない」
「つまようじ?」
「ほら、小さくて細い木の棒、あるだろ」
「きのぼう?」
「あー、わかんないかな」
言葉で伝えるのは不可能と見て、きびすを返した。
戸棚に仕舞ってあった爪楊枝を一本引き抜いて、うにゅほに見せる。
「これだよ」
「あ、これかー」
うにゅほが何度も首を縦に振る。
「これでどうするの?」
「歯のあいだに突っ込んで、ほじる」
「ほー」
爪楊枝を手渡すと、うにゅほはちらっと俺の顔を窺って、小走りに自室へ戻った。
入ろうとすると、扉が音を立てて閉じた。
「はいんないでね!」
最近、羞恥心が芽生えてきている気がする。
感慨深い。
「間違って鼻ほじるなよー」
「ばか!」
うにゅほに馬鹿なんて初めて言われた。
感慨深い。
一分ほどして、扉が開いた。
「ゴマだった」
「そうか」
いまいちリアクションに困る。
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2012
10.29

うにゅほとの生活340

2012年10月29日(月)

うにゅほとふたり、珍しくリビングでくつろいでいると、不意に異臭を感じた。
「……くさい」
うにゅほが鼻を押さえ、呟く。
「なんの臭いだ、これ」
「なんか、すっぱいよ?」
「すっぱい?」
すんすんと鼻を鳴らしてみるが、よくわからない。
うにゅほは俺より嗅覚が鋭敏である。
そのうにゅほが言うのだから、なんだか知らんがとにかくすっぱいのだろう。
異臭はどうやら階下から立ち上ってきているらしい。
「──…………」
視線で互いの意向を確認し、俺とうにゅほは一階へ下りてみることにした。
一階は、臭いがより濃かった。
悪臭というほどではないが、すこし鼻につく。
「くさいー」
嫌そうに目を細めているあたり、うにゅほにとっては結構な臭気なのかもしれないが。
台所へ行くと、祖母がなにかを煮ていた。
「婆ちゃん、なんか知らないけど換気扇回してる?」
「あっ」
老人のうっかりは洒落にならない。
「おばあちゃん、なににてるの?」
うにゅほが、鼻をつまみながら鍋を覗く。
「ああ、菊だよ」
「きく?」
「ほら、花畑に生えてたろう。あれを煮てるんだよ」
菊と言えば、食用にもなる花だ。
刺身のつまとして添えられていることも多いが、食べたことはない。
「へえ、菊って煮るとこんな臭いするんだ」
花を煮たことなんてないから、初めて知った。
「そりゃあ、酢を入れてるからな」
「入れてるのか……」
そりゃそうだ。
いくら花が香るからと言って、煮たくらいでこんな異臭になるわけがない。
ひそかに早とちりを恥じる。
「きく、にて、どうするの?」
「酢の物にするんだよ」
「すのもの?」
祖母と会話をするうにゅほを尻目に、これは長くなりそうだと二階へ退散した。
しばらくして、うにゅほが階下から姿を現した。
軽く肩を落としている。
「……きく、すっぱかった」
「そりゃ、すっぱいだろう。酢が入ってるんだから」
「あまいかとおもった……」
なるほど、花だからか。
酢の物には砂糖も入っているはずだが、うにゅほの想像ではもっと夢のように甘かったのだろうなあ。
けっこう女の子らしいところもあるんだなと再確認した月曜の午後だった。
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2012
10.28

うにゅほとの生活339

2012年10月28日(日)

朝起きると、寝癖がついていた。
誰にでもあることだ。
俺は人よりもすこしだけ髪の毛が硬いため、すこしだけ寝癖がつきやすく、すこしだけ直りにくい。
シャワーを浴びる必要のある難治性のものも珍しくはない。
なので、人前に出る予定のない日は、けっこう放置している。
「ねぐせついてるよー」
パソコンチェアに腰掛けた俺の髪の毛を、うにゅほが手で押さえる。
「ぴょん、ぴょん」
うにゅほが妙な擬態語を唱えた。
たぶん、撫でつけた寝癖が跳ねて元に戻るさまを表現しているのだと思う。
「なおらないねえ」
「だから、直すのめんどくさいんだよねえ」
腰に届かんばかりのロングヘアを毎朝手入れしているうにゅほからすれば、なに言ってんだこいつみたいな話かもしれない。
でも、めんどくさいもんはめんどくさいのである。
そもそも、怒髪でもないのに天を衝くんじゃない。
そういうのはスーパーサイヤ人にでもまかせておけばいいのだ。
「あっ」
俺の頭を両手で掻き回していたうにゅほが、驚いたような声を上げた。
「どうかした?」
「あたま、へこんでる」
「えっ?」
言われて頭部に手を伸ばす。
「どこ?」
「ここ」
うにゅほに手を導かれて、右後頭部に触れた。
「──……へこんでる……」
しかも、けっこう深い。
えぐれている、と言い換えてもいい。
「なんだこれ……」
我慢のできない子供の前に飾られたリンゴかなにかか俺は。
「……だいじょぶ?」
「いや、単に頭の形が悪いだけだと思うけど……」
いくら見えないところとは言え、二十数年間も気づかないとは我ながら間抜けとしか言いようがない。
うにゅほがいなければ、その事実を知る前に寿命が尽きていたかもしれない。
「おかーさーん! ◯◯のあたま、へこんでる!」
うにゅほが母親を呼ぶ。
「なに?」
母親が億劫な様子で顔を出した。
「◯◯のあたま、へこんでる」
「頭……? ああ、後ろのほうでしょ」
なんで知ってるんだ。
「子供のときは、形も良かったのにねー」
いや、だから何故知っている。
「中学のときまでスポーツ刈りだったでしょ?」
俺とうにゅほは顔を見合わせた。
母親が偉大なのか、見てわかるほどへこんでいるのか、そのどちらかである。
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2012
10.27

うにゅほとの生活338

2012年10月27日(土)

糖分は、炭水化物である。
したがって、白米を食べるのも、台所に忍び込んでそっと砂糖を舐めるのも、栄養学的には大差ない。
それが奇行であろうと、栄養学的には大差ない。
便利な言葉だ。
つまりダイエットに際し甘味を断つ必要はないのである。
ただし、洋菓子には多量の脂質が含まれているので、和菓子に限る。
和菓子、いいじゃない。
祖母を病院へと送り届けた帰り、近所のコンビニに寄ってお茶と和菓子を購入した。
すべての甘いものには牛乳が合うよ教団の要職に就いている俺ではあるが、牛乳の成分表示を見てしまっては仕方がない。
俺は豆大福を、うにゅほはウチカフェスイーツの芋ようかんを選び、車内に戻った。
最近は、よく車内でものを食べる。
ゴミを持ち帰らずに済むのが、なんとなく気軽でいい。
「あ、スプーンない……」
うにゅほがビニール袋を探り、嘆いた。
「もらってこようか?」
「うーん……」
じっと考え込んだあと、首を振った。
「いい、てでたべる」
「そう? まあ、いいならいいけど」
考えてみれば、豆大福だって素手で掴んで食べるのだ。
まあ芋ようかんはちょっとべたべたするかもしれないけど。
「お茶、開けとくよ」
おーいお茶濃い味のキャップをひねり、運転席と助手席のあいだにあるドリンクホルダーにペットボトルを置いた。
和菓子ひとつでお茶500mlはさすがに多いので、ふたりで回し飲みをすることにしている。
「──…………」
豆大福の包装を解き、その柔肌を露出させる。
小麦粉の付着したその肢体は、しっとりとして重みがあり、ひどく柔らかい。
これで甘くて豆が入っているというのだから、官能的ですらある。
豆大福を口に入れ、引っ張る。
中身を露出させながら、大福がうにょんと伸びた。
ちゃんと前歯で噛み切らなければ、こうなる。
「──…………」
うにゅほが芋ようかんを手にしたまま、こちらをじっと見つめていた。
嚥下し、口を開く。
「どうした?」
「だいふく、たべたい」
「伸びちゃったけど……」
「たべたい」
いや、いいけど。
大福が伸びるさまを見て、なんだか急に食べたくなったらしい。
気持ちはわかる。
半分ずつ食べて、豆大福と芋ようかんを交換した。
ウチカフェスイーツの芋ようかんは、相変わらず美味だった。
コンビニってすごい。
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2012
10.26

うにゅほとの生活337

2012年10月26日(金)

「車洗っといてね!」
そう言い残し、母親は姿を消した。
恐らく、友人と外食を楽しんでいるのだろう。
優雅なものである。
残された俺はと言えば、ひとり途方に暮れていた。
洗車など、何年ぶりのことだろう。
我が子より愛車のメンテナンスに時間を割いてきた父親が、ずっとひとりで行なってきた仕事である。
やり方がさっぱりわからない。
いや、水をぶっかけて汚れを落とし、乾拭きをすればいいのはわかる。
しかし、どの道具を使えばいいかわからない。
「……困った」
愛車のムーヴコンテの前で、腕を組み呟いた。
「なにが?」
うにゅほが答える。
「なにもかもがわからない」
自分が生きている意味さえもわからない。
思考がスパイラルを起こす前に、うにゅほが口を開いた。
「わたし、あらったことあるよ」
言われてみれば、そうだ。
日曜の午後などに、うにゅほは父親の洗車を手伝っているではないか。
父親がうにゅほにやたらと甘いのは、そのあたりが関係しているような気がする。
「うーとね……」
うにゅほが物置から、持ち手のついたスポンジを取り出した。
「みずをかけて、これであらう」
左手の青いクロスを掲げる。
「これで、ふく」
シンプルである。
「ワックスとかは?」
そこまで求められても困るが。
「ワックスは、かかってるからだいじょうぶ」
「そっか」
「わたしがあらうから、◯◯はふいてね」
なんと頼りになることだろう。
うにゅほと一年暮らしてきて、ここまで心強いのは初めてではあるまいか。
「とどかないから、うえはあらってね」
そうでもないか?
ともあれ、うにゅほのおかげで滞りなく洗車を終えることができた。
なにか礼をしたいが、特に思いつかなかった。
仕方ないので、肩を揉んでみた。
「お客さん、凝ってませんね……」
やわやわである。
「おきゃくさんは、こってますねー」
逆に揉まれた。
まあいいか。
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2012
10.25

うにゅほとの生活336

2012年10月25日(木)

「──…………」
じー。
「──…………」
じー。
「──…………」
じー。
ひゅひゅひゅひゅーん、ぽぽぽぽぽぽぽ(なめこ収穫音)
「──……なに?」
うにゅほがじっと見つめてくる。
正直、落ち着かない。
たったひとりの視線がどれほどの重圧を与えうるか、身を持って体験している。
「んー……」
小首をかしげ、うにゅほは答えない。
なんなんだろう。
なにかしたか、俺?
いや、うにゅほの視線は責めるようなものではない──気がする。
かと言って、好いた腫れたの思春期街道驀進中なそれでもない──はずだ。
感覚的に喩えると、母親に抱かれている赤ん坊に意味もなくじっと見つめられているような、えらいイノセントな感じである。
猫がなにもいない天井を見上げているときのような、と言い換えてもいい。
「……なんか、気になる?」
「んー?」
「いや、んー?じゃなくて」
「んー↓」
「いや、んー↓でもなくて──……いいや」
あきらめた。
まあ、言わないのであれば言いたくないのだろう。
言いたくなれば、言うはずだ。
いろいろなものを完全に丸投げして、手元にあったサナギさん6巻を開いた。
犬の散歩を終えたあと、久方ぶりにゲオへ行った。
ディーふらぐ!やリューシカの新刊を購入し、ホクホク顔で家路についた。
「──……◯◯?」
帰りの車中、うにゅほがためらいがちに口を開いた。
「まえば、ノリついてるよ」
「え、マジ?」
バックミラーで確認しようとして、気がついた。
今、夜じゃん。
前歯の海苔なんて見えないじゃん。
「えーと……いつから?」
「あさから?」
あの視線はそういうことか!
「言えよ! 言ってくれよ! すぐに、その場で、疾く疾く疾く!」
「なんか、つけてるのかとおもって……」
「前衛的だな、ははは!」
もはや笑うしかない。
「まあ、その……あれだ。そういうときは言ってくれ、頼むから」
「わかった」
鏡を見るときは、寝癖ばかりを気にするのではなく、クワッと歯も剥き出して確認することにしようと思った。
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2012
10.24

うにゅほとの生活335

2012年10月24日(水)

ふりかけにハマっている。
炭水化物の塊である白米は、低脂質ダイエットにおける主食として適しているのだ。
パンじゃ駄目なのかと疑問に思われる読者諸兄もおられるかもしれないが、パンじゃ駄目なのである。
あれはバターとか入ってるからね。
閑話休題。
卵かけごはんなどを駆使して飽きが来ないよう工夫をしていたが、やはりごはんだけでは物寂しい。
あとはサラダくらいしかないが、おかずとしての決定力に欠ける。
そこでふりかけの登場だ。
ごはんと添い遂げるためだけに作り上げられたふりかけは、まるでのび太とドラえもんのように相性がいい。
各社各様の味が楽しめることも魅力のひとつである。
とりあえずスーパーで棚の端から大人買いし、日替わりでいろんな味を試してみることにした。
「これなにあじ?」
うにゅほが、俺の手にしている赤いパッケージを指さした。
「七味唐辛子」
「からいの?」
「辛いってほどでも……」
紅蓮に染まったごはんを見て、思う。
「まあ、辛そうではあるよな」
でも、丸美屋のすきやきふりかけも見た目は赤いし。
「一口食べてみるか?」
「いいの?」
「ほれ、あーん」
うにゅほの口に箸ごと白米を突っ込む。
「んむ」
しばらく咀嚼して、目を丸くした。
「──……ッ」
洗面所に走り、水道水を思い切りあおる。
「からい!」
「……そんなにかあ?」
辛くないことで有名な吉野家の七味唐辛子に塩味をつけただけのようなふりかけなのだが。
それとも、俺の味蕾が死んでいるのか?
「うそつきー……」
「辛いときは、牛乳飲むといいらしいぞ」
「ほんと?」
「これはほんと」
うにゅほが牛乳をちびちびと舐めるのを横目に、俺は丸美屋の味道楽を手に取った。
七味唐辛子ふりかけは、正直微妙である。
「うう……」
うにゅほが水腹をさする。
水でおなかがいっぱいなら、牛乳をなみなみ注がなければいいのに。
「牛乳、ちょっと飲ませて」
「あ、うん」
俺はコップを受け取ると、中身を半分ほど飲み下した。
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2012
10.23

うにゅほとの生活334

2012年10月23日(火)

単行本を開きながら、うにゅほがうつらうつらしていた。
「眠いのか?」
「!」
びくっ、と顔を上げる。
「眠いなら、すこし横になればいいと思うけど」
「ちがうよ?」
「眠くないの?」
「ねむいけど……」
そう言って、あくびをひとつ。
「××が眠そうにしてるなんて、珍しいな」
「うん……──あのね」
とっておきの秘密を打ち明けるように、うにゅほが声をひそめた。
他に誰もいないが、気分だろう。
「ハエの、ゆうれいがいる」
「ハエの幽霊?」
またけったいなことを。
「きのう、ハエころしたでしょ。
 ねてるとき、まくらのしたからハエのおとがしたの」
「それで寝不足なのか」
「うん」
「仕留め損ねたかな……」
「ゆうれい!」
幽霊らしい。
しかし、そもそもハエの霊って生きているハエとなんの違いがあるんだ。
二度は殺せないということか?
うにゅほはやがて睡魔に敗北し、抵抗の証である面白い寝相を衆目というか俺に晒していた。
口がぽかんと開いている。
指を突っ込みたい衝動をかろうじて抑えているうちに、犬の散歩の時刻となった。
窓から外を見ると、雨が降っていた。
家が軋んでいる。
風も強い。
わざわざうにゅほを起こすこともあるまいと、一人で犬小屋へ向かった。
ひーひー言いながら濡れネズミになって帰宅すると、うにゅほが玄関で待っていた。
「おいてかないで! しんぱいするでしょ!」
俺はべつに、台風の日に田んぼの様子を見に行ったわけではないのだが。
目を覚ましたとき一人だったことが、心細かったのだろう。
ごめんごめんと頭を撫でて、靴を脱いだ。
二階へ上がると、リビングにハエがいた。
野郎やっぱ生きてやがった。
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2012
10.22

うにゅほとの生活333

2012年10月22日(月)

なにをしたかよく思い出せない日、というものは、ままある。
当然ながら、まったくなにもしていないわけではない。
文章としてまとめるには、いささか取り留めのない一日と表現すべきかもしれない。
母親と弟が母方の実家へ行き、ふたりきりの午後だった。
俺は、最近また始めたelonaをぼんやりとプレイし、うにゅほはiPhone5の画面をじっと睨みつけていた。
なめこが生えるさまを観察しているのだ。
そして、生え揃ったところで一気に収穫する。
それが気持ちいいらしい。
犬が自分の尾を追いかけてくるくる回るような不毛さだが、やっていることはこちらも同じだ。
人生とは、壮大な暇潰しである。
誰が言ったか思い出せないが、至言である。
夕刻を迎え、部屋に小バエが出没した。
自室で越冬はさせまいと、キンチョールを手に立ち上がる。
キンチョールを数回ほど噴霧し、小バエのライフゲージが半分以下になったあたりで、ふと姿を見失った。
ぶぶぶと音はする。
「──◯◯、ここ!」
うにゅほが箪笥を指さした。
耳を澄ませる。
たしかにここだ。
箪笥の裏の僅かな隙間に、キンチョールを十秒ほど噴霧した。
反対側から白煙が立ち上る。
ふう、と汗を拭うふりをしたあと、うにゅほとハイタッチを交わした。
犬の散歩を終え、今週のジャンプを求めてコンビニへ行った。
ウチカフェスイーツに芋ようかんが並んでいるのを見て、気づけばふたつ購入していた。
ふたり並んで口に放り込み、うにゅほと顔を見合わせた。
「うまい!」
「うまい!!」
まるでさつまいもを潰し、砂糖を混ぜて成形したような。
原材料を見ると、さつまいもと砂糖だけだった。
うまいけど、これは芋ようかんなのか?
ようかんとはいったい。
夕飯はつぼ鯛だった。
脂が乗っていて美味だったが、相変わらずうまく食べられない。
隣を見ると、うにゅほの指もべたべただった。
外で焼き魚は食べまい。
食後に、母親たちがおみやげに買ってきた冷凍のプリンとチーズケーキを食べた。
これもまた美味だった。
チーズケーキの固さに、うにゅほの塗り箸が折れそうになっていたので、慌てて俺が使っていたティースプーンを手渡した。
ちなみに、弟はプラスチック製のスプーンを折っていた。
うまいが、固い。
というかちゃんと解凍されていなかったのだろう。
つれづれなるままに筆を走らせたが、なんか食べてばっかりである。
まあ、そういう日もある。
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